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「宇宙からのメッセージ」

1978年・東映
○監督:深作欣二○脚本:松田寛夫○特撮監督:矢島信男○撮影:中島徹○音楽:森岡賢一郎
ビック=モロー(ガルダ将軍)、フィリップ=カズノフ(アロン)、真田広之(シロー)、ペギー=リー=ブレナン(メイア)、岡部正純(ジャック)、佐藤允(ウロッコ)、志穂美悦子(エメラリーダ)、千葉真一(ハンス)、成田三樹夫(ロクセイア)、丹波哲郎(地球連邦議長)ほか




 以前から見てはおこうと思いつつ、ついつい見てなかった、日本特撮映画史上いろんな意味で重要な作品。「スターウォーズ」の便乗、あるいはパチモンとして語られてしまう映画ではあるが、見たことはなくてもその存在自体は耳にしたことがある人は多いはず。監督である深作欣二没後にNHK教育で放送された「仁義なき戦い」特番に出演していた映画評論家が、すでに監督として名を為していた深作監督がこの「スターウォーズ・パチモン映画」を撮ったことについて本人に疑問や葛藤はなかったのかと聞いたところ、「ぜーんぜん!」という返事だった(笑)、という逸話を話していて、実は僕はこれでこの映画が深作監督作品であることを初めて知ったのだった。
 「スターウォーズ」のアメリカでの公開時の勢いというのはそりゃもう凄かったそうで、それに便乗しようと東宝と東映が乗りだした。東宝は当初小松左京に原作をもちかけるが、小松が便乗でない本格SFを希望してその企画は「さよならジュピター」へとつながり、代わりに即席で「惑星大戦争」を製作している。こちら、まだ僕は現時点では未見なのだが耳に入って来る評判は決して芳しいものではない。そこへ行くと東映製作のこの「宇宙からのメッセージ」の方が、キワモノ扱いではあるけれども、そこそこのいい評判も聞いていたのである。
 初めて見る機会を得たのは意外にもYoutube。違法アップロードではない。東映が公式に自社の特撮作品を全編Youtubeにアップするという太っ腹なことをしてくれたのだ。画質的にはアレだけど、これで文句を言ってはいけない。

 東映の「波がドッパーン」のマークのあとに、宇宙空間と荘厳な音楽が流れてくるとえらく場違いな…などと思いつつオープニングを見ていると、「原案」として漫画家の石森章太郎、SF作家で「キャプテンフューチャー」の翻訳で知られる野間昌宏の名前があることに気づく。この二人がどういう風に「原案」として関与したかは分からないのだけど、どうもあの「帆船型宇宙船」のデザインは石森色濃厚(確か「009」だったか、自作で出て来たんじゃなかったか)。また「宇宙の彼方から来る敵に対し、使命に目覚めた戦士たちが集結」という設定は「幻魔大戦」を連想させなくもない。野間さんの方は「宇宙冒険活劇」のノリを持ちこむことに力添えしたんじゃなかろうか、と。
 
 さて映画本編は、「ガバナス帝国」の侵略を受けて惑星ジルーシアがいきなり惑星ごと要塞化されてしまったところから始まる。ジルーシアの長老は救いを求めるべく200万光年も彼方の宇宙に向けて「リアベの実」8つを飛ばす。この「リアベの実」を受け取った者たちが「リアベの勇士」であり、我々を救ってくれる、というわけだ。そしてその勇士たちを導くべくエメラリーダ姫(志穂美悦子が一番綺麗な時かもしれない)と戦士ウロッコ(佐藤允)が帆船型宇宙船に乗って旅立つ。ここまでがオープニングで、本作の骨子が「八犬伝」であることはこれだけで明白だ。深作監督はのちに「里見八犬伝」も監督してるし、こだわりがあったのかも。
 そして「リアベの実」は「勇士」たちのところへ無事に(?)着くことになるのだが、200万光年の彼方から飛んでくる割に酒のグラスに飛びこんだり、宇宙船のエンジンに飛びこんだりと、なんだかセコい。しかもその人選も、ビック=モローの飲んだくれの将軍はまだいい方で、真田広之フィリップ=カズノフの「宇宙暴走族コンビ」、その二人とつるむスピード狂お嬢様、その暴走族二人に金を貸したためにヤクザに命を狙われてしまうチンピラのジャック(名前だけは外国風なんだが、岡部正純演じるどうみても関西人)、とまぁ、なんだか大疑問な人たちばかり。実際「勇士」に選ばれちゃった当人たちも当初はその気はまるでなく、エメラリーダを売りとばしたりする奴までいる始末。冒頭の荘厳なSFイメージはどこへやら、この部分では東映おなじみのヤクザ映画、というより不良もの映画とノリがほとんど一緒だ。とくに70年代チンピライメージそのまんまの恰好で関西弁でまくしたて、物語中ろくに活躍もしないくせに存在感だけは一番だった「ジャック」は強烈。ここら辺が良くも悪くも東映色なのだろうなぁ。

