検証!PC−FX論

○その二・ソフト論○

目次
序論
媒体
FXソフト各ジャンルの実態
アクションゲーム
アドベンチャーゲーム
シミュレーションゲーム
シューティングゲーム
スポーツゲーム
テーブルゲーム
パズル
バラエティ
ボードゲーム
ロールプレイングゲーム

消えていったソフト達
ソフト論総括

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★ご注意★本文は1997年夏ごろ執筆されたものです。
◎序論

ここではPC−FXのソフトについて論じる。ただし「ソフト論」と言ってもいわゆる「ゲーム評」ではない(これは別のコーナーに回している)。ここでは個々のゲームの善し悪しを論じるのではなく、「FXはどのようなソフトを提供してきたか?」「FXのソフト面の可能性は?」といった、FXソフト全体について論じている。まあ一部に「ゲーム評」じみた表現が出てくるのはやむを得ないが・・・。

◎媒体

言うまでもなく、PC−FXのソフトの媒体はCD−ROMのみである。FXの兄貴分であるPCエンジンから採用されたこの媒体は、540Mバイトの大容量を生かして音声や映像のゲーム内における利用が可能である。また、カセットに比べ増産が容易なので売り上げをにらんでの再販が可能で、経済的でもある。それやこれやで1994年に世に出たゲームマシンは、全てが当然のようにCD−ROM媒体を採用した。当初使い切れるかどうかなどと言われていたCDの大容量も、最近ではゲームのデータが増大し(ほとんど音声と映像に使っている訳だが)、CD二枚組三枚組も珍しくない状況になっている。FXでも「ブルーシカゴブルース」「ボイスパラダイス」「ラスト・インペリアル・プリンス」などが二枚組である。しかし出来れば一枚でまとめてもらいたいものだ。かつてPCエンジンの「天外魔境」など、一枚ながらもの凄い超大作であったのだから。

ところで、発売当初のFXソフトには外見上の大きな特徴が存在した。そう、パッケージが巨大だったのである。大判の辞典ぐらいのサイズがあり、本当にCDだけが入っているのか、首を傾げた人も多かったろう。これは明らかにパソコンゲームのパッケージを意識したデザインである。内部は二重構造になっており、二枚までCDを収められる。それでもかなり広い空間が空くため、マニュアル(当然、大きい)の他にクッションが入れてある。

この巨大なパッケージにした理由は、一応公式発表では「マニュアルの他におまけ商品を入れるため」という事になっている。結局のところこのサイズのおかげで収納できたアイテムは「麻雀悟空・天竺」に同梱された「秘伝の書」ぐらいである。余談だが、私なぞは数の少ないFXソフトが売り場の面積を少しでも占領して存在を目立たせるために、このパッケージにしたのではないかと邪推していた(笑)。

結局、FXの巨大パッケージはユーザーの不評が多く(支持者もいたが、いかんせん日本の住宅事情を考えると場所を取りすぎた)、1996年6月に「虚空漂流ニルゲンツ」から普通のCDケースに変更された(これが幸い大傑作であった。ちなみに当初は「バウンダリーゲート」がCDケース第一号に予定されていたが同ソフトの発売が延期されたため、「ニルゲンツ」がスライド先発となったのである)。が、なぜかその後に発売された「天地無用!魎皇鬼」は従来のパッケージで、これがこのサイズの最後の一本となっている。


◎FXソフト各ジャンルの実態

アクションゲーム

アクションゲームはいわゆるビデオゲームの中核をなすジャンルである。異論のある向きもいるだろうが、基本的に子供が最初に手を出すゲームはほぼ間違いなくアクションゲームである。アクションゲームは単純で、もっとも人間の本能にフィットする。「スーパーマリオ」が依然として世界的なヒットを続けているのも、このジャンルが老若男女、古今東西を越える普遍性を持っているからであろう(ちと大げさか)。

さて、肝心のFXではどのようなアクションゲームがあっただろう。これが残念ながらすこし寂しい状況である。と、いうのもFXの機能は派手なアクションを表現することがなかなか難しいからである。

