F1サーカス  
ジャンル:レーシング
媒体:HuCARD(4M)/バックアップメモリ対応
発売元:日本物産
発売:1990年9月14日
価格:6900円
商品番号:NB90002


外見◆PCエンジン「F1」ゲームの決定版!

 さてこの項目から8本連続で「F1」ゲームを語っていかねばならない。1990年前後の日本は空前のF1ブームで、PCエンジンでも次々とF1を素材にしたゲームが発売されたためだ。アイウエオ順のため後回しになるナムコの「ファイナルラップツイン」(’89)「ワールドサーキット」(’91)の2本を含めるとPCエンジンでは合計10本ものF1ゲームが発売されている。それも1989年〜1992年のわずか3年間のことだ。

 こうしたPCエンジンF1ゲーム群の中でひときわ大きな成功を収めたのがこの「F1サーカス」シリーズだ。ニチブツ(日本物産)がPCエンジンオリジナルで開発・発売したこのゲームは、単なるブーム便乗にとどまらぬゲームとしての完成度の高さに大評判となり、「’91」「’92」およびSuperCD-ROMの「スペシャル」と立て続けに続編が出され、シリーズ累計ではPCエンジン全ソフト中最高の販売本数を記録したと言われている(具体的に何本なのかは知らないが)
 勢いに乗ったニチブツはファミコン、スーパーファミコン、メガドライブとまさに「全機種制覇」の勢いでこのシリーズを発売し、のちには「フォーミュラーサーカス」のタイトルでプレイステーションでもこの流れを汲んだゲームを出している。ついでながら日本物産は当初PC-FXにも参入表明しており、発売予定ソフトに「レース(仮)」というのが挙がっていたので恐らく「F1サーカスFX」だったのだろうと推測される。結局発売はしなかったのだけど。

 まだポリゴン描画など考えられなかったこの時代、レースゲームの表現は2通りしかない。一つはスプライトの拡大・縮小表現を駆使した強引な3D視点のゲーム。もう一つは背景をスクロールさせて真上から見下ろす視点に絞った2D表現のゲームだ。前者では「ファイナルラップツイン」、後者では「ファミリーサーキット」(PCエンジン版は「ワールドサーキット」)といずれもナムコがその代表作をこの時点で出しており、このあと出たレースゲームはその亜流と言っちゃってもいいと思う。
 この「F1サーカス」は完全に「見下ろし視点」のレースゲームであり、明らかにナムコの「ファミリーサーキット」(ワールドサーキット)を参考にしている。見た目にもソックリだし、特に実在のサーキットのコースをほどよくカット・アレンジして走りやすくしているところなどは瓜二つだ。PCエンジン版「ワールドサーキット」と比較すれば確かに見た目はよく似ていると誰もが思う。PCエンジンだけにファミコンよりは道路周辺の風景が描きこまれてるかな、と思う程度だろう。

 しかしプレイし始めたとたんにこれが全く違うゲームであることが分かる。誰もが驚かされるのがその猛烈なスピード感だ。見下ろし視点だから背景となる道路や風景が上から下へとスクロールするだけなのだが、これがとにかくとんでもないスピードなのだ。「ファミリーサーキット」も当時としてはスクロールが早いと言われたらしいが、「F1サーカス」のスクロールはまさに「F1級」。時速200km以上で爆走するF1そのもののスピードを見事にTV画面上に再現してしまっている。その迫力は当時の3D視点のF1ゲームを明らかにしのぎ、ポリゴン表現が発達してますますリアルになった昨今のF1ゲームにも「スピードに酔う」という点に絞ればかなりいい勝負になっていると思う。
 コース自体は実物のコースの特徴を生かしつつ、自慢の高速スクロールを最大限に生かすためにほどよくカット・アレンジされている。特にこの一作目はコースの作りが素直で、次第に複雑化していった続編をプレイすると「やっぱりこっちのほうがとっつきやすかった」と思える。見下ろし画面は一見単純な平面構造に見えるが、たまに橋や構造物を重ねてスクロールさせ立体構造を表現して見せたりもしていて、なかなか手の込んだつくりになっている。
 筆者もひところパソコンでかなりリアルな3DのF1ゲームをやりこんでいたものだが、それより後になって中古で買ったこの「F1サーカス」をPCエンジンで起動してみて、そのデモ画面を目にしただけでぶったまげたものだ。見下ろし視点に絞ったがゆえの強烈なスピード感は登場から十数年が経った今も色あせることがない。


◆超高速スクロール専用ドライビングテクニック!

