アーケードカードDUO   
ジャンル:ハードウェア
媒体:カード
発売元:NECホームエレクトロニクス
発売:1994年3月12日
価格:12800円
商品番号:PCE-AC1


◆PCエンジン第三の脱皮を目指して

 時は1993年初頭。PCエンジン市場はすっかり「SUPER CD-ROM2」の世界であった。かつてアーケードの人気作をポンポン移植したHuCARDは容量不足ですっかり見向きもされなくなり、大容量を活かしたビジュアルシーンに凝りまくる、一部に「ビジュアル垂れ流し」と陰口をたたかれるようなソフトが増殖してアーケードゲーマー系のユーザーがPCエンジンから離れていくという状況が生まれていた。その一方で、「ストリートファイターII」がアーケードで大ブームとなり、それがキッカケで格闘ゲームというジャンルが大流行し始め、SNKの大容量ROMマシン「ネオジオ」がアーケードの格闘ゲームをそのまま家庭で味わえるとしてマニアを中心にかなりの普及度を見せた。こうした状況の中でアーケードのアクションゲームの移植の必要性がPCエンジンユーザー側からも、また主催者であるNEC−HEとハドソンからも叫ばれるようになっていた(と思う。あくまで推測)

 恐らくそのころからだと思う、PCエンジンCD-ROMがさらにバージョンアップするんじゃないかという話が出つつあったのは。CD-ROMは大容量ではあるのだが、CDからゲームのデータをバッファRAMに読み込むという手間があり、別のデータが必要になるとまたCDからデータを読み込みをおこなわねばならない。これが当時のことだからCDからの読み込みはカセットROMに比べて圧倒的に遅く(今だって結構遅いと思うが)、ゲーム中しょっちゅう読み込みに行かれるとプレイヤーにかなりストレスがたまるという欠点があった。これも工夫しているソフトではほとんど気にならないんだけど(例:「イースI・II」)、やはりアクションゲーム系にはCDは不向きとみるべきところが多かった。なにせ最初の「CD-ROM2システム」はバッファRAMが500Kしか無かったそうだから。
 その後バッファRAMを一気に4倍の2Mに増やした「SUPER CD-ROM2」でこの読み込みストレスはかなり軽減されたが、やはりビジュアルシーン志向が強い点は否めない。そこへ来て格闘アクションブームである。格闘アクションは多くのキャラパターンをRAMに溜め込む必要があり、SCDですらかなり厳しいものだった(それでも「フラッシュハイダース」とか「あすか120%」とかかなりのレベルのものもあるが)

 PCエンジンで移植希望が延々と叫ばれながら、ハード的制約から無理だろうとささやかれていた「ストII」はなんと20MHuCARDという飛びぬけた大容量カードによりあっさりと(でもないんだろうけど発表は唐突だった。ちなみにそれ以前で最大容量のカードはSG「大魔界村」の8M)実現してしまった。CDで出来ない分を大容量カードROMによって補ったわけだ。その代わり音源はPCエンジン内蔵のものを使用しているためCD並みの音は出せない。
 あくまで推測だけど、このPCエンジン版「ストII」の開発が「18MバッファRAMカード」の実現に影響を与えているような気がする。「これならいけそうだ」とぐらいは考えたんじゃなかろうか、と。

 この「18MRAMカード」登場のアナウンスは1993年、まさにストII発売直後ぐらいから公式に流され始め、夏ごろには「アーケードカード」という正式名称と「年末発売」が公表された。もう名前からして「ゲーセンのゲームを移植するためです!」と言わんばかりのハードで、発売ソフトも「飢狼伝説2」「龍虎の拳」というSNKの人気格闘ゲーム2作。これを足がかりにネオジオの格闘ゲームをジャンジャン移植し、またゲーセン小僧どもをPCエンジンに呼び戻す…という算段だったのだろうな。そしてバッファRAMが増えたことでさらにRPGなどでもハデな演出ができるわい、と(「風雲カブキ伝」のときにハドソンの中本氏がRAM増加によるRPG演出強化を匂わせる発言をしている)。さすればいささか伸び悩みが見えてきていたPCエンジンも復活し、ぼちぼち出てくる次世代機ともある程度並行して生き延びることができるだろう、とまぁそんな目論見を抱いていたのだろうな。実際PCエンジンの生みの親とも言える中本伸一氏は「PCエンジンは21世紀まで生き残る」と発言していたし。


◆のっけからツイてなかった…?

 さて、そんなこんなで期待されたアーケードカードであったが、のっけからアクシデントに見舞われてしまう。当初1993年12月に発売予定だったのだが、世界的なRAM不足のため発売を翌年3月に延期した。僕の記憶では確かこのとき中国の鉱山だか工場だかで大規模な爆発事故か何かが起こり、それがRAM不足の原因だったと一部で報じられていたはず(その後、掲示板で指摘を受けました。正しくは愛媛県新居浜市の住友化学で起こった爆発事故で、この工場がRAMを生産するために必要となるエポキシ樹脂の全世界での生産量の6〜7割を生産していたためRAMの材料が不足し価格が高騰したというのが発売延期の理由、だそうです)。全くの事故なのだが、これがアーケードカードの発売を遅らせてしまった。たった3ヶ月なのだが、この業界ではその3ヶ月のズレが命とりになりかねない。実際、1994年4月の段階で「飢狼2」と「龍虎」は「旬を過ぎた」感がありありだった。しかもこの時期、3DOを皮切りに32ビット次世代機戦争が開始されていたことがユーザーの目をそちらに向かわせたことも否定できない。アーケードカードってパワーアップアイテムにしては結構高めの投資を要求されたからね。

