風霧
ジャンル:アクション
媒体:Super CD−ROM
発売元:ナグザット
発売日:1994年4月28日
価格:8600円
商品番号:NXCD3025


外見◆ナグザットオリジナルの忍者アクション!


 以前「伊賀忍伝凱王」(’94)の項目でも書いたが、忍者を主人公にしたアクションゲームというのはかなり多い。「ニンジャウォリアーズ」(’89)「忍SHINOBI」(’89)「最後の忍道」(’90)「忍者龍剣伝」(’92)といった、ゲーセンやファミコンからの移植となる忍者アクションゲームがPCエンジンでも発売されている。SCD全盛期になるとこうしたゲーセンからの移植はめっきり減ってしまうのだが、1994年にはその「伊賀忍伝」とこの「風霧」(’94)という、まったくのオリジナル忍者アクションが2作登場した。

 「凱王」のひどさについてはそちらを参照して頂くとして、この「風霧」のほうはどうかというと、正直なところ「凱王よりはまだマシ」という評価となるだろう。アイデア面、デザイン面では結構いいところもあるのだが、いかんせんアクションゲームとしてはかなり大味、というか何の工夫もない作品となってしまった。難易度もかなり低めで(難易度調整もできるがあまり変化はない)、一番痛いのがあまりにも単調なステージのために攻略の面白さがほとんどないこと。敵の城に乗り込んで行き、最上階まで十何層も登っていくことになるのだが、どの層も背景が違うだけで横へ横へと進むだけのまったくの一枚板。デコボコとか上下方向への移動も、意地悪なトラップも一切なし。そんな単調なステージで群がりくるザコ敵(これがまたバリエーションがえらく少ない)を蹴散らしながら進み、各層のボスと対決してその層をクリア、ということを繰り返してエンディングを目指すわけである。

 もちろん誉めるべき点がないわけではない。このゲームの大きな特徴は主人公キャラ「風霧」の動きがバリエーション豊富という点。忍者であるから手裏剣を投げるのはもちろんのこと、接近戦になれば自動的に剣で斬りつける。十字キーとI・IIボタンの組み合わせにより前方ダッシュ、スライディングダッシュ、前方・後方大車輪(敵の手裏剣をかわす)、地上・空中での敵の投げ飛ばし、ジャンプ斜めキックなどなど、風霧の動きは実に多彩でしかも反応が素早く、動かしていて気持ちいい。大勢のザコ敵を一気に片付けた時など、なかなか爽快だ。ボス戦はさすがに相手も忍者なので個性派が多く、敵の攻撃をかわしながらこちらの技を繰り出す対決は、同時期の格闘アクションゲームと比較してもまずまずの出来。このゲーム、基本的には昔ながらの横スクロールアクションなのだが、格闘ゲームブームのなかで「コマンド入力」要素をちょっと付け加えてみた、というところだろうか。
 また面白い特徴として、自キャラの体力ゲージが「自身の攻撃によっても減る」というのがある。手裏剣をバンバン投げまくっているとグングン減っていくし、瞬間的に「消滅」して相手の攻撃をかわす「霧隠れの術」なんかを使うとテキメンに体力が減る。つまり「疲労」要素が導入されているわけだ。それじゃ攻撃もできないじゃないか、と思うだろうが、そこは単純、じっとして休んでいれば体力が回復する仕掛けになっている。これはボス戦でも有効なので、「休み休み戦う」のが基本。そうは言ってられない時もあるけど。


◆妙なところで有名声優起用

 時は江戸時代。大名・好影に対して霧雲城の城主・貴信が謀反を起こした。貴信の側についた上忍・源舞は好影の一人娘・静姫をさらって霧雲城に監禁、人質とした。窮地に追いつめられた好影の前に、19歳の忍者が一人姿を現す。彼の名は「風霧」。源舞から忍術を授けられながら組織から姿を消した「抜け忍」であった。風霧は静姫の奪還と、師匠・源舞との対決のために、霧雲城へと乗り込んでゆく――

 …というのがオープニングで語られるプレストーリー。ありがちではあるのだが、「抜け忍」という設定には白土三平「カムイ外伝」なんかが大好きな僕は嬉しくなっちゃう(笑)。

エンディング画面 SCD時代ということもあってオープニングはそこそこ力の入ったアニメ調ビジュアルシーンがある。しかしビジュアルシーンはオープニングのほかはエンディングにしかなく、絵についてはそこそこ出来がいいだけにかえって欲求不満になってしまう。説明書の登場キャラのページを見ると、各層のラストに出てくるボスたちはそれぞれ風霧と因縁のストーリーを抱えていることになっているのだが、ゲーム中では一切そのことに触れず、ただただ戦って倒していくだけなのがもったいない。戦闘の途中で唐突に終わるボス戦が一部にあり、そのボスが後で再登場する展開もあるため、当初はこれもビジュアルシーンなり音声なりでストーリーを語るつもりだったはずだ。そのつもりはあったけど予算が…ということかもしれないが。せっかくの「抜け忍」という美味しい設定もこれでは生かせない。
 予算、ということを感じさせるのが、このゲーム、アニメ調ビジュアルシーンは一応あるくせに声優をまったく使っていない(「はっ」という姫の声ぐらいしか聞けない)。いや実は一人だけ、国府田マリ子という大物を使っているのだが、どういうわけかビジュアルシーンのほうではなくCDプレイヤーにかけた時やシステムカードバージョン違いの時の「警告メッセージ」で出演しているのである!実はこのゲームを風霧でクリアすると「鈴」という隠れ女性キャラをプレイできるようになり、国府田さんはその「鈴」役ということなのだが、ゲームのほうではプレイヤーの分身という扱いなので声を出してくれないのだ。

