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「新幹線大爆破」

1975・東映
○監督:佐藤純弥○脚本:小野竜ノ助〇撮影:飯村雅彦〇音楽:青山八郎〇企画:天尾完次/坂上順
高倉健(沖田哲男)、宇津井健(倉持司令室長)、千葉真一(青木運転士)、山本圭(古賀勝)、織田あきら(大城浩)ほか




 「ひかり109号に爆弾を仕掛けた」との脅迫電話が国鉄にかかった。犯人によれば新幹線の速度を時速80q以下に落とすと爆発する仕掛けだという。犯人の予告通り、同じ爆弾を仕掛けた北海道の貨物列車は爆発した!身代金をめぐる犯人と警察の攻防、次々と襲いかかる難問に当たっていく運転士と司令室。新幹線は止まれないまま、博多目指して疾走を続ける…。

日本映画における「鉄道サスペンス」でこの映画の右に出るものはないんじゃなかろうか。どうも一般に出ている評論家らによる「推理サスペンス映画」ランキングではあまり好位置につけていない。なんかのベスト10に出てると思ったら「特撮映画部門」だったもんな。未見の方のためになんで「特撮映画」なのか説明すると、実はこの映画、テーマがテーマなもんで当時の国鉄の協力が得られず、新幹線の映るカットの多くにミニチュア特撮を用いているのだ。しかしこれがよく見ないと分からないほどに精巧なのだ。浜松駅で間一髪対向車とすれ違うシーンがあるが、実際に浜松駅でロケしたかと思うほどの迫力がある。また司令室・運転室・客車内など美術セットも見事でリアリティがあった。

さて、この映画の真の魅力はそんな鉄道描写のリアリティばかりではない。とにかく脚本が良くできている。「80q以下に落とすと爆発する爆弾」というアイデアには脱帽の他はない。近年の「スピード」がこのアイデアを完璧にパクッた(としか思えん)ことにもその非凡さが現れている。この抜群のアイデアを中心に、大金を奪おうとする犯人達と刑事達の息詰まる攻防戦、列車で起こる様々な問題に対処していく国鉄職員達の苦闘、パニックに陥る乗客達などがカットバックで描き込まれ、もの凄い密度のドラマを形成している。とにかく犯人側が次々と仕掛ける現金奪取作戦が緻密で見応えがある。

そしてさらに、ここがまたこの映画の独特の魅力なのだが、単なるサスペンス描写に終始することなく、事件にしっかりとした社会的背景を持たせている。なぜ犯人達はこの犯罪に至ったのか?という動機面をじっくりと描き、この絵空事のような大事件にキチンとした現実味を与えているのだ。この辺の描写は「不幸を背中に背負ったような」高倉健の独壇場である(笑)。
さらに、犯人に迫る捜査側のやり口や、人命より工業地帯の安全を図る政治家など、に新幹線司令室の室長(宇津井健)が激怒するシーンも必見だ。総じて「社会派パニック犯罪ドラマ」っていうところなのかな。

僕が「鉄道映画」と勝手に呼んでいるジャンルがある。そのほとんどが列車という限定された空間を舞台に繰り広げられる、いわば「密室劇」だ。これの名作はホントに数多い(そのほとんどが推理系であるわけだが)。この「新幹線大爆破」の凄いところは「密室劇」部分と、その周囲に広がる国鉄・警察・政府から、現金授受の舞台となる山奥や都心、犯罪の出発点となる倒産した町工場まで広大に広がる「パノラマ劇」部分が見事に融合されている点だと思う。ちょっとサスペンス映画にしては湿っぽくお涙頂戴型になる部分もなくはないが、その辺りは「日本映画」らしいところ、として受け止めた方が良いのかも知れない。(98/9/7)



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