うる星やつら★STAY WITH YOU★
ジャンル:デジタルコミック
媒体:CD-ROM
発売元:ハドソン
発売:1990年6月29日
価格:6500円
商品番号:HCD0011
◆超人気アニメ初のCD-ROM化
「うる星やつら」。いわずと知れた漫画家・高橋留美子の出世作にして、1980年代を代表する一本と言っていい作品だ。トラジマビキニでなぜか「だっちゃ」と東北風なまりでしゃべる美少女宇宙人「ラム」ちゃん、その「ダーリン」であるにも関わらず宇宙一のナンパ浮気男である「諸星あたる」、そしてその周囲に群がる数々の美少女や個性豊かな男たち(というか変人ばかり)とが織り成すドタバタ騒動をしつっこく描き続けた、ほんわかSF風味(?)のラブコメディーだ。
この漫画はTVアニメ化、さらにアニメ映画化もされ、ちょっとした社会現象ともいえるほどの巨大な存在となっていった。それ以前からぼちぼちその予兆はあったとはいえ、やはり今日につながる「美少女もの」ひらたく言えば「オタク文化」がある程度の市民権を得て表面化してきたのはこの作品によるところが大きかったのではないかと思われる。アニメ美少女を使ったエロ同人誌とかコスプレなどもこの「うる星」あたりから目立ってきたはず。いや、今なおこの「うる星」ネタはオタク文化の中に脈々と受け継がれているぐらいだが…もう20年も経っちゃった作品なんですな、今にして思うと。
原作漫画は1987年まで連載され(僕はこの連載最終回の載った「少年サンデー」をいまだに保存していたりする)、TVアニメは1981年から4年間放映され、その後も映画やOVAで製作が続いた。が、いずれにしてもこのゲームが発売された1990年ともなるとさすがに「ちょっと前に流行った作品」という空気が否めなかったところ。実際、このゲームのおまけモードの中で出演した声優さんたちの多くが「久しぶりに『うる星』がやれて楽しかったです!」と発言している。むしろこのころは高橋留美子が「うる星」に続いて描き始めた「らんま1/2」がブームになりつつあった時期で、PCエンジンでもこのソフトと同年に「らんま」のゲームが発売されている。
そう考えると人気が衰えてはいないとはいえ、なぜこの時期に「うる星」だったのか?という疑問もわいてこないでもない。もっともこれ以前にPCエンジンCD-ROMのデジタルコミック第一弾として「コブラ・黒竜王の伝説」(’89)が発売されていてこっちはそれこそ大昔の原作だった。この時期のCD-ROM2システムってそもそも高価で普及台数も家庭用ゲーム機としては決して大きいもんじゃなかったから、ユーザーはやや年齢層が高く、かつマニアックな傾向が強かったはず。旧作でもいいから作品の知名度と製作者の趣味(笑)を優先して素材を選んでいたりしたのかも…と事情を知らない私は勝手に思ったりもする。
いろいろとメディア展開した「うる星」だが、当然CD-ROMゲーム化はこれが初めて(のちにメガ-CDでも出た)。この時点では「CD-ROM」はまだまだ物珍しいメディアで、先述の「おまけモード」でしゃべってる声優さんたちの言い方にも「慣れないことをした」という空気がなんとなく感じられる。ゲームソフトでありながら動画や声が入れられる、いわゆる「マルチメディア」などとくくられていたCD-ROMってどういうもんなんだろう?と世の大半が思っていた時代である(僕もそうだった)。作り手だってCD-ROMのなんたるかを模索していた時期であり、このため初代CD-ROMシステム時代のソフトには「試行錯誤」と「実験精神」にあふれた独特の面白さが見受けられる。この「うる星」はそんな中ではかなり一般向けのソフトだが、この時期特有の面白みは確かに含まれている。
◆気分は「操作できるTVアニメ」?