本体と同時発売されたソフトに格闘アクション「バトルヒート」がある。これはアニメーションでさまざまな技、状況のカットを大量に作っておき、コマンド入力に反応してこれらのカットを瞬時に切り替えつつ表示し、事実上リアルタイムの格闘に近い状況を生み出す、というFXにしか出来ない画期的な「アニメ格闘」であった。この発想は開発元ハドソンがもっとも力を入れており、FX発売前に「FXファイター」などというフルポリゴン格闘ゲームもサンプルとして紹介されていた。これは高性能なコンピュータで描いたCG映像を「バトルヒート」のノリで動かしたものである。

これらは見た目には「バーチャファイター」をも凌駕する「映像」を表現できるわけだが、実際にプレイするとやはり「映像」であることが問題点となった。いくら瞬時に表示すると言ってもそこは映像、同じ場面を何度も見せられるし、だいいち敵味方の視点を同一画面で切り替えつつ処理しているため「戦っている」感覚に乏しい。またゲーム性自体も乏しく、いくら見た目は派手でも熱中出来るものではなかった。その後ハドソンは「天外魔境・電脳絡操格闘伝」において「バトルヒート」のようなゲーム性の乏しさはある程度解消したが、今度はかえってリアルタイム性を損ねてしまった。結局ハドソンは以後この手のソフトは出していない。考えてみればこの種のゲームを作るためには、あらかじめ大量のアニメを制作しなければならないわけで(おそらく30分以上ぐらいにはなるのだろう)、はっきり言って経済的ではない。なおプロレスゲーム「クィーン・オブ・クィーンズ」(開発はヒューネックス)はこのシステムを実写で応用している。

では「アニメ格闘」以外のアクションはどうだろう?やはり筆頭に上がるのはハドソンの「ZENKI」である。これは別に目新しい所はなく、非常に単純なアクションであるが、当時としては演出面ではFXの限界に迫った作品である。PCエンジンなどでは到底不可能な巨大ボス、列車、飛行機といった大道具、背景の映像的表現など、誉めるべき点が多い。専門的なことはよく分からないが、スプライト(ハード論で触れたがはっきり言ってFXは貧弱)の他に動画機能を使用してこれらの演出を可能にしているらしい。

その他は…ということになると、現在のところ後は「チップちゃんキィーック!」しか存在しない。今後の予定でも「ルル・リラ・ルラ」なるソフトが予定されているのみ。どうもソフトメーカーもこのジャンルをFXで出すことには二の足を踏むようだ(ユーザー側の問題もあるけどね)。

アドベンチャーゲーム

現在ではかなり定義の難しいジャンルである。当初アドベンチャーゲーム(以下AVG)といえば紙芝居的な表現でゲームブックの延長線上にあった。しかし最近はこれに様々な要素が加わり、AVGといいながらシューティングやRPG、アクションの要素を持つものも少なくない。一応ここでは「ストーリー性が強く、ストーリーにプレーヤーが参加できるもの、ただし経験値等の要素があるものはRPGとみなす」という方針でいきたい。

まずFX本体同時発売ソフトに「チームイノセント」があった。これは3D探索AVGと呼ぶべき内容で、ポリゴンチップの無いFXにおける3Dゲームの可能性を示した作品であった。謎解き、アクションといった要素が盛り込まれ、ストーリーもハイレベルであった(一部ではあの「バイオハザード」はこれをパクったと噂されている)。リアルタイムポリゴンでは不可能なハイレベルCGも美しく、アニメも効果的に使用されていた。残念ながら以後この手のシステムのゲームは作られていない。やはり金がかかりすぎるのがネックのようだ。

その他では映像を多量に使用するAVGとして、実写系の「リターン・トゥ・ゾーク」「ブルーシカゴブルース」、アニメ系の「キューティーハニー」「銀河お嬢様伝説ユナ」「天地無用!」「ボイスパラダイス」がある。これらはいたってオーソドックスなAVGと言っていい。一方でAVGに分類するのが難しいソフトが「お嬢様捜査網」。これは一部雑誌などではアクションに分類しているが、実のところ指先の器用さが問われる訳でもなく、謎解き要素が強いのでAVGに分類出来ると思う。