 出来のいいゲームというのは初対面の立ち上げ直後に「おっ、これは…」と思わせてくれるものだ。この「F1サーカス」も起動直後からさりげなく「カッコいい!」と思わせる演出が目に付く。
 まずカッコいいのが文字の表示だ。単に文字を次々と表示するだけなんだけど、これが実にカッコいい。少々遅いのが気になるが方向キーで早送りも可能だ。名前のエントリーなど文字入力ではレースクイーンのカーソルが動き、登録画面の合間合間にはレーサーやマシンの渋い画像(シリーズ続編では実写取り込みになった)が表示されるのもカッコイイ。チャンピオンシップの開始時にゲーム同様の見下ろし画面でトラックからマシンが運び出されるシーンが映るが、その時に遠くから他のマシンの爆音がビューンビューンと聞こえてくるのもワクワクする。チームの監督の立場でプレイする「コンストラクション」モードだけだが、合間合間に可愛くデフォルメされたマシンが高速で走り抜けていく背景が挿入されるのも目に楽しい。一作目というせいもあるのか全体的にあっさりした演出ではあるのだが、それがかえってこのゲーム開発スタッフの「本気度」を感じさせてくれるのだ。

 「ワールドチャンピオンシップ」モードはプレイヤーが活躍年数を決定し、いずれかのチームに所属するレーサーとなり、マシンを操作して上位入賞を狙い、1シーズン全16コースを戦い抜いてその成績により他チームへの移籍も可能になるという、いわば「レーサー人生シミュレーションゲーム」。最初は3チームからしか選べないが、F1に詳しくは無い筆者からすると別にどこでも構やしないように思うのだが、エンジン性能などはチームごとにかなり違うらしく(実際走ってみるとライバルマシンが異様に早くてビックリさせられることがある)、チーム選びは慎重に行うべきらしい。こちらの技術が上がっていけば、より性能のいいマシンのあるチームに鞍替えできるということのようだ。詳しいマニアには楽しいことなんだろうけど、当時のF1事情にまるで疎い筆者などはまるで分からない世界だった。
 さて所属を決めるとさっそく最初のレースになる。この1作目ではレースの開催は固定化されていて必ずU・S・Aから始まる。このコースは市街地コースで、いきなり最初から難関となっている。初プレイ時にはしばらくはマシンを操作すること自体を難しく感じるはずだ。

レースバトル 先述のように、このゲームのスピード感はとにかく物凄い。アクセルを踏んでいると瞬く間にスピードが上昇し、ビュンビュンと背景がスクロールしてゆく。そのスピード感には誰もが酔いしれてしまうが、一瞬でも油断してはいけない。それだけスピードが出ているということはカーブや障害物もそのスピードでこちらに迫ってくるということでもあり、瞬時の油断がまさに命取りになる。命取りといってももちろん事故死なんかはしないのだが、障害物に激突するとしばらく操作不能になり、悪くすると即リタイアである。こうした障害物は市街地コースに多いため、いきなり最初のコースで苦労させられるわけだ。
 言っても詮無いことなのだが、このゲームの唯一と言っていい欠点が画面の狭さだ。横長画面の中で上から下へと高速スクロールするため、画面上方にカーブや障害物、あるいは他のマシンが見えてもとてもじゃないがよけられない。カーブサインは結構早めに出るのだが、緩いか激しく急かの2種類しか表示はなく、実際にどのくらいのカーブなのかは実際に走って見ないと分からず、スピードを落とすタイミングを計るには何度も練習して経験値を積むしかない。とにかく道をしっかり覚えて、どうやれば早く走破できるか、しつっこく練習を繰り返す必要がある。

