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「妖星ゴラス」

1962年・東宝
○監督:本多猪四郎○特技監督:円谷英二〇脚本:木村武〇撮影:小泉一〇音楽:石井歓〇製作:田中友幸
池部良(田沢博士)、白川由美(園田智子)、田崎潤(園田雷蔵)、志村喬(園田謙介)ほか




 特撮映画ファンを自称することもある僕だが、それでも「ゴジラ」を中心に見ているだけで実のところそれほど多くの作品に目を通しているわけではない。東宝特撮SFには「ゴジラ」シリーズ以外の秀作が多いことは良く分かっているのだがなんとなく手を付けてこなかったところがある。怪獣映画以外だと「地球防衛軍」「海底軍艦」「日本沈没」「さよならジュピター」ぐらいかなぁ。これではいかん、という思い(笑)もあり、とりあえず本作「妖星ゴラス」を鑑賞することにした。

 時は1979年。地球の周囲には各国の宇宙ステーションが浮かび、太陽系各地への探険隊も派遣されている。街角では「80年代は火星開発の時代だ!株買わない?」なんて会話がなされている。繰り返すが、物語の時代設定は1979年だ。今から20年ちょっと前の話である!1962年製作の映画としても未来予測がいささか早すぎはしないだろうか(笑)。この当時というとせいぜい人類が宇宙に初めて出た程度だったのだが(劇中のセリフにガガーリンの名が出てくる)、それだけこの当時は宇宙ブームだったということなのかな。
 日本の土星探査船「隼号」は土星近くを航行中、太陽系に迫る巨大質量の星の存在を観測所から知らされる。「ゴラス」と命名されたこの星は、地球よりサイズは小さいくせに質量は地球の6000倍はあるという「黒色矮星」だった。予定を変更して調査に向かった隼号だったが、その巨大な引力にとらえられて脱出不能となり、自らが吸い込まれ消滅する瞬間まで人類にゴラスのデータを送り、壮絶な最期を遂げる。
 隼号の船長を演じるのは東宝特撮・戦争映画では軍人役で定評のある田崎潤だからたまらない。脱出不能を悟った船長は部下達にその事実を告げ、人類にデータを送り届けながらまさに「玉砕」していくわけなんだけど、それを告げられた部下達が一斉に「バンザーイ!バンザーイ!」とやり出すのは…なんというか(^^;)。まだ戦後17年という時代でした。そういえば鉄腕アトムのTV最終回といい、日本が製作したハリウッドSF映画「クライシス2050」といい、日本人はやっぱり「玉砕」「特攻」が好きなのかも知れないな。ま、この隼号のケースは人類全体のためにやむなく、という感じなのでそう無闇な自殺行為ではないので救いはある。

 隼号の事故で日本は大騒ぎになるのだが、国会で「税金の無駄遣い」などと野党が政府を追及するあたりは妙にリアルで面白い。しかし隼号の決死の調査データにより「ゴラス」が地球に激突する恐れが濃厚であることが判明、事態は日本だけでなく世界全体で解決しなければならない問題となる。冷戦を展開する各国は人類全体のために兵器開発研究の成果をあらいざらいぶちまけ、協力し合うことになる。このあたりは皮肉でもあるが、製作者の世界平和実現への強い希望が感じられるところ。
 で、具体的にどうするかというと方法は二つしかない。「ゴラスをどけるか、こっちが逃げるか」。とりあえず両方の作戦を進めることになるが、結局ゴラスが巨大すぎて(しかも次第に質量を増しつつある)「どける」なんてことは不可能と分かり、「こっちが逃げる」つまり地球を動かすと言う奇想天外な作戦が採用されることになるのだ!もし前者だったら「さよならジュピター」あるいは「アルマゲドン」になることにお気づきの方も多いはず。ま、この手のテーマの作品は結構製作されているんだよね。さすがに地球を動かしちゃったのは東宝特撮しかないようですが(笑)。
 どうやって地球を動かすのかというと、南極に巨大なジェット噴射口を作って地球をジリジリと動かしていくという作戦だ。そんなムチャなとか冷静な科学考証をこの映画でしてはいけない(笑)。それでも志村喬の「地球も無事動きだしたし、良い正月だな」とのたまうノンキな台詞には大笑いしてしまったが。地球がちょっとでも軌道を外したら気候も大変動を免れないのではないか!?

 前から聞いてはいたが、この南極での噴射口建設シーンは特撮マニアおよび模型マニアにはまさに驚喜というか圧巻の場面。世界各国の大船団が南極の氷を割って進み、南極の大地に穴を開けて巨大な噴射口を建設していくわけだが、その場面は全てミニチュアおよびブルーバック合成。今日のCG映像なんかからみればもちろん「リアル」とは言い難いが、「職人仕事」という味があって好きですね、こういうミニチュア特撮って。その壮大なミニチュアセットは模型マニアの心もくすぐります。
 しかしこの南極開発+ジェット噴射のために太古の巨大生物(セイウチの化け物みたいな)が登場して暴れ回る展開はハッキリ言って余計。どうしても「怪獣」を出したくなったって事なんだろうけど、すぐ倒されちゃうし必然性がほとんど無い。それ以外にもわずか90分の映画にこれでもかとばかりに色々な要素(政治・社会・恋愛・科学者の苦悩・記憶喪失等々)を詰め込んでいて、今から見るとやや詰め込みすぎの観も否めない。これはこの時期の東宝特撮映画の特徴でもあるんだけど…。それでも致命的な破綻はなく、よく時間内に収まるものだと関心はしてしまう(笑)。
 南極開発シーン以外でも特撮の見所は多い。「ディープインパクト」もビックリの都市水没シーンも見所だが(利根川で撮ったらしいね)、なんといっても僕に強烈な印象を残したのは「主役」でもある「ゴラス」の姿そのものだ。赤く輝きながら次第に質量を増していくその姿は東宝SFに出てくる天体描写では屈指のリアルさ(どうやって撮ったのかぜひ知りたい)。観ていて連想したのがリュック=ベッソンのSF「フィフス・エレメント」だ。あの映画で出てくる地球に迫り来る悪の星って「ゴラス」にそっくりじゃないか!(質量も増大していくし)すでに言っている人がいるだろうけど、僕には新鮮な驚きだった。そういえば設定も少々似ているような。「フィフス〜」も「古典SF」って狙いが明らかだったしね。まぁ因果関係は不明です。

 科学的ツッコミをしてはいけない、とか言っておいて最後にもう一つ(笑)。もちろん地球の危機は回避されるわけだが、そのあと「もとの軌道に戻さないと」という台詞がある。もちろん戻さなくてはいけないのだが、どうやって戻すのだろう。南極は北極と違って大陸だから噴射口を作ったという話が途中で出てきたので、まさか北極に同じものを作るわけにもいかないだろうし…ひょっとして逆噴射?ってどうやってやるんだ(笑)。このまま地球は太陽系を離れて永遠に宇宙を彷徨うことになっちゃったりして。(2001/2/9)




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