 1994年となるとPCエンジン市場も末期に近付いていて、美少女ゲームでもないと大きな売り上げは期待できない状況になっていた。そこへ硬派なアクション、しかも全くのオリジナル作品を投入するとなるとあまり予算がかけられず、ビジュアルシーンによるデコレーションをカットせざるをえなかったんじゃ…などと推測している。いろいろ設定してあったストーリーをビジュアルシーンと声優の声でデコレーションすれば、そこそこ楽しめるものになっていたんじゃないかと思われ、その点では惜しい作品でもある。

 
◆お姫さまには気をつけて!

 先ほども書いたように、各ステージがひたすら平坦な一枚板、ザコ敵も楽勝過ぎるこのゲーム、ボス戦に関してはそこそこ楽しめる。このゲームはステージの最後に行けばボスが出てくるというわけでもなく、画面上に表示されているザコ敵ゲージを参考に一定数のザコ敵を倒して各層の一番奥に行くとボスが登場する、という変わったスタイルをとっている。
 主人公風霧と同じサイズの忍者も多いが、最初のボスのような大太刀を振りまわす巨大武者とか、なんとロボット(それでもなんとなく時代風にしてある)など大型のボスも登場する。また後半には犬や鷹、虎なんかも交えた複合攻撃をしてくるボスや光線やビームを発するような連中もいて、バリエーションはかなり豊富。一部苦戦を強いられるボスもいて、単調なザコ敵戦と比べると格段に面白い。各ボスのデザインも秀逸なものが多いと思う。このへんも当時の格闘ゲームを意識したフシがある。

ボス戦 だが残念なのはこれらのボス戦、「スライディング」でほとんど解決してしまう。足元が弱いのは万人共通なのかもしれないが、うまくやるとスライディング攻撃ばかりでケリがついてしまうというのは…。あと、ボス戦ではこちらの攻撃が決まって相手にダメージが出ると一定時間相手が無敵状態になるのだが(続けて攻撃をさせないためだろうが)、その無敵時間が妙に長く、空振りが多くなるのも困ったところ。またザコ敵相手のステージとボスステージがそのまま連続しているため、こちらは画面内におさまっているのにボスが画面外に出て行って消えてしまうケースが目につく。これはどうにかしてほしかったところ。
 ザコ敵で負けることはまずないが、一部ボス戦では苦戦はする。初期設定では3度までコンティニュー可能で死んでもすぐその場からやり直せる。3度死んでしまった場合は、そのステージの最初からやり直しとなる。

 最上階まで上がると、城主・貴信が静姫を連れて登場する。ここで決戦となるわけだが、面白いのが戦闘ステージ内に静姫がそのままいること。もちろん静姫が攻撃したりしてくるわけではないのだが、こちらの攻撃のダメージは受けてしまうので要注意。貴信に接近攻撃をすると自動的に刀を振りまわすとになるが、貴信のそばに静姫がいると貴信のみならず姫まで攻撃してしまうことになる。かよわいお姫様だけに刀の一振りでも一発死亡である。そのまま戦闘を続けて貴信に勝つことは可能だが、その場合は姫救出に失敗したバッドエンディングになってしまう。ひたすら姫を傷つけないように気をつけながら敵と戦うはめになるわけで、これは面白いアイデアだった。
 姫を無事に生かしたまま勝利すると、天守閣の屋根の上にあがって真のラスボス戦が待っている。ここで途中の層で戦闘が唐突に中断したボスが再登場するのだ。このボスが主人公のライバルキャラということらしいのだが、その辺ゲーム中では一切説明がない。だから勝利してもあまり感動がないんだよなぁ。勝利すると風霧が姫を連れて霧雲城から凧で脱出してゆくビジュアルシーンが出てハッピーエンディングとなる。

 先述のように一度ゲームをクリアすると(バッドエンドでもかまわない)、「鈴」という女忍者キャラでのプレイが可能となる。オープニングのビジュアルデモもちゃんと鈴用のが用意されているが、単に風霧の絵が鈴に入れ替わっているだけのものだ。一応国府田マリ子さんが声をあてているらしいのだがビジュアルシーンでもしゃべらない。ゲーム中に「やぁっ!」なんて掛け声をあげるのでこれが国府田さんの声ということらしい。風霧と鈴とで特にプレイ感に違いはないのだが、ひたすら寡黙な風霧と比べるとやや声を出してくれるのが楽しい(笑)。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.250
3.666
3.000
3.583
4.166
3.083
21.748
第246位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
50
ウォルフ中村
55
ウキキ松崎
60
城イドム
45

ウォルフ中村評価(各項目5段階評価)
グラフィック
サウンド
操作快適度
ゲームバランス
オリジナリティ
コストパフォーマンス







★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

鈴木ドイツ

渡辺美紀

ジョルジュ中治


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