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「零戦燃ゆ」

1984年・東宝
○監督:舛田利雄○脚本:笠原和夫○原作:柳田邦男○特技監督:川北紘一○撮影:西垣六郎
加山雄三(下川大尉)、堤大二郎(浜田正一)、早見優(吉川静子)、橋爪淳(水島国夫)、あおい輝彦(小福田租)、丹波哲郎(山本五十六)、加藤武(宇垣纏)、目黒祐樹(宮野善次郎)、南田洋子(浜田イネ)、北大路欣也(堀越二郎)、佐藤允(軍医)ほか


 

   「ゼロ・ファイター大空戦」(1966)に続いてみたのがコレ。かなり前のことになるが、東宝映画「連合艦隊」(1981)について「史劇的伝言板」で「最後の特撮戦争映画」ということを書いたら、詳しい方から「『零戦燃ゆ』の方が後では」との指摘を受けて年代を確認した覚えがある。ただこちらは公開当時の記憶の先入観などで「本格的な特撮戦争映画」という認識を持ってなかったのも事実。確かに本作はあくまで零戦を中心とする戦闘機メインの映画であり、ミニチュア戦艦を駆使するような映画ではない。
 ただ今回初めて鑑賞して少なくとも「ミニチュア特撮飛行機映画」としてはかなり本格的だったんだなーと認識を新たにした。特技監督は川北紘一。僕にとってはもちろん「平成ゴジラ」最盛期を支えた特撮監督である。思い起こせば僕が最初に見た怪獣映画は「ゴジラVSキングギドラ」(1991)だった。この「vsキングギドラ」は怪獣映画に関してはかなりオクテであった僕はある日劇場で見た予告編が物凄く気になってしまい(笑)、「たまにはハチャメチャ映画でも」という気分でフラッと見に行って…そのまま怪獣特撮映画にドップリはまることになってしまったという思い出の映画である。怪獣映画という奴は好みが人により激しく分かれるもので「VSキングギドラ」にもかなりきつい意見もあることは承知しているが、僕的には平成ゴジラの最高傑作なんですよ、これ。北海道の原野と東京都庁で繰り広げられたバトルは怪獣映画全体を見渡しても最高レベルではないかと思うんだが…
 あー、いつの間にか違う映画の話をしてる(笑)。とにかくそんなわけで「川北特撮」には結構思い入れがあるのだ。川北特撮の本領は怪獣よりも実はミニチュアによるメカニック描写で冴えてくる(あと「光線」もあるのだが省く)。で、その川北氏が特技監督デビュー作SF映画「さよならジュピター」(1984)に続いて(それともほとんど同時進行かな?)特技監督をつとめたのが本作「零戦燃ゆ」。戦争映画ながらまさにメカニックの塊ともいえる戦闘機をテーマとした映画である、期待しちゃうではないか。

 …で、他のスタッフを見てみると…監督・舛田利雄+脚本・笠原和夫…って、「二百三高地」「大日本帝国」「海ゆかば」の東映戦争映画のコンビじゃないですか!しかも出演者にあおい輝彦、丹波哲郎、北大路欣也と東宝特撮とはあまり縁の無い、どっちかといえば東映系映画の方々が人脈関係からなのか揃って出演している。劇中に主題歌(石原裕次郎が歌っている…)が入るあたりも東映戦争映画のノリだ。
 年代を調べてみると「海ゆかば」がコケて(実際駄作だったが)東映の戦争映画大作路線が終了した直後に本作が作られており、なにやら舛田・笠原コンビが東映から東宝に移籍して作った映画、という印象が強い。
 出演者はリストだけ見ると大物ぞろいで豪華俳優陣!と言いたくなるのだが…トップタイトルになっている加山雄三からして映画開始10分ぐらいで登場、それからものの10分程度で零戦の飛行実験中に事故死してしまう。おおーい!ビデオのパッケージ(ポスターと同じ)にも一番デッカク映っているのに、もう死亡かよ!加山雄三の役は物語の主人公である堤大二郎橋爪淳の二人に多大な影響を与えるというだけのものなのだ。直前に見ていた「ゼロ・ファイター大空戦」でも主役のパイロットだっただけに、この扱いはなんと言うか…(汗)。
 加山雄三だけではない。山本五十六役の丹波哲郎、零戦開発の技術者役の北大路欣也軍医佐藤允など、大物スターがこぞってほとんどワンシーンのみの特別出演(確か北大路さんは「友情出演」となっていた)あおい輝彦加藤武は映画中何度か登場するだけまだマシなほうというぐらい。このあたりもどうも狙いがよく分からん映画である。