アドベンチャー型のゲームの多くがそうであるように、この「うる星」もミステリー仕立てのストーリーとなっている。先述の「コブラ」は完全に原作ストーリーに忠実な内容となっていたが、この「うる星」はゲーム用の完全オリジナルストーリーだ。
あたるやラムと同じ友引学園に通う「しのぶ」が突然ロボットらしき何者かに襲われて失踪。プレイヤーは「あたる」を演じ、ラムと一緒に学園内から捜査を開始、竜之介、ラン、サクラ、錯乱坊、面堂、弁天などなど原作でもおなじみのキャラクターたちと次々に会い、話を聞いてあちこちの現場を調べては先へと進んでいく。基本的に「コマンド総当り」方式の、特に工夫もないアドベンチャーで、行き詰まって困るということはほとんどなく(ヒントも出るようになっている)、スムーズに物語が進んでいく。
表示される絵のバリエーションもさすがCD-ROMだけに豊富で、見せ場ではウィンドウではなく画面全体の一枚絵が表示され結構アニメーションもしてくれる。もちろんさすがに今となってはTVアニメに比べると見劣りを感じざるを得ないドット絵なのだが(技術向上によりPCエンジン終盤ではTVアニメ並みといっていい絵も出てくるが)、そこそこ原作・アニメのイメージを崩さない程度の絵にはなっている。そして何と言ってもTV版と同じ声優さんたちがほとんどフルボイスで(一部声が入ってないものもある)セリフを吹き込んでいるから、気分的には「操作できるTVアニメ」として楽しめる。これ以前にファミコンやパソコンで人気アニメ作品を素材にしたアドベンチャーゲームは山と作られてきたが、本作はTV版とまったく同じ声優を総動員することによって初めて本格的に「TVアニメのゲーム化」を実現した作品だと言うことも出来る(先行する「コブラ」は素材の人気度・声優出演量ではまだまだだと思う)。これはPCエンジンCD-ROMが切り開いた大きな功績の一つと思うが、その後この手の、アニメ人気にいっそう寄りかかった少々安易な作りのソフトが多産される原因にもなっちゃうんだよな。
アドベンチャー部分における画面構成は、セリフ・メッセージが上、コマンド選択が右、画面が左下という配置になっている。僕自身はそんなに多くのアドベンチャーゲームを遊んだわけではないので自信が無いのだが、メッセージが画面上方に配置されているというのはちょっと珍しいのではないだろうか。たいてい表示される画面が上、メッセージが下になっているものではないかと。プレイしていて特に違和感を感じなかったのは、セリフの大半が肉声で聞こえること、各メッセージは短く作られているしIボタンを押しているとメッセージの早送りができ(声は普通のスピードで最後まで出るけど)、メッセージ部分に面倒や苦痛を感じなかったせいもあるかと。
画面下方に表示される画像ウィンドウだが、その後の同種のゲームに比較すると明らかに小さめ。そのためドットの荒さが目立つ絵も少なくない(その中ではかなり頑張ってるな〜とは思うけど)。これは先行する「コブラ」にも言えることで、やはり初代CD-ROM2システムのバッファ容量の制限に起因するものだろう。そのぶん細かく絵を切り替えたり声に合わせてちゃんと動き、節目節目で大画面を表示して見せたりと飽きさせない工夫はちゃんとしてある。
またコマンド選択式のアドベンチャーゲームの常である「同じセリフを何度も読まされる」点についても一度聞いたセリフは肉声が出ず早送り可能でそうイライラはしない。うっかり間違えたコマンド選択をしてもメッセージが出る前ならIIボタンですぐ取り消せるのも当たり前とは思いつつ配慮はある。「話す」と「聞く」、持ち物の「調べる」と「使う」の区別をわざわざする必要があったのか、と感じたところはあるけど。
◆アニメとゲームの境界線で
しばしば「電脳紙芝居」などと言われる、この手のデジタルコミック。本作も確かにストーリー分岐があるわけでもなくスタートからラストまでほとんど一本道だし、とくに難解な謎もなく、敵との戦闘で殺されるようなことも無い(笑)。
物語は全4章構成になっていて、ACT1は失踪した「しのぶ」を探して友引学園と面堂家での捜査。ACT2ではいきなり海王星に舞台が移り「しのぶ」以外の美女・美少女たちが次々と失踪しついにラムまでが何者かにさらわれる。ACT3では彼女たちを救うために時空を越えた不思議世界へ。ACT4もそれに続く変な世界になっていくのだが、総じて「うる星やつら」らしい、日常ドタバタSF風味のシナリオ。ゲーム用のオリジナルストーリーながら、原作の雰囲気を忠実に出せたなかなか優秀なシナリオだと思う。しばしば挿入されるギャグの数々に笑いつつ、多少のサスペンスにハラハラしながら(まぁ途中からだいたいオチは見えてしまってるのだが、これも「うる星」的)、一気にクリアまで行ってしまうはず。僕のプレイ時間はだいたい3時間程度ではなかったかと思う。一本のアニメとしてみれば時間的には満足だろう。当時の値段としてはちょっと高めのような気もするが…。
