カブキ一刀涼談

ジャンル:格闘アクション
媒体:ARCADE CARD専用CD−ROM
発売元:ハドソン
発売日:1995年2月24日
価格:7800円
商品番号:HCD5070


◆「カブキ伝」の格闘ゲーム

外見 アイウエオ順に執筆を進めて来て、本作が初めての「アーケードカード専用ソフト」となる。「アーケードカード」とは何なのか、詳しくはこの連載の一番最初の項目を見ていただきたいが、要するにPCエンジンCD−ROM2システムのRAMを合計18Mに増強するパワーアップアイテムで、名前からして当時大流行していたアーケードの格闘アクションの移植を強く意識した戦略商品だった。1994年3月に発売され、同時期発売の専用ゲームが「餓狼伝説2」(’94)「龍虎の拳」(’94)といったネオジオ格闘ソフトだったことも象徴的だが、直後に期待の大作RPG「天外魔境III」をアーケードカード専用で発売するとのアナウンスもあり、格闘アクションにとどまらない展開も期待されていた。

 その「天外魔境」の外伝的位置づけのRPGとして「天外魔境 風雲カブキ伝」(’93)があった。「天外魔境II 卍MARU」(’92)の脇役ながら、主役を食う強烈な印象を残した名キャラクター・カブキ団十郎を主役に昇格させ、いつもの「ジパング」から遠くロンドンまで旅をさせてしまった異色作だ。そしてこの「カブキ一刀涼談」(’95)はその「風雲カブキ伝」のキャラクターを使った格闘アクションゲームである(ああ、経緯の説明が長い)
 アーケードカード専用ソフトのラインナップ増強と、様々な媒体による「天外ワールド」の拡大とを図っていたハドソンのこと、「天外キャラ」でAC専用の大人気ジャンルの格闘ゲーム、という企画は必然的に生まれてきたのだろう。このゲームの情報初出は集英社「Vジャンプ」誌上で(94年7月ごろだったかな)、当初は「カブキ伝X」という仮称だったと記憶している。天外魔境の「生みの親」的存在である広井王子氏はこの「カブキ一刀涼談」には直接タッチはしておらず、「横目に見ていたら出来上がっていた」とコメントしていた。

 1995年にこのゲームが発売された直後から、ハドソンは「天外魔境」をPCエンジンにとどまらない多機種での展開を推し進めだした。「天外III」をPC−FX専用に変更したほか、FX初期の売りであった「アニメ格闘」を天外キャラでやった「天外魔境電脳絡操格闘伝」(’95)を発売、ネオジオでやはり天外キャラの格闘ゲームである「天外魔境真伝」を発売、さらにスーパーファミコンで「天外魔境ZERO」、セガサターンで「天外魔境 第四の黙示録」といった新作RPGの開発も発表されている。
 あとから思えば「カブキ一刀涼談」はそうした流れの先陣を切った一本だったのだ。そして結局この一本がPCエンジン最後の「天外魔境」になってしまう…。


◆アーケードカード専用なんだけど

 ゲームを起動すると「やさしくなけりゃ 生きてゆけねえ 強くなけりゃ 女にゃもてねえ 華も散るらん」などと、カッコつけてるけど意味不明のモノローグを主人公カブキ団十郎(声:山口勝平)がしゃべり、彼の声で「カブキ、一刀涼談!」とタイトルが読み上げられる(「一刀両断」ではないんだよね)。しばらく放っておくと、このゲームのボスキャラである魔術師ラダエム・アンクが黒魔術により「風雲カブキ伝」のラスボス・ガープを復活させるビジュアルシーンが流れる。
 当時のCD-ROMソフトの売りであったビジュアルシーンはこのゲームにも入っているものの、このガープ復活とカブキステージの前に流れる屋形船に花火のほんの一瞬の短いものとが入っているだけ。もともと格闘ゲームなんだからそれでいいとも思えるが、各キャラのシナリオモードのエンディングぐらい工夫してもよかった気がする。どうも全体的に急いで作っちゃった匂いがするのだ。

