鏡の国のレジェンド  
ジャンル:アイドル・アドベンチャー
媒体:CD-ROM
発売元:ビクター音楽産業
発売:1989年10月27日
価格:6750円
商品番号:JCCD9001


◆あの人のアイドル絶頂期の一作

商品外見 この「語ろーぐ」のコーナー、3年ほどほったらかしにしてしまったのだが、そのために今この「鏡の国のレジェンド」(’89)を語るには、なんというか、若干の「痛い思い」を伴わなければならなくなってしまった。そう、昨年(2009年)に覚醒剤使用の大騒動を引き起こした「のりピー」こと酒井法子が主人公のゲームだからである。

 1989年といえば平成元年。酒井法子の芸能界デビューは1985年のことだそうで、1987年にレコードデビュー、ここで一気に人気がブレイクして同時代の代表的アイドルとみなされることになる。この年のNHKアニメ「アニメ三銃士」の主題歌「夢冒険」もヒットを飛ばし、翌年の春の選抜の行進曲にも使われた。酒井法子の「うれピー」だの「いただきマンモス」だのといった「のりピー語」も、いかにも事務所の戦略としか思えなかったがこの人のキャラクターの売りにはなった(嘉門達夫の替え歌メドレーで「おかしな言葉をしゃべる酒井のりピー♪」(赤いスイートピーの替え歌)ってのがあったなぁ)。そんなこんなで彼女が「アイドル」としての絶頂期ともいえる時期に出たCD-ROMゲームがこれである。

 ファミコン時代から「タレントゲーム」なるものは存在したが、PCエンジンのCD-ROM2システムはCDによる音楽はもちろん、ちょっとした写真や動画の再生も可能な「マルチメディア」ということで、その初期から芸能ビジネスでの利用が模索されていた。CD-ROM2第一弾ソフトに小川範子を起用した「No.Ri.Ko」(’88)があったことが象徴的だ。そちらの発売元はCD-ROM2の実質的開発者であるハドソンだったが、アイドルソフト第2弾はずばり音楽業界であるビクター音楽産業からの発売、そして偶然にもおなじ「のりこ」を起用することとなった。酒井法子、当時うら若き花の18歳である。

 ゲームを起動すると、操作方法の説明のモードが目に入る。これを選んでみると、なんとのりピー自身が写真と声でパッドの操作方法、ゲーム中のセーブ方法などを説明してくれるのだ。聞かなくても分かるような説明なのだがそれだけで聞いてみる価値あり。ちなみにこのCD-ROMのトラック1「警告」の声も彼女が担当しており、貴重な存在となっている。


◆なんか変だけどそこそこ面白いアドベンチャー

 ゲームはのりピーファンである男の子(プレイヤー)が、TVで酒井法子の出演番組を見ているところから始まる。ここで「夢冒険」全曲が酒井法子の写真画像演出と共に流れる!まさにCD-ROMの特性をいかんなく発揮する場面といえるだろう。彼女の歌は他に「GUANBARE」「星屑のアリス」「Love Letter」の4曲が収録されていてゲーム中の要所要所で歌われ、説明書にも歌詞が全部載せられている。この説明書、操作の説明以外に酒井法子の可愛い写真も数枚載せられており、なんだか音楽CDジャケットのノリでもある。
 さて「夢冒険」を歌い終わったのりピーが、突然異空間へ吸い込まれて消えてしてしまう!「のりピー」を助けなきゃ!と決意した主人公、その途端どういうわけか彼までTVの中の、さらにその中の異空間へ飛ばされてしまい、ちょっとファンタジーっぽいこの世界の中で大魔王にさらわれた「のりピー」を救出すべく奮闘する…というのがこのゲーム。とりたてて特徴もない、よくあるコマンド総当たり式のアドベンチャーだ。

のりピーとの通信場面 タイトルにある「鏡の国」というのは、前半で「鏡」が重要なアイテムになっているから(というか、おそらく「鏡の国の〜」というタイトルが先に出来ちゃってそれからシナリオを考えたのだと思う)。住人が全て鏡に変えられてしまった村に入り、鏡たちにあれこれ話を聞いて「勇者の鏡」を集め、村人を鏡に変えた魔女を倒す、というのが前半の展開。途中で手に入る「コンパクト」は、「愛する人との通信ができる」ということになっていて、このコンパクトを「使う」というコマンドを選ぶと、コンパクトの中に「のりピー」の姿(写真取り込み)が現れ、ゲームのヒントをくれたり、意味もなく励ましたりしてくれる。もちろん全て酒井法子の肉声だ。
 本人から言われるようにしょちゅう話しかけてみると表情やセリフなどリアクションのバリエーションは結構多く、場面によっては歌を歌って相手を感動させたり、プレイヤーが眠りに落ちるのを防いだりといった「活躍」も見せてくれる。アイドルをゲーム中でどのように生かすかは難しいところだと思うのだが、このゲームは「コンパクトによる通信」というアイデアでうまいことそれを解決している。 
 
