機動警察パトレイバー グリフォン編  
ジャンル:デジタルコミック
媒体:SUPER CD-ROM
発売元:リバーヒルソフト
発売:1993年9月30日
価格:7200円
商品番号:RHCD3006


◆「メディアミックス」戦略のデジタルコミック

商品外見 「機動警察パトレイバー」の名前を全く知らないというゲーム・アニメファンはまずいないだろう。1988年に押井守監督によるオリジナルビデオアニメとして世に送り出され、同時に発案者でもある「ゆうきまさみ」によるコミック版も雑誌に連載された。1989年と1993年には押井監督の映画版も公開されそれぞれに高い評価を受けた。その後も映画、TVアニメ、小説などが展開され、驚いたことに誕生から四半世紀も経ったころになって実写映画版までが製作されるなど、実に息の長い人気を保ったシリーズである。

 一つの素材をさまざまなメディアで展開する「メディアミックス戦略」は現在ではすっかりおなじみになっているけど、「パトレイバー」はそれを初めから強く意識して展開した最初の例だったように記憶している。このゲームに収録されている出渕裕氏のインタビューでも「あと残るは舞台と実写」なんて発言があったくらいで(20年後に実写が実現するとは…)、「パトレイバー」ワールドを素材にしたゲームも数多く製作され、パソコン、スパーファミコン、メガドライブ、PCエンジンと当時の全てのマシンで「パトレイバー」のゲームが出ている。中でもこのPCエンジンSCD版は「ゲーム」というよりもCD-ROMという媒体を生かしたアニメとゲームの中間的存在、「デジタルコミック」として製作されている。

 実は僕がこのゲームを実際にプレイしたのはつい最近のことなのだが、このゲームの「予告編」は発売当時に拝んでいた。当時小学館から不定期に発売されていた「PCエンジンCD-ROMカプセル」の第3号に、この「パトレイバー」の予告編が収録されていたのである(小学館が版権をもっていたせいもある)。このシリーズにはゲームの「体験版」を収録することもあったのだが、デジタルコミックである本作については「体験」させるのではなくゲームの雰囲気を映画の予告編みたいに見せる「デモ」のみが収録されていたのだ。
 プレイはできず、ただ眺めるだけのものなのだが、当時としては結構インパクトはあった。「特報」と銘打たれたこの予告編デモでは「驚異のメディアミックス戦略がPCエンジンへの侵略を開始した…」と銘打ち、主人公・野明と遊馬の二人が掛け合いをしながら内容を紹介、実際にゲーム中で展開される「動くアニメ映像」がちょっとだけ披露されていたのだ。今から見れば大したことはない、結構カクカクして色数もすくなく、動いてるのも画面内の一部分だけで、およそ「フルアニメ」なんて言えるものではないのだが、当時にあっては十分すぎるほどよく動くアニメだった。CD-ROMを普及させていたPCエンジンでは「アニメ」的なビジュアルシーンは当たり前のものにはなっていたのだけど、この予告編では小さく、短いながらも本当にアニメのようによく動く映像が出ていて、当時は素直に感心したものなんである。

 開発・発売元は「リバーヒルソフト」。福岡に拠点を置いていたソフトハウスで、おもに自社パソコンゲームの移植でPCエンジンに進出していた。SCDのデジタルコミックでは「トップをねらえ!」シリーズ2作の実績もあり、本作でもアニメに迫るビジュアル演出の技を披露してくれている。SCD終盤に多くの作品を出し、後継機PC−FXでも「卒業II」(’94)「ブルー・シカド・ブルース」(’95)といったゲームを発売していた。残念ながら2004年に倒産、消滅している。


◆完全に一本道の「操作できるアニメ」

 「パトレイバー」は最初のOVAシリーズと映画版2作しか見ていないので、このゲームが素材としている「グリフォン編」についてはやや疎い。ゆうきまさみによるコミック版は連載当時一部見ていたので、その最初の部分に重なるということは分かっていたのだが…。このゲームは発売当時の最新作である第二期OVA版をベースにしていて、特にその第7巻の内容をほぼそのままトレースしている。TVシリーズで描かれたイングラムとグリフォンの以前の対決や背景設定、各登場人物の過去などの前座話はいっさい説明もなくセリフでほのめかされるだけ。説明書に一応それまでの展開の簡単な紹介はあるんだけど、いささか不親切な作りとも思える。グリフォンばなしの最初から収録するとか、オリジナル展開の話にするとかは、できなかったのかなあ?

 超高性能、戦闘用の「黒いレイバー」こと「グリフォン」が暴れ、特車2課の「イングラム」と対決、姿を消してからしばらくのちの、西暦1999年の年末。「シャフト」にいる謎の男・内海はさらなる陰謀をたくらみ、「グリフォン」のパイロット、ゲーム少年のバドは「お姉ちゃんとの決着をつける」といきまいていた。一方の野明たち特車2課第二小隊の面々はいつものマイペースな日常を送っていて、野明はバドのことをただの「天才ゲーム少年」としか思っていない。だが「黒いレイバー」の出没に遊馬や後藤隊長、松井刑事らは陰謀のにおいをかぎとって調査も進めていた。そんななか爆弾によるトンネル火災が発生、第二小隊が出動していた隙に、グリフォンは特車2課の新鋭機「ピースメーカー」をあっさり撃破してしまう。いよいよ野明の「イングラム」とバドの「グリフォン」の対決の時が迫るのだった…
 