 登場キャラは10人。うち8人がプレイ可能だ(残り二人はボスキャラで、倒すことによりVSモードで選択可能となる)。主人公のカブキ、阿国世阿弥プッシュ富士山は「カブキ伝」のパーティーキャラ、菊五郎みこしは「天外II」からの参戦、マント―Xは天外シリーズの全てに登場するお約束キャラ、前ボスのガープは「カブキ伝」のラスボスで、木製ロボットを思わせる江戸っ子宮大工・甚五郎とラスボスの魔術師ラダエム・アンクが新規登場キャラだ。

 どのキャラを使ってもコマンドは割と単純。当時やたらに世に出た格闘アクションゲームの中でもオーソドックスかつ簡単な部類に入り、特にどうという特徴もない。背景ステージも動きが全くない一枚絵で、みこしステージがかなり上方まで作られていることを除けば特に工夫も見当たらない。キャラの大きさも動きパターンもそこそこで、カブキを主役にした割には派手な演出もまるでなく、正直なところ見た目にはアーケードカード専用にしなければならないほどのものとも思えない(操作感覚がほぼ同時期のSCD格闘「フラッシュハイダース」に近いので比較しやすい)。もともとSCD用に作っていて、途中からほぼそのままでAC専用に変えただけなんじゃないかなぁ、という疑惑すら覚えてしまう(格闘開始前に若干長い「しばらく…」の読みこみで待たされはするけど)。この辺にも急いで作っちゃった手抜き感を感じる。

 とくにこの直後にネオジオで同じ天外キャラを使った「天外魔境真伝」が出ているため、どうしてもこちらは見劣りしてしまう。カブキとマント―はそっちにも出ているから、なおさらその差が際立つ。あちらのカブキの方が明らかに「それっぽい」キャラになっていたし。「餓狼伝説」なんかもほぼネオジオのまま移植できたアーケードカードなんだから、手間と技術をかければ近いものはできたんじゃないかと思うのだが…

 まぁそれはそれとして、格闘ゲームとしての出来は決して悪くはなく、結構遊べる。全体的に軽量級の作りで、コマンドも単純でポンポンと技が出るし、動きもスピーディーで、技が決まった時の爽快さもなかなか。2ボタンパッドでもそこそこ遊べるが、やはり6ボタンパッドで遊ぶべきものだろう(キーコンフィグもできる)。この時期の格闘ゲーの流行であった「追いつめられてからの超必殺技」もあり、決まれば一発逆転も可能で対人戦では結構盛り上がると思う。また体力回復なしでどこまで勝ちぬけるかを競う「ライフアタックモード」は面白い試みだった。VSモードが対人のみで対CPU戦がないのが残念ではあったが。
 格闘以外の部分だが、あるキャラとの対戦を終えると勝ったキャラのセリフが肉声で流れ、次のキャラへと移って行く部分のテンポがかなり悪い。アーケードカードだから読み込みに手間がかかっているのだとは分かるが、勝ちセリフを聞くのにいちいち待たされるのにはイラついた。


◆「馬鹿の術」に注目!(笑)

 登場キャラについては天外シリーズをプレイしていないと分からないところもなくはないが、それぞれのキャラはもともとRPGで立っていたものだし(特に「プッシュ富士山」なんてもともと格闘ゲーのキャラみたいだった)、新規参入の甚五郎の、「てやんでい!」なノリの江戸っ子サイボーグぶり(自爆攻撃まである!)は素直に面白い。

