伊賀忍伝 凱王
ジャンル:アクション
媒体:SUPER CD-ROM
発売元:日本物産
発売日:1993年12月10日
価格:7900円
商品番号:NBCD3003
◆まさに末期状態のニチブツが放っちゃった最後の一般作品
「凱王」と書いて「がおう」と読ませる。この時点でかなり無理。このタイトルとパッケージのへたくそなイラストとで、初対面から「クソゲー」の匂いがプンプン漂う商品である。しかも発売元はあのニチブツこと「日本物産」だ。もちろん日本物産のソフトが全て悪いというわけではないのだが、少なくともPCエンジン界においては大ヒットシリーズ「F1サーカス」以外はほとんどロクなものがない。そしてその大半を占める麻雀などアダルトゲームをさらにそこから除いて残された数本は、ほとんど救いようのないものばかりというのが現実なのだ。ちっともゲームが成立してない「ファイティングラン」(’91)、日本サッカーに対する皮肉かとも思えるほどノロノロプレイの便乗商品「Jリーググレイテストイレブン」(’93)など、プレイして悶絶しそうになるゲームを出し続けていたのがこのニチブツだった。この「伊賀忍伝凱王」はそのニチブツが珍しくSUPER CD-ROM2で発売したオリジナルアクションゲームで、「イースIV」「フラッシュハイダース」など傑作・大作目白押しの93年年末商戦に投入された一本だ。それを念頭に置いてプレイするとなおさら驚くことうけあいだ。
タイトルから分かるように本作は忍者アクションゲーム。忍者というのは実にゲーム的な存在であるようで、忍者を主人公としたアクションゲームはPCエンジンで出ているものだけでも「ニンジャウォリアーズ」(’89)「忍SHINOBI」(’89)「最後の忍道」(’90)「忍者龍剣伝」(’92)「風霧」(’94)など、アーケードなどからの移植を中心に多数存在する。時代劇ではなく現代に忍者が暴れまわるという設定もよくあるもので、「凱王」もその系統に属している。この時点で移植ではないオリジナル作品でありながらオリジナリティは全く感じられない。
あえてオリジナリティを言えば、そのぶっ飛んだ設定にあるだろうか。このゲームの舞台は西暦1993年でありながら江戸時代そのままの鎖国が続いているという設定の仮想日本で、しかも「徳川将軍」と「秀吉」なる総大将が反目対抗しあっていて、双方に仕える忍者集団「電磁伊賀」と「爆忍甲賀」が死闘を繰り広げているという、ゲームながらもあっけにとられる時代錯誤な世界が広がっている。
オープニングはCD-ROMということでビジュアルシーン。結構長いが声が入っていないのがせめてもの救いだ(笑)。秀吉に雇われたドイツ系忍者ドッペルゲン=ハウザー(爆笑)が徳川の拠点に侵入、主人公凱王の祖父を殺害したうえ将軍の孫娘「繭羅(まゆら)姫」を誘拐してしまう。この繭羅姫だが、寝込みを襲われたにしてもなぜかほとんどヌード(笑)。このへんすでに今後のニチブツの展開が見えているなぁ。ともあれ、凱王はこの繭羅姫を奪回すべく、仲間の忍者達と共に敵地へと向かうのだ。もっともこの仲間達も操作できるわけではなく、ところどころで凱王にアイテムや装備をくれるだけなんだよな。
◆プレイヤーを激怒させる極悪な操作性
本作は他の忍者ゲームと同様、しごく基本的な横スクロールアクション。任意スクロールをするステージの中を、次々と襲い掛かってくる敵を剣と手裏剣(これがなくっちゃ忍者じゃない?)なぎ倒しつつ進んでいき、各ステージの最後にはボスキャラが待ち受けているという、ほんとに何の変哲もないゲームだ。
しかしその変哲があろうとなかろうと、面白いゲームというものは存在する。この「凱王」というゲームは変哲が無い上にゲームとしてつまらない…いやそれどころか「プレイすること自体に苦痛を感じる」という非常に困った存在なのである。
まず、その難度の高さがある。もちろん高難度=苦痛などということを言いたいのではない。本当に良く出来た高難度のゲームの「苦痛」は「畜生〜!次こそは!」とむしろ熱中を煽るプレイヤーにとって美味しい要素であるはずなのだ。しかし「凱王」の難度の高さはホントにただの苦痛。それでなくても敵の攻撃をくらったときのダメージがデカいのに、上下左右から一斉に敵の攻撃を受けたり、また唐突な奇襲攻撃を受けることがあり、それに対して主人公の凱王が忍者らしからぬ反応の鈍さ(後ろ振り向くだけでも物凄く遅い!)のためあっという間に大ダメージを受けてしまいがち。しかも当たり判定がかなりアバウトなようで、こちらの攻撃・敵の攻撃ともに「こうしたらこうなる」という法則性というものが全く感じられず、かわしたつもりが当たっていたり、攻撃したつもりがスカにされていたりと理不尽な判定を強いられ続ける。
