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「恐怖の報酬」
Le Salaire De La Peur
1953年・フランス
○製作:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー○監督:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー○撮影:アルマン・ティラール○音楽:ジョルジュ・オーリック





まだ白黒時代の作品である。が、そのサスペンス描写のすばらしさには脱帽のほかはない。ホラーでもなく推理性もなくアクションシーンもまったく存在しないが、間違いなくサスペンス映画史上の名作である。かなり後にアメリカでリメイク(ウィリアム=フリードキン監督・ロイ=シャイダー主演)されていることもそれを証明している。
舞台は南米の産油国ベネズエラ。油田で爆発火災事故が起き、それを鎮火するには大量のニトログリセリン(もちろんダイナマイトの原料のアレ)を使用するしかない。しかし油田は険しい山道を超えた向こうにあり、そこまでニトロを運ぶのはまさに命がけの仕事。莫大な「恐怖の報酬」を目当てに四人の男達が二台のトラックにニトロをつんで油田へと向かう…といったストーリー。

この映画の見所はなんといっても次々と難関が待ち受ける山道でのニトロ輸送。とにかくこれでもかこれでもかとピンチが四人を襲ってくる。一難去ってまた一難という奴で、昔ルーカスやスピルバーグが熱狂して見たという「クリフハンガー」映画の流れを汲んでいるとも言えそうだ。おまけに相手はちょっとでもショックを与えたらたちまち大爆発してしまう大量のニトロ。観ている方も思わず冷や汗のシーンの連続だ。銃撃シーンなぞ目じゃない、まさに「恐怖」だ。もちろん撮影に本物のニトロを使っているわけはないが、演出に説得力があって、本当に息を飲んで見入ってしまうはずだ。

しかし映画の展開は意外に遅い。四人が決死行に出発するのは映画開始の1時間後である。それまでの映画前半はもっぱら貧困にあえぐ男達の日常描写をたんたんとやっているのだ。恋人とのパリ行きを夢み、パリ地下鉄の切符をお守りにしているマリオ。本当は気弱なくせにヤクザのアンちゃんを気取るジョー。真面目に働いて金をためていたのに肺を患い死を宣告される男。他にも様々な苦しい人生を社会の底辺で生きる人々がじっくりと描写されていく。

これは結局のところ社会派映画のノリなんである。そんな極貧から脱しようと志願した四人が命をかけて悪路と戦っていく。この泥臭い力強さが白黒ということもあって強烈な印象を残してくれる。そしてその中で露わになりぶつかりあう各人の本性。彼らは時には憎み合い、時には力を合わせながら一つの目的へと突き進んでいく。そして・・・衝撃の結末。

未見の人のために詳しくは書けませんけどヨーロッパ系の映画はああいう展開が多いんだよなぁ。(98/6/8、2004/2/1に一部改訂)

 

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