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「さらば友よ」
Adieu L'ami(Farewell,Friend)
1968,フランス
○製作:セルジュ・シルベルマン○監督:ジャン・エルマン○脚本:セバスチャン・ジャプリゾ/ジャン・エルマン○撮影:ジャン・ジャック・タルベス○音楽:フランソワ・ド・ルーベ
アラン・ドロン(バラン)チャールズ・ブロンソン(プロップ)オルガ・ジョルジュ・ピコ(イザベラ)ブリジッド・フォッセー(ドミニク)ほか


 

 長らく「なぜか名前だけは聞いたことがある」という映画だった。どういう映画なのかは見るまでさっぱり知らなかったが。
 見た後で確認したが、名前を知っていた理由は二つある。手塚治虫の「ブラック・ジャック」の一話「白い正義」の中で、ブラック・ジャックを脅迫するテロリストのリーダーがチャールズ・ブロンソンそっくりに描かれていて、ラストで運び出される時に「SARABATOMOYO...」とローマ字でこっそりつぶやいているのだ。どうもこの手塚のイタズラで知らず知らずタイトルを覚えてしまったらしい。
 もう一つの理由が、アニメ「ルパン三世」の第1シリーズの製作裏話で当時のスタッフ(初期演出の大隅正秋だったかな?)が、ルパン三世と次元大介の関係を「さらば友よ」のラストシーンのように、と意図していたと何かで読んだためだ。見ず知らずの他人のふりをしながらすれ違いざまにドロンがブロンソンにサッとマッチの火を差し出す、あの名シーンのような、という話なのだ。どうも「ルパン三世」の「脱獄のチャンスは一度」で変装した次元がルパンにタバコを差し出すあのシーンはこれが元ネタということなのだ。

 そんなわけで、NHK衛星映画劇場の昼の時間帯にこの「さらば友よ」をひょこりやっていたので、録画して鑑賞してみた。1968年のフランス映画だが、スタッフ・キャストロールもセリフも全て英語。ブロンソンが出ているせいなんだろうけど、もしかするとフランス人俳優はフランス語で演じつつ吹き変えたのかもしれない。
 物語はアルジェリア戦争から引き上げて来たフランス軍がマルセイユに上陸するところから始まる。アルジェリアはフランスの元植民地で1950年代からの壮絶な独立戦争の末に60年代初頭に独立した(この経緯は映画「アルジェの戦い」で見たことがある)もので、この映画制作当時はかなり生々しい記憶だったと思われる。映画中では「ベトナムではディエンビエンフーで…」というセリフもあり、フランスの「敗戦気分」が背景にある映画と見ることもできる。アラン・ドロン演じる主人公の厭世的でけだるげな雰囲気にもそれが感じられる(80年代アメリカのベトナム戦争映画に通じるかもしれない)。

 ただ物語自体はミステリー、サスペンス映画の趣きになっている。アラン・ドロン演じる軍医バランは、戦場で誤って殺してしまった親友の女イザベラから依頼され、あるビルの地下金庫を開こうとする。それにブロンソン演じる外人部隊のアメリカ人プロップが勝手に協力してきて…というのが主軸なのだが、前半は顔を合わせるたびにドロンとブロンソンが殴り合いをしているという妙な展開。バランが地下金庫の暗証番号を調べようと隠しカメラを置いたり、番号をしらみつぶしに試していくくだりは分かりやすいのだが、プロップのほうの何やらよからぬ連中と女をヌードにして駐車場のターンテーブルの上に乗せたりする部分は何がどうなってるのかわかりにくい。バランとプロップ、そしてイザベラと「アウステルリッツ」という姓をもつドミニク(「禁じられた遊び」の名子役!)の四人の関係も一回見ただけではなんだかよく分からず、もう一回見返してみなければならなかった(それでもよく分からない部分が残る)。

 中盤になってようやく話のテンポが上がり、バランとプロップがお互いに意地悪をしながら金庫開けに奮闘、金庫を開けるのに成功するが中身はカラッポ、おまけに不運ななりゆきで金庫室内に閉じ込められてしまったバランとプロップが上半身裸の女性観客向けサービスつき(笑)で必死に脱出を試みるあたりから見る側も話に引き込まれてゆく。絶体絶命の場面からようやく脱出してみると今度は「強盗殺人」の容疑までかぶせられてしまい、二人はそれぞれ逃亡。「お互い赤の他人だぞ」と約束し、その別れ際にブロンソンが口にするのがタイトルの「さらば友よ」だ。そして物語は意外な方向へと突き進んでいくことになるんだが、ベースラインはあんなに殴り合いや意地悪をしあっていた二人の男の友情物語へとなっていき、これまた意外な展開。
 クールに構えているドロンよりもブロンソンの渋さ、カッコよさの方が明らかに印象に残り、彼にとってはかなり美味しい役となった。ブロンソンが酒やコーヒーでいっぱいに満たしたコップにコインを五枚沈めていく芸が何度も出てくるのだが、これってトリックなしなんだろうねぇ?成功するまでNG出しまくったんじゃあるまいかと。

 ちょっとネタばれに絡む歴史ネタを。フランス人には説明の必要はないんだろうけど、日本人にはちょっと予備知識が必要と思えるのが「アウステルリッツ」という姓の女性のあだ名が「ワーテルロー」であり、それが金庫の暗証番号のヒントになっていたというくだりだ。「アウステルリッツ」とはナポレオンがオーストリア・ロシア両国相手に大勝利を収めた「勝ち戦」の代名詞であり、「ワーテルロー」はその逆でナポレオンが最後の敗北をして完全に失脚することになった「負け戦」の代名詞。フランスでは「アウステルリッツかワーテルローか」という言い回しもあるほどだ。

 ドロンとブロンソンはその後三船敏郎も交えて異色西部劇「レッド・サン」でも共演している。そっちではブロンソンと三船の関係の方がこの映画の雰囲気だったけど。(2010/10/23)



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