天の声バンク
ジャンル:ハードウェア
媒体:記録装置
発売元:ハドソン
発売:1991年9月6日
価格:3880円
商品番号:HC692
◆手軽で便利なデータ保存アイテム
「天の声2」はハドソンから発売されたPCエンジン初の外部データセーブ機器であり、その価格の安さもあって広く普及し、PCエンジンのデータバックアップ装置のスタンダードの地位を築いた。ただし泣き所はその容量があまり大きくはなかったこと。「2」という名前の由来はセーブできるデータ容量が2キロバイトであることにあるのだが、一つや二つのゲームならともかく5つ6つとなってくるとセーブ領域はたちまち一杯になり、どれかのデータを消さざるをえなくなる(これは「天の声2」に限ったことではなくPCエンジンの全てのバックアップ機器は同じ容量である)。RPGなど時間をかけて育てた思い出深いゲームデータを消去しなければならず、かなり辛い思いをした人も多いはずだ。
HuCARD時代はそれでもなんとかなったのだが(「天の声2」を複数所有する人も少なくなかった)、PCエンジン世界がCD-ROMソフト中心となり、91年秋の「DUO」の発売でSCD時代が到来するとデータセーブ領域不足の問題はいよいよ深刻になってきた。またCD-ROM2システムや「DUO」といったCD-ROMマシンはその構造上「天の声2」のようなバックアップ機器を接続することが出来ない。ということは本体内の2KバイトのバックアップRAMしか使用できないわけで、外部にデータを残そうにも残せない、という事態が発生してくる。そこでハドソンが発売した外部記録装置のがこの「天の声バンク」だ。
「天の声2」はPCエンジン本体後部にがっちりとくいこむ大きなものだったが、「天の声バンク」は写真を見ればお分かりのように、HuCARDそのものの形状である。実際ケースも含めてHuCARDゲームソフトと全く同じスタイルをとっており、「ROMRAM HuCARD」とのロゴが説明書表に印刷されている。「ROMRAM」とは天の声バンクのプログラム部分が「ROM」に書き込まれており、データ保存部分に書き換え可能な「RAM」が使われているということ。こうした「ROMRAM HuCARD」はこの年の4月にやはりハドソンから発売された「ポピュラス」(’91)でも使用されている。
こうした「ROMRAM HuCARD」はカード下半分がやや膨らんで分厚くなっている。こうした形状のHuCARDは「スーパーシステムカード」「アーケードカードPRO」「ストリートファイターII’」(’93)などがあり、この膨らんだ部分にカード一枚に入りきれないメモリを入れたのかなと長らく思っていたのだが、実際にはメモリはちゃんとカード内に収まっており、膨らんでいる部分は「補強材」なのだそうだ。通常のHuCARDではカード上半分にROMが格納されているが、これら大容量カードは手で持つことが多い下半分までROMやRAMを収納しなければならないため安全のためにこうなっているとのこと。
「天の声バンク」をPCエンジンのHuCARDスロットに挿して電源を入れると、「トップ画面」が出て、通常のゲームソフトのようにRUNボタンを押せとうながされる。RUNを押すとメニュー画面となり、3つのモードが選択できる。
一つはPCエンジンのバックアップメモリー(天の声2やCD-ROMマシン本体内のバックアップRAM)から「天の声バンク」内にデータをコピーするモード。二つ目は逆に「天の声バンク」からPCエンジンのバックアップメモリーにデータをコピーするモード。「天の声バンク」内にはバックアップメモリーをまるごと保存できる「BOX」が4つ用意されており、中身の異なるバックアップメモリーを本体の4つ分まで外部保存できるというわけだ。
この二つのモードの「コピー」は完全な「重ね書き」で、コピー元のバックアップデータを全てコピー先に重ね書きしてしまうので注意が必要だ。またゲームデータごとの管理はできず、あくまでバックアップメモリー全体をまとめて扱う仕組みになっている。ゲームごとに個別にデータを管理したいならPCエンジンのバックアップメモリー側でやってくれ、ということだ。
そして三つ目のモードが「データ入れ替え」だ。PCエンジンのバックアップメモリーの中身と、「天の声バンク」のBOXのどれかの中身とを、そっくりチェンジできる。これはデータを消去することなくその場所だけを入れ替えられるという非常に便利なモードで、「天の声バンク」で最も利用され、重宝された機能だ。
4つもあるとどのBOXにどのデータが入っているのか分からなくなる恐れがあるが、これもメニュー画面からSELECTボタン一発で各BOX内のデータ名を表示できる。ただしPCエンジンの各データのファイル名はパソコンの雰囲気を濃厚に残していてアルファベットか半角カナなどで表記されていたり、一つのゲームについて複数のデータファイルがあるなど、一見してわかりにくいという問題点もあったが…
データの保存には電力が必須だが、「天の声バンク」はカード内にリチウム電池を内蔵している。つまりファミコン、スーパーファミコンなどのROMカセット内のバックアップメモリと同じ方法をとっているわけで、電池の交換は個人ではできず基本的に電池が切れたら使用不能となる。それでも恐らく5年間は大丈夫と当初から言われており、ハードの寿命から考えてもまぁまぁ妥当なところだったと思える。年季の入ったPCエンジンユーザーの間では「天の声バンク」はかなり重宝されており、「いつか電池が切れる」という恐怖におびえる(笑)人も多かったのだが、実際のところ10年は楽勝でもったケースが多いようだ。何度となく再販された人気商品でもあり、いまだに中古屋で扱われてるところをみると、2007年現在でもまだ使用可能のものがあるようだ。
「天の声バンク」の内蔵電池が切れれば保存した貴重なデータは永遠に失われる…という懸念は、単4電池でデータを保存する大容量バックアップメモリ「メモリーベース128」にデータを移動させるユーティリティー(「エメラルドドラゴン」以降のNEC-HE発売ソフトによく搭載されている)が登場したことで一応解消されている。
なお、「天の声バンク」にはハドソンらしい遊びも隠されている。「天の声バンク」内のBOX4を空けた状態で、複雑なコマンドを打ち込むと(やたら複雑なコマンドなので裏技を掲載している他サイトを参照されたい)BOX4内にハドソンから発売されたPCエンジンゲーム14本の最強データが出現する。具体的なソフト名は未確認なのだが、「天外魔境ZIRIA」「桃太郎伝説ターボ」は含まれていた模様。
遊びといえば、この「天の声バンク」の取扱い説明書は3ページにわたるカラー漫画が掲載されていて(作画フジサワトミオ)、「天の声バンク」がいかなる存在であるかを分かりやすく導入する工夫がなされている。「桃鉄」を友人の家で遊ぶべく「天の声2」を持って行くことになった少年が、「天の声2」から出現した神様「天の声」から「天の声バンク」を授かるという内容で、「ゲームだけじゃなく勉強もすんのじゃぞ」と高橋名人属するハドソンらしいお言葉も添えられている(笑)。
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