映画のトップページに戻る

「座頭市と用心棒」

1970年・勝プロダクション
○監督・脚本:岡本喜八○撮影:宮川一夫○音楽:伊福部昭
勝新太郎(座頭市)三船敏郎(佐々大作)若尾文子(梅乃)嵐寛寿郎(兵六)滝沢修(弥助)米倉斉加年(政五郎)細川俊之(三右エ門)岸田森(




  前から存在だけは知っていて、レンタル店でビデオのパッケージだけ拝んだこともあったが、なんとなく「見てはいけないもの」のような気がして(笑)とうとう手を出してこなかった一本。
 「座頭市」とは言うまでも無く勝新太郎の代名詞といってもいい当たり役の盲目の居合いヒーロー。大映の看板シリーズの一つとして多くの作品が作られた。大映がつぶれた後も勝新が自らのプロダクションで製作を続け、なんだかんだで1989年まで作っていた(2004年製作のビートたけし版は別扱いとしたい)。この映画も1970年の勝プロ製作で、配給元は東宝だ。
 そして「用心棒」とは、この場合一般名詞ではなく黒澤明三船敏郎主演で製作した同名の大ヒット時代劇の主人公である。「用心棒」では桑畑三十郎と名乗り、続編「椿三十郎」も製作された。その後は同じキャラを使った映画は黒澤プロとしては製作しなかった…はずなのだが、この「座頭市と用心棒」に登場する三船敏郎は、誰がどう見ても黒澤映画に登場した「三十郎」そのまんまなのである。

 大映と東宝それぞれの看板作品の主役であり、どちらも海外でパクられた(笑)という共通項を持つ二大主人公の激突!という日本映画としては希に見るお遊び企画映画である。怪獣映画で例えるなら「ガメラ対ゴジラ」の状態(笑)。最近のハリウッドで「フレディ対ジェイソン」とか「エイリアン対プレデター」、さらには依然企画段階ながら「スーパーマン対バットマン」といったものがあるが、思えばはるかにさかのぼって日本にもこんな映画があったのである。

 まぁ念のため言えばこの映画の主役はあくまで「座頭市」であり、「用心棒」は特別ゲストみたいなもの。それにこの「用心棒」も三十郎ではなく佐々大作という名前がちゃんとあり、しかも実は公儀(幕府)の隠密という設定までついてくるから一応別人ということにはなっている。ついでに言えば色恋沙汰が描かれるあたりも黒澤版とはキャラが微妙に違う。
 でも…やっぱり三船のメイク・衣装・演技は「用心棒」以外の何者でもない。もちろん作り手側は明白に「座頭市対用心棒」の企画で客を呼ぼうとしているわけで、各種異なる設定は「アリバイ」みたいなもんだろう。製作当時、黒澤側に断りの一つもまさか入れてるんだろうとは思うのだが…。決裂に終わったとはいえ、のちに黒澤明は『影武者』で勝新を主役にしたりしているから(結局ケンカ別れになったとはいえ)この件がしこりになった気配は無いみたい。

 このお遊び的な企画映画の監督が、岡本喜八だったというのも興味深い。岡本監督はもともと東宝出身だから、座頭市シリーズに関わったのはこの一作だけ。むしろ三船敏郎と組んでいるケースが多く、三船プロダクション作品の監督も多く手がけている。この映画の監督を引き受けたのも三船敏郎からの依頼だったのではないか…という気もする。
 岡本喜八といえばこの時すでに『独立愚連隊』『日本のいちばん長い日』『肉弾』など娯楽アクションから社会派大作・独立系問題作まで幅広く代表作を出していて、正直なところよくまぁこんな映画(と言っては失礼だが)の監督を引き受けたもんだ、という気もする。ことに「クロサワ天皇」にケンカを売りかねない仕事だなぁ…と思ったりもするのだが。ふと気がつくと撮影も『用心棒』と同じ名カメラマン・宮川一夫さんだったりするので、その辺の問題はクリアした上でやったんだろう。

 …とまぁ、映画本編を見る前にいろいろと思いを馳せてしまう一本であるわけだが。
 「座頭市」も「用心棒」も幕末が近づいたヤクザ世界(「座頭市」シリーズは「天保水滸伝」や「国定忠治」とリンクしている)を舞台設定としているので、両者が顔合わせするのにそう無理はない。この映画、基本線はヤクザがたむろする宿場町に来た座頭市と用心棒がヤクザたちを戦わせて両者自滅させ平和を取り戻す、という内容となっていて元祖『用心棒』によく似た骨格となっている。三船演じる「用心棒」は実際の仕事はあまりせず、何かにつけて金をせびる辺りもキャラが「三十郎」とよく似せてある。
 座頭市と用心棒は確かに対決もするのだけれど、奇妙な協力関係にもなっており、ワル役は他のキャラたちが引き受けている。特に中盤から登場する岸田森演じる隠密「九頭竜」が独特の敵キャラとなっており、これがまた拳銃を使ったりするので『用心棒』の仲代達矢とキャラがカブってしまう(笑)。そういや「棺桶の注文が来るぜ」というセリフもあって、やっぱりパロディなんじゃないか、これは、と思う部分も多い。

 あまりに『用心棒』風味なのも、と加えたと思しきオリジナリティが「金の隠し場所」の推理だ。まぁ、推理ものに慣れている人には話が出たとたんにバレバレという気もするが…。
 他にも三船用心棒と九頭竜が幕府の隠密、という設定もあり、さらに滝沢修と米倉斉加年・細川俊之(若ぇ〜!)の親子間のドロドロ抗争、そこへ若尾文子演じるヒロイン・梅乃をめぐる多角的愛憎関係までが絡んできて、まぁ盛りだくさんではある。しかし結局「詰め込みすぎ」と言うほかない状態で、話がこんがらがってきて、最後には何がなんだか(笑)。
 終盤になるととにかくバタバタと人が死んでゆき、カネに目がくらんだ男たちで町は死屍累々。その様子も『用心棒』を彷彿とさせるが、こちらはさらに空虚感が漂う。最後の最後に座頭市と用心棒は決闘するわけだが、見せ場のはずなのに盛り上がらず、予想通り(笑)引き分けに終わる(ネタバレだが、誰もが予想するはず)。なんか収拾のつかない状態で両雄は立ち去ってエンドマークだ。

 特に駄作でもないんだけど、傑作とはとても言いがたい。所詮は「座頭市対用心棒」という組み合わせだけで見せる格闘技興行みたいなもんで、それはそれで面白いけど一本の映画としては、才人岡本喜八にしてもまとめにくかったんじゃないか、って気がする映画だ。
 勝新と「座頭市」についてほとんど何も書かなかった気がするけど、そうせざるをえないほど座頭市については毎度おなじみのいつもの状態。ゲストスターで三船の「用心棒」が出てきちゃった、というところだけが見所なので、『用心棒』のファンは一見ぐらいの価値はあると思う。(2005/12/17)




映画のトップページに戻る