XーHE3     
ジャンル:ハードウェア
媒体:周辺機器
発売元:電波新聞社(マイコンソフト)
発売:1992年
価格:2500円


◆アナログジョイスパッドをPCエンジンで!

外見  PCエンジン界ではよくある「細かいところに手が届く穴埋め的商品」の一つ。だが、珍しくNEC-HEからではなく電波新聞社からの発売となった周辺機器だ。
 電波新聞社といえばプログラミングとゲーム総合の雑誌「マイコンBASICマガジン」を刊行していたところで、その開発部門である「マイコンソフト」は当時、パソコン・家庭用ゲーム機のゲームソフト開発のほか、マニア向けの色の濃い周辺機器を製造・販売していた。

 PCエンジンでもその初期の1988年に専用ジョイスティック「XE−1PRO HE」や2人用マルチタップ「X−HE2」が電波新聞社から発売されている。で、4年ほど間をおいた1992年に発売されたのがこの「X−HE3」。命名の由来は単に「X−HE2」の次だから、ということだったのだと思う。じゃあ「X−HE1」は?というツッコミは電波新聞社にしてほしい(笑)。

 命名がかなり適当なところからも察せられるが、この商品はあまり積極的な動機で出されたものではない。そもそもこの機器は当時「マイコンソフト」から発売されていたアナログジョイパッド「XE−1AP」をPCエンジンでも使用可能にするアダプタである。
 「アナログジョイパッド」とは何かといえば…普通のゲームパッドの十字キーは基本的に上下左右の4方向の入力しか出来ない。斜め方向入力は二つの方向を同時入力することで擬似的に再現しているだけで、この辺がゲーセンで鳴らした腕自慢には微妙な操作ができずにガマンのならないところであるらしい。家庭用ゲーム機向けに発売されている各種ジョイスティックもレバーはゲーセンっぽくなっているけど入力は4方向、せいぜい8方向(電波新聞社発売のPCエンジン専用ジョイスティックがそうだった)でやっているものだった。それよりさらに微妙なコントロールを可能にするのが、デジタルではない「アナログ入力」というやつだ。アナログ方式で入力された信号をパッド内に搭載されたCPUが解析して微妙な操作をゲーム上で再現するというこだわりまくりのシステムである。

 この「XE−1AP」はX6800・MSX・PC-88・PC-98・FM-TOWNSそしてメガドライブで使用可能なパッドとして発売されていたもので、やたら大きくて丸く、ボタン満載のゴツイその体型は「カブトガニ」の愛称でゲームマニアの間で親しまれている。今そのデザインを見るとその後のゲームパッドのデザインをずいぶん先取りしたものであったことが分かる。
 ただし、このアナログジョイパッドは全てのゲームでその微妙な入力が使えるというわけではない。ゲームソフト側もこれに対応するよう作られていなければならないのだ。このアナログ入力に対応したゲームソフトは当然ながら「マイコンソフト」自体が開発に関わっていたものにほぼ限られ、X68・MSX・メガドライブなどで出た「スペースハリアー」「アウトラン」「アフターバーナーII」などセガのアーケードゲームからの移植作が対応ソフトとなっている。決して数は多くないのだが、これらのゲームを愛好しているマニアの間でこの「カブトガニ」がすこぶる好評であるところを見ると、それなりに効果絶大なのだろう。

 この「カブトガニ」をPCエンジンでも使用可能にしよう…!ということで出たのがこのアダプタというわけなのだが、発売時期が1992年とかなり遅い。なんでも当初はNECアベニューがPCエンジン専用のアナログジョイパッドの発売を計画していたそうで、これが結局発売中止となってしまったため、すでに発売されていた対応ソフト所有のユーザーを救済する目的でこのアダプタが発売された…という経緯があったらしい。
 すでに発売されていたアナログ入力対応ソフトって何かというと…「アウトラン」「アフターバーナーII」「オペレーションウルフ」のたった3本。いずれも1990年にNECアベニューから発売されていたゲーセンからの移植ソフトだ。また非公式ながらやはりNECアベニュー発売の「フォゴットンワールド」(’92)(ゲーセンの「ロストワールド」の移植)も接続するとアナログ入力と認識するそうだ。そういえば「フォゴットンワールド」発売と同時にNECアベニューは唯一の3ボタンパッド「アベニューパッド3」を発売していたが…。

 さてPCエンジンでのアナログジョイパッドの効果の程は、となると、僕自身はその「カブトガニ」は所有していないのでなんとも言えない。ただ、一部の評判を見聞きする限りでは、「アフターバーナーII」において絶大な威力を発揮するそうで、「もう普通のパッドには戻れない」とすら言われるらしい。とにかくPCエンジン版「アフターバーナーII」マニア向け、ということでは価値ある商品。その一本だけというのがなんとも…ではあるが。

 ところでこの「X−HE3」、「カブトガニ」とPCエンジン本体の間に挟んで接続すればいい仕掛けだが、なにやら二つボタンがついている。よく見ればこれは「RUN」と「SELECT」ボタンだ。ということは「XE−1AP」には「RUN」「SELECT」機能がついてないのか?といえばそういうわけでもないらしい(代わりになるボタンはある)。じゃあなんでこのボタンがついているのかというと、これ、実は「XE−1AP」以外のコントローラーでも使用可能になっているからなのだ。
 当時のパソコン、特にX68・MSXはファミコンでは飽き足りないゲーセン小僧向けのゲームマシンという性格が強く、これらは全て「アタリ仕様」と呼ばれるコントローラーの規格を共有していた。この「XE−1AP」もアタリ仕様に準拠しており、従って「X−HE3」も非公式ながら他のアタリ仕様のコントローラーをPCエンジン向けに接続できるのだ。で、他のコントローラーでは「RUN」「SELECT」ボタンがないため、ここに2つのボタンを置いて対応しているという次第。いや、ホント細かい配慮の行き届いた商品だと思う。

 なお、僕はこの商品を21世紀になってから秋葉原の中古屋でひょっこり見つけ、箱なし700円で購入した。見つけた時は「なんじゃこりゃ?」と驚き、なんだかよく分からないが「HE」のロゴもあるしPCエンジン専用の何か周辺機器なんだろうと思い、一応買っておいたのだが長らく使用方法が分からなかったのだ。
 PCエンジン界最強カタログ「SUPER PCエンジンFAN」には「カブトガニ」の項目はあったが「X-HE3」独立の項目がなかったのでついつい見落としていて(「カブトガニ」の説明文中に言及はあった)、その使用方法を知ったのはこの項目を書く直前だったりしたのである(笑)。


迷い込んだ方はこちらから