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「ゴジラ」
Godzilla
1954,東宝
○製作:田中友幸○監督:本田猪四郎○原作:香山滋○脚本:本田猪四郎/村田武雄○撮影:玉井正夫○音楽:伊福部昭○特殊技術:円谷英二
宝田明(尾形秀人)志村喬(山根恭平)河内桃子(恵美子)平田昭彦(芹沢大介)ほか




 結局のところ日本映画でSF部門となると、これが一位になるのは避けがたい。技術的にはその後の方が向上している部分もあるが、何といっても第一作。前例がないところへこんなモノを作り上げた事自体が凄い。歴史的価値ってこともあるだろうが、ゴジラの与える恐怖感はやはり本作がベストである。白黒であるためにかえってリアリティがあり(街がミニチュアっぽくない)、純粋に人間対ゴジラの死闘が演じられる点でも本当の意味での「怪獣映画」と評価できるだろう。私自身が結構熱烈な怪獣映画ファンだったりするのでこの位置につけてしまった。

この作品についてはマニアがあまりにも多いので通り一遍の解説は面白くもないのだが、やはりこれは言わねばならない。脚本の優秀さだ。映画冒頭から次々に起こる異変。伝説の怪獣。そして三葉虫に放射能。何が起こっているのか分からない不安感が徐々に増していくシナリオで、恐怖映画のお手本とも言うべき出来である。そしてゴジラが初めて姿を現すシーンが秀逸!初めにチラッと尻尾を見せる。ハッとする人々。そして次のカットで山の上にヌッとゴジラが顔を出し、こちらを見下ろす。そのインパクトは今観ても強烈だ。今はみんな「怪獣」という存在のイメージがあるから良いけど、当時は誰もそんなの知らないわけで、このシーンの撮影、エキストラが言うこと聞かなくて大変だったんだそうな。

「怪獣映画」という奴はその性質上、人間ドラマ部分が希薄になりがちだ。このバランスが良いものが「傑作」と呼ばれるわけだが、一般に「ゴジラ」はこの第一作が人間ドラマでも最高作と評価されている。だが僕自身はむしろ「対キングコング」や「三大怪獣」さらに近作「VSキングギドラ」の方がお気に入りで、第一作「ゴジラ」はややストーリーが類型的で陳腐だという印象を持っている。もちろん時代性もあるから一概には言えないのだが・・・しかし今から考えると随分大人向けの内容(やや悲劇的な三角関係)だとは言える。その後恋愛沙汰一つ出てきませんからね、このシリーズは。

むしろ今見て感心するのは危険を知りながらゴジラを生かそうと考える山根博士、ゴジラを抹殺できる兵器「オキシジェンデストロイヤー」を開発したものの「核を越える兵器を造ってしまった」と悩む芹沢博士(どうも顔は戦傷らしい。しまいにゃ自分もろとも発明を葬ってしまう)といった科学者達のキャラクターだ。これらは今見てもかなり独創的なキャラクター(その後多くの模倣を生んだが)と思われる。だからこそ現時点の最終作「VSデストロイヤ」はこれらのキャラクターにまつわるストーリーになったとも言えそうだ。

さらに話を進めれば、この作品の最大の魅力は、やはり「文明批判」が根底にあるってことじゃなかろうか(もう言い尽くされてるとは思うけど)。人間が水爆を造り、自然からそのしっぺ返しを手痛く受ける。そしてそのしっぺ返しを抹殺するものもまた人間が造り出した恐怖の発明なのだ。発明者の芹沢はそうした人間の繰り返す罪の深さを自覚していた人間なのだろう。だからこそゴジラと相打ちになって死んだと解釈できる(もっとも三角関係を解消するために脚本家が打った手とも考えられますが)。ここで芹沢が顔に戦争によると思われる傷を負っているのが意味深だ。良く指摘されるが、この作品はまだ敗戦9年後の作品である。映画のあちこちについ先頃の戦争の影がちらつく。そういう時期だからこそこういうテーマの映画が作れたんだろうな、と思わせる。

最後にどうでも良いことを。この作品のラストは山根博士役の志村喬のつぶやきで終わる。同じ年に公開された「七人の侍」も志村喬のつぶやきで終わる。ちょっと偶然とは思えない一致(笑)。監督同士は親友だったしなー。(98/4/1)



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