 ガバナス帝国がはるばる地球を征服しようとアンドロメダの彼方から乗りだしてくる原因は、地球人の老婆から地球の美しい記憶の映像を見てしまったから、というのはセンチメンタルではあるが面白い。冥王星で生んだ怪物みたいな息子がいるという老婆だったが、地球は日本の出身らしく、記憶映像が日本の雪国の古き良き風景、というのが和製SFらしさか。
 その日本的風景に感動しちゃったガバナス皇帝ロクセイア12世(凄まじいメイクの成田三樹夫)は地球を目指すことになる。そしてリベアの勇士たちは不時着した惑星で物凄い偶然(?)でガバナスの本来の帝位継承者・ハンス王子(千葉真一)と遭遇、彼もリベアの実を持っていた――ということで、にわかに話は貴種流離譚の復讐劇の時代劇調に。成田三樹夫千葉真一、そして深作監督とくれば「柳生一族の陰謀」丸出しであるが、よく調べたら深作監督の前作が「柳生」だったのね。江戸時代だろうがはるか未来の宇宙だろうが、やってることはほぼ一緒。ま、本家「スターウォーズ」だって実質時代劇だと言われてますし。

 その時代劇チャンバラとミニチュア特撮による宇宙戦争がミックスされてるところも「スターウォーズ」そのまんま。とくにクライマックスとなる要塞攻略は明らかに「デス・スター」攻略(1作目のね)のパクリと言われても仕方ない。本家で溝の中を進んでいたのがトンネル状になっただけの違いで。もっともこのトンネル状の戦闘シーンの特撮の出来自体はなかなかのもので、逆に「スターウォーズ・ジェダイの帰還」のクライマックスシーンに影響を与えたとの説もあるそうだから、あなどれない。そういえば成田三樹夫が千葉真一に負けて転落していくカットも「ジェダイの復讐」を先取りしてる気もする。

 全編100分ちょっと、という最近の映画からすれば短い(当時のプログラムピクチャーとしては普通の長さだけど)時間の中に、話を詰め込み過ぎた、という気もしなくはない。暴走族あり、チンピラドラマあり、裏切りあり、決闘あり、政治的描写もちょっとではあるが挿入されてるし、見終えてから思い返してみると「よくまぁ詰め込んだものだ」と思うほど要素は多い。ただそれがうまくひとつながりになっているか、と言うとやっぱり疑問だけど。壮大な設定の割にやってることがセコい、というギャップはどうしても感じてしまう。だがそれが必ずしも計算違いではなく、最初から「本家とまともに勝負しても」と狙って安っぽくやってるような気もしてくる。
 安っぽいと言えば…いやむしろ作り手としては「日本的」ではないゴージャスな雰囲気を出そうとトップタイトルのビック=モロー以下の白人俳優を出したのだろうが、劇中ではそのセリフは全て声優による吹き替えになっており、これが余計に安っぽさを感じさせてしまっている。これは僕の偏見かもしれないが、高倉健「ゴルゴ13」でイラン人俳優がみんな吹き替え(有名声優がいっぱい出てるんだよな)だとか、「さよならジュピター」でも外国人をゾロゾロ出して吹き替え日本語(一応「翻訳機」使用という設定ではあるけど)を話すのを見ていると、どうしても安っぽく見えてきてしまうのだ。これは単に洋画=字幕という先入観に毒されているのかもしれないが、やっぱり演じてる人と声の人が違うのって違和感があることが多いんだよね。浮いちゃうというか。

 結局この映画、興行的にもイマイチで、本家「スターウォーズ」が乗り込んでくるとなおさらバカにされてしまったらしく、以後東映はTVシリーズで本作の続編(といっても真田広之が別の役で出てくるSF忍者もの)を作りはするものの、スペースオペラを実写で作ろうなんて気は起こさなくなってしまう。東宝の「惑星大戦争」はなおさらコケて、本格SFとして期待された「さよならジュピター」もああいう結果になってしまい、日本のSF映画は結局怪獣映画しか生き残らない状況になってしまった。CG時代になってからまた事情は変わって来てるかもしれないけど。
 そういうその後の事情を踏まえると、便乗企画とはいえ日本映画界で「SF大作」を作ってみようとした、作り手の「志」の高さは買いたいと思う。
(2011/9/19)



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