井上麻美・この星にたった一人のキミ  
ジャンル:アイドルアドベンチャー
媒体:SUPER CD-ROM
発売元:ハドソン
発売:1992年12月25日
価格:5800円
商品番号:HCD2035


◆史上初?“CD-ROMアイドル”のアドベンチャー

外見 今さら言うまでもないことだがPCエンジン最大の功績の一つに、それまでお堅い領域での利用が考えられていたCD-ROMというメディアを家庭用ゲーム機に導入してかなり身近なものにしてしまった、ということがある。PCエンジンはその開発当初からCD-ROMの導入を念頭においており、これをゲームだけにとどまらず百科事典的データベースやカラオケなど音楽産業と結びつけた展開まで構想されていた。まさに「マルチメディア」としての利用が考えられていたわけだ。
 結果的にこのマルチメディア構想はあまり成功せず結局ゲームオンリーになっていくわけなんだけど、そういう構想もあったためにCD-ROM2(ロムロム)初期ソフトにはゲームの枠から外れた意欲的な実験的企画がいくつか目に付く。その中の一つに「アイドルソフト」というジャンルがある。あ、もちろん当時のゲーマーの大半は男の子であるわけで、女性アイドルに限られます。
 CD-ROM2発売同時ソフトはあの「ストリートファイター」を移植した「ファイティングストリート」(’88)ともう一つ、当時のアイドル小川範子を主役にしたアイドルソフト「No.Ri.Ko」(’88)だった。翌年には酒井法子を主役にした「鏡の国のレジェンド」(’89)があり、西村知美を起用した「迷宮のエルフィーネ」(’90)なんてのもある。音楽も写真も、ちょっとした動画も表示できるCD-ROMに芸能界も注目したところが多少あったのだろう。ファミコンでもアイドルゲームがなかったわけではないけど、表現能力がまるで違うもんな。

 こうしたアイドルものCD-ROMソフトの極北とも言える企画が「みつばち学園」(’90)だ。「みつばち」の名で察せられるようにハドソンが音頭をとった企画で、これはアイドルの卵たちを集めて出演させた「オーディションソフト」だった。合計20人の美少女達が出演した実写とりこみアドベンチャーで、クリア後にプレイヤーに人気投票をしてもらいグランプリに輝いた子には実際にアイドルとしてデビューしてもらう、という斬新といえば斬新な企画だった。
 で、その「みつばち学園」で見事グランプリに輝き、ファンハウスからデビューとなった「CD-ROMアイドル」が、当時15歳の井上麻美嬢だった。「みつばち学園」では冬組所属で生徒名簿では20人中一番最後に表示されている。それがグランプリ獲得の大きな要素だったりしないだろうか、などと意地悪なことを考えてしまうぐらい、ゲーム中ではこれといって目立つ少女ではなかった。だいたい「みつばち学園」自体写真取り込みにさすがに難があって女の子達の可愛さが半減していたり、ストーリーの都合で一人一人の個性が目立たなかったりと「オーディションソフト」としてはかなり疑問符だらけのソフトだったので、この投票がどれほど意味があるものだったかは分からない。

 ま、とにかく井上麻美ちゃんはめでたく選ばれてデビューを果たした。芸能界、しかもアイドル関係にはまるっきり疎い僕などにはさっぱり記憶にないのだが、そのときはそれなりに売り出しをかけていたのだろう。「CD-ROMから生まれたアイドル!」ということで当然PCエンジンで彼女のソフトを作らないわけにはいかない、と生みの親でもあるハドソンにより製作されたのが本作「井上麻美・この星にたった一人のキミ」だ。
 既成の人気アイドルならともかく「自家製アイドル」を主役にしちゃった宣伝CD-ROMゲーム、というわけでどれほど売れたのかはかなり疑問。はっきり言ってPCエンジン界のみの有名アイドルだもんな、彼女。結局その後彼女がどうなったのか、僕はまるっきり知らないのだが。


