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「カサブランカ」
CASABLANCA

1942年・アメリカ
○監督:マイケル=カーティス○脚本:ハワード=コッチ/ジュリアス=J=エプスタイン/フィリップ=G=エプスタイン○撮影:アーサー=エディソン○音楽:マックス=スタイナ^〇製作:はる=B=ウォリス
ハンフリー=ボガート(リック)、イングリッド=バーグマン(イルザ)、ポール=ヘンリード(ラズロ)、クロード=レインズ(ルノー)、コンラート=ファイト(シュトラッサー)、ピーター=ローレ(ウーガーデ)、シドニー=グリーンストリート(フェラーリ)、ドーリー=ウィルソン(サム)ほか


 

 名前だけはよく知っていて、「昨日どこ行ってたの?」「そんな昔のことは忘れた」といった作中の名セリフもパロディを通してずいぶん前から知っていた。だいたいのストーリーも知ってるようなものだったが、今の今まで鑑賞したことはなかった。何年か前にNHK衛星で放送された時に録画はしておいたが、つい先日観る気になるまで何年もほったらかし。ラブロマンス作品として名高いが、それが僕には敬遠要素だったということもあるな。

 製作・公開年は1942年。第二次世界大戦の真っ最中である。このときフランスはすでにナチス・ドイツに降伏して、ペタン元帥によるドイツ傀儡のヴィシー政権が成立していた。映画のタイトルにして舞台となる「カサブランカ」は、当時フランスの植民地であったモロッコにある町で、作中の説明によるとフランスからアメリカへの亡命を目指す人々がここに集まり、飛行機などでポルトガルを経由してアメリカへ向かうルートがあったらしい。この映画はまだフランスが占領下にある情勢下、リアルタイムで作られた(もちろん現地ロケなかしてないけど)という点で、今見るとそれ自体が第二次大戦中のある時点での状況を知ることのできる「歴史的価値」を持っている。

 「歴史的価値」と絡むことだが、この映画、実はアメリカ政府筋の要求にハリウッドが応えて作った「プロパガンダ映画」の側面もある。なにせリアルタイムでフランスが占領下に置かれていて、まだまだ枢軸国側が押し気味(そろそろ逆転しつつはあったけど)の段階だ。映画の主要人物たちは反ナチのレジスタンス運動に関わっているし(シンボルマークの「ロレーヌの十字架」も出てくる)、カフェで一同がフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を高らかに唱和するシーンもあるし、レジスタンスが銃殺されるシーンでは目の前にペタン元帥のポスターがある、「ヴィシー」のミネラルウォーターを捨てる、などなどといった調子で、そこかしこに反ナチス・ヴィシー政府、フランスのレジスタンスへの声援といったテーマが挿入されている。
 リアルタイムで見た観客には強く訴えるものがあったんじゃないかな、とも思うのだが、そこは世界の娯楽映画制作工場のハリウッド、「プロパガンダ映画」の割にはその政治的メッセージの挿入はやんわりとしたものだし、結局はサスペンスや美男美女のラブロマンス部分が前面に出てしまって、作品自体は時代を越えた生命力を持つことにもなった。「枢軸国」である日本公開はもちろん敗戦直後のことだが、それでも観客がこの映画を特にプロパガンダ映画ととらえたフシはないようだ。

 1941年12月(太平洋戦争開戦時期だ)、フランス領モロッコのカサブランカで、アメリカ人のリック(演:ハンフリー=ボガート)は「カフェ。アメリカン」を経営しつつ、一見華やかだがうらぶれた生活を送っている。リックはかつてパリで暮らし、過去の不明なイルザ(演;イングリッド=バーグマン)という美女と恋愛関係にあったが、ドイツ軍侵攻によるパリ陥落の直前に、一緒にパリを離れるはずだったイルザは「さよなら」の一言の手紙だけを残して姿を消してしまっていた。彼女を失った痛手を抱え続けるリックの店に、なんとそのイルザ当人が姿を現す。しかも彼女の恋人どころか夫としてレジスタンス活動家ラズロ(演:ポール=ヘンリード)が同行していた。偶然のことからカサブランカから逃げ出せるドイツ軍通行証を手に入れたリックに、イルザは夫のラズロのためにパスを渡してほしいと求めて来て、パリでなぜ突然姿を消したのか、事情を説明し始める…