やはり分類が難しいと思ったが敢えて「虚空漂流ニルゲンツ」をAVGに入れよう。この作品は3Dシューティングがメインだがストーリー性が強烈で、登場人物との会話が印象的である(金を稼いで装備を整えるあたりはRPG)。ほとんど一本道のストーリーだが特定の時間によって見られるイベントがあったりするのでAVGに入れて差し支えは無いだろう。はっきり言って知名度の低さ(オリジナルだからしょうがないけど)から発売当初の売り上げは芳しくなかったらしいが、プレイした人の多くが絶賛した名作である。アニメは空戦場面ではワークスステーションで作成したCGを、AVG画面ではセルアニメを多用している。FX独自の機能をもっとも使いこなした作品といえよう。

さて、AVGと言えば避けて通れないのが「18禁アダルトソフト」の存在である(別に避ける必要はないが)。全てパソコンからの移植で、当初FXがもっとも得意とするのではと言われていたジャンルである。結局フタを開けてみればそういったソフトは、大御所エルフを筆頭として意外にもSSへと流れてしまった。要するに普及度が問題なわけで、あわてたセガが18禁ソフト禁止令(笑)を出したにもかかわらず、流れは依然止まっていない。近頃のSSはすっかりこれに染まってしまった訳だが、FXは18禁ソフトを完全にOKしているにもかかわらず参入メーカーは少ない。唯一がんばっているのがカクテルソフトで、「きゃんきゃんバニーエクストラ」「Piaキャロットへようこそ!」の二本がある。特に後者は発表から発売までの期間が短く、出来も良かったためかなりのヒットとなった。一方でNECアベニューの「同級生2」も18禁となっており、初回売り上げではFX史上最高を記録している。しかしいかんせん開発に時間がかかりすぎて、インパクトには欠けていた。NECHEとしては今後も18禁ソフトを続けるようなことを表明しているが、最近コンシューマーの表現規制が強まる傾向にあり、果たしてこのまま続けられるか注目したいところである。

シミュレーションゲーム

これもまた最近は多様なソフトが出現し、分類が難しくなったジャンルである。本来シミュレーションとは模擬実験を指し、ゲームでは戦争の戦術を将棋のように競うものを指した。しかし最近では育成シミュレーションが隆盛で、はやりの恋愛ものもこの流れを汲んでいる。基本的に何かを模擬的に体験するものであればシミュレーションと呼べるようである。一方で将棋的なゲームは現実を離れ、ファンタジー的要素を持ち込んだ「シミュレーションRPG」と呼ばれるジャンルを定着させた。ここではとりあえず、これら全てをまとめて「SLG」として扱う。

FX本体と同時に育成シュミレーション「卒業U」があった。同時発売3本の中ではもっとも知名度があったため一番売れ、その後も地道に売れて結局累計ではFXソフト中トップと噂されている。ただ評価のほうはあまり芳しくないようで、実際PCエンジン版とも大した違いを有していない。他に完全な育成ものとしては「りとるキャッツ」がある。

その後95年年末に、同じ育成シミュレーションに分類される「アンジェリークSpecial」がいきなり登場した。「女性版ときメモ」などと言われる光栄開発の異色作だが、好評を博したようで、すぐに他機種に移植されはするものの、FXから始まるシリーズとして定着した。翌年末にはSLGの「2」を発売している。しかし最新作はRPGになってしまい、今後SLGに復帰するかは疑問である。同様に女性ユーザーをターゲットにした「アルバレアの乙女」も育成SLGである。

他に育成シミュレーションの要素を持つものとして「女神天国U」、または「ファイヤーウーマン纏組」がある。とくに「纏組」は一見「ときメモ」だがケンカなどオリジナルな工夫も多く、ユーザーの評価が高い。また一応AVGに分類されている「ロルフィー」も育成SLGの要素を含んでいる。それを言ったら「ルナティックドーン」もRPGというよりは育成ゲームに近いと言えないことはない。

将棋タイプの戦術SLGとして最初に発売されたのは「紺碧の艦隊」であった。パソコンからの移植だが、かなりパソコンライクな作りとなり、コンシューマーゲームとしてはシステムが練られていない観があった。その一方で、やはりパソコンから移植のSF戦術SLG「パワードール」は難易度は大幅に下がり、内容もかなりアレンジを加えられた、ほとんどオリジナルの作品であった。そのしばらく後に「デアラングリッサー」が発売された。こちらも他機種からの移植であるが、アニメや音声を加え、かなりハイレベルなソフトに仕上がっていた。