 といった感じで始まる本作。作り自体はオーソドックスなアドベンチャーゲームで、プレイヤーは主人公・泉野明と一緒に行動し、表示される「見る」「話す」「移動する」などのコマンドを選んでストーリーを進めていく。ストーリー分岐や謎解き要素、アクション要素などはいっさいなく、「詰まる」ようなこともない。必要な情報を得れば先へ進んでいくシナリオで、一応各場面で一通りのコマンドを選ぶ必要があるのだが、ポンポンとテンポよくすすんでいくし、一度聞いたセリフは二度目からは音声なしになるのでストレスはほとんど感じない。
ゲーム画面 CD-ROMゲームだけに、アニメとおんなじ声優陣による肉声で展開されるデジタルコミックというのは、当時としては結構インパクトがあった。OVA版をほぼ完全になぞった展開なので絵もセリフもそのまんまなのだが、聞く限りでは一応本作用に改めて声の収録が行われているらしい。ストーリーは一本道だし、プレイヤー自身がしなくちゃいけないことはコマンド選択しかないのでかなり退屈しそうなのだが、おなじみの登場人物たちがおなじみの声で掛け合うやりとりはやっぱり面白くできてるし、デザインや操作性も良好で、見るだけのアニメとはまた違った「操作できるアニメ」としての面白さはあった。プレイ時間は1時間ちょっとというところなので、ボリューム面では物足りなかったけど。

 絵はアニメの原画から起こしているのだろうか、かなりのハイレベル。さすがに解像度と色数は落ちるのだけどこの当時としては最高のアニメ絵と言っていいだろう。会話で表示される小さいドット絵も原画とそう違和感を感じない。
 また随所でウィンドウが開いてそこに1〜2秒程度の「アニメ」が入り、これまたアニメ会社の方でベースになるものを作っているんだろうか、ほんの一瞬ながらなかなかよく動く。「ここが見せ場!」というような大アクションよりも、人間やメカのさりげない動きが自然に入るところが多く、これがいいアクセントになっている。「動く絵」となるとSCDではどうしても読みこみ時間が発生するのだが、一つ一つのアニメのデータ量は少なくしてなるべくストレスを感じさせない工夫はしている。もっともアニメ表示が短すぎて、止め絵とセリフで補足する場面も多く、大がかりなアクション場面など何が起こっているのかよく分からないところも目につく。
 ゲームをクリアすると、最初のメニュー画面に「野明の部屋」というコーナーが出現し、ここを選ぶと野明の部屋の中のTV画面に、ゲーム中使われたアニメを映して鑑賞することができる。わざわざそんな鑑賞モードを作ってしまいたくなるくらい、当時としてはかなりインパクトのある挿入アニメだったんだよな。


★おまけもいろいろの「ファンディスク」

 デジタルコミックとしては上出来の部類なのだけど、いかんせんボリュームが…とは誰もが思うところで、さすがにいろいろと本編以外の「おまけ」もついている。当時目新しい媒体であったCD-ROMの特性を生かした音声、特にアニメ作品ならではの「声優」を生かした企画が多い。

 遊べるミニコーナーとして「じゃんけんポンゲーム」なんてのがある。これはパッドを使ったじゃんけんゲームで、対CPUもしくは対人で遊べる。SDチックにデザインされたレイバーどうしの対決を「じゃんけん」で行い、勝った方が相手に攻撃をかけてダメージを与えられ、これを格闘ゲーム風に進めて相手を倒した方が勝利、というものだ。ま、ホントにおまけのミニゲーム。ルール解説を後藤隊長がやってくれるのがちょっと嬉しい。

 デジコミ中に登場する4体のレイバー解説もあり、それぞれの操縦者、あるいは整備の榊さんらが肉声で解説してくれる。他にも出演している声優さん6人がそれぞれの役や「パトレイバー」について肉声で語ってくれるコーナーとか、特車2課の広報ラジオ番組という設定のハチャメチャDJコーナーなど、原作ファンや声優のファンには結構喜ばれそうな企画もある。
声優インタビュー 特にメイン6人の声優さんたちが役を離れて「素」で肉声を聞かせてくれてるところは短い時間ながらも貴重で、おまけにご本人の顔写真まで載っている。今は亡き鈴置洋孝さんのコーナーはとりわけ貴重なんだけど(バド役の子との共演について「まともな人生を歩んでいればこんな子がいたのかな」と述懐してたりする)、顔写真がなんでこんなのなんだろ(右図)
 このゲームの宣伝用に製作された「予告編」を鑑賞するコーナーもある。「PCエンジンCD−ROMカプセル」に収録されていたものは野明と遊馬が掛け合うものだったが、それ以外にも進士と太田、榊と後藤、シャフトの面々たちが掛け合う別バージョンもあり、全部で4パターンが見られる。それぞれなかなか凝った造りなのだが、他の三つは宣伝用に売り場ででも流したのかな?

 ほかに「パトレイバー」の原作者にあたるグループ「ヘッドギア」のメンバー、原案と漫画を担当したゆうきまさみ、キャラクターデザインの高田明美(PCエンジンユーザーには「PCエンジンFAN」誌の表紙担当としておなじみだった)、メカニックデザインその他の出渕裕の三氏のインタビューも収録されている。三氏とも表示されるのは自筆イラスト、音声のみの御出演で、出渕氏以外はあまり長くはお話になっていないのだけど、「パトレイバー」ファンには製作舞台裏を作り手の肉声で聞けるという貴重なコーナーだ。

 7200円もする一本のゲームとしてみると、どうしてもボリューム不足が否めない本作。それでもこうした細かいおまけがちょこちょことあるので、「パトレイバー」ファン向けの「ファンディスク」と割り切ってみれば、まずまずの一枚と思える。ただ、どのコーナーも一度見ればそう繰り返し見る気になるものでもないしなぁ…


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.460
4.010
2.950
3.760
3.610
3.690
23.39
第96位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★

電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
65
ウォルフ中村
80
パトリオット佐藤
85
メタラー佐々木
75

★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
TACO・X
ローリング内沢

野田稔

鈴木ドイツ



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