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「ブラザーフッド」
(原題:大極旗を翻して)
2004年・韓国
○監督・脚本・企画:カン=ジェギュ○撮影:ホン=ギョンピョ
チャン=ドンゴン(ジンテ)、ウォン=ビン(ジンソク)、イ=ウンジュ(ヨンシン)、コン=ヒョンジン(ヨンマン)ほか


 

  先日僕が鑑賞してきた「シルミド」が韓国映画史上最高の観客動員1000万人を突破してニュースになった直後、これをアッサリと抜き去ってしまったのが本作「ブラザーフッド」(原題「大極旗を翻して」)だ。「シルミド」が南北対立を背景にした現代史秘話ものであったのにたいし、この「ブラザーフッド」は半世紀前に朝鮮半島で繰り広げられた同民族同士の悲劇の戦争、「朝鮮戦争」そのものを真正面から取り上げた大作となっている。過去にも朝鮮戦争をテーマにした映画はあるにはあるのだろうが、その多くが南北ともにプロパガンダものだったり単純な戦争アクションものだったりで、「戦争」そのものに真摯に向き合った作品はなかなか無かったようなのだ。その意味でもこの「ブラザーフッド」は半世紀を経てようやくある程度冷静にこの戦争を振り返ることが可能になったということを象徴する作品かもしれない。この映画としばしば比較される「プライベート・ライアン」(1998)も戦後半世紀を経てようやく作れた戦争映画の画期を為す作品だったし、やはり「50年」という歳月は人々の記憶を「歴史化」するのにちょうどいい時間なのかもしれない(映画のことではないが史学科の恩師が現代史についてこの「50年説」を言っていたことがある)

 そういった歴史的意義もさることながら、この映画、やはり最近の韓国映画の常で「まずショービジネスありき」なんだよね。もちろん映画というのは興行であるからしてお客を呼べるということが大前提。この映画の企画・脚本・監督とほとんど一人でメインを切り回しているのが「シュリ」で韓国映画ブームを巻き起こすキッカケを作ったカン=ジェギュ監督で、やはり「シュリ」同様にテーマ性を強く持たせつつも基本は「エンターテイメント」に徹した映画作りを心がけている。そして主役となる兄弟を演じるのは、近ごろ日本でもすっかりなじみとなってしまった「韓国イケメン俳優」(笑)のチャン=ドンゴンウォン=ビンという2大スターだ。こういった組み合わせで大資本を投じて製作した超大作。まぁ当たらんわけは無いだろうとは思う。まして朝鮮戦争を真正面から取り上げるのだ。日本人が太平洋戦争を取り上げるよりも「痛い」部分が多いはず。

 映画のトップシーンは朝鮮戦争の戦場跡の遺骨発掘作業のシーンから始まる。そこで一体の遺骨が掘り出され、一緒に見つかったペンには「イ=ジンソク」の名が書かれていた。ところがイ=ジンソクなる元兵士は存命であるとの照合が出て、電話で問い合わせると本人が出たため調査隊は「同姓同名の人違い」だと思う。だがジンソク老人はそれが50年前に行方不明になった兄、イ=ジンテの遺骨ではないかと思う…というところから映画は50年前に入っていく。この辺も「プライベート・ライアン」とよく似た語り口だ。
 50年前の1950年、まだ平和な賑わいを見せるソウル。靴磨きのイ=ジンテ(チャン=ドンゴン)と高校生のイ=ジンソク(ウォン=ビン)の兄弟は父親を早く亡くし、母親も熱病による言語障害を負うというハンデもあるが、ジンテの婚約者ヨンシンがその妹達と一緒に生活しており、ジンソクは大学進学を目指して勉強中と、貧しいながらも幸福な生活を送っていた。映画は冒頭で平和なソウルの町並み(これがかなり大掛かりで驚かされる)とイ一家の日常をじっくりと描いていく。もちろんその後の悲惨な展開と対比させるためなのだろうが、戦争が起こる直前の庶民なんてどこもこんな感じなのかもしれない。
 6月25日、北朝鮮軍が南下を開始、朝鮮戦争が勃発する。難民の群れに混じって着のみ着のままで親戚を頼って家を離れるイ一家。ようやく大邱(テグ)についた彼らだったが、ここで韓国軍が18歳以上の青年を兵士として強制徴集しており、ジンテもジンソクも強引に兵隊にとられ、戦場へと送り込まれる。