 ダラダラと歴史的状況を書いてしまって本製品の解説が遅れたが、この「アーケードカードDUO」はその名が示すとおり「DUO」に代表される「SUPER CD-ROM2」マシン(2MバッファRAMを最初から持つ)に対応した16MバッファRAMカードである。正確に対応ハードを挙げると、「DUO」「DUO-R」「DUO-RX」らDUOシリーズ、「SUPER CD-ROM2ドライブ」+「コアグラフィックス」など本体ハード、となる。これらと組み合わせることで合計18MのバッファRAM環境が得られるというわけ。そんなに物凄い容量のカードのくせに普通のHuCARDと厚さも見た目も変わらないところがまた渋い(笑)。上記以外の旧式ハードではちょっと厚めの「アーケードカードPRO」が対応する。これについてはそちらの項目を参照のこと。

 この「アーケードカードDUO」の定価は12800円。たかがRAMを増やすために1万円以上も投資すると言うのはさすがに気が引ける人も多かったと思う(「PRO」なんて17800円!)。ま、さすがに秋葉原などでは売るほうもそれを考慮して「飢狼2」など専用ソフトと抱き合わせで1万円とかで売っていたように記憶している(かくいう僕もそれで購入した)。しかしやはりこの高価格が次世代機に目が向き始めたユーザーの「買い控え」意識を誘ったような気はするな。
 
 このカードをHuCARD用スロットに差し込んでハードの電源を入れると、カードを差し込んでいないのと同じ「SUPER CD-ROM2 SYSTEM」の表示が出る。何ら見た目に変わりは無いのだけど、アーケードカード専用ソフトはちゃーんと有る無しを見分けて「無い」とわかれば警告画面を表示する(これがそれぞれ結構面白いのだ)。こうした警告画面はSCD専用ソフトを旧システムカードで立ち上げても出るようになっていて、PCエンジンマニアの密かな楽しみとなっている(笑)。
 なお、専用ソフト以外でもアーケードカードを使用するとデータ読み込み回数が減る「AC対応ソフト」も結構多い。アートディンク作品は特に重宝すると思う。

◆PCエンジン最後のあがきも…

 結局のところ、本製品は「PCエンジン最後のあがき」と言ってしまって差し支えないと思う。これがある程度成功していれば確かにPCエンジンはもう少し寿命が延びてホントに21世紀まで生き延びていたかもしれない(うーん、それはやっぱ無理なかぁ)。しかしのっけから発売延期で出鼻をくじかれ、頼みのSNKも「ネオジオ以外では出さない宣言」をし(ご存知の通りこの公約はすぐに破られるのだが)、肝心のアーケード系ゲームはまるで移植されない事態になってしまった。アーケードカード発売から間もなく大キラーソフト「天外魔境III」のアーケードカード専用ソフト発売も発表されたが(「18Mなら僕の描きたいケレンの世界が実現できる!」と豪語する広井王子さま、懐かしいですねぇ)、これも一年後に後継機PC-FXでの発売に変更されてしまった(で、ご存知の通りこの公約も果たされなかった)。かくして発売後1年でアーケードカードとともにPCエンジン自体の命運も尽きてしまったのである。ソフト自体はしぶとく出たけどね。

 その後のFXのことを思うと、今さらだがアーケードカード専用で「天外III」を作っておいてほしかったところ。そしてひょっとしたらアーケードカード内蔵の新ハードぐらいは出たかもしれない。ただ、アーケードカード専用ゲームってどれも読み込み時間が長いのでCD-ROMドライブを倍速以上にするといったパワーアップが必要だったろう。だけどそれじゃあFXになっちゃうんだよな(笑)。だからFXにPCエンジンとの互換性を持たせりゃよかったんだ…などと愚痴っても始まらないが。

 では、最後にアーケードカード専用ソフトの一覧表をお目にかけよう。発売日順です。

「飢狼伝説2」(94/3/12)
「龍虎の拳」
(94/3/26)
「ワールドヒーローズ2」(94/6/4)
「マッドストーカー FULL METAL FORCE」(94/9/15)
「ストライダー飛竜」(94/9/22)
「バトルフィールドin闘強導夢」(94/11/25)
「餓狼伝説Special」(94/12/2)
「ファイプロ女子憧夢超女決戦 全女VSJWP」(95/2/3)
「雀神伝説」(95/2/24)
「カブキ一刀涼談」(95/2/24)
「銀河婦警伝説サファイア」(95/11/24)
「魔導物語I 炎の卒園児」(96/12/13)

 …うーむ。「スパグラ」よりはマシな状況かな(^^;)。意外とジャンルの幅も広いし。しかし一部を除きアーケードカードのありがたみを感じるソフトがほとんど無いのも事実。完成度が高いのはやはり「飢狼スペシャル」でしょうな。


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