コードレスマルチタップセット    
ジャンル:ハードウェア
媒体:コントローラー
発売元:NECホームエレクトロニクス
発売:1992年12月18日
価格:9980円
商品番号:PI-PD11


◆面倒な接続なし!コードのないマルチタップ

商品外見 PCエンジン発足時の売りの一つが「マルチタップ」を使用した最大五人の多人数同時プレイだった。それ以前のファミコンなどでは対戦用に二つのコントローラーが本体に直接ついていたりしたのだが、PCエンジンは本体にパッド接続端子を設け、そこにマルチタップをつなぐことで多くのパッドの接続を可能にしていた。パソコン会社っぽい発想だな、とも思うが、その後多人数作品で強みを見せるハドソンの意向も強かったのかもしれない。

 このマルチタップによる多人数プレイは「ダンジョンエクスプローラー」(’89)「SUPER桃太郎電鉄」(’89)「ボンバーマン」(’90〜)といったシリーズ(どれもハドソン作品)でその魅力をいかんなく発揮することになるが、一つだけ難点があった。本体にマルチタップをつなぎ、さらにそこにたくさんパッドをつなぐという方式がこんがらがって面倒である上に、どうしても見た目にカッコよくなかったのである(笑)。
 またPCエンジン本体のパッド接続端子はパソコンの周辺機器類の接続端子を元に設計されたようで、静止状態で接続している分には問題ないのだが、パッドのように激しく動く場合もあるのを接続するにはちと問題があった。手前に引っ張ると簡単に外れてしまうこともあったのだ。

 パッドがないとゲームはできないが、本体とつなぐコードのほうを無くすことは不可能ではない。TVのリモコンと同じく電波を飛ばして信号を送ればいいわけである。こうしたコードレスコントローラーの思い付きをした人は少なくなかったと思われるが、どうも調べてみた限りでは家庭用ゲーム機でこれを実行したのはPCエンジンのこの商品が日本ゲーム界初(92年12月発売)であるらしい(以前「世界初」と書いてましたが、1983年にアメリカの「アタリ2700」がワイヤレスコントローラーを出していたとご教示を受けました。また海外版ファミコン(NES)でも1989年に「サテライト」というコードレスマルチタップ商品が出ていたそうです)
 その後メガドライブでもコードレスパッドが発売され(1993年11月)、プレイステーションなどそれ以後のゲーム機でもコードレスパッドが何らかの形で発売されているが、今もって標準にはなっていないところを見ると、それほど需要は高くないのだろう。

 このPCエンジンのコードレスマルチタップセットは1992年のクリスマス商戦に投入された。この年は春に「天外魔境II卍MARU」が発売されてSCDの普及が一挙に拡大した年であり、クリスマス商戦もSCD花盛りでPCエンジンそのものの全盛期の観がある(HuCARDは別として)。「DUO」シリーズの登場により以前のような「コア構想」こそ姿を消したが、今度は「DUO」をメインに各種周辺機器を充実させてライバル機との差別化を図っていこうという姿勢が顕著になってくる。そんな中で投入されたのがこの「コードレスマルチタップ」だったというわけ。ちなみに同じ日にはPCエンジン珍ハードの一つである「バーチャルクッション」も発売されている。

使用状態 「コードレスマルチタップセット」はPCエンジン本体につなぐ受信装置と、コードレスパッド一体が入った商品。送受信には遠赤外線が利用され、受信側の電源は本体から供給、送信側(パッド)の電源は単3電池4本を内蔵することによって確保している。このため当然だがパッドは従来のパッドより若干重い。コードレスになったことで操作の自由度を獲得できたのは確かだが、その代わり「軽さ」というメリットを失ってしまった気もする。それでもゲームの操作性にそれほど違和感がないのはよく頑張っているというべきか。
 またこの時点では無理はないのだが、従来のターボパッドと同じ2ボタン仕様だ。

 この商品の困った点は、「マルチタップ」と名乗りながら同梱されているパッドは1つしかないところ。「マルチタップ」というならせめて2つは入れるべきではなかったか。パッド1つだけなのに価格が9980円というのを見ると、やはり価格が1万円を超えては売れないという判断があったかと思われる。
 このマルチタップに追加できるコードレスパッドは別売されたが(商品番号:PI-PD12)、1つあたり3980円(要するに4千円)と、通常のパッドの倍近い値段で、決してお安いものではなかった。それなら見た目には目をつぶって従来のマルチタップで通す人が多くなるのは無理からぬところ。結局はそういうことでロクに売れなかったのではないかと思われる。

 僕自身は93年末からPCエンジン売り場に出入りしていたが、21世紀に入って秋葉原の中古屋で発見するまでお目にかかったことが無かったぐらいだから、よほど出回らなかった商品なんじゃないかと。また、この直後に「ストリートファイターII’」(93年6月発売)の需要で「アベニューパッド6」をはじめとした6ボタンパッドが標準仕様となったにもかかわらずコードレスの6ボタンパッドはとうとう出なかったことも、この商品が全然売れなかったことを示している。
 思いつき自体は悪くなかったと思うんだが…


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