カルメン・サンディエゴを追え!世界編 ジャンル:アドベンチャー
媒体:CD-ROM
発売元:パック・イン・ビデオ
発売:1990年3月30日
価格:7200円
商品番号:PVCD-0001
◆海外パソコンから移植の「教育ソフト」
CD−ROMという新メディアは、当初その大容量を生かして画像や音声・映像を収録した百科事典など、どちらかというと「お硬い」方面の利用が考えられていた。実際パソコン向けに発売された初期のCD-ROMソフトにはそういったものが多い。それを身近なゲーム機に搭載してしまい、CD-ROMゲームの世界を切り開いたのがPCエンジンの功績であるのだが、このPCエンジンCD-ROMでも初期にはやや「お硬い」方面、教育用を意識したソフトが発売されている。その最たるものが恐竜図鑑「マジカルサウルスツアー」(’90) だろうが、この「カルメン・サンディエゴを追え!世界編」(’90) もその例に挙げられる。
本作はもともと1985年にアメリカのブローダーバンド社から発売されたパソコンソフト「Wherein the World Is Carmen Sandiego?」 (直訳すると「カルメン・サンディエゴは世界のどこに?」) の移植で、一応「ゲーム」という形はとっている。プレイヤーはインターポールの職員となり、世界をまたにかけた女怪盗「カルメン・サンディエゴ」 一味を追って世界中を飛び回る。要するに某アニメの銭形警部 そのまんまであるわけだが(笑)、捜査に必要なのはいわゆる「観察力」「推理力」といった名探偵に必須のそれではない。
だって、聞き込みで得られる情報が、「あなたの探している人は青と赤と白の国旗の飛行機に乗った 」とか、「あなたの探している人はお金をリラに替えた」 とか、「あなたの探している人はツンブクツの遺跡を見たいと言っていた」 とか、地理的知識にばかり偏重したものだからだ。そうとは知らずにこのゲームをプレイし始めた僕は、このくだりで思わず爆笑してしまったものだ。社会を大得意の科目とし続け、社会関係の雑学の鬼と化し、長年塾で社会科講師をやってる僕である。クイズというレベルでもない基礎情報ばかりで、楽勝に過ぎるのだ。実際初プレイでノーヒントでもいともあっさりと犯人逮捕に成功してしまった。
もちろんそれはプロの社会科講師だからであって、一般の、しかも子供となるとそうはいかないだろう。聞き込みで得られる情報は世界各国(といってもさすがに30カ国に限られている) の国旗・首都名・政治・観光地・通貨・歴史と多種多様で、それらを全部網羅して知っている人はそうはいまい。ただしこのゲーム、ちゃんと世界各国の詳細な情報を見られるデータベースが装備されていて、それで手当たり次第に調べていけば捜査の手がかりがつかめる仕掛けになっている。このデーターベース調査をすることでプレイヤーはそれまで知らなかった多くの地理知識を得られる仕掛けで、まさしく「世界地理お勉強ソフト」に他ならない。
ただし何せ原作は1985年のもの。このPCエンジン版発売の1990年の前年にはベルリンの壁が崩壊して冷戦構造も崩れ、ちょうど情勢が様変わりする最中だった。このゲームは3月発売だからその時点では問題ないのだが、この年の秋にはドイツが統一、翌年暮れにはソ連がなくなってしまう。その後のEU結成やユーロ導入もあってこのゲームでの地理情報の多くが今となっては通用しない。まぁそれもまたレトロゲームを遊ぶ面白さの一つではあろう。ニューヨークの画面で今はなきワールド・トレードセンターのツインタワーが大写しになっているのを見ても、「歴史の流れ」を感じてしまう(左図) 。
◆怪盗一味を追って世界を駆けめぐれ!