 といったストーリーで、古典的名作としてあまりにもあちこちで紹介されるもんだから、前述のように大まかな筋書きは僕も知っていた。細かいところはさすがに知らなかったが、結末に関してもだいたいのところは聞いていたのと同じだった。もっとも製作現場では結末をどうするかなかなか決まらず、二通りの展開が撮影されていた、との話もある。
 この映画、映画史に残る名セリフが多いことでも知られ、僕は以前保険会社のCMでパロディにしていたために知った「昨日はどうしたの?」「そんな昔のことは忘れた」「今夜はどうするの?」「そんな先のことはわからない」もその一つ。どこで出てくるかと身構えていたら、映画の序盤でいともアッサリと口に出されてたんで、「あれ?今のがそうなの?」と正直拍子抜けもした(会話の相手もストーリー上はチョイ役)。確か映画史上の名セリフのベストいくつかにはいっていた「君の瞳に乾杯」も割とひんぱんに繰り返されていた。

 その「瞳」の持ち主が、スウェーデン出身で当時一番の美人女優といえたイングリッド=バーグマン。「バーグマン」はスウェーデンでは「ベルイマン」と発音して、同名の有名映画監督もいる。同時期にヘミングウェイ原作の「誰が為に鐘は鳴る」にも出ていたような、と調べたらこの「カサブランカ」の翌年だった。僕は彼女の出演作はその「誰が為に鐘は鳴る」と「オリエント急行殺人事件」くらいしか見てなくて、ヒッチコック作品もまだ手を出してない。
 なんだかんだで「カサブランカ」は彼女の代表作みたいにされてるのだが、聞く所によると当人は何かと「カサブランカ」と言われることに「もっとほかに重要な仕事があるのに」と不快感を持ってもいたらしい。タイトルを言わずに「ボガートとの共演作」なんて言いまわしもしていたようだし。撮影現場では脚本もほとんど同時進行でストーリーも読めず、監督も教えてくれなかったとかあまりいい思い出がなかったのかもしれない。後年通して見て「こんなにいい映画だったんですね」と言ったという話もあるみたいだけど。うーん、僕は実際に見てみても「安っぽい話だなぁ…これでアカデミー作品賞・監督賞・脚色賞かよ」と思っちゃったんだけど(製作・公開時の時代性の方が興味深かった)

 一方の主役であるボガートは、前年に代表作「マルタの鷹」に出ていて、この時期の「ハードボイルド俳優」の代表。この映画でも謎めいた過去を背負って陰鬱な表情で渋く決めていて、雰囲気はレジスタンス支援武器屋くずれというよりハードボイルド探偵の雰囲気。バーグマンが相手なのでラブロマンス面が強調されたところもあるけど、ストーリーの骨子は冒頭から殺人あり、謎解きあり、トリックあり、ドンパチや意外な展開もありで、ミステリやサスペンス映画のそれという気もする。ま、この「栄耀映画徒然草」では「恋愛映画」の枠はたぶん作らないと思うので、この映画は「推理・サスペンス映画」枠に入れるしかない、という、こちらの事情もあった(笑)。

 他に記憶に残るのは、リックの店でピアノ歌手をやってる黒人のサム(演:ドーリー=ウィルソン)かな。カフェ・アメリカンのムードを盛り上げる黒人ピアニストだが、リックの過去も知っていて、リックとイルザにとって因縁の曲「時の過ぎ行くままに」を弾いてドラマの盛り上げ役もつとめるなど、なかなかいい味出している。他にもいろいろ出ているようだけど、やはりこの俳優さんもこの一本が代表作となってるようで。(2018/7/7)



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