格闘覇王伝説アルガノス
ジャンル:アクション
媒体:Super CD−ROM
発売元:インテック
発売日:1994年1月28日
価格:7800円
商品番号:IGCD-3007


外見◆格闘ブーム到来の中で…


 1990年代前半、ゲーム業界はすっかり「対戦格闘ゲームブーム」にわきたっていた。火付け役はなんといっても「ストII」である。さらにSNK「ネオジオ」の「餓狼伝説」「サムライスピリッツ」が大ヒット、このジャンルの人気に拍車をかけた。この流れは当然家庭用ゲーム機にも広がり、PCエンジンでも1993年に「ストリートファイターIIダッシュ」(’93)が発売されたのを皮切りに、アーケードカードによるネオジオ作品の移植や、パソコンから移植、あるいはオリジナルの格闘アクションが続々と送りだされた。こうした格闘ゲーム作品にはなかなかの傑作も見受けられるのだが、単に格闘ブームに便乗しようとして思いっきりコケてしまう作品も見られた。この「格闘覇王伝説アルガノス」(’94)は後者を絵にかいたような例である。そもそもタイトルからしてB級臭がプンプンしてくるではないか(笑)。

 発売元のインテックはアクション、SLGやプロ野球などジャンルを問わずPCエンジンでソフトを発売しているが、このソフトの開発自体はフィル・イン・カフェが担当している。フィル・イン・カフェは当時パソコンX68000やFMタウンズを中心にゲームを発売しており、PCエンジンにもインテックから発売される形でソフトをいくつか供給していた。フィル・イン・カフェといえばパソコンで美少女格闘を実現させヒットした「あすか120%」が代表作で、これものちに「あすか120%マキシマBURNING Fest. 」(’95)としてPCエンジンに自ら移植している。この「格闘覇王伝説アルガノス」はちょうど「あすか120%」パソコン版をリリースする直前の発売となっており、もしかするとフィル・イン・カフェにとってはこのソフト、「家庭用ゲーム機での格闘ゲーム開発の練習台」であったのかもしれない。

 正直このゲーム、かなりひどい出来なのであるが、これを練習台、ステップにして、あのPCエンジン版「あすか120%マキシマ」のかなりの出来栄えを見せてくれたのだとすれば、いくらか許せてくるような気も……するかな(笑)。


◆反応の鈍さにイライラ

 このゲームはどこからの移植でもなく、PCエンジンオリジナルの格闘ゲーム。世界観はややファンタジー系で、ストーリーモードで語られるところによると、どうやら悪の神がさまざまな世界から10人のファイターを集め、互いに戦わせるという設定になっているらしい。だがオープニングでちょこっとビジュアルシーンを入れただけで各キャラも面間でしゃべることはなく(ゲーム中のかけ声などはある)、 ひたすら文字で説明するだけなのでその世界観は今一つよく分からない。

 登場するキャラクターは、まぁ当時の格闘ゲーム市場全体がある程度そうだったが、どこかで見たような、聞いたようなキャラが多い。このゲームに関しては異世界異次元異種格闘技戦の趣があり、ファンタジー系剣士、和風サムライ、中華風デブ少年(名前がサモハン、とくれば)、ロボット刑事、女魔法使い…とまぁ一応幅広くそろえている。ノリとしては「ワールドヒーローズ」に近いかな…
 ストーリーモードでは10人のうち一人を選び、残り9人との対決を続けてゆく。試合の前と後に両者の顔が出て字幕でセリフのやりとりがかわされ、物語が進んで行くという趣向。いずれもなんだか難しく意味深っぽい会話をしているのだが、さっぱり話が読めてこないものが多い。

ゲーム画面 試合は先に2本勝利した方が勝ち、時間制限ありというおなじみのもの。キャラごとに背景となるステージが用意されているが、やっつけ仕事で描いたような一枚絵が、芝居の書割のごとくデンと背景にあるだけで特にこれといった飾り演出もない。プレイヤーキャラもさすがにアーケードカード専用のネオジオゲームのようなわけにはいかず、小さくて雑、動きのパターンも少ない。
 SCDだしまぁそれはしょうがないと思うのだが、困るのは当たり判定と処理速度。攻撃が妙に広い範囲に当たる作りになっているし、ごちゃごちゃと双方が動いているとどちらにダメージがあったのかよく分からない時が多い。また、プログラム処理に問題があるようで全体的にコマンドへの反応が鈍く、処理落ちのようにモッサリとした動きがプレイヤーをイラつかせる(とくに一部のデカキャラの動作が深刻に遅い)。こちらのパッド入力の問題もあるのかな、とも思ったのだが同じ条件で「スト2」なんかをやってみると問題なかったので、やっぱりこちらのゲームプログラムのパッド入力介入のあり方に問題があるんじゃないかという気がする。一部キャラに関しては通常攻撃を繰り返した方がよっぽど有効という気もした。