「デアラングリッサー」のようなソフトを「シミュレーションRPG」と呼ぶが、FXではこのジャンルで他に「ファーランドストーリー」「スパークリングフェザー」がある。前者はパソコンの人気作にアレンジを加えて移植したもので、難易度は低く、アニメやセリフ(どちらもなかなか豪華)によるストーリー展開に重点が置かれている。後者はFXオリジナルで、やはりストーリーを重視。しかし各キャラクターがプレーヤーの指示を受けて独自に行動を決定するという独特のシステムで、各キャラとのコミュニケーションが中心となっていた。またパソコンのアダルトソフトの移植となる「ドラゴンナイト4」もシリーズ初のシミュレーションRPGである。これもゲーム部分にかなりのアレンジがある。

こうしてみるとSLGは案外多い。最近でもこのジャンルで「こみっくろーど」なる漫画家育成ゲームも発売され、けっこう好評であった。

シューティングゲーム

このジャンルはビデオゲーム草創期から存在し、最近格闘アクションに押されてやや廃れてはいるが、依然根強いファンを持っている。PCエンジンは多くの名作シューティングを発売したが、残念ながらFXではつい最近発売された「ゼロイガー」の一本が存在するのみである。

そもそも強力なスプライト機能を持たないFXはシューティング、アクションと言った激しい動きを要求されるものが苦手である。これについてはあの立石流牙氏も「FXでは最も困難であろう」とシューティング企画を語っている。それを承知した上で「ゼロイガー」を見ると、この出来は驚異的とも言える。最近の3D表現を駆使した他機種のソフトに比べれば見た目の物足りなさは感じるが、ちらつきもほとんどない複雑な動き、派手な演出など、見るべき点が多い。今後の技術向上次第ではかなりのレベルのものが出来るのでは、期待させてくれる(PCエンジンでさえポリゴンシューティングを成功させたハドソンのスタッフに期待したいところだが)。

なお「ニルゲンツ」は戦闘場面が3Dシューティングである。しかし技を駆使して相手の機動力を奪っていくシステムのため、格闘アクションにノリが近い。実際技を出すとCGアニメが表示されるので、「バトルヒート」の改造版と言えなくもない。

スポーツゲーム

これもビデオゲームには欠かせない要素といえる。しかしこれまたFXでは少数派のジャンルである。

現在のところ野球の「パワーリーグ」、女子プロレスの「クィーン・オブ・クィーンズ」の二本が存在するのみである。残念ながらいずれも評価は高くない。「パワーリーグ」は一見ポリゴンゲームに対抗できるような表現を見せてくれるが、野球ゲームとして見ると問題点が多々ある。「クィーン〜」のほうは「バトルヒート」の実写版と言って良い。

今後このジャンルの予定としては二本のゴルフゲームが存在するが、開発が進められている様子はない。現在のFXユーザーの嗜好を考慮すると、あまりにも一般的なスポーツゲームの制作はちと辛いところかもしれない。

テーブルゲーム

麻雀に代表される、実際にテーブル上で行うゲームのビデオゲーム版である。FXには一応本格四人打ち麻雀「麻雀悟空」が存在する。それ以外ではいわゆる脱衣ものとして、麻雀の「スーパーリアル麻雀」、トランプの「ときめきカードパラダイス」の二本が存在する。どちらも勝てば女の子が脱ぐ、ただそれだけで、肝心のアニメが荒いのが辛いところ。

また、この分野に入れるべきか迷うが、パチンコゲームの長期シリーズ「パチ夫くん」もFXで出ている。

パズル

「テトリス」や「ぷよぷよ」など、このジャンルの名作はゲーム史上では多い。しかしFXでは「上海」が存在するのみである(それにしても「悟空」と「上海」はコンピュータと名の付くところ、どこにでも出現するようだ)。アクションである「チップちゃん」もパズル要素が強いのでこのジャンルに入れても良いような気もするが。なお、「ふしぎの国のアンジェリーク」にミニゲームとして落ちものパズルがある。さらにFXGAでは同梱ソフトにハドソン制作のポリゴン版「SAMEGAME(鮫亀)」が存在する。

