1993年。前年から盛り上がってきた「ストII」の社会現象的ブームとそれに連動する格闘ゲーム全盛期の到来は、PCエンジンにも大きな影響を与え始めていた。SUPER CD−ROM2ソフト一色となりビジュアルシーンを売りにしたRPG、ADV、そしてギャルゲーが増加して、軟派なイメージが強くなってきていたPCエンジンにも、かつてのシューティング全盛期のようなゲーセン小僧奪回の野望(?)が芽生え始めていたのである。PCエンジン専門誌の移植希望コーナーは「ストII」はじめ格闘ゲー一色の観すらあり、NEC-HE、NECアベニュー、そしてハドソンのPCエンジン盟主三羽烏もこの期待に応えるべく策動を開始していた。
その第一弾の動きが、本命「ストII’」の移植発表だった。この移植は一時期「技術的にほとんど無理」とまで噂されていたが、93年四月に本山NEC−HEから突然の移植発表、直後にゲームショー(おもちゃショー)で展示、前評判急上昇という劇的な展開をみせた。しかもこのPCエンジン版「ストII’」の開発はオリジナルの開発元であるカプコンが担当し(カプコンのゲームはPCエンジンでも意外と出ているが、他社による移植ばかりで自身では参入していない)、CD−ROM全盛期に大容量の20メガHuCARDというビックリの媒体で発売された。その出来栄えについては「ストII」の項目に譲るとして(いつ書けるか知らんが)、この「アベニューパッド」はほとんどこの「ストII」のタイアップ商品であったと言っていいのだ。
NECアベニューはこれ以前に3ボタンのパッド「アベニューパッド3」(’91)を発売している。しかし複雑なコマンドを駆使する格闘ゲームには3ボタンですら不足気味。そこでこの「ストII」需要を見込んで、さらにはその後の格闘ゲーム移植の予定も見込んでこの「アベニューパッド6」を開発・発売することになったわけだ。なぜこれが本家NEC−HEではなくアベニューからだったのかは不明だが、ともあれこの商品は「ストII」の発売直前に販売開始され、事実上「ストII専用パッド」として一気に普及率を上げた。のちにNEC−HE自身も6ボタンパッド「アーケードパッド6」(’94)を発売することになるが、それもかなり末期のことだったので、PCエンジンにおける6ボタンパッドといえば「アベニューパッド6」がスタンダード、という状態になったのだ。
このアベニューパッド6だが、6ボタンということもあって従来のPCエンジン用パッドより横に広がった体型になっている。手に持つ部分は若干厚みがもたされたが、特に手の形状に合わせるような工夫は無い。この点は従来のパッドと同様で長時間酷使していると手が痛みやすいかもしれない。NEC-HEが発売したDUO−RX仕様の6ボタンパッドの方は手の形状に合わせた工夫があるが(PC−FX用パッドとデザインは一緒)、人により好き嫌いがあるだろう。ちなみに僕自身はこの「アベニューパッド6」の方が好み。かなり酷使したせいもあるだろうが、写真のとおりビニールもはげてしまい、ボロボロ(笑)。この表面のビニールってあんまり意味が無いような気もするんだけど…。方向キーは従来のPCエンジンパッドと全く同様で、かなり軽めのつくりである。
スイッチを切り替えることによって従来どおり2ボタンパッドとしても使用できる。またPCエンジンお約束の連射モードも用意されているが、これはI〜IIIボタンまでしか割り当てられていない。DUO−RX仕様の6ボタンパッドは全ボタンに連射機能があったものだが、使用することはまず考えられなかったけどね。
ついでながらこの「ストII」需要をあてこんで、非公認サードパーティーであるホリ電機から6ボタンパッド「ファイティングコマンダーPC」およびゲーセン仕様の6ボタンジョイスティック「ファイティングスティックPC」なども同時期に発売されている。こちらも全ボタンに連射機能を付加している。