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「砂漠の鬼将軍」
The Desert Fox
1951年・アメリカ
○監督:ヘンリー=ハサウェイ
ジェームズ=メイソン(ロンメル)、ルーサー=アドラー(ヒトラー)ほか


 

  この映画の存在について知ったのは藤子不二雄Aさんの自伝的漫画「まんが道」からだった。大の映画ファンの「藤子不二雄」両氏はとにかくやたらに映画館に足を運んでいて、それがまた漫画のアイデアの元ネタになったりもするため、「まんが道」中でも鑑賞した映画の内容についてかなり詳しく書いているのだ。この「砂漠の鬼将軍」もその中の一つで、この映画にモロに影響を受けた二人は「砂漠の牙」というロンメルが登場する読みきり戦記漫画を描く展開になっていた。思えば僕も「まんが道」で覚えた古典映画タイトルがかなりあるなぁ。
 そんなわけで以前から見てみたいものだと思っていた本作、近所のレンタル店の戦争映画コーナーにDVDが置いてあるのを発見してようやく鑑賞することになったわけだ。

 「砂漠の鬼将軍」、とまぁ昔の邦題というのは名訳もあるけどいささか強引なのも多く、これはどちらかといえば後者ではないかと。原題は「The Desert Fox(砂漠の狐)」、つまりロンメルのあだ名そのままでなかなか味なタイトルだと思うのだが(ついでに言えば製作会社も「20世紀FOX」である!)、そのまんま「砂漠の狐」じゃあ動物記録映画と間違えられて観客動員できなかったかも(笑)。でもこの作品の続編、というか姉妹編「The Desert Ruts」は「砂漠の鼠」の直訳邦題がつけられてたりする。

 映画はいきなりオープニングから派手な銃撃戦で幕を開ける。イギリスの特殊部隊がアフリカ戦線で活躍するロンメル将軍を暗殺するべくドイツ軍の本拠地を襲撃する、という場面で、戦争映画というよりスパイ映画っぽい銃撃アクションが展開する(この暗殺設定は藤子「砂漠の牙」でも拝借されている)。結局この襲撃は失敗に終わり、一人のイギリス軍人が捕虜となる。そして護送中にチラリとロンメル将軍を目撃しただけで、いきなり話は戦後に飛び、この元捕虜がロンメルの人間像に興味を持ち、ロンメルの家族や知人に取材をしてロンメルの伝記を書くことになる。このあたりはほぼ実話らしく、この映画の原作となったのがその元捕虜・デズモンド=ヤングによって執筆されベストセラーとなったロンメルの伝記なのだ。調べたところ、なんとこの映画でそのヤングの役は当の本人が演じていたのだそうで。思えば公開年は1951年、第二次世界大戦が終わってから6年しか経っていない時期の話だ。

 と、いうぐあいでこの映画は一応ドキュメンタリー調。ただそのぶん冒頭の派手な襲撃シーンが思いっきり浮いてしまってるのだが(笑)。
 「砂漠の鬼将軍」という熱くも恐ろしげなタイトルとは裏腹に、砂漠での戦闘シーンはほとんど登場せず、記録フィルムが挿入されているだけ。ロンメルの神出鬼没の活躍もナレーションで済まされて、名優ジェームズ=メイソン演じるロンメルの登場するのはヒトラーのムチャな命令にさからって勝手に撤退する場面程度でしかない。しかもそのまんま砂漠から離れて話はドイツ国内のロンメル邸の場面ばかりになってしまうので、「砂漠の鬼将軍」という邦題にはなおさら「騙された」感が強くなってしまう(笑)。

 そのあとの展開は、ロンメルと妻・息子との触れ合い、彼に持ちかけられるヒトラー排除もしくは暗殺の計画、そしてロンメル自身の苦悩とが描かれていく。そしてノルマンディー上陸作戦(完全に記録フィルムのつなぎあわせ)をきっかけに直接的にロンメルとヒトラーが口論する場面もあったりして(ルーサー=アドラーのヒトラーはメイクで強引に似せたものだが身振りや口調なんかはよく出来てると思う)、ロンメル自身が積極的にヒトラー排除に動いていく。しかし彼自身が敵の機銃掃射で負傷し入院している間に、あのヒトラー爆殺未遂事件が起こり、追及の手がとうとうロンメルにも伸びて来る。この映画では一応爆殺未遂事件とロンメルは無関係のように描かれているが、一方でヒトラー排除に積極的だったという描き方もし、やはり「ヒトラーに逆らった悲劇の名将」というイメージを最大限に演出していく。

 事実がどうであったかは分からないけど、この映画のロンメルはヒトラーから「名誉の死を与えてやるから自殺しろ」という指示をはねつけ、裁判で徹底的に争おうとする。しかし妻子に危害を加えると脅されてやむなく服毒自殺の道を選ぶというラストになっていた。最後は家族愛で締めてる、ってあたりがハリウッド映画風味なのかも。

 やはりこの映画で印象が強烈なのは、ロンメルその人になりきったメイスンの名演。漫画「砂漠の牙」でもロンメルの顔は完全にこの映画のメイスンそのままになっていたし、実際ロンメルと言えばメイスンがハマリ役という定評がつき、姉妹編「砂漠の鼠」でも彼がロンメルを演じてしまった。この映画で彼が着ている軍服の一部は実際にロンメル本人が着用していたものを未亡人から拝借したものというからハマるのも無理はないのか。そんな話を聞くとほんとに戦後すぐに作った映画なんだな〜と改めて思わされる。

 映画には登場しないが、このロンメルとも戦い、ロンメルの著書を愛読していたのがアメリカ軍のパットン将軍。彼も「パットン大戦車軍団」という凄いタイトルの映画の主役になっているが、「砂漠の鬼将軍」というタイトルはこっちの方がマッチしているかも(笑)。(2005/3/19)




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