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「空軍大戦略」
Battle of Britain
1969年・イギリス
○監督:ガイ=ハミルト
ハリー=アンドリュース、マイケル=ケイン、ローレンス=オリヴィエ、クルト=ユルゲンス、トレヴァー=ハワード、ロバート=ショー、スザンナ=ヨークほか




 ここんとこ「ゼロ・ファイター大空戦」「零戦燃ゆ」と立て続けに戦闘機映画をレンタルで鑑賞。続いては「大空のサムライ」かなと思ったのだが貸し出し中だったので、本作「空軍大戦略」を借りることに。ストレートというか工夫がないというかそれなりに内容を体現しているというか、という邦題なのだが、原題は「Battle of Britain」。第二次世界大戦序盤戦でイギリス本土を舞台にしたドイツ軍とイギリス軍の主に空での戦いを「バトル・オブ・ブリテン」と呼ぶのだが、この映画はまさにそれの一部始終を映画化したものだ。今だったらムリに邦題つけないで「バトル・オブ・ブリテン」そのまんまでしょうね。

 さて本作はストーリーに関してはもうどうでもいい内容となっている。少々よそ見しながらビデオを見たのがいけないのかもしれないが、筋がまるっきり分からないのだ。かろうじて把握できるのは冒頭でイギリス軍の大陸撤退が語られ、ドイツ軍によるイギリス本土空爆が開始されるということぐらい。オールスター映画という面もあってとにかく顔出しで多くの人物が登場するのだが、誰が誰やらわからぬうちに話が進んでいってしまう。「あれ?こいつ、さっき死ななかったっけ?」ってな事態も二度ほど起きた(笑)。よそ見していたのも事実だけど、やっぱり基本的にシナリオが破綻してるんだと思う。判別できたのはローレンス=オリヴィエ演じる空軍の司令官ぐらいかな…そういやチョイ役だけど「史上最大の作戦」のロンメル役、クルト=ユルゲンスもドイツ外交官役で出演している。
 イギリス本土防衛を描く映画だからドイツ軍側はあまり描かれないんじゃないかな…と思ったらゲーリング元帥から一兵卒にいたるまで数多くのドイツ人兵士が描かれ、割と敵味方双方に対等に描写が割かれている観があった。ヒトラーも演説シーンで出てくるのだが、これは後姿やロングショットのみで処理されている。チャーチルにいたってはセリフ内での言及のみだ(笑)。

 冒頭、1940年にフランスからイギリス軍が撤退するくだりが描かれているが、のっけからホンモノのスピットファイヤーやメッサーシュミットが飛び交って見る側の度肝を抜いてしまう。いやもちろん度肝を抜かれてしまうのは戦闘機と言えばミニチュア特撮、を「常識」としちゃっている人、ってことなんですがね。ミニチュア特撮では零戦など戦闘機の実物大模型を作って出撃直前まで撮影し、飛び立つカットはミニチュアに切り替わるわけだが、本作では当然発進シーンはワンカットで収められている。飛行シーンでも森や畑が背景に映りこみ、実際に飛ばねば撮影できないカットばかり(当然、カメラも飛んでいる飛行機にとりつけられているのだ!)。もちろん俳優が演じる操縦士などのアップシーンは別撮りなのだけど、編隊飛行や空戦はホンモノの戦闘機・爆撃機が大空を飛び交い、「圧巻」の一語。なんと墜落シーンまで実機が演じている(急降下していくカットの最後に特撮で爆発をくっつけてるのだが)。当然空中での爆発などはミニチュア特撮による処理なんだけど、これが実によく出来ている上にあくまで控えめなのでほとんど気にならない。

 とにかくヒコーキに関してはゲップが出るほど堪能できる映画なのだが、それ以外の部分はオールスター出演によるシナリオ破綻のせいもあってか、まるっきり面白くない。見終わってみて一番印象に残るのがパイロットの妻の女性軍人ぐらいだもん。この女性軍人役はスザンナ=ヨークという女優さんらしいのだが、なかなかセクシー。夫とのベッドイン前に上半身は軍服にネクタイ、下半身は下着姿というえらくエッチな格好で部屋の中をウロウロしたりしてくれる(笑)。この場面での夫とのやりとりで「女性参政権論者みたいだな」と言われるセリフがあるが、調べてみたらこの時期のイギリスでは女性参政権はあったものの30歳以上と男性と差がつけられていたのだ。基地内でガスマスクを入れた手提げを女性軍人たちがハンドバッグ代わりに使っていて男性上官に注意される、なんて一幕もあり、女性軍人の成長物語?っぽい側面もある。

 「バトル・オブ・ブリテン」という原題どおり、これはイギリス本土の戦闘の記録でもある。戦闘と言っても敵軍が上陸してきたわけではなくあくまで空からの攻撃であるのだが、ともかくイギリス本土を戦場として一般市民も巻き込んだ戦いであったことが割と強調されている。特にロンドン空襲のくだりなどは、大戦中にさんざん空襲をくらった日本人としてもいろいろと覚えのありそうなエピソードが綴られている。見ているとイギリスの一般市民もそれなりに苦労したんだなぁ…などと思いつつ、アメリカさんはこういう経験が全く無いわけで…などと昨今の情勢と重ね合わせてしまうところもあった。
 ちょっと面白かったのが、後半に登場して来るポーランド人パイロット達。パイロット不足を補うために、祖国をドイツに占領されて失っているポーランド人亡命者と思われるパイロットたちがイギリス空軍に助っ人として参加するのだ。当然ながら英語はまったくわからず(笑)、話せたところで無線ではほとんど聞き取れないひどいもの。彼等がちょっとしたコメディタッチの味付けになっていたわけだが、撃墜されパラシュートで脱出したポーランド人が畑に降り立ち、農民に「このボルシチ野郎」と言われ「捕虜」にされちゃう場面はもうひとつよくわかんなかった…。

 なんだかんだとエピソードが連ねられていくのだが、人間ドラマとしては盛り上がりを欠いたままクライマックスへ。だがこのクライマックスの戦闘機同士の攻防戦は問答無用で見もの。約5分間にわたり、現実音をカットしてBGMのみが流れる中、飛行機同士の戦いが静かに、しかし勇壮に描写されてゆく。この手の演出は後年に黒澤明が「乱」でも見事にやってみせているが、こちらは舞台が空ということもあって神々しいまでの荘厳さにあふれている。
 映画のラストは「戦果」を数字で掲示するというドキュメンタリー風のもの。「これほどの少数でこれだけの戦果を挙げた例は無い」とチャーチルが絶賛したという話で、この映画は「イギリス本土防衛」に活躍した人々を称えて終わるわけだが、映画のドラマ部分のお粗末さからか見終えてもあんまし感動は無い(笑)。ただとにかく飛行シーンは素晴らしい作品で、なにやら僕の飛行機嫌いすらも治療してしまいそうな映画でありました。(2004/7/22)



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