この手の紙芝居的アドベンチャーゲームでは、ただただ話をプレイヤーに「鑑賞」させるだけではなく、何らかの形で「参加」させようとミニゲームを挿入する。この「うる星」も例外ではなく、途中にバラバラになった画面を完成させる16ピースパズル(僕はこれが苦手で…^^;)とか組み合わせにより複数のレバーが同時に上がったり下がったりする4本のレバーを全部下げてみろという課題(これは割と簡単。ジタバタやってればたいてい解ける)とか、怪獣とのボクシング(攻撃がヒットする順番が決まっており、しつこく繰り返せば必ず解ける)といったミニミニゲームが入っている。いずれも特に難しいわけではなくゲームを中断するほどのものではない。唯一ちょっと悩んだのがACT3で牢のロックを外すキーワードを入れる箇所で、僕はあれこれ試してダメで一時頭を抱えたのだが、なんのことはない、ちゃんとヒントは出るようになっていた。
これはこのゲームシナリオの核心部分に触れるので遠まわしに書くが、「即ゲームオーバー」になってしまう罠があるにはある。これはゲーム中でしつこく注意されるので察しはつくと思うが。それにゲームオーバーになってもRUNを押せばその手前からやり直せるようになってるので特に心配することは無い。
コマンドを選択して話を聞いていくだけではなく、「東西南北」の方向を選んで移動していくちょっとしたダンジョン探索(?)みたいな部分もある。いずれもそう複雑なものではなく、地図を書く必要まではないはず。また、ACT3では方向キーで前後左右に動いて探索する箇所があり、少々面倒な気もしなくは無かったが単調にならぬ工夫だとは思う。「コブラ」でもそういう部分があったが、CD-ROM2ソフトならではのアニメとゲームのバランスをいろいろ試行錯誤して作っているな、と今では感じる。
無事ハッピーエンドとなって物語が終了すると、スタッフ・キャストロールが流れて「I'll stay withyou...」という文字が表示される画面でゲームエンド。ここで電源を切らないように。この画面で「左」「I」「II」を同時に押しながらRUNを押すと、隠しコーナーに入ることが出来るのだ。これがCD-ROMならではの豪華な「おまけ」で、出演した声優さんたちが総出演し、次々とメッセージを語ってくれるのだ。これは今聞くとなおさら貴重な肉声の数々だと思える。個人的には「因幡」役の鈴置洋孝さんが最初「因幡」の高いトーンのボケーッとした声でしゃべっていたのが急に「いつもは低い声なんですが…」とブライト艦長そのまんまの声になるところで大うけした(笑)。他にも各声優さんたちの生の声が聞けて、実に楽しいコーナーとなっている。
そういえばこのソフトが出た頃がぼちぼち「声優ブーム」などと騒がれだしたころだったろうか。CD-ROMの登場によりゲームに声優さんが動員されるという現象もPCエンジンから始まったもので、PCエンジン専門誌がその末期ほとんど声優雑誌の様相を呈するようにもなっていくのだが、この「うる星」のマニュアルも声優さんの写真とプロフィール紹介に多くのページを割いていて、その方面への力の入れ具合が感じられる。
なお、この声優さんのメッセージコーナーに続いて、実は「裏ストーリー」があることが教えられる。「ビックリしますよぉ〜」と言われつつ指示に従ってRUNを押すと、ANAOTHERストーリーが開始される事になる。まぁちょっとしたおまけということで。
最後にPCエンジン世界における「るーみっくわーるど」について紹介しておこう。実はこの「うる星」の前年に「めぞん一刻」(’89)のアドベンチャーゲームが発売されているが、これはHuCARDということもあって内容はいささか貧しい。CD-ROMでは最初のほうでも書いたように「うる星」と同じ年にアクションゲーム「らんま1/2」(’90)が出ているし、翌年にはアドベンチャーの「らんま1/2・とらわれの花嫁」(’91)が、さらに対戦格闘になった「らんま1/2・打倒、元祖無差別格闘流!」(’92)が発売されている。こうしてみると結構出ているなぁ。
さらに補足をしておくと、本作「うる星やつら」には通常版のほかにCD二枚組構成のスペシャルバージョンもある。これは「CD-ROM2発売2周年スペシャル」と銘打ったもので、「ハドソンCD-ROM2音楽全集」という音楽CDが付属しているものだ。その名のとおり、ハドソンが発売したCD-ROM2ソフトの音楽を集めたもので、「ファイティングストリート」「コブラ」「天外魔境」「モンスターレア」「イースI・II」「イースIII」「みつばち学園」「ぎゅあんぶらあ自己中心派」「J.B.ハロルド殺人倶楽部」のBGMの一部を集めて収録しており、けっこう聴き応えがある。中でも「イース」シリーズはセリフも含めたオリジナル編集のサウンドカタログとなっており、一聴の価値あり。
◎各誌評価
★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
| 音楽
| お買い得
| 操作性
| 熱中度
| オリジナリティ
| 総合
|
4.748
| 4.350
| 4.187
| 4.140
| 4.345
| 4.005
| 25.775
第11位
|
★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
| 採点
|
岩崎啓真
| 8
|
ウォルフ中村
| 7
|
小野泉
| 8
|
ミロはじめ
| 7
|
★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
| 総合評価
|
東府屋ファミ坊
| 7
|
水野店長
| 7
|
森下万里子
| 9
|
TACO・X
| 7
|
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