 この練習のために各コースでは「FREE RUN」が何度も実行できる。コースの特徴を良く覚え、より早いタイムが出せるようにセッティングをあれこれ試し、自信がつくまで予選には出ないことだ。F1ゲームの魅力の一つであるセッティングも細かく設定されていて、サスペンション、タイヤ、ギア、ウィングなどいろいろ組み合わせて実に幅広いバリエーションが作り出せる。ギアチェンジもオートマチックとマニュアルが選べるが、操作に自信の無い人はオートマチックにしておくのが無難だろう。僕も実際にオートマ免許しか持ってないもので(笑)全てオートマで運転してたし、車には詳しくないものでチューニングもいい加減にやっていたが、それでもまぁ道さえ分かっていればなんとかなると思う。一応カーブの多いコースではサスペンションとタイヤについては考慮をしたほうが良さそうだが。
 それとこのゲームでは天候の変化も設定されていて、これがかなり大きい。雨が降り出すと高速の世界のこと、激しくスリップして走れたものではなくなるので雨用のタイヤにチェンジする必要がある。また天候以外でも自然にタイヤは減っていくしサスペンションもイカれてくるので、走行中にピットインして修理・交換する必要も出てくる。これはどのF1ゲームでもある要素だが、このゲームはとにかく猛スピード走行なので、慣れないうちはピットインするのも容易ではないのだ。

 そんなこんなで「FREE RUN」を繰り返し、ジワジワとタイムを縮めていく。これはたった一人で走ってる孤独な遊びではあるが、自分自身の最高タイムをなかなか破れなくなってくると、まさに「自分との戦い」というやつになって、なかなか燃える。肝心の予選や決勝をさしおいてこのタイムアタックに燃えまくる人も少なくないのではないかと思う。


◆音速の世界の猛烈バトル!
 
 「FREE RUN」を繰り返し、自信をつけたら「PRACTICE」すなわち予選に出走だ。ここでは1台単独でコースを3周し、2周目3周目のタイムを測る。このゲームでは上位16位以内のタイムを出せば本レースに出場できるのだが、予選でのタイムでスタート時のポジションが決まるので、予選でいいタイムを出すのは至上命題だ。コースによっては下位のポジションでスタートするとずっと挽回できないまま終わっちゃったりするんだから。
 もっと悪いタイムを出すと「予選落ち」になる。予選は何度でもトライできることになっているので、いいタイムが出るまでくり返してみるのも一つの手。目安としてはどのコースでも45秒以下のタイムを出せば本レースに出場できるようだ。それにしても予選通過のタイムとポジションが表示されるのを見ていると「なんでお前らそんなに早く走れるんだよ!?」と思うばかりである。

 さて予選を無事通過して本レースに突入。その前に一度セッティングができるようになっている。天候が予選の時と同じとは限らず途中で変化することもあるから良く考えてセッティングを。面倒ならセッティングをパスしてレースを開始することも可能だ。
 本レースでは16台のマシンがスタート地点に左右交互に並ぶ。なかなか壮観であるが、走り出した途端に猛烈なバトルが開始される。はっきり言って予選と本レースでは同じF1レースでも「全くの別物」。要求されるテクニックも予選のときとはまるきり違う。練習や予選のときは自分のマシン一台しか走ってなかったが、今度は前後左右にウジャウジャとライバルたちが走っているのだ。とくに全車が密集状態になっているスタート直後は激しい駆け引き。予選の時のようにスピード重視で走っているとたちまち激突事故になる。こっちが気を付けていても周りが事故を起こすと巻き込まれちゃうんだからかなわない。
 ジャマな車がいるならよけりゃいいだろう…と思うところだが、そこはF1。このゲームは特に見下ろし画面の猛烈スクロールだから、障害物をよけようったってそう簡単ではない。一瞬の判断ミスがまさに生死を分けるのだ。

 正直なところ他の車にまったくぶつからずに走破するのは不可能ではないか、と思うほどよくぶつかる(僕がヘタなだけかもしれんけど)。ちょっとやそっとの衝突なら構わないのだが、激しい衝突や何度か繰り返し衝突を起こすと、まっさきに壊れるのが前後のウイングだ。こいつが壊れるとトップダウンの風を受けられなくなりスピードが上がらなくなってしまう。ピットインして修理するまでこれが回復することはなく、かなり痛い。これが分かってくると衝突を可能な限り避けるドライビングをイヤでも心がけるようになるだろう。