 対象年齢をどの程度に狙っているのかよく分からないのだが、ゲームそのもののかもしだす雰囲気は中学生対象ぐらい…かなぁ?思いのほか子どもっぽい世界観で、カエルやらカニやらドラゴンやらパンダやゾウまで、ヘンなキャラがぞろぞろ出てきて肉声でしゃべる。一部に即ゲームオーバーのトラップもあるが、警告はされるし、常識的に行動していればまず詰まることなくエンディングまでいけるはず(なお、行き詰まった人は「鏡の国のレジェンドヒント係」までお葉書を、という案内が説明書にある。どれほどの人が送ったものか)。プレイ時間は3〜4時間というところだろうか。
 一部のバッドエンドへのトラップや、ラスボス戦の手順を間違えると酒井法子の泣き顔と共に「かなピー」「くやピー」の文字で画面が埋め尽くされる(笑)。すぐにその前からやり直しになるので困ったことにはならないけど。

 途中には森林やジャングルの中を「東西南北」を選びつつ進むちょっとした迷路もあるし、館内や洞窟ダンジョンの探索では当時としては珍しかったであろう、バーチャル感覚を感じさせるスムーズな「三次元移動演出」が入っていて、飽きさせない工夫は多々ある。プレイしていて思ったのだがハドソンから出た「うる星やつらStay With You」(’90)によく似た仕掛けが見られるので、もしかすると開発スタッフがかぶっているのかもしれない。
 途中のダンジョン探索で「なぞなぞ」が連続して出題されるのだが、いずれも3択問題で、厳密には「なぞなぞ」ではなくクイズ。外してもすぐやり直せるのでそれほど困るものでもない。最後の問題は出題者も難しくて分からずそのまま通してくれる、というのには笑ってしまったが。


★「アイドルゲーム」模索期の一作

 ラスボスを倒すと、めでたく「のりピー」は救出されエンディングへ。なんで彼女が大魔王にとらわれたかといえば、「実は私、この夢の国ファンタジアの王女で、あなたの世界には修行に来ているの」とお姫様姿になったのりピーご本人がビックリするようなことをおっしゃる!おいおい、魔法使いサリーじゃないんだから、現実に存在するアイドルにそんな設定を作っちゃっていいんかい?もしかして変なクスリやってない?ってツッコミを入れちゃうのはもちろん今プレイするからだが(笑)。

 エンディングロールは酒井法子の「LoveLetter」が流れるなか、ドラゴンの背に乗ったのりピーとプレイヤーが現実世界に戻るべくファンタジアをスクロールで飛んで行く絵が映り(どこか「ドラゴンスピリッツ」っぽい)、そこに出演・スタッフロールがかぶさってゆく。「出演:のりピー」は当然だが、プレイヤーは「真の勇者」として、ゲーム中に登録した名前でクレジット表示されるという粋なはからいがある。

 そう、コンパクトでのりピーと通信ができるようになったところで、彼女から名前を効かれてプレイヤー自身の名前を登録する箇所があるのだ。するとのりピーがその名前を「○○○クン!」と肉声で読み上げてくれる(単に五十音全てを録音したやつをつなげて再生するだけなので思い切り棒読みだが)。エンディングでは一音一音の発音する様子の写真とりこみを連続再生して名前を呼んでくれるサービスつきだ。ここで変な言葉を登録してのりピーにイケナイ言葉を言わせるヤカラも多かったとかなんとか(笑)。こうしたお遊びは後のアイドルソフト「井上麻美この星にたった一人のキミ」(’92)にも引き継がれている。

 このゲーム、調べて見たところ「ファミコン通信」の「1989年ベストゲーム大賞」で、記者選出の「演出賞」を受賞しているので、ある程度話題にはなったらしい(当時のファミ通クロスレビューの採点は未確認。情報求む)
 PCエンジンCD-ROM2でのアイドルゲームは、このあと西村知美を起用した「迷宮のエルフィーネ」(’90)というのも発売されるが、そこでは西村知美自身の実写はいっさい使われず、アニメ絵に本人の声だけの出演という形になった。実写を使わなかった理由はこの「鏡の国のレジェンド」をプレイしていても分かるのだが、やはりPCエンジンの発色表現では写真そのものとはいかず、御当人の可愛さがかなり減退してしまうからではないかと思われる。PCエンジンCD-ROMそのものからデビューとなった井上麻美もSCDでソフトが出されたが、やはり実写に関してはキツいものがあった。
 結局のところCD-ROMによるアイドルソフト、芸能とゲームメディアの融合はほとんど不発に終わったというのが実情だと思う。より発色数や表現力が増した32ビット機においてもこの手の企画はほとんど現れていないのもそれを証明している。だからかえって本作のように「CD-ROMはどう使えるか?」と作り手もワクワクしている段階のソフトって、今見ると新鮮な面白さがあり、ゲーム史的な貴重さを感じてしまうのだ。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.310
4.234
3.378
3.795
3.719
3.712
23.148
第110位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★

(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真

ウォルフ中村

小野泉

山崎拓


★「ファミコン通信」誌「’89ベストヒットゲーム大賞」
演出賞受賞

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