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「死刑台のエレベーター」
Ascenseur pour l'échafaud
1958年・フランス
○監督:ルイ=マル○脚本:ロジェ=ニミエ/ルイ=マル○撮影:アンリ=ドカエ○音楽:マイルス=デイヴィス○原作:ノエル=カレフ
ジャンヌ=モロー(フロランス)、モーリス=ロネ(ジュリアン)、ジョルジュ=プージュリー(ルイ)、ヨリ=ベルダン(ベロニク)、リノ=ヴァンチュラ(シェリエ警部)ほか


 

 ずいぶん前に一度見たきりで(NHK衛星の企画「黒澤明が選ぶ100本」の一つじゃなかったかな…?)、今回BSでやってたので久々に見た。だから二度目の鑑賞なのだが、ストーリーをあらかた忘れていてちょうどよかったような(笑)。しかし自分の記憶力に自信を失ってきたなぁ…。最初に見た時、その先の読めない展開を大いに面白がって見た気がするのだが、完全犯罪が思わぬところからどんどん崩れ、もともと無関係のカップルが勝手に事件を起こしてしまう、といったところだけ覚えていて、あとはすっかり忘れていた。そんなこともあって新鮮に見られたところがある一方でどうなるか分かっちゃってるところもあるという、かなり中途半端な鑑賞状態に。おかげで以前あんなに面白かったのに、なんで今度はそれほどでもないんだろう、と考えこんだりもした。先の読めない展開そのものが面白い映画だけに二度見るものではないのかもなぁ。

 映画冒頭は、いきなり二人の男女が電話で愛をささやき合ってる場面から始まる。おいおい分かってくるのだが、この二人は不倫の愛人関係で、女のフロランス(演:ジャンヌ=モロー)は軍事産業の社長夫人、男のジュリアン=ダベルニエ(演:モーリス=ロネ)はインドシナ戦争の英雄でこの会社の社員になっている。二人は社長を自殺に見せかけて殺害する計画を立てていた。ジュリアンは計画通りに巧みに自身のアリバイを作りつつ、社長を密室内でピストルで殺害。自殺に見せかける工作もちゃんとして、間一髪のところで自室に戻って完全犯罪は成功したかに見えた。ところが現場を立ち去る寸前、工作に使ったロープをそのままにしていたことに気付いたジュリアンは慌てて会社に戻るが、そこから次々と不運が重なり、話は思わぬ展開をたどることになる。

 最初の方まで見てると、推理物でいう「倒叙形式」になっていて、犯人を主人公にしてその犯行に至る動向が描かれてゆき、完璧に見えた犯行にほんのちょっとしたうっかりミスが…なんてあたりは「刑事コロンボ」風味だ。あとでコロンボっぽい刑事も登場するんだけど、物語はこのあと誤算の連続。ジュリアンは電気を止められたエレベーターの中に閉じ込められ一夜を過ごすことになってしまう。おまけに彼が慌ててキーもそのままに路上に置いていた車も若いカップルに乗り逃げされてしまい、それをチラリと目撃としてジュリアンに逃げられたかもと焦るフロランスは夜の街を延々と彷徨い歩く。
 そして若いカップルが通りすがりのモーテルで思わぬ事件を起こしてしまったことから、ジュリアンにはそっちの嫌疑がかかってしまうというややこしいことになる。事件を起こしてしまったカップルはヤケになって心中を企て、社長はようやく「自殺」死体となって発見され、なんだか思惑は外れたけどどうにかうまくいきそうだと考えたフロランスは…と、こう書いててもややこしいばかりなのだが、とにかく二転三転、将棋倒しみたいに展開していくストーリーが面白い。ドタバタと予想外の方向にばかり転がって行くかに思えた話が、ラストにきっちり収束するのも見事で、こういう幕切れのうまさはヨーロッパ製サスペンスらしいところだ。

 監督のルイ=マルは製作当時まだ25歳!というからビックリ。主演のジャンヌ=モローモーリス=ロネも30歳前後、若いカップルの二人組もまだ18歳という、そろいもそろって若々しい顔ぶれだった。今回鑑賞後に調べて初めて気付き、ちょっとびっくりしたのだが、若いカップルの男のほう、手癖の悪いチンピラを演じたジョルジュ=プージュリーは、あの名作「禁じられた遊び」でミシェル少年を演じた名子役(当時11歳)である。彼がすでに2000年に60歳の若さで他界していたことにも驚かされたが。花屋の店員ベロニク役の女の子もなかなか可愛く、印象に残るのだが、こちらはその後もいろいろ出てるのは分かったけど特にどうという話はないみたい。
 語り草になっているジャズBGMを即興で演奏したというマイルス=デイヴィスも当時30歳ぐらいで、ホントに若いパワーでこの変わり種の映画を勢いで作っちゃったんだろうなぁ、と言う気がする。証拠はないけど、撮影の様子からしてもかなり低予算なのではないかなぁ。

 フランス映画界ではこのあと「ヌーベルヴァーグ(新しい波)」と呼ばれる動きが起こり、実験的な映画や変わり種の映画が次々と作られ世界的にも影響を与えることになるのだけど、この「死刑台のエレベーター」はまだ「ヌーベルヴァーグ」なんてものが認識される以前の段階の作品だが、そのルーツとも位置づけられている。その内容の斬新さからそう呼ばれるのだと思うけど、まず基本的にこの映画、推理物、サスペンス映画として上等な娯楽作品なのだ。
 戦争の英雄になりすましたルイが、アルジェリアやインドシナといった、第二次大戦後にフランスが植民地を失っていく戦争のことをベラベラと話す場面は、さりげなくこの時代のフランスの若者たちの鬱屈を代弁しているようでもあり、後年のアメリカのベトナム後遺症映画と通ずるところもあって、ここにも「時代」を感じさせる。(2012/7/12)



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