バラエティ

FXでバラエティといえば「アニメフリーク」シリーズをおいて他にはない(笑)。FXの動画表示機能を生かし、TVアニメ並の画質で様々なコーナーを提供している。中でも「プライベート・アイ・ドル」などの連載オリジナルアニメは圧巻で、一枚に15分間も収録されている。またCD−ROMの機能を生かしたデータベース、特集など雑誌的な性格も持っている。声優関係にも力を入れているが、力関係からあまり大物のアニメの著作権を持ってこれないため、本物のアニメフリークがどれだけ飛びついているか疑問もある。それなりにFXを支えるシリーズとなっているようなので、今後も存続を望みたいところだ。

ボードゲーム

双六や人生ゲームに代表されるボードゲームをビデオゲームで表現したもの。面白いことにFXでは同じ95年10月にこのジャンルで二本のゲームが出ている。一本はシリーズ番外編とも言える「ふしぎの国のアンジェリーク」、もう一本はTVアニメをモチーフにした「赤ずきんチャチャ!」である。いずれも双六のノリでバラエティ番組みたいなものである。

ロールプレイングゲーム

プレーヤーが主人公となり、ファンタジー世界で役割を演じ、敵を倒して経験値を稼ぎ、成長して物語を進める。これがいわゆるロールプレイングゲーム(略称「RPG」。なんでも「ロールプレイングゲーム」という名前は某社が商標登録しているため他社は勝手に使えんのだそうな)の定義である。日本ではコンシューマーゲーム市場で最も人気のあるジャンルで、数百万本のヒットを出すお化けソフトも存在する。

FXでもこのジャンルを逃すはずはない。最初に出たのは「ルナティックドーン」である。パソコンのヒット作の移植だが、かなりFXオリジナルな仕上がりとなった。これはいわばRPGの原点に立ち返ったソフトで、広大な世界で何をするかはプレーヤーの勝手に任されている。地味と言えば地味だが、本来のRPGとは想像力を要するものなのである。

FX初期から「大作RPG」として掲げられてきたのが「ミラークルム」「ラスト・インペリアル・プリンス」の二本である。前者は至ってオーソドックスなRPG、後者は横スクロールのアクションRPGである。いずれもオープニングやイベント演出ではアニメを使用している。両者ともそこそこに売れ、仕上がりも決して悪くはないが、実のところ熱狂的支持を得た様子はない。アニメをまったく使用しなかったのが「バウンダリーゲート」で、絵画調の画面にダークな雰囲気を漂わせた、異色の3DダンジョンRPGであった。

現在のところFX最大の評価と支持を受け、SS移植に際しては激しい論争まで起こってしまったソフトと言えば、恋愛RPG「ブルーブレーカー」である。「ときメモ」の企画者である立石流牙氏が制作と言うこともあって事前にかなりの話題となり、一時は入手困難なほどのヒットとなった。実際出来も水準以上でオリジナリティも高く、FX中もっともはまれるソフトとなっている。

他に「ニルゲンツ」「同級生2」が「RPG」と肩書きにあるが、これは商売上の戦略であろう。結局FXではRPGは割合としては少なくもないが数は多いとは言えない。RPGは制作に多額の費用と長い月日が必要であり、FXのような狭い市場で出すのは、はっきり言って難しいところだ。今後の予定で「魔剣道」が予定されているが、そろそろ新タイトルを出さないと危険だろう。

最後に一つ。FXのRPGで最大の期待を担い、かつ最大の不安を与え続けているのがハドソンの超大作「天外魔境VNAMIDA」である。当初PCエンジンで発売の予定が95年3月にFXへの移行を発表。以後まったく情報が途絶え、「シナリオは上がった」という桝田省二氏のコメントがあったものの、ハドソンからの発表はいっさい無い。開発度も一時30%になるも10%にまた落ち込むなど謎の現象を起こしている。推測の域を出ないが、最近のFX市場の動向や、参入していなかったPSの予想外の躍進などで、ハドソンは「作りたくても作れない」状況に陥っているのではないだろうか。かなりのFXユーザーも半ばあきらめ気味だが、とにかく今はFXの生みの親であるハドソンが意地を見せてくれる事を期待するしかない(少なくとも他機種で出すのは自殺行為だ)。このソフトが次のコーナーに移行しないことを祈ろう(笑)。

