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「柳生一族の陰謀」

1978年・東映
○監督:深作欣二○脚本:野上龍雄/松田寛夫/深作欣二○撮影:中島徹○美術:井川穂道○音楽:津島利章
萬屋錦之介(柳生但馬守宗矩)、千葉真一(柳生十兵衛)、松方弘樹(徳川家光)、西郷輝彦(徳川忠長)、山田五十鈴(崇源院)、三船敏郎(徳川義直)、志穂美悦子(柳生茜)、真田広之(ハヤテ)、夏八木勲(別木庄左衛門)、大原麗子(出雲の阿国)、原田芳雄(名護屋山三郎)、中原早苗(春日局)、高橋悦史(松平伊豆守信綱)、丹波哲郎(小笠原玄信斎)、芦田伸介(土井利勝)、成田三樹夫(烏丸少将文麿)ほか




 たぶんこれで見るのは四度目か五度目。最初に見たのはテレビ放映時だったかもしれない。その展開に「無茶な!」と思ったんだが、確かに異様に濃厚なテンションで目が離せず、忘れ難い作品となってしまった。それでいてストーリーの方は良く覚えていない(笑)。その後レンタルビデオやネット上の動画サービスなどで何度か見返していて、今回は民放BSでの放映。登場人物が多い群像劇であり、2時間ちょっとの内容にやたらいろんな要素がつめこまれているため、一度見ただけでは話がよく分からないことも何度も見てしまう原因だ(笑)。

 基本構造は本来は単純なのである。二代将軍徳川秀忠が急死し、その後継の座をめぐって長男の家光(演:松方弘樹)と次男の忠長(演:西郷輝彦)が争う、よくある兄弟ゲンカの構図だ。しかし争うのが将軍の座であるだけに単なる兄弟ゲンカでおさまるわけがなく、家光側には老中・松平信綱(演:高橋悦史)春日局が、忠長側には老中・土井利勝(演:芦田伸介)と生母・崇源院(演:山田五十鈴)そして御三家の尾張藩主・徳川義直(演:三船敏郎)がついている。一色即発の情勢とみて、関ヶ原や大坂の陣以来の合戦を期待して集まってくる浪人たち、そして幕府の内紛を「王政復古」の好機と狙う烏丸少将(演:成田美樹夫)ら朝廷の公家たち。さらにこの混沌の情勢のなか主人公である柳生但馬守宗矩(演:萬屋錦之介)柳生十兵衛(演:千葉真一)ら子供たちや忍者集団「根来衆」を手先に使って、手段を選ばぬ「陰謀」を推し進めていく。

 初めて見た時から「詰め込み過ぎだなぁ」と感じてはいたのだが、今回改めて見てもそう思った。二陣営が争う構図に第三勢力として公家衆がいるという、まとめてしまえばそれだけなんだけど、それぞれの陣営にそれぞれの思惑や野心を抱く人々が集ってそれぞれ勝手に動くのでかなりややこしい。この時代の人かどうかも怪しい出雲の阿国(演:大原麗子)名護屋山三郎(演:原田芳雄)の登場もかなり無理があり、このままだと女っ気が少なすぎるから入れておいた、ってところだと思う。なお、この二人はTBS製作の大型時代劇の傑作「関ヶ原」にも登場していて(阿国は木ノ実ナナ、山三は三浦洋一)、山三が戦いに出かけてしまい、阿国が「男なんかみんな死んでしまえばいい」と口にするという、この映画とソックリな場面がある。この映画の方が先に作っていたはずだけど。
 他に夏八木勲演じる別木庄左衛門とか、丹波哲郎演じる小笠原玄信斎なんかも実在はしたけど本来この騒動には無関係の人物で、あれもこれもとゲスト的に詰め込んじゃった。こういうのは昔の時代ものの講談ではよくあったことで、そのノリでやったことだと思う。

