PCエンジンはその発足当初には当時最先端のゲーセンゲームを移植することを売りとした、その後期からは考えも及ばない(笑)「硬派」なゲームマシンだった。そのことを象徴するのがこのジョイスティックだ。
発売元は今はなきコンピュータ雑誌「マイコンBASICマガジン」を刊行していた電波新聞社。ここは雑誌だけでなくゲーム開発そのものも手がけていて、そのソフト開発部門は「マイコンソフト」のブランドを名乗っていた(「スペースハリアー」などPCエンジン初期の移植作にいくつか手がけたものがある)。
一方でこの商品のように家庭用ゲーム機のマニア向け周辺機器も製造・発売していたのだ。現在も「マイコンソフト」は電波新聞社の子会社として存続しており、ビデオスキャンコンバーターなどパソコンの周辺機器を製造・販売していて、今もなお「X」から始まる商品名をつけ続けている。
発売された1988年秋というと、PCエンジンが始まってからちょうど一年が経ったころ。「R−TYPE」(’88)で軌道に乗り、当時のゲーセン小僧の気を引くようなタイトルが続々と発売されていた時期である。そんなゲーセン小僧たちにゲーセン筐体と同じような操作性を!ということで、この時期PCエンジンでは専用ジョイスティックの発売が相次いでいる。
先頭を切ったのが本家NEC-HEで、「ターボスティック」をこの年10月に発売。11月にこの「XE−1PRO HE」が発売され、続いて12月にはアスキーから「アスキースティックエンジン」が発売されている。それぞれどれほど売れたものかはわからないが…その後パタッと止まっちゃうしね。
さてこの「XE−1PRO HE」だが、名前だけでなく機能面でも実に凝りまくった、まさに売る相手にマニア以外は眼中に無い逸品となっている。なんせ箱には「1ドットの精度に挑戦!」なんて書いてあるぐらいで(笑)。1万円近い価格もそのこだわりの現れであろう。
僕はこの当時も今もゲーセンにはあまり縁の無い人間なので、そういう感覚はあまり分からないのだが、ゲーセンでレバーとボタンで遊びまくった人たちにとって、家庭用ゲーム機の十字キーによる指先操作はガマンのならないものであるらしい。特に微妙な操作を可能にするレバーは重要で、ここがこうした商品の評価の分かれ目になっている。
この商品の最大の売りもやはり「本格的な業務用仕様のレバー」であるらしい。当時の「業務用仕様」についてはよくは知らないのだが、まぁこんなものではあっただろう。棒の部分は金属製で、丈夫な気はする。
説明書を見ると目を引くのが、このレバー、「4方向と8方向に切替可能」 となっていること。パッドにある十字キーは基本的に上下左右の4方向の入力のみができるようになっていて、斜め方向は例えば「上」と「左」が同時に押されると、その二つをほぼ同時処理して「左上に進む」といった具合に処理されている。そこらへんが斜め方向の微妙な操作を行う人には不満のタネで、それをある程度解消するのがこの「8方向入力」なのだ。実際、僕も8方向にして「アフターバーナーII」をプレイしてみたら、4方向とは雲泥の差があることが実感できた(その代わりリバースモードが使えなかったが…)。
もっともさらなる究極の解消法はアナログジョイスティックで…っと、この件は同じ電波新聞社発売の「X−HE3」(’92)の項目で書きたい。
さて本体で目を引くところといえば、2つのボタンの周囲が円形になっていて、回転できるようになっている点だ。ご丁寧にもカチャカチャと10度ずつ、なんと270度までグルリと回転させることができる。この回転機能はなんのためかといえば、説明書によると「好みのポジションが選べる」 とのこと。確かにゲームによってはパッドでもボタンの配置が気になることはあり、こだわりのジョイスティックならそれはなおさらだろう。実際、業務用の筐体ゲーム機ではボタンがやや斜め方向についていることもあり、それがゲームによって配置が異なることもままある。それを解決するための回転機能なのだろう。
シューティング全盛期だったこのころ、「連射機能」は家庭用ゲーム機の上級コントローラーの大きな売りだった。「ターボパッド」「ターボスティック」、そして「アスキースティックエンジン」にも連射機能は搭載されている。この「XE−1PRO HE」でももちろん搭載されているが、そこにまたハンパではないこだわり機能が加わっている。
本体手前に連射スイッチがあるのだが、これが「TRIGGER MANUAL」「TRIGGAR AUTO」「TRIGGER HOLD」と三つに切り替えることができるようになっている。「MANUAL」は連射OFF、「AUTO」は連射ON、ここまでは他のコントローラーと同じだが、さらに「HOLD」では「連射固定」が可能になるところがまさにこだわり。
さらに本体上方に「独立連射コントロールつまみ」なるものが存在する。ボタンI、IIそれぞれの連射速度を調整できるという代物だ。
さらにさらに、本体右上には「トリガーLEDインジケーター」なんてものまでついている。ボタンの押し具合を5段階表示でモニターできるという、さすがにこんなものまでつけちゃったスティック商品は数少ないのではあるまいか。連射スピードの調整のためにつけられたようだ。説明書には「ソフトにより、必ずしもトリガと同期しませんが」とお断りはあるけど、確かにいたれりつくせりな仕様ではある。
さらに…凄いところがまだあるのだ。このジョイスティック、本体の右側になにやら4つ穴が開いているのが写真でおわかりであろうか。これはPCエンジンのパッド端子である。つまりここに他のパッドやジョイスティックを挿し込んで多人数プレイができるというわけ。PCエンジンが発売当初から最大の売りの一つにしていた、「5人同時プレイ可能」のマルチタップ機能を備えているのである!もっともこの時期、PCエンジンで5人同時プレイ可能というソフトは「遊々人生」(’88)ぐらいしかなかったと思うが…まさにPCエンジン専用スティックならではの機能である。
このジョイスティックのパッド端子に他のスティックをつないだらさぞ壮観であろう(笑)。ターボスティック、アスキースティックエンジン、そして非公認品ながらファイティングスティックPCと、PCエンジン専用スティック軍団をつないでみたら…
実際にやってみた(バカ)。
4人でスティック対戦とかすると、どれが勝つんだろうか?