 スタート直後の混雑状態もしばらくすれば緩和されてくる。そこからはこのゲームの醍醐味、超高速スクロールの中での追いつ追われつの大レースだ。他の車が接近すると実に本物らしい爆音が聞こえてきて、画面上方にまず前方車両のあげる砂ぼこり(雨の場合は水しぶき)が見えてくる。目もくらむ高速運転によるハイな気分もあいまって、「よーし、捕まえたぁ!」と興奮すること請け合いだ。
 他のF1ゲームにも言えることだが、CPUが運転するライバル車はカーブの手前でかなりスピードを落とす。ここで人間様が運転する車は少し思い切ったスピードでカーブに突入し、サーッと前の車を抜き去る、というテクニックが使える。このゲーム、相手の車が故障でもして無い限り直線で抜き去るなんてのはほとんど無理で、カーブ部分で激しいバトルになる。なにせ高速だから一瞬の抜き去りでたちまち間の距離は開いていく。もちろんこちらも一瞬の判断ミスであっさり抜き去られたりするわけだが…
 このカーブでの抜き去りも、市街地コース(U・S・A、モナコ、オーストラリアなど)ではさらに難しい。野外のコースならある程度道路からはみ出して走っても大丈夫なのだが、市街地コースはそうもいかず、ガードレールに激突するとしばらく操作不能になってしまい、大幅に時間をロスしてしまうのだ。

 画面構成とスピードゆえに前方で何が起こっているのか、見えてから対処しては間に合わない。そこでこのゲームでは前方・後方で事故や車両接近があるとそれぞれの色のフラッグが表示され、知らせてくれるしくみになっている。前方車両の上方は確かに役に立つのだが、相手も動いているものだから、うまくかわせないことも多い。あと条件によるのか、カーブサインがまったく表示されないこともあるので道はちゃんと頭に入れておくこと。
 レース中に大クラッシュを起こしてしまい、リタイアになることも少なくない。あまりにリタイアを繰り返すとチーム監督の怖い顔が表示されて怒られ、確か4度目ぐらいのリタイアで契約解除(クビ)にされてゲームオーバーになってしまう。慣れないうちはとりあえず完走を目指して安全運転を心がけたほうがいいかも。

優勝 各コースの周回数は調整も可能。長い周回数にするとリアルではあり、長距離走行ゆえの逆転なんかもありうるのだが、時間がかかるのが玉にキズ。まぁ8周ぐらいで走るのがちょうどいいのではなかろうか。
 レースが終わるとランキングが表示され、1位〜6位にそれぞれポイントが与えられる。とにかく6位に入れば1ポイントはもらえるわけで、当面は6位入賞を目指すことになる。上位にいくほどポイントががっぽり入るしくみで、上位3位に入賞すると表彰台グラフィックも表示される。こうして全コースをまわりつつポイントを加算して年間のチャンピオンを決めていくというわけだ。二年目に入ると以前は苦労していたコースもすいすい走れるようになっていたりして、自分の上達ぶりが実感できてこれまた楽しい。

 なお、「コンストラクション」というチーム監督役を演じるモードもあるのだが、正直あまり面白くない。自分で運転せずにCPUが動かす車が猛スピードでレースしているさまを眺めるのは観客としては面白くもあったけど、監督なんだから指示は出さなくてはならない。その指示も「スピード上げろ」「スピード下げろ」ぐらいしかないので、ただの鑑賞モードに近いとも感じてしまった。やはりこのモードは不評だったのか、このゲームソフトの爆発的(だったらしい)ヒットにも関わらず、この監督モードは以降の続編ではまったく復活しなかった。

 本作はF1ブームの中で開発された便乗企画商品には違いないのだが、恐らくは大のF1ファンであろう作り手のこだわりが良い方向に発揮されたレースゲームの名作と言えるだろう。他のゲーム機に移植されたものもプレイはしてみたのだが、やはりPCエンジンというハードに依存しているつくりだったのか、やはりこのPCエンジン版1作目が最高の出来なのではないかと思う。爆発的ヒットにより続編が次々と出されたが、どうしても複雑化・肥大化の一途をたどっていってしまい、単純明快ながら奥の深いテクニックが要求されるこの1作目に最大の魅力が詰まっていると思うのだ。
 


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.853
3.406
3.692
3.879
4.087
3.615
22.272
第200位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★

(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真

ウォルフ中村

小池泉

ミロはじめ


★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
東府屋ファミ坊

水野店長

森下万里子

TACO・X



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