「T.R.Y.」 2003年・「T.R.Y.」パートナーズ |
○監督:大森一樹○脚本:成島出○原作:井上尚登 |
織田裕二(伊沢修)渡辺謙(東正信)黒木瞳(喜春)シャオ=ビン(関飛虎)ソン=チャンミン(パク=チャンイク)ほか |
なんとなく気にはなっていたけど劇場公開時に見てなかった、そして忘れかけた頃にレンタル店にDVDが置かれていたので一週間レンタルで借りてみた、というパターンで鑑賞した。この手のパターンは結構多いのだが、その多くが「劇場まで見に行かなくて良かった」と思ってしまうような出来であるのも事実。残念ながら本作もその例の一つとなっている。劇場に足を運ばない理由は時間とか金銭とかいろいろとあるけど、やっぱり「そこまでしなくても…」と思わせる「におい」が発せられてるからでもあるわけで、そうした勘はそうそう外れないものなのだ。 本作「T.R.Y.」(トライ)は井上尚登の小説が原作。未読だが映画化されたぐらいだから傑作のベストセラー小説ではあるのだろう。20世紀初頭の魔都・上海を舞台に日本人詐欺師が活躍するという、設定だけでもかなり惹かれるものがある。 そして監督は大森一樹。僕個人の中では初体験にして最高の怪獣映画となっている「ゴジラVSキングギドラ」の脚本監督として名前が記憶されている人だが、「ゴジラ」シリーズから離れてからイマイチ当たりがない監督という感もある。ジャンルを問わずそつなく仕事をこなしちゃう人、という印象もあるのだが… そして主演は織田裕二。なんだかんだ言ってもこの映画の最大の売りが彼であることは否定できないだろう。「踊る大捜査線」「ホワイトアウト」とヒット作に主演して、「看板俳優」として劇場に客が呼べる今や日本では珍しくなった「娯楽映画スター」である(そういえばプライバシー面がほとんど出てこないという点も古風な映画スターと似通う)。それだけに企画は選ぶようで、この「T.R.Y.」は彼としても結構「いける!」と思った企画なんだろう。 先述のようにこの映画の舞台は20世紀初頭の上海。列強各国の租界が作られて各国の中国大陸進出の陰謀がうごめき、またその陰で貧困にあえぐ中国民衆があり、清朝を打倒しようとする革命運動も盛んとなっていた。そういうところだから素材に事欠かず、過去にも上海を舞台にした映画は少なからず製作されている。 この映画の主人公は日本人詐欺師の伊沢(織田裕二)。オープニングで彼は武器商人をまんまと騙し大金をせしめるのだが、そのために刑務所に入れられ、かつ刺客に襲われと大変なハメに。そこを救ってくれたのが革命活動家の関飛虎(シャオ=ビン)で、彼は伊沢の詐欺師の腕を見込んで革命組織のために日本軍の武器弾薬をだまし取ってほしいと依頼するのだ。「革命なんか興味はない」とうそぶく伊沢だったが、結局承知して東京に渡り、武器を管理するエリート軍人の東(渡辺謙)を詐欺にかけるべく、工作を開始する… …といった話が基本線。原作を読んでいないので映画だけからの印象だが、主役の伊沢=織田裕二が革命組織がそんな大事な話を見込むほど凄い詐欺師にはどうしても見えないのでストーリーに没入しにくい。詐欺師にしてはあからさまに怪しい奴だし(笑)、軽薄な印象がありすぎる。本人、それなりに頑張ってるんだろうけど、あからさまに「20世紀初頭にタイムスリップしてきた現代っ子日本青年」にしか見えないのも痛い。時代考証を厳密に細かくやれとは言いたくないが、この映画の織田裕二はもう少し時代にとけ込ませるべきだったはず。あと前半では現代っ子風に「革命なんか興味はない」と白け世代的に振る舞う伊沢がなぜ革命に協力的なのか見ていて不自然に感じるんだけど、これは一応後半でフォローはされる。まぁ「やっぱりそうか」ってな話なんだけど。 詐欺師映画といえばなんといっても「スティング」という大傑作があり、事実上唯一最高峰、孤高の一本となっちゃっている。あれ見ちゃえば誰でも自分もこんなの作りたいと思っちゃうから「スティングもどき」を狙った映画も少なくないが、その大半は失敗している(そもそも「スティング」の同じ脚本家による「スティング2」も大失敗に終わっている)。つくづく痛快詐欺師映画というのは難しいものなのだな…と思っているのだが、本作は日本映画としては果敢にこのジャンルに挑んでみた作品ではあるのだ。そして結局失敗してるんだけど。 これまた原作は未読なので映画のみの話をするけど、やはり映像で限られた時間内で詐欺(観客すらも騙す)を描くのは困難だということ。聞くところでは原作でもかなり複雑な工作が描かれるらしいのだが、映画ではそこをなるべく簡略化して観客にわかりやすくしようとしたように思える。それはそれで必要なことなのだけど、出来上がった映画自体はどうもすっくりしない、詐欺師主人公ならではのスカッとした快感もない、モヤモヤしたものになってしまった。騙される側であり、珍しく悪役である渡辺謙がなまじカッコよく貫禄十分なだけに、その鼻をあかすべき伊沢達の詐欺活動がスンナリ楽しめなかった気がする。 話の展開も東京と上海を往復し、詐欺活動のかたわらで伊沢を狙う刺客がしつっこく追いかけてきたりと目まぐるしい。このしつっこい刺客の襲撃アクションがかったるい陰謀劇のアクセントになるはずなんだろうけど、むしろ話の腰を折るように唐突に襲ってくる上に毎度大したことにならないので見終わってみるとほとんど無意味になっちゃっている。最後の最後の群衆シーンや機関車暴走、大爆発までつく大がかりなクライマックスは日本国内ではなかなか撮れない意欲的なものだったとは思うけど、なんかとってつけたような感が否めなかった。「ここで終わっとけばいいのに余計なことを」と思うシーンがこのクライマックスを含めて多々あり、脚本の練りこみが足りないのか現場が混乱したのか…と思ってしまうところ。 せめて弁護(?)するなら「狙いは面白かったのに、いろいろと惜しい映画」というところかな。こういうのはなまじ面白い原作があるだけに映画にするのが難しかった、というパターンだったかもしれない。(2004/11/10) |