この商品、めったに見かけられるものではなかったんだよね。同じアスキーのスーパーファミコン用スティックは中古屋などで結構みかけるのだが、PCエンジン用にはお目にかかったことは中古屋通いの長い僕にも全然無かったのだ。このコーナーでも一度「未入手」ということで掲載していたのだが、つい先日中古屋に箱入りでひょっこり売られているのを発見、大感激して即購入してしまった。ところがその後別の店を覗いたらそこにもう数百円安い値段で売られていてかなり悔しい思いをしたものだ(笑)。
それにしてもあのアスキーがPCエンジン専用スティックを製造・販売していたという事実に驚かされる。発売時期は1988年年末。PCエンジン史でも最初期に属する時期だ。まだまだソフト本数は決して多くは無い時期だが、「R−TYPE」「妖怪道中記」「スペースハリアー」「ファンタジーゾーン」「ドラゴンスピリッツ」といった、当時のアーケードの名作が続々とリリースされ、世界初のCD-ROMシステムが発売されるなど、PCエンジンという新ハードににわかに注目が集まったころだ。PCエンジン専門誌なんかもだいたいこの時期に姿を現す。アスキーがPCエンジン専用のスティックを発売したのもこのようにPCエンジンが「期待の新世代機」として光り輝いていた時期だったということが大きいのだろう。その後まるっきり出さなくなるけどね(笑)。
アスキーだけでなく本家NECホームエレクトロニクスからも「ターボスティック」が、「ベーマガ」で知られる電波新聞社からもこの時期に「XE-1PRO HE」なる専用ジョイスティックが発売されている(その後PCエンジンを含む各機種対応のスティックも出す)。後期からPCエンジンに触れた僕などにはまるっきり意外だったのだが、この初期段階のPCエンジンがいかに「ゲームセンターのゲームが家庭で遊べる」ということを売りにしたマシンだったのか、これらスティック商品群を見ているとよく分かる。当時はシューティング黄金時代だったということもあってパッドでは飽き足らない人も多いという読みがあったんだろうな。だけどその後あまりこうした商品が発売されなかったことから察するにこれら商品はそれほど売れなかったんじゃないかなぁ。僕自身は「ターボスティック」を所有しているが、正直言ってあまり使いやすいものではない。まぁゲームセンターの雰囲気は楽しめると思うけどね。
この商品、さすがにアスキーなのでちゃんとNEC−HEの許諾を受けた正式サードパーティー商品である。電波新聞社も同様だが、ホリ電機みたいにNEC未公認コントローラーを製造し続けたメーカーもあるからなぁ。
この「アスキースティックエンジン」は本家NEC−HEが発売した「ターボスティック」と同様、二つボタンで連射機能付だが、さらに「スロー再生」機能まで備えているという。この時代は「連射」とともにこの「スロー再生」ってやつが大きな売りだったようだ。材質は樹脂製なのでゲームセンター同様とはいかなかったようだが、家庭用としてはそのぐらいのほうが良いんじゃないかと思うところも。
その後PCエンジンはCD-ROMを中心とする商品展開になっていくためスティックの需要は確実に下がった。終盤に格闘ゲームブームが起こったためにホリ電機から6ボタンのハードな専用スティックも非公認ながら出たりしたが(ホリ電機はスーファミ、メガドラ、PCエンジン三種対応というスティックも出している)、本家NECはアベニューから6ボタンの「アベニューパッド6」を出すにとどまり、スティック発売には乗り気ではなかったようだ。アスキーなどサードパーティももちろんPCエンジンに新たにハードを投入しようとは思わなかったようで。このあとPCエンジンはゆっくりと終焉に向かっていくわけである。ムチャクチャゆっくりだったけれど。
レアである上にさして便利な周辺機器でもないのだが、PCエンジンが最新鋭マシンとして輝いていた時代を知る貴重なサードパーティー商品であるとは言えるだろう。