セーブくん
ジャンル:ハードウェア
媒体:記録装置
発売元:光栄
発売:1993年6月4日(同梱商品としては同年2月27日発売)
価格:5980円
商品番号:KH-1001
◆ソフトメーカー・光栄から発売の大容量セーブ装置
「光栄」とは現在は「コーエー」と改名しているあの会社。パソコンで「信長の野望」「三国志」といった歴史SLGのヒットシリーズを出し、ファミコンからコンシューマ市場にも進出して各種マシンで自社の歴史物ゲームの移植を積極的に行い、さらには家庭用のオリジナルゲーム開発も行って成長を続け、最近では「三国無双」のようなアクションゲームまで展開して日本を代表する有力ソフトメーカーとなっている。
その光栄が、PCエンジンにも参入していた時期があった。ファミコン、スーパーファミコンで歴史ゲームの移植をヒットさせていた光栄だが、PCエンジンに参入したのは1992年末と遅めである。その理由としてまずPCエンジンのHuCARDでは同社の得意とする歴史SLGの移植がまず不可能という事情があった。プログラム自体はCD-ROM、無理をすればHuCARD内に押し込めるかもしれないが、歴史物SLGでは必要不可欠の大量のセーブデータを保存する方法がなかったのだ。
ファミコンではカセット内にデータ保存用RAMを搭載できたのだが、HuCARDでは容量的に無理。CD-ROM2ではCD自体に保存は出来ないし(当時ファミコン方式に慣れた人にはPCエンジンのデータセーブは理解しにくく、「CDに保存はできません」とわざわざ明記してあったものだ)、バックアップRAMもSLGが必要とするセーブ領域にはまるで足りていなかった。実際、CD-ROM2のSLGをやってみた人は分かるだろうが、ソフト一本だけでバックアップRAMをまるごと使ってしまい、他のゲームのセーブができない、なんてことはザラだった。
しかし1991年秋に「SUPER CD-ROM2」が登場、「天外魔境II卍MARU」(’92)などのキラーソフトの投入や一体型マシンの「DUO」の発売などで、PCエンジンは「SCDマシン」としてある程度の普及に成功する。これを見てパソコン系ソフトハウスからの参入が相次ぎ、とくにSLGを得意とするアートディンクと光栄という巨頭が参入を決めたことは注目された。
その背景には当然パソコンメーカーでもあるNEC自身の働きかけもあったのだろうが、こうしたソフトハウスをとりこむためにNEC側は大容量セーブ機器の開発もしていた。それが「メモリーベース128」という周辺機器として発売されることになるのだが、光栄自らも同等の機能を持つハードを発売することにした。それがこの「セーブくん」というわけである。光栄のPCエンジン参入第1弾ソフトは「スーパー麻雀大会」(’92年12月)で「セーブくん」はまだ発売前だったが、すでに対応済み(というか保存には必須)になっていた。「セーブくん」が世に出たのは光栄のキラーソフト「信長の野望・武将風雲録」(’93年2月)のSCD版が出たときで、「武将風雲録」に同梱されたセット販売となっていた(セット価格13800円)。のちに6月になってから別売されるようになっている。
当時の雑誌記事によれば、もともと大容量セーブ機器の開発自体がNEC-HEと光栄の共同で行われていたようだ。ただし光栄側はこれをPCエンジン専用ではなく近く発売されるはずだったスーパーファミコンCD-ROMアダプタ(幻の「プレイステーション」)にも使えるようにしたかったらしい。それでNEC-HEとは別の自社ハードとして発売することにしたわけだが、肝心の「プレイステーション」自体がいつまでたっても発売のめどが見えず、「信長の野望・武将風雲録」発売と合わせてPCエンジン専用として発売することなったのだ。
そういう事情があったため、この「セーブくん」、外見は別として性能的には「メモリーベース128」と全くおんなじである。PCエンジン本体とパッドの間に割り込む形で接続し、大容量データ保存必須のソフトはその接続の有無を自動的に判別する。128キロバイトのデータセーブが可能で、単3電池4本で保存が出来る。「LT」と「GT」には使えない。以上すべて「メモリーベース128」と同じ。しかも両者は完全に互換性があり、プログラム側からは全く同じものとして認識されるようになっているのだ。
「信長の野望」「三国志」「蒼き狼と白き牝鹿」といった光栄ゲームを遊ぶ際に「128」をつないでいた場合、プログラム側はあくまでそれを「セーブくん」としか認識しない。何も接続してなければ「セーブくんが接続されていません」と表現される。アートディンクなど他社のソフトだと「大容量バックアップメモリ」といった表現が使われるのだが、光栄商品は頑固に「セーブくん」としか表記しない(笑)。まぁ自社商品だから当然とも思えるが、「セーブくん」しか使えないかのようにユーザーに誤解させかねない作りは不親切という気もする。
中身はまったく同じだが外観はかなり「128」と異なっていて、全体的に小ぶりでスリムなデザインは個人的には気に入っている。薄いスタイルにしたため電池を入れる部分が出っ張ってしまったところはあるが、コンパクトさは嬉しい。また何のゲームのデータがセーブされているのか一目で分かるようにメモ用のシールを貼れるスペースがあり、シールも同梱されている。これは「128」にはない親切設計だ。
自らこんな商品を出すほど、光栄のPCエンジン参入は意気込みのあるものだったと思える。同時期にメガドライブの「メガCD」でも同タイトルソフトの移植を行っており、パソコンでもほぼ全機種に手広く展開していたこの会社らしい積極ぶりだった。ただPCエンジンにおける展開はあまり期待ほどではなかったらしく、1993年に主要タイトルを出したらそれっきり(最後の商品が年末の「信長の野望・全国版」)になってしまった。
ただNEC-HEとの縁は切れてなかったようで、1995年に不振の後継機PC−FXにまさかの参入をしてユーザーを驚かせた。もっとも出したのはあくまで「アンジェリーク」シリーズのみだったのだが、以後「アンジェリーク」シリーズはまずFXから発売するというルールを守ってFX市場消滅まで付き合ったのだからたいしたものだ。
迷い込んだ方はこちらから