ゲームを起動すると英語版か日本語版のどちらをプレイするのか選択を要求される。英語版については後回しにして、日本語版プレイ状況を紹介してみよう。
ゲーム画面はモニターとキーボードを描いたデスクトップパソコンのスタイルになっている。もともとパソコンゲーム(たぶんマウス操作仕様) であるため、画面脇のアイコンに手の形で表されるアイコンをクリックして操作する仕組みで、当時TVゲームでこれを見たらかなり斬新に見えたんじゃないだろうか。ただしPCエンジンマウスが発売されるはるか以前のソフトであるためパッド操作しかできず、実際にやってみるとかなり面倒だ。特に地理情報データンベースや英和辞書(後述)ではかなりイラつく。
プレイを開始すると、インターポールからファックスが送られて来てカシャカシャと文字が打ち出され(この辺も「ルパン三世」のOPを思わせますな) 、「○○○、君を認識した」とごあいさつ。そしてどこどこでなになにが盗難される事件が発生したことと、犯人の性別だけ手がかりが提示される。このとき月曜日の朝9時。日曜日の午後5時までに犯人を逮捕するよう要請される。
プレイヤーは事件発生都市に飛び、聞き込みを開始する。一つの都市につき聞き込み場所は三つだけ。そこに足を運ぶと(画面上で足跡がトコトコとアニメする) 、上記のように「あなたの探している人物は…」と、犯人の特徴(髪の色・趣味・所持品・車など) と犯人が次に向かった国に関するヒント(国旗・通貨・観光名所・住民など) が少しずつ与えられてゆく。その情報をもとにプレイヤーは次に向かう都市(その国の首都もしくは最大都市) を選択し、そこへ飛行機で飛ぶ。その選択が正解の場合、その都市での最初の聞きこみの時に「君の推理は正しいに違いない!」 とインターポールからおほめにあずかり、犯人一味がうろついたり手配写真が表示されるアニメが映るが、間違ってると聞いた人から「そんな人は知りませんね」とつれない返事を受けるだけ。後者の場合、確実に捜査に行き詰まるので、前にいた国に戻って向かう都市の選び直しをしなければならない。
こんな感じで30用意されている世界の都市を走り回り、犯人を追いかけてゆく。事件ごとに盗難品も異なり(この盗難品も地理・歴史雑学になっている) 、犯人も違い、まわらされる国もその都度変わる。一つの事件につき走り回らされる都市は6つで、都市間の飛行機移動はもちろんのこと聞き込みでも時間が経過するようになっていて、間違った都市へ飛んでしまうと大きく時間をロスする。一度も渡航先を間違えずに駆け回ってもタイムリミットの日曜日午前中に逮捕に至るのだが、プレイしてみた印象では2回ほど渡航先を間違えても元に戻ればなんとか間に合うようだ(飛行機移動時間は現実ほどにはロスしない) 。
6つ目の都市に来て、追跡が正解だと、聞き込みの際にナイフが飛んでたり銃弾が撃ち込まれたりといった脅迫行為のアニメが表示され、「この町には危険な人物がいる」「ギャングがいる」と身の危険を感じさせる演出がある。初プレイ時これには緊張したが、実は危険なことなど一切なく、単にこの都市に犯人がいる、と捜査の大詰めを告げているだけ。間もなく画面内を犯人が駆け抜け、それを警官を満載したパトカーが追っていくアニメが出て、犯人逮捕にいたることになる。
しかーし。ここで気をつけておかねばならないことがある。社会の授業で習う通り、現行犯以外で人を逮捕するには「逮捕状」 というものが必要。このゲームはちゃんとそれを守っていて、各国を駆けまわる捜査の間に聞き込みで得られた犯人の特徴をパソコンに入力、「犯罪データベース」で犯人を検索して最終的に一人に絞り込み、その犯人の「逮捕状」を発行しておく必要があるのだ。逮捕状を発行していないままだと、最後の都市で犯人を見つけても逃げられてしまい、パトカーは犯人を乗せないまま空しく帰って行くことになる。逮捕状を発行したうえで犯人を追いつめればパトカーに犯人が乗せられ、そのまま牢屋へ入れられるアニメ(なんだか楽しそうな獄中生活が表示される) が映って、事件解決だ。
ただしこのカルメン一味、逮捕されても脱獄を繰り返すようで、牢屋送りにしたはずの犯人がまた別の事件を起こしているケースが何度も出てくる。事件の発生順番や回る国については実は用意されたものをランダムに組み合わせてプレイさせる仕掛けになっているようで、同じ犯人が何度も出てくるのもそのためだ。
このローテーションを延々繰り返し、事件解決を一定数重ねるとプレイヤーのレベルがあがる(階級昇格)。レベルは5段階あり、最高レベルが「エース・ディティクティブ」だ。このエース・ディティクティブになって何度か事件を解決していると、ついに最後の事件で一味の首領カルメン・サンディエゴ が犯人として登場する。彼女をめでたく逮捕すればゲームクリアで、エンディングとなる。とくにどうということのないえらく寂しいエンディングなのだが…。
★なんと英和辞書まで搭載!