 メインである「シナリオモード」では選択キャラごとの簡単なストーリーがあり、勝つとそれぞれのキャラを前面に出した勝ちセリフ(相手によって異なる)をしゃべってくれる。全部聞くまでは結構楽しめるんじゃないかと。山口勝平さんのカブキは彼らしい「女好きでナルシスト」な物言いで面白いし(その面白さがゲームの方ではイマイチだったが)、菊五郎とマント―Xは千葉繁さんによる二役で、それぞれの勝ちセリフははっちゃけたものだし、両者の対戦となったらそれこそ騒々しいったらありゃしない(笑)。
 声と言えば、ヒロイン阿国の声は「カブ伝」では当時のアイドル牧瀬里穂が特別出演で演じていたのだが、さすがに格闘ゲームの声までやらせるわけにはいかなかったようで、本作では水谷優子が担当している。もっともそれほど違和感は感じないし、どうしても素人声優くささが感じられた「カブ伝」よりはこっちのほうが安心して聞いていられる。なお、このシナリオモードで阿国は「妹の八雲」を探している設定だが、その八雲は「天外魔境真伝」の方に出演していて両作のリンクとなっている。阿国でクリアすると八雲と阿国のツーショットの絵が見られ、明らかに「真伝」と同じキャラであることが確認できる。
 もう一人のヒロインは「カブ伝」には登場しなかった「百々地三太夫」の三女「みこし」で、「天外II」の柿沢美貴さんからこおろぎさとみさんに交代し、甘えん坊のかよわい妹キャラなもので倒すのが気の毒になるほど。しかし追いつめられてからの超必殺技「忍法百々地三太夫」では姉の「花火」「まつり」も駆けつけて来て、三姉妹で相手を袋叩きにしてくれる(笑)。この「みこし」ステージだけ妙に気合が入ってる気がするのは気のせいか(笑)。
 「世阿弥」は「カブ伝」からの再登場だけど、この人がこんな形で復活してしまうのはちと納得しがたいものが…

馬鹿の術 天外シリーズ皆勤キャラ・マント―は今回は「京都マントーランド」なるサル山アトラクションを作るために建設費稼ぎをしているという設定。マントーといえば「おバカキャラ」だがこのゲームでもそれは一応再現している。普通に戦っていると結構強敵なのだが、一定のパターンにハマると同じ事を何度も繰り返して自滅するという馬鹿ぶりを発揮してくれるのだ。
 そのマント―の超必殺技は「馬鹿(ばか)の術」。「天外」RPGでは「馬鹿(うましか)の術」といって馬や鹿が大量に出て来て襲いかかるものであることが文字で説明されていたが、本作ではそれは再現不能とみて似て非なる術に変更されたということらしい(「うましか」の方は「天外真伝」「電脳絡操」ではそれぞれの機能で再現されている)。距離を置いたマント―が「お猿の皆さん、お願いします!」と叫ぶと、猿たちが乗った大きな「カバ」さかさまになって相手の頭上に落ちてくる、という演出になっている(左図)

 さすがにガープとラダエム・アンクのボス二人はなかなかの強敵。もっとも分かって来るとガープはマントー並みにおバカでパターンにハマりやすい。ラダエム・アンクは地中にもぐったりワープをしたりともはや格闘キャラとは言い難い存在だが、これもパターンが読めて注意してやれば大丈夫。慣れて来てヌルさが気になったら難度を変更して遊ぶことも可能だ。

 最後に、このソフトは2008年にハドソンがPSP向けに出した「PCエンジンベストコレクション」シリーズの一つ、「天外魔境コレクション」に「天外」「天外II」「カブ伝」と共に収録され、PSP上でPCエンジン版をそのままエミュレートして遊ぶことができるようになっている。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.915
3.301
2.981
3.330
3.264
2.830
19.621
第487位

★電撃PCエンジン(100点満点での採点)
レビュアー
総合評価
岩崎啓真
60
ウォルフ中村
60
ウキキ松崎
70
城イドム
60

ウォルフ中村評価(各項目5段階評価)
グラフィック
サウンド
操作快適度
ゲームバランス
オリジナリティ
コストパフォーマンス







★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
サワディ・ノダ

水ピン

イザベラ永野

ローリング内沢



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