◆とことん「麻美ちゃん」づくしの三本立て

 このゲームは分岐ありのアドベンチャー。プレイヤーは麻美ちゃんの夢を見て(笑)朝起きると、入学したばかりの高校へと急ぐ。ここで朝食を食べるか食べないかでまず大きくストーリーが分岐し、麻美ちゃんと初対面か幼なじみかという違いが生じる。このほかにも数箇所で選択による分岐があり、大きくは三つの異なるストーリーが展開されることになっている。
 一つは「探偵編」で、入部する部活動を探しているうちに廃部寸前の探偵部に入ることになっちゃった麻美ちゃんとプレイヤーがとんでもない「入部テスト」を体験させられることになる一本。もう一つは「アイドル編」でスーパーアイドルの麻美ちゃんのマネージャーをつとめることになったプレイヤーが悪戦苦闘、というお話。もう一つは「お江戸編」で、体育館でみつけたタイムマシン(おいおい)に乗って恐竜時代経由で江戸時代に行った二人が、麻美ちゃんとソックリな「麻美姫」(…汗)と出会って大騒動、ってなお話。

ゲーム画面 まぁあえて申し上げればお話じたいは決してつまらなくはないのだ。作っているほうもおふざけ半分の軽いノリだから(しかし「せ〜ぶ」とか「コンサ〜ト」とか「〜」を多用するのはやめてほしかった)、ちりばめられる楽屋オチも、ご都合主義な展開も、トンデモない脇役キャラの数々も許されるところであろう。絵が可愛くコミカルな漫画タッチで統一されているのもマッチしていると思える。なにせ「みつばち学園」ではこれが全て実写取り込み(背景も変な脇役キャラも含めて)で、見ているほうを大いに寒からしめるものがあったんだから(笑)。
 いっそのこと全部イラスト調CGにして麻美ちゃんは声のみの出演にしたほうがよかったんじゃなかろうか、などと暴論を吐いてしまいたくなるほど麻美ちゃんの実写とりこみ部分はかなり浮いてしまう。もちろんこれがなかったら「アイドルゲーム」にはなりえないのだろうが。

 実際、麻美ちゃんの写真は大容量を生かしてこれでもかとばかりにたくさん収録されている。町に洋服を買いに行くと様々な服に着替えた麻美ちゃんの写真を拝むことが出来るし、部室訪問でも各部室でいろんなユニホームを身につけた写真がいっぱい見られる。タイムマシンに乗る話では、なんと麻美ちゃんの赤ちゃん時代からのアルバムまで見られるサービスぶり(笑)。
 ただし、残念ながらこれらの写真はPCエンジンの解像度・色数の壁に阻まれて、かなり汚く表示されてしまう。全画面アップのものはまだ見られるレベルなのだが、小さい写真になると一部には何が映ってるんだか判別不能なほどのものもある。こういうのを見てると32ビット機を待つべきだったな、と思うところもある。後継機PC-FXの「アニメフリーク」シリーズでは「声優アイドル」を実写動画や写真で特集し、それなりに成功していたので(まぁ僕には理解不能だったが)

 アイドルだから当然、ということでオリジナル曲も三つ披露してくれている。ゲーム中カラオケに行ってリクエストするとちゃんと歌ってくれるところもさりげなく嬉しい(笑)。それと意外なコーナーもあって、ゲーム中「美術館」に行くと学研の雑誌「BOMB!」で募集したファンによる麻美ちゃんの似顔絵展覧会なんてものまで見られる。これがどういうわけかかなり不気味なものが多く選ばれていて(笑)、それを一つ一つ褒めて解説している麻美ちゃんがちょっと痛々しい。だけどこの似顔絵解説部分、麻美ちゃんがいつものシナリオ棒読みでなく自然に話してくれているところが救いといえば救いだ。

 話す、といえばこのゲーム、「みつばち学園」のシステムを受け継いでいて、ゲーム開始時に自分の名前を登録しておくとエンディングで麻美ちゃんがその名前を「大好きよ!○○くん!」と肉声で呼びかけてくれるのだ。もちろん一音一音を別々に録音してそれを連続再生しているだけなのでかなり不自然な発音になっているんだけど…。
 この名前登録発音システム(勝手に命名)、けっこう長い文字数も登録できるので、ふざけた言葉やイケナイ言葉を登録し麻美ちゃんにしゃべらせて楽しむという不逞の輩が続出したというのは密かに流布するPCエンジン界伝説である(爆)。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.78
3.44
3.00
3.22
3.22
3.44
20.00
第448位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
井東進之介

エドモンド糸井

マリリン沢田

おのせ八郎


★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

ジョルジュ中治

渡辺美紀

TACOX



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