 物語のメインになっているのは零戦パイロット・浜田(堤大二郎)と整備兵・水島(橋爪淳)という二人の青年の友情と、二人の間で揺れる女学生・静子(早見優)を絡めた三角関係である。浜田と水島は加山雄三演じる下川大尉(海軍なので映画ではちゃんと「だいい」と発音)から零戦の素晴らしさを教えられ、彼の事故死を乗り越えてパイロットと整備士としてそれぞれ零戦とともに太平洋戦争を生き抜いていく。その間にちょろちょろと静子との恋愛模様をからめて…という、はっきり言ってあんまし工夫の無い戦時中青春ドラマを展開していく。「二百三高地」「大日本帝国」でも見られたストーリー展開ではあるが、名脚本家・笠原和夫にしてはかなりヘタクソな部類に入るような…全編にわたって水島の回想ナレーションで話を進めているのがかなりウザったい。
 映画の展開自体話が絞りきれずに散漫になっている。原作が柳田邦男ということもあり戦闘機の技術面の話題が多いのだが、戦争時の開発秘話みたいなことをやるかと思えばそうでもなく、空戦をくぐり抜けるパイロットたちのテクニックを見せるのかと思えばこれも中途半端。太平洋戦争を俯瞰して戦略的に語る部分もあったりするが(マッカーサーが出てきたりする)やっぱり途切れ途切れ。
 日本戦闘機はパイロットを保護する観点が欠如しアメリカはそうではなかったというくだりがかなり強調されるあたりは笠原和夫流の日本軍の精神主義批判が垣間見えるのだが、物語にはうまく組み込めていない。全体的に「物語のつまみ食い」状態で、なにがなにやらという感じでホイホイと話が進んでいってしまう。

 で、結局救いとなってしまうのが空戦シーンで存分に発揮される川北特撮なのだ(笑)。
 ま、さすがにCG戦争映画に見慣れてきた今日ではミニチュア飛行機が飛び交う空戦シーンはやはり「チャチ」に見える。しかしこれは開き直って(?)ミニチュアをここまで巧みに操って自由自在のカメラワークで空戦に見せてしまう撮影テクニックに魅了されるべきだろう。ミニチュア特撮を見る楽しさは模型屋のショーウインドーを覗くようなもの。特にこの映画は戦闘機映画ということもあり、零戦だけでなく太平洋戦争で活躍した日米の戦闘機が総出演(!)してくれるので戦闘機マニア、飛行機模型マニアにはこたえられない作品だと思う。僕自身は戦闘機については全然詳しくないんだけど、次々と登場して零戦を苦しめるアメリカの戦闘機、爆撃機の数々にはなんかワクワクしましたよ、ホント(笑)。
 他の特撮戦争映画に比べるとミニチュアが大きめに作られているのではないかと思う。聞いた話では一部のシーンではピアノ戦による吊りではなく、ラジコン戦闘機を作って実際に飛ばして撮影しているともいう。またやけにリアルなのが撃墜シーンで、これもミニチュアを大きくして火薬にも工夫をして撮影してるんじゃないかなぁ…あの撃墜シーンが全部ラジコンを実際に燃やして落としたのだとしたら凄いが(笑)。
 ただ残念なのは予算の都合か、ミニチュアはもっぱら飛行機ばかりで戦艦は一切登場しないこと。戦艦大和が出てくるシーンもあるが「連合艦隊」からの使いまわしだ。他にも「太平洋の嵐」の真珠湾シーンの使いまわしもあり、特撮ファンとしては寂しいところである。

 ラスト、日本が敗北し、零戦は全て分解・廃棄処分される。水島は思い出の名機・零戦がゴミ屑のように処理されることに我慢ならず、上官に願い出て、零戦の燃料を抜いてそこへ銃撃を行い焼却処分する(おんなじような…)。一同、燃える零戦に涙してエンディングとなるのだが、ここでハタとこの映画が「零戦燃ゆ」というタイトルであったことを思い出した。そのまんまやないかー!!(笑)

 結局のところ本作が東宝特撮戦争映画のホンモノの最終作となってしまっているようだ。CG技術も進んだ今日では怪獣はともかくミニチュア特撮による戦争映画はもう作られないだろうなぁ…模型ファン的には残念なことなのだが。(2004/7/7)



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