忍者のお約束・手裏剣攻撃は「タメ技」のため緊急の使い物にはならず、それでいて攻撃ボタンを押しているうちに使いたくも無い場面でいきなり飛び出して無駄使いになる。もう一つ忍者のお約束である忍術の特殊攻撃もいろいろあるのだが、ハッキリ言ってどれも貧弱で使い物にならない。また敵を倒すとランダムで入手できるアイテム、特にHPを回復できるハートアイテムなどはかなり助かるものなのだが、これがなぜか不要なときにやたらに出る傾向があり(これは被害妄想ではなく、一人死亡して二人目キャラで再開した直後によく出てくるのだ)、かなりイライラする。
特にプレイヤーをいらつかせるのはそのジャンプの操作性だろう。上方向にはさすが忍者というべきジャンプ力を見せてくれる凱王だが、前方へのジャンプとなるとかなり心もとない。前方へ大きくジャンプするにはジャンプボタンを押して直後に方向キーを押す、といった操作が必要になるが、これがどうもうまくいかない時があり、うまくいったとしてもほんのちょっとしか前に飛ばないのだ。おかげで水の上とか空中とかいった、「落ちたら即死」というステージ(これが多いんだ、困ったことに) で「飛び降り自殺」になることが非常に多い。敵の攻撃を受けたのならまだしも、ただのジャンプ力不足で奈落の底に落ちて死亡させたときの虚しさといったない。しかも凱王くん、音も無く落っこちていって画面がブラックアウトするので気が抜けることこの上ない。敵の攻撃でHPゼロになった場合もただ黙って吹っ飛んで倒れるだけなので、非常にやる気がそがれる。
さらにプレイヤーをイライラさせるのが、強制イベントで入るビジュアルシーンだろう。とにかくセリフのやり取りがまるっきり面白くなく(声が出ないのが幸いだ)、おまけに飛ばすことができない(RUNボタンでやや文字表示が速くなるだけ)。一部イベントはかなり長いためこれがまたイライラの要因となる。先ほど述べたような難度のためこうしたイベントシーンは繰り返し見せられることが多く、これがまたさらなる苦痛を誘う。
いやホント、我ながら良く6面までガマンして先に進んだものだとは思う。まさにプレイヤーの神経を逆なでするために作ったとしか思えないゲームである。「PCエンジンFAN」読者投票で比較的高い点数がつきがちだった93年当時において、本作は総合15点台という、PCエンジン全体を見渡しても最低ラインの評価を受けたのも至極当然と思える。
そしてニチブツはこのあと「セクシーアイドル麻雀」(’93)を出し、完全にアダルト路線オンリーに突き進む。その勢いのまま後継機PC−FXでもアダルト路線(18禁枠)を展開し独自のAVアイドルなどを生み出すとかなんとか言っていたのだが、結局FXでは一本も出さず、NEC系ゲーム世界から消えていくことになる。
◎各誌評価
★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
| 音楽
| お買い得
| 操作性
| 熱中度
| オリジナリティ
| 総合
|
2.800
| 2.200
| 2.900
| 2.30 | 3.000
| 2.400
| 15.600
第640位
|
★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
| 採点
|
岩崎啓真
| 35
|
パトリオット佐藤
| 45
|
ウォルフ中村
| 50
|
メタラー佐々木
| 40
|
★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
| 総合評価
|
浜村通信
| 5
|
ローリング内沢
| 3
|
渡辺美紀
| 4
|
ジョルジュ中治
| 3
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