CALIII 完結編  
ジャンル:デジタルコミック
媒体:SUPER CD-ROM
発売元:NECアベニュー
発売:1994年3月25日
価格:7800円
商品番号:NAPR-1039


◆トラブルだらけの問題作、速攻で移植!

商品外見 本作の「原作」は、前作同様に「バーディーソフト」から1993年に発売されたPC98向け美少女ゲーム。前作までは18禁だったこのシリーズだが、この3作目は「R指定」扱いであったという。前作がPCエンジンに移植されたくらいだからもともと直接的H抜きでも楽しめる内容だったわけで、いっそ「R指定」の方が買い手が多くなるかも…というもくろみもあったかもしれない。
 
 この文を書くためにネットで調べて初めて知ったのだが、このパソコン版「CALIII」は大トラブルの末に世に出たものだった。前作の大人気の勢いのまま、さらなる大作として開発が始まった「III」、なんでももともとはRPGとして開発が進められていたらしいのだが、前作で企画と原画を担当し人気の大きな力となった「美龍(のちの「七緒杏」)」さんがバーディーソフトの社長と決裂、メインスタッフともども独立して別会社を作るという騒動が起きたのだ。肝心かなめのスタッフが抜けた上で「CALIII」は前作同様のアドベンチャーゲームとして製作されることになり、発売も延びに延びて1993年夏にどうにか世に送り出されたが、前作のメインスタッフがごっそり抜けて作った作品が続編になれるはずもなく評価は散々。その後「外伝」も発売されるが、一連の騒動で力を失ったバーディーソフトは間もなく消滅してしまう。

 そんな「問題作」なんだけど、PCエンジンにはオリジナルの発売から半年ちょっとという、えらく早い移植が行われた。たぶんだけど、PCエンジン版「II」の移植が決まった段階で、「III」についても最初から移植する予定で話が進んでいたんじゃないだろうか(PCエンジン版「II」のラストに「III」の宣伝がある。最初から「R指定」になってたのもそういう事情かも)。少なくともオリジナルの「III」が売れたから、ということではないと思う。開発だって案外並行していたかもしれない。

 前作をプレイした人には、まず「絵」が大幅に変わってしまったことに違和感があるはず。これについては後から上記の事情を知ったのだが、当時はそういう話は一般ユーザーには出回っていないので不審に思うばかりだっただろう。一応前作の登場人物が次々と登場するのだがキャラデザインはまるで違い、前作にそこはかとなく漂っていた「H感」(淫靡さ、といってもいいか)は完全に消えて健全な(?)ムードに変わった。ゲームシステムも、一時RPGで進められていたのがポシャったせいか、まったく分岐もなく、謎解きもほとんどなく、ゲームオーバーもない(一応あるにはあるが無いに等しい)、まさにゲーム性ゼロといっていいほどの一本道アドベンチャー、というより実質デジコミとなっている。全体のボリュームは増えてる気もするのだけど、前作とはまるで趣向の違うゲーム、いやそもそもこれって「ゲーム」なんだろうかと思ってしまうような一本となってしまっている。


◆「しゃべりまくり」アドベンチャー

 前作から2年後、主人公ワタルと恋人の美加は大学生になっていた。相変わらずラブラブ関係の二人だったが、突然美加が交通事故にあい、なんと記憶喪失になってしまう。驚くワタルのもとへ、前作の案内役だったヴィーナスの飼い猫「チェス」が現れ、ヴィーナスが命も危うい重病になっていることを告げる。実は美加はヴィーナスの「分身」であり、ヴィーナスの命が消えればその存在も消えてしまう運命にあったのだ。美加を救うためにはヴィーナスを救わねばならないが、ヴィーナスを治せる薬は女神アテナしか作れない。アテナは、かつて「いちばん美しきひとに」と書かれた黄金のリンゴをめぐる「パリスの審判」でヴィーナスに敗れた怨みがあったのだ(ゲーム中でも軽くは説明してるが、「イリアス」を知らないと全く分からないネタ)。実はワタルはパリスの転生で(前作でワタルに前世があることはほのめかされてはいたが、結構ビッグネームで驚かされる)、アテナは薬を作る条件として、「時の世界」に散った黄金のリンゴのかけら三つを集めて来いと要求する。かくしてワタルは、なぜかついてきてしまったチェスを相棒に、再び「時の世界」を旅するハメになる。

 とまぁ、こういうオープニングなのだが、実際の冒険が始まるまでのこの前座だけで、驚くなかれ、実に1時間が経過する。前作と違ってセリフの早送り、音声飛ばしが出来るようにはなっているのだが、今回音声はちゃんと全部聞くようにプレイしてみたら、オープニングだけでそれだけの時間がかかってしまった。実際説明部分が多いのでセリフは膨大な量になっており、おまけにその全てに声優の肉声があてられているためだ。このフルボイス状態はゲーム全体で徹底されていて、メインの役だけでなく脇役や通行人レベルのチョイ役まで、ご丁寧に全て声優の声が入っている。音声データの量だけでかなりのものになっているはず。