消えていったソフト達

はっきり言って景気のいいコーナーではない。FXはそのマイナーさゆえに、いくつかの発売予定ソフトが消えてしまっている。ここではそれらを一括して扱ってみよう。

レース、麻雀(日本物産)
参入はしてたのに結局ソフトを出さなかった日本物産では「レースゲーム」(「F1サーカスFX」みたいな感じだったらしい。まあFXじゃ「リッジレーサー」とはいかんからなあ…)と「麻雀」(もちろん脱衣麻雀。18禁公認を利用して新人のアイドルを発掘し実写のゲームを作る気だったらしい)があったが、FXの売り上げを見るや、はやばやと姿を消した。

バーチャルインベーダー(NECHE)
名前から察するとタイトーと話をつけて、あの「インベーダー」の3D版を作る気だったらしいが詳細は不明。NECHEから発売予定だったがいつの間にか消えてしまった。

アドバンスド・ヴァリアブル・ジオFX(TGL)
多くの人が「えっ?」というタイトル。実は一度は発売予定に上がったのだが(確か95年8月)、次の月には無くなっていたため気がつかなかった人も多い。とりあえずTGLは「ファーランドストーリー」を出してはいるが…。

英雄志願(マイクロキャビン)
多くの人を今でも悔しがらせているタイトル。やはりさすがのマイクロキャビンも大作RPGをFXで出すのには二の足を踏んだようだ。結局このタイトルはPS、SSでの発売に変更され、代わりにFXでは急遽「ニルゲンツ」が制作された。こういうのを怪我の功名というのか…(ん?なんか違うか?)。

えーと、ここからは正式発表はなく、コメント等に出てきたものだけをとりあげます。

名も無きハドソンの作品群(ハドソン)
FX発売前にハドソンの技術本部長・安井一徳氏のコメントに出てくるもの(電撃PCエンジン、94年9月号)。一つは「某人気アーケードゲームの移植作」というもの。開発がすでに始まっていたらしいが、詳細は全く不明。他に「3DダンジョンタイプのRPG」なんてのもある。

シューティング(NECインターチャネル)
96年初頭の同社多部田氏のインタビューに出てくるもの。もっとも「作っている」というだけで「商品化する」とは一言も言ってない。

ソフト論総括

以上でFXのソフト事情は網羅できたと思う(販売関係は別コーナーで)。総じて言えば、やはり数が少ない。あの3DOですら200以上のタイトルが存在していたのだから、多くの人がFXを見くびるのも無理はない。しかし現在50ばかりのFXのソフト群は質的には初期からかなり高い。一部にどうしようもないソフトが存在するにはするが、他機種の有名ソフトを凌ぐ傑作はいくつも挙げられる。問題なのは市場の小ささゆえに、これらのソフトが正当に評価されないことだ。

最近のゲーム市場は有名タイトルの続編やアーケードの移植作と言った、「名前を知っているソフト」が売れる傾向がある。これを私は「ユーザーの保守化」と呼んで憂慮している。確かに高い金額を払うのだから、ユーザーがハズレの少ない有名ソフトに走るのはある程度仕方がないのだが、この傾向が強まると斬新な傑作ソフトも「名前を知らない」ということで無視されてしまう。これをよく分かっているらしいのがSCEで、PSソフトは印象の強いCM(必ずしもゲーム内容は説明しない)を大量に流すことで「名前を知っているソフト」に作り上げられている。これが傑作の場合は良いが、とんでもない駄作も話題性一つで大ヒットソフトに化ける危険性も生じている。これまで「売れているソフト=傑作ソフト」という公式は絶対と言われていたが、最近は崩れ始めていると感じざるを得ない。それだけゲーム市場が成熟していると言えるが、それだけに危険も大きいのだ。空虚を抱えたまま肥大した市場が、いずれ必ず崩壊することは歴史が証明している。(17世紀オランダのチューリップ投資、近年の日本のバブル経済など。ゲーム史ではかつてアタリ・ショックなんてのもあった)。

ソフト総数は少ないものの、3DOのような崩壊も起こさず、それなりにFX市場が持ちこたえているのは、やはりソフトの力が大きかったと思う。ハード論で触れているが、FXはもともと普通のゲームが出来るように設計されたマシンではない。斬新なゲーム、特殊なゲームでこそその真価を発揮する。ソフトは人の力だから、FXソフトの開発者は並大抵の人ではつとまらないだろう。ゲーム業界に何か虚無的なものが広がりつつある今、今後のFXには、大量には売れなくても人々を「あっ!」と言わせるような斬新なソフトの開発を期待したいものだ。