 今回は何度目かの鑑賞ということもあり、どの人がどれだけのシーンに出ていたのかチェックしつつ見たのだが、異様に印象的な成田三樹夫演じる烏丸少将ですら登場時間は決して長くない(このキャラが異様に存在感があったためテレビシリーズではラスボス扱いだったそうですな)。三船敏郎や山田五十鈴だって特別ゲスト出演に近く、よく考えると大した役割はない。錦之介と決闘する丹波哲郎だって3、4シーンくらいしか出ていない。丹波哲郎が歌舞伎役者を江戸城大奥にもぐりこませる展開もあっという間に終わる唐突なもんだし(だいたい出雲の阿国がいるのになんでこんなに完成した歌舞伎が上演されてるんだ、というツッコミも)
 それでも濃密な画面づくりと演者たちの勢いでグイグイ見せちゃって、短くパッパッと場面を切り替えていくので、それほど気にならずに展開が楽しめる。その1シーン1シーンの作りこみが濃い目なので強く印象に残っちゃうわけ。こういう作りに今回の鑑賞で既視感を覚えて「はて」としばし考えこんだがすぐ了解した。同じ深作監督の「仁義なき戦い」シリーズがまさにそういう作りだったのだ。要所要所に入る重々しいナレーション、中盤にある静止画による状況説明なども「仁義」シリーズによく似た語り口だし、そもそも「跡目争い」はヤクザ映画定番のネタである(笑)。

 この作品はかつて数多くの時代劇プログラムピクチャーを量産した東映が、実録ヤクザ映画も下火になってきたこともあって「時代劇復活」を掲げて12年ぶりに製作した時代劇大作だった。それまで「仁義なき戦い」など実録ヤクザ映画を手がけていた深作欣二監督にとって初めての時代劇で、もともとは千葉真一のアイデアによるリアル系忍者アクションを目指した企画だったらしい。だがそこにプロデューサーらはかつて東映時代劇の花形スターでこの頃はTV時代劇で活躍していた萬屋錦之介を引っ張り込み、東映京都の時代劇資産を惜しみなくつぎ込んで(そういえば予告編によるとこの映画は「太秦映画村開村二周年記念」でもあるそうで)、かつての東映時代劇黄金期を思わせる豪華なセット・衣装をちりばめた華やかな彩りも加わった。だがストーリー自体はかなりハードかつそれこそ「仁義なき」状態で、この両者がうまいこと噛みあって化学反応を起こしちゃったのが本作の成功の理由であるようだ。
 実際この映画、史実関係がムチャクチャであることにはお堅い方面から批判もあったが、百も承知で作っていることだし、その豪快さがかえって大きな魅力となり、記録的大ヒットとなってしまった。あっと驚くラストの異様に濃い盛り上がり(あのラストも製作開始当初は違ってたらしい)と錦之介の歌舞伎的な大げさに芝居がかった演技がミスマッチのはずなのに妙にマッチしてしまい、「夢だ、夢だ、夢だ、夢でござ〜〜〜る!」のセリフはあまりのインパクトに当時流行語になったとさえいわれている。

 これが当たっちゃったもんだから、これ以後東映はしばらく似たようなスタイルの時代劇大作を立てつづけに送った。「赤穂城断絶」「真田幸村の謀略」「徳川一族の崩壊」「激突・将軍家光の乱心」といった作品群で、僕が劇場公開時に見た「江戸状大乱」あたりがその流れの最後なのではないかと思う。最近作られた「茶々・天涯の貴妃」にちょっとこの流れのノリが感じられたけど。
 結局のところ「柳生一族の陰謀」ほどの成功はどれもおさめなかったみたいだし、実際僕も見ていて「柳生〜」の成功体験に引っ張られ過ぎて「同じことをやればいいんだ!」って感覚に作り手もなっちゃってワンパターンに陥ってしまったんじゃないかと感じたものだ。今やテレビ時代劇もすっかり見かけなくなってしまい、東映が得意とした江戸時代もの時代劇も風前のともしびで、それもワンパターン化のせいだろうとは思うのだが、この手のは作り続けてないと各種技術が廃れてしまうという、それこそ伝統芸能みたいなところがあるんだよなぁ…何か時代劇を本当に復活させられるような面白い企画はないものか、と僕もいろいろ考えることもあるんだが。

 ともあれ、久々かつ何度目かの「柳生〜」鑑賞をしてみると、さすがに出演者の多くが故人になってしまったことに思いを馳せてしまう。この映画の中では若手の大原麗子や原田芳雄までこの世の人じゃないんだものなぁ…逆にこれが子役時代の除けば本格映画デビューであった当時まだ十代の真田広之の初々しいこと!出番も結構多い方だし、やっぱりこのころから光ってるなぁ、と思わされた。その人が今やハリウッド製忠臣蔵で大石役なんてなぁ。(2013/5/8)




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