チェス 声優といえば、前作では声が入れられていなかった主人公にも声が入った。それも古川登志夫という大物である!ゲームの主人公はプレイヤーの分身という位置づけの場合が多いので、主人公の声は入れない、あるいはごく一部のイベント、ビジュアルシーンにだけ入れたりする例が多いのだが、「CALIII」は全編にわたって主人公がしゃべりまくる。さすがに頭の中で考えていることは声にしないのだが、会話部分は例外なくしっかり声入り。当然そのセリフ量は膨大なものとなり、これほど主役がしゃべりまくるゲームというのも珍しいと思う。
 そして、前作ではところどころに登場する案内役キャラに過ぎなかった「チェス」が、今度は主人公の旅のお供、というか相棒状態で全編にわたり登場する。その声は前作と同じ平野文。ゲームの大半がワタルとチェスの漫才状態で進行するため、知ってる人には、まさにそのまんま「うる星やつら」状態(笑)。いや、絶対作り手はそれを狙ってキャスティングしたはずだ。この二人の息の合った漫才状態が延々と続くので、特に面白くもないストーリーながら、そこそこ楽しんで聞いていられたのは間違いない。


★ 懐かしい人たちとも会えるけど

 前作ではプレイヤーは一応エリアの選択ができ、そのエリアごとにショートストーリーを見せられる仕掛けになっていたが、本作ではストーリーは完全な一本道、一応「中世アラビア」「不思議の国」「チェス村」「中世ヨーロッパ」「古代エジプト」といったエリアは用意されているが、いま書いた順番に訪問して行くだけ。それぞれのエリアで展開される話自体は長いのだが、会話のやりとりだけ無駄に長い気もする(それこそワタルのチェスの漫才だけでずいぶんつぶれる)

アリスとの再会 それぞれのエリアでは懐かしいキャラとの再会もある。シリーズの1作目からは不思議の国のアリス(PCエンジンでは出てないことがネタにされていた)、2作目からはアラビアのシェラザード、中世ヨーロッパのアーシュロットにフローリアン、エジプトのタドゥキバが再登場し、ワタルと旧交を温めることになるのだが、前作でも面白かったフローリアンとチェスの掛け合いが面白かったくらいで、あとはあまり印象に残らぬままさっさと退場して行ってしまう。これも製作事情の影響か、全体的にストーリーに深みがないんだよな。本作で出て来るヘラの分身、ジュノーの唐突感のある悲劇性だけが強く印象に残ることになるが、それがストーリー的にどれほどの意味があったのか…
 面白かったのは、本作の実質的ヒロインとしか思えないチェスの故郷「チェス村」のくだりくらいだろうか。チェスの両親もふくめて村人全員が「にゃんにゃん語」を話す世界(笑)。チェスといえばマタタビで酔っぱらって不自然な下着姿になる展開があるが(うつ伏せになってるカットだけすっぽんぽん)、これはパソコン版で丸出しだったのかな?

 終盤、ゲームオーバーもある、本作唯一のバトルシーンがあるが、これがなんとクイズバトル(笑)。5問連続で正解しないとゲームオーバーとなるのだが、一問目は最初から答えが明かされていて、二問目以降は2つ、3つ、4つ、と一つずつ回答の選択肢が増えていく。「93年のF1の最優秀選手は?」なんて時事ネタもあれば、「破裏拳ポリマーの装着時間は?」なんてマニアックネタもある。一問でも外すとゲームオーバー画面に飛ばされるが、すぐにクイズ開始のところからやり直せるので、ちょっと時間をかければ突破できるので特に心配はない。ここだけちょこっと盛り上がったりして(笑)。

 プレイ時間は声を飛ばさなければおよそ5時間程度、物語は実に予定調和に終わり、全てめでたし、めでたし、となっちゃうのだが、チェスに関してはちょっと名残惜しさはあったかな。「CALII」も特に面白かったとは思わないのだが、それでも話の作りやセリフのやりとりに何か心に残る物はあった。そこへいくとこの「完結編」は、上記のような製作事情もあったのだろうけど、人気のあったシリーズの「完結編」としてはやっぱり残念な出来と言わざるを得ないだろう。PCエンジン版は声入りになったことで「うる星」ファンならまた違った楽しみ方を出来るかもしれないが(そういやPCエンジンでは「うる星」のデジコミもあるんだよな)


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.410
3.717
3.615
3.538
3.615
3.282
22.177
第208位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
45
ウォルフ中村
50
ウキキ松崎
55
城イドム
60
ウキキ松崎評価
グラフィック
サウンド
操作快適度
ゲームバランス
オリジナリティ
コストパフォーマンス







★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
TACO・X
イザベラ永野

ローリング内沢
野田稔



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