先述のように、このゲームは「英語版」をプレイすることもできる。これはCD-ROMということで原作英語版もそのまま収録してみたようなのだが、日本発売版にはプラスアルファ要素もある。ついでなんで地理のお勉強だけでなく、英語のお勉強もできるようにしてしまえ、と思ったらしく、なんと「英和辞書」 がCD-ROM内に搭載されてしまっているのだ。
英語版をプレイすると、インターポールからのファックスはもちろん、聞き込みの会話も全て英語。もともと子供向けの教育ソフトということもあり、使われている英語は日本の中学生レベルでそう難しい単語は出てこないし、音声はないからヒアリングの必要もない(CD-ROMだからやればできたと思うんだけどね) 。だから別に辞書なしでも大丈夫のような気はするのだが、ゲーム中で英和辞書を引ける、というそのシステム自体が新鮮だ。
会話などで英文が表示されている時に辞書アイコンにカーソルを置きクリックすると 、英和辞書入力画面に切り替わる。アルファベットを一文字ずつひろって検索することもできるが、会話文中の単語をクリックしてそれを入力ウィンドウに「コピペ」して検索することも可能。そして単語検索をかけると、英和辞書そのままの説明文が表示される仕掛けだ(右図) 。
今プレイしてみるとパッド操作ということもあって面倒なのだが、この当時としてはかなり画期的で便利なシステムだったと思う。確かに英語版でプレイすればちょっとした英語のお勉強にはなっただろう。ただし英語版をプレイすると、なぜか英和辞書が使える代わりに地理データベースが利用できなくなるので地理雑学に詳しくない人はプレイ困難になってしまう。
総じて、「教育用ソフト」としてみればかなり良くできた方だと思える。CD-ROM自体が珍しいものだった時期のソフトだけに、かえって今見ても新鮮な「動きと音」の演出があちこちにあるし、地理データーベース・英和辞書の搭載なんかは大容量のCD-ROMならではの試みだった。
ただゲームとして面白いかというと…分かって来ると同じパターンを繰り返しているだけだし、推理要素なんてもともとゼロのうえ、ストーリーも全くない。各国の都市を表示する絵も写真とりこみを元にしたらしいのだが(説明書に写真提供元が掲示されている) 、CD-ROM初期のせいかかなり汚い絵で、見栄えが悪い。聞き込みで出てくる人たちの顔グラフィックも低レベルで、原作がそうだからしょうがないが会話もヘン。英語原作をそのまま直訳したんだろうな、と思える無味乾燥なセリフも目につく。
下に掲載した当時の雑誌レビューを見ると、「PCエンジンFAN」の読者投稿ではさんざんな評価だが(全ソフト中最低レベル) 、プロのレビュアーの評価が全体的に高めなのは、CD-ROMそのものが珍しい時期で、なおかつプレイしたことのないゲームシステムの斬新さが評価されたものだろう。だが一般のゲームユーザーがプレイするとやっぱりつまんなかった、ということなのだ。
原作のアメリカPC版は1985年発売ということもあり、CD-ROMではなかったため地理情報は冊子同梱という形だったようだ。その後1990年に続編が出て、こちらはCD-ROM化されている。PCエンジンCD-ROM版は日本のみの発売で、海外版PCエンジンである「Turbo Grafx16」のCD-ROMでは発売されていない。調べたところメガドライブやスーパーファミコンでも発売されたそうなのだが、日本では見かけないタイトルなのでアメリカなど海外のみだったのかもしれない。
ところでPCエンジン版のタイトルに「世界編」と妙なオマケのようなものがついているのは、同シリーズで「アメリカ編」「ヨーロッパ編」さらには「タイムトラベル編」などが出ているため。それぞれこのゲームと同様にアメリカやヨーロッパで地理情報をもとに追跡したり、歴史情報をもとに時代を超えて追跡する教育ものだったらしい(う〜ん、個人的には歴史ものは面白いかも) 。「世界編」とタイトルにつけたのは他のシリーズを出す計画もあったのだろう。結局ゲームとしては中途半端、教育用としてもどうかな、という出来だったので売り上げもよくなかったか、PCエンジン版はこの「世界編」だけで終わってしまった、ということではないかと。
しかし本国アメリカではこれは不動の人気シリーズだというから分からない。このゲームのコンセプトを使ったTVの教育バラエティ番組も作られて長寿番組に化けたそうだし、1994年にはTVアニメ化もされている(日本でも「怪盗カルメンサンディエゴ」のタイトルでNHK教育が放送したという) 。21世紀に入ってからも久々のゲーム新作が作られるなど、息の長い人気を保っているのだそうな。
◎各誌評価
★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
2.950
3.150
2.950
3.225
2.825
2.975
18.075
第596位
★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
6
ウォルフ中村
6
小野泉
6
山崎拓
6
★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
東府屋ファミ坊
8
水野店長
7
森下万里子
8
TACO・X
6
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