男たちの挽歌朝鮮戦争版 ここから先はひたすら激しい戦闘シーンの連続となる。朝鮮戦争の実際の推移を頭においておいた方が映画の展開が分かりやすいと思うのでこれから見ようという人は事前に軽くお勉強を。朝鮮戦争はまず北朝鮮軍の怒涛の南下で始まり、一時韓国は南東部の隅に追いやられて存亡の危機に瀕した。しかしマッカーサー率いる米軍(国連軍)がソウル近くの仁川(インチョン)に上陸作戦を行って韓国軍が反撃に転じ、今度は逆に怒涛の勢いで平壌を陥落させ一気に北朝鮮軍を北辺まで追いやる。ところがここで中国の義勇軍が乱入してきて韓国・米軍を人海戦術で蹴散らし、一気に最初の分断線である38度戦まで巻き返してしまう。その後しばしの押しあいへしあいがあって休戦協定が結ばれ、現在見るような軍事境界線になるわけだ。とにかく序盤一年(とくにそのうち半年)での推移がやたら劇的な戦争で、この映画もこの最初の一年間にスポットが当てられている。
 ジンテとジンソクの兄弟が配属された部隊はこの戦争の推移のまま、常に最前線で戦い続ける。弟のジンソクをなんとしても無事に帰してやりたいジンテは自分が戦功を挙げ勲章を得ることで弟の除隊を獲得しようとして、次々と危険な任務を買って出て次々と遂行していく。あるときは地雷処理、あるときは奇襲攻撃、あるときは北朝鮮将校(「シュリ」で北朝鮮特殊部隊隊長を演じたチェ=ミンシクがビックリの特別出演!)の拿捕…と立て続けの活躍をするジンテだが、あくまでも真の狙いは弟の無事、というところが泣かせるポイント。連続する戦闘描写はやはり「プライベート・ライアン」を念頭に置いたと思しくいろんな点でよく似ているが(カメラも同じ効果のものをつかってるとか)、山岳戦、平原戦、市街戦などバリエーションはこちらのほうが豊富。またよく言われることだが実際に兵役がある国だけに韓国の俳優さんたちは銃撃シーンがやたらサマになっており(「プライベート・ライアン」の出演者たちもプロ軍人の特訓を受けたそうだが)、戦争アクション映画としての出来はこちらの方が迫力があるかもしれない。兄弟のいる小部隊は個性的なキャラが集まっており、戦争映画お約束とも思える戦友ドラマも散りばめられていて見ごたえがある。
 もちろんこの映画は激しい戦闘アクションを見せつつまるっきり好戦的ではない。どんどんコンバットマシーンと化していく兄を悲しく見守る弟の目が、この映画を上手い具合に冷静にさせる効果を持っている。劇中、北朝鮮兵士による蛮行も描かれる一方で韓国軍らによる虐殺も描かれ、「どちらが正義」なんてのは当然吹っ飛ばされている。また同じ民族同士の戦争であるだけに敵に知り合いがいるケースもあり、悲劇性はいっそう増している。


--------------------さて、ここらでネタバレ注意報…なるべくなら見てから読んでね----------------








 映画は起承転結の「転」あたりで中国軍の侵入で韓国軍が押し戻され、兄弟はソウルの我が家に戻ってくる。ところがジンテの婚約者ヨンシンたちは「アカ」の疑いをかけられて青年団らにより問答無用で処刑されようとしていた。これも実際にあったことらしく見ていてやり切れない場面なのだが、とにかく兄弟が救出しようとしたにもかかわらずヨンシンは結局殺されてしまう。この時の意思疎通の齟齬で兄弟の対立は決定的に。しかもジンソクは韓国軍に捕らえられ、退却時に大隊長の命令で入れられていた倉庫に火を放たれてしまう。ジンソクを味方に殺されたと思ったジンテは悲しみのあまり逆上、一緒に北朝鮮軍の捕虜にされた大隊長を石で殴り殺す。そしてそれが「功績」になったのか?やがてジンテは北朝鮮軍の旗部隊の兵士となり(解説によるとこの旗部隊には実際に元韓国軍兵士が多くいたらしい)、勇名を馳せることになってしまう。
 しかしそれはジンテの勘違いで、ジンソクは無事に生きていた。病院に送られ除隊になっていたジンソクはジンテを恨むばかりで兄弟の縁を切ったつもりでいた。だがジンテが以前家族に送った手紙を読むうちになんとしても会いたくなり、仲間が止めるのも聞かず戦場へ戻っていく。しかも兄に直接会うために敵陣に乗り込んでわざと捕まったりするんだよね。うーん、ここはシナリオ展開上少々ムリがあると思うが。
 クライマックスとなる戦場は杜密嶺(トゥミルリョン)。このころになると38度戦付近で領土を奪い合う小競り合いが続いていて、この戦闘もその中の一つの大規模なものだそうだ。この戦いは南北ともに人海戦術の肉弾戦として描かれており、「凄惨」という点ではこの映画中最強。その中で兄弟は再会するわけだが…

 まぁ冒頭で老人ジンソクが出てきたから観客は少なくともジンソクが無事に戦後を生きたことは知っているわけ(「プライベート・ライアン」はこの辺は微妙に分からないようにしていたな)。注目点はジンテがどうなるのか、なのだがこの場面でのジンテ、チャン=ドンゴンはまさに鬼気迫る、狂気の名演を見せてくれる。激しい戦闘シーンと、兄弟同士の情愛が同時に展開するやたら密度の濃いクライマックスになるわけなんだけど、これに涙、涙でハマってしまうか、なんだかクサイ芝居と思ってしまうかで映画の好みの傾向が分かりそうですね(笑)。まぁ僕は後者だったな。でも日本の戦争映画などにありがちな安っぽい「泣かせ」ではない、ほとばしるような情念に満ちた正攻法の「泣かせ」であるところは評価したいと思う。

 ラスト、また映画は50年後の現在に戻る。だがそれを描いたあとでまた戦後に戻っていくというシナリオはちょっと首をかしげるところ。「戦後の復興の始まり」で映画を締めくくりたかった監督の意図は分かるんだけど…。(2004/7/7)



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