 格闘時代に対応して発売された6ボタンパッドにも対応しているが、キックとパンチの区別もないし、単に投げ技専用のボタンが割り振られるだけのことで、2ボタンでもさして困るものではない。2ボタンパッドの場合、Iボタンで小攻撃、IIボタンで大攻撃という単純な割り振りで、ほとんどの必殺技は方向キーとIIボタンの組み合わせで出るようになっている。各キャラには2〜3個の必殺技が設定されていて、入力コマンドは「↓斜→」系ばかりが多い。妙に複雑なコマンドを覚えなくてもどのキャラでも何か技が出せますよ、という作りでもあり、これはこれでアリだろう(「あすか120%」もそんなところがあった)。一部のキャラに入力が難しい技があるが、これはほとんど超必殺技のレベルで、それ一撃でほとんど即死のダメージを敵に与えちゃうものだ。
 通常攻撃でも必殺技でも命中最初の一撃のダメージはかなり小さめ。それを二撃、三撃と当てていくとダメージがどんどん大きくなる仕掛けになっているらしく、立て続けの攻撃がポイントになっているようだ。逆にウカウカしてると画面端に追い詰められて敵の連続攻撃を食らって一気に負けになることもありがち。


◆ なんとか遊べる…?

 格闘ゲームは特にキャラ操作の快適性が命だと思うのだが、とにかくこのゲームはその点で致命的。技入力はしにくい、動きはモタモタ・ズッシリ、攻撃・防御の因果関係がつかみにくい、と困ったことだらけ。おまけにキャラクターや技もおよそオリジナリティに欠けており、正直なところ「どうにか遊べる程度にはなったアマチュア作品」といったレベルだと感じる。下にある当時の各種評価も散々なものだ。そもそもSCDで格闘ゲームをやるのがムチャ、という声もありそうだが、同時期のSCD用オリジナル格闘ゲーム「フラッシュハイダーズ」(’93)が明らかに快作となったのに比べればやはり手抜き感が否めない。

 ストーリーモードで9人相手に勝ち抜くと、この試合を主催した「神」がラスボスとして出現する。これが光の玉に包まれて現れるほとんど無敵状態。必殺技も一切効かない。おまけにステージ全体が高速スクロールしているということらしく、後方(左方向)へ向かって強い慣性がかかっていて、敵に接近することすらままならない。そんな状態のまま稲妻攻撃を受けまくって死んでしまうことになる。
 もちろん勝てないわけではない。戦闘開始直後に前方ジャンプで接近が可能で、接触さえすれば(これも当たり判定が結構広い)通常攻撃で相手にダメージを与えることができる。何度もやってみたのだが、とにかく最初にその攻撃に成功すれば敵が形態を変え、時々こちらが接近して通常攻撃を連打するスキができる。うまくやると驚くほど圧勝できるのだが、とことん右方向へ方向キーを押し続けなければならないため、このボス戦だけで指を相当に痛めてしまった(汗)。しかしどうすれば敵に攻撃のスキができるのか、明確な因果関係がつかめず、勝ったところで釈然としない。
 ラスボスを倒すと、この悪の神によって封印されていた善の女神が出現、各キャラそれぞれの「望み」をかなえてくれ、エンディングになる。

 ちょっと珍しいんじゃないかと思ったのが、マニュアル表紙絵にもされ一応主役扱いのキャラらしい「ジーニアス」のストーリーだ。正義の側ではなく「悪」「陰」を背負ったえらく虚無的な主人公で、各キャラとの面間会話では善悪をめぐってえらく難しいやりとりをする。そしてその会話からすると、明らかに勝利後に相手にとどめを刺し、「殺して」いる。ほぼ同じ能力を持つ「善」「陽」のライバル・アーサー(あのアーサー王がモデル)やかつての恋人なんかも出てくるのだが、結局はみんな殺してるとしか思えないセリフなのだ。ま、予想はしていたがラストの「望み」で全員を蘇らせちゃったらしいけど。
 
 ストーリーモード以外にも「バトルモード」が用意されていて、マルチタップを使った人間同士の対戦も可能。個人的には対戦相手を選べる対CPU戦をつけてほしいところだったが、あくまでバトルは対人戦オンリー。謎なのはパッケージ裏に「最高4人まで参加可能な白熱の対戦プレイ!!」とうたっていながら、そのやり方がマニュアルに一切書かれていないこと。4人まで参加可能といってもタッグマッチ戦ができるわけでもなく、トーナメント戦でもやるしかないのだろうが、どうすればそれが出来るのか全く分からない。そういう機能をつけるつもりで宣伝文句に書いたけど実際には削除されたってことではないかなぁ。
 パッケージには他にも「一発逆転!タイミングが決め手の新システム『カウンター』!!」という宣伝文句も書いてあるのだが、これもマニュアル中に一切説明がない。相手が技を出してきた時にこちらが技を出すと相手の攻撃がキャンセルされこちらの攻撃が入ることがあるので、それを指しているのかとも思えるが、確信はない。

 オプションモードでは6ボタンパッドの割り当て変更や、難易度変更のほか、ゲーム中のBGMや効果音の鑑賞が可能。これとてさしていい出来ではないし数も少ないんだが…。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.400
2.900
3.250
3.300
3.750
2.750
19.305
第509位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★

電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
20
ウォルフ中村
35
ウキキ松崎
35
城イドム
50

ウキキ松崎評価(各項目5段階評価)
グラフィック
サウンド
操作快適度
ゲームバランス
オリジナリティ
コストパフォーマンス







★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

ローリング内沢

渡辺美紀

ジョルジュ中治


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