F1トリプルバトル 
ジャンル:レーシング
媒体:HuCARD(3M)/バックアップメモリ対応
発売元:ヒューマン
発売:1989年12月23日
価格:6300円
商品番号:HM89002


外見◆3人同時プレイが可能のF1ゲーム

 とにかくPCエンジンが隆盛した時期は空前のF1ブームにかち合っており、これでもかとばかりにF1ゲームが発売されている。その多くの発売時期がこの「F1トリプルバトル」も含めて1989年に集中しているのは偶然ではあるまい。しかしこの翌年に出た「F1サーカス」(’90)が大ヒットしてシリーズ化してしまいPCエンジンにおけるF1ゲームの決定版となってしまったため、それ以後は各社ともF1ゲームをパタリと出さなくなってしまう。
 なお個人的な話をすると、僕はPCエンジンを手にしたのは1993年末とかなり遅く、CD-ROMソフトを中心に遊んでいた。そのうち3D表現を売りにした次世代機の足音が聞こえてきて、「PCエンジンの能力で3Dゲームって出来ないもんなんだろうか?」などと素朴に思い、またスピード勝負のゲームがやってみたいと思っていたこともあり、各種情報からこの「F1トリプルバトル」を中古300円で購入することになった。そのため所有する全PCエンジンソフト中、遊んだ時間ではトップクラスだったりするのだ(笑)。

 この「F1トリプルバトル」の発売元はヒューマン。今となってはいずこかへ消え去ってしまったゲームソフトメーカーだが、ちょうどこの1989年にPCエンジンに参入しており、その第1弾があの名作「ファイヤープロレスリング」の第1作だった。以後この「ファイプロ」を軸にPCエンジンの主力メーカーに成長して多くのゲームをPCエンジン界に送り出した。のちにPCエンジン&PC−FXの主催者NECホームエレクトロニクスと合弁会社「ヒューネックス」を立ち上げて、末期のPCエンジンおよび苦戦のFX市場にソフトを供給するなど、付き合いがよかった会社でもある。
 そんな先の話はともかく、「ファイプロ」でPCエンジンに参入し、特にスポーツゲームで強みを見せたヒューマンがPCエンジン第2弾として放ったのがこのF1ゲームだったのだ。

 レースゲームには見下ろしタイプと擬似3Dタイプとがあるが、本作は後者。同種のゲームとしてはこの当時ナムコの「ファイナルラップ」が存在し、ナムコ自らPCエンジンに「ファイナルラップツイン」(’89)として移植している。「ファイナルラップツイン」はTV画面を上下に二分割して2人同時のレーシングプレイを実現していたのだが、この先達に対してヒューマンが「そっちが2分割ならこっちは3分割だ!」と実に分かりやすい対抗心で作っちゃったのがこの「トリプルバトル」というわけである。正直なところ見た目には2分割を3分割にした以外での違いはほとんどないんじゃなかろうか、と思うくらい両者は良く似たゲームとなっている。3分割可能にするためにややマシンが小さく作られていて、一見するとかなり地味だ。なんか昔の三段式ベッドの寝台列車を連想してしまう(笑)。


◆見た目は地味だがリアル志向

 このゲーム、どっかのチームに所属するといった要素は排除されており、あくまでプレイヤーは一匹狼としてF1レースに参戦し、ワールドチャンピオンシップを戦う、という内容になっている。そのためマシンセッティングの際に「エンジン」を選べるのが大きな特徴。実在のモデルをもとにした4レベル、16種類のエンジンが用意されており、これに4種類のステアリング、大きく4種類(プラス予選用)のタイヤを組み合わせて、好みのマシンを作ることが可能だ(ただしエンジンは自身のレベルに応じたものしか選べない)。「F1サーカス」ほど細かい設定ではないが、マシンセッティングによるタイムの変化が大きく出るゲームではある。

 このゲームの「ワールドチャンピオンシップ」はかなり独特の方式で、まずレベル1から始まり、全6戦を戦って総合3位に入るとレベル2に昇格、この調子でレベルを上げてゆくとGPの回数と周回数がどんどん上がっていく(つまりより実際のF1レースに近付いていく)という構造になっている。
 新しいコースに入ったら、まず「フリー走行」が行える。一回5周まで走れ、コースの特徴やコーナリングのテクニックを研究できる。フリー走行は何度でも可能だが、面倒ならキャンセルしていきなり予選を走ってもいい。予選も一回につき5周走るんだから、いきなり予選にチャレンジしてもそう変わりはないと思う。
 予選は実際のものと同じく2回行われる。予選では画面下に他のドライバーの1〜8位の予選タイムが表示され、その中に自分のタイムを割り込ませることが目標となる。エントリーする車は16台あり、そのうちの上位8位に入れば決勝に進める。予選は2回あるので合計10周(といってもうち2周はタイムアタックにならないが)を走ってそのうち1度でもいいタイムを出せばいいわけで、決勝進出自体はそうハードルが高くない。1回目の予選で突破確実と思えるタイムが出たらそれ以後の周回はカットできるし、2回目予選をキャンセルしてもいい。ただし7位とか8位ギリギリの場合に2回目予選をキャンセルすると、たまに他のドライバーが2回目の予選でそれを越すタイムを出してしまい、予選落ちする危険もある。

二分割レースシーン  当たり前だが実際にF1のマシンに乗ってコースを走ったことなどないので、どのF1ゲームもどれだけリアルかは分からない。「F1サーカス」みたいに開き直って見下ろし画面でコースを短縮・単純化してかえって「リアル」さを出しているケースもあるし。そんな中で「F1トリプルバトル」はコースの形状・ドライビング感覚については可能な限りリアル志向を目指している感じがする。
 さすがに後年のポリゴンでリアルに表現されたF1ゲームには遠く及ばないが、コースに限って言えば実物をなんとか再現していると思う。カーブやシケインの構造も実物に似せており、出るタイムも実際のタイムに近い。アップダウンも一応作ってあるが、これはさすがに実物とかけ離れ、あまり傾斜が気にならないような…

 このゲーム最大の特徴は「カーブが厳しい」こと。カーブに関しては実際のコースにかなり似せて作っただけに、きっちりと減速してカーブに入らないとたちまち外側に「ふくらんで」しまい、縁石に乗り上げてコースアウトしスピード大幅ダウンになってしまう。画面上方に常にコースの形状と現在位置が示されていて、さらに直前にカーブの形状を示すサインが示されるのでカーブへの心の準備は容易に出来るのだが、その時のスピードやコンディションにより曲がれるつもりで曲がれないこともしばしば。同時期のF1ゲームをあれこれやってみたが、本作が一番コーナリングが難しく、それだけリアルなのだとも思う。なかなか曲がれないために、必死に十字キー左右を押し続けてしまい、左手の親指を痛める人が多かったのではなかろうか(笑)。

 さらに痛いのが、こうしたカーブ部分に「HUMAN」の看板が立てられていること。「ファイナルラップツイン」では立体感の表現と共にカーブ方向を示すために使われていた「看板」だが、本作では「障害物」の性格がかなり強い。カーブを曲がりきれないとぶつかるようななかなか意地悪な位置(笑)にこの看板が立てられており、真正面から激突するとクラッシュこそしないもののしばし操作不能となり、相当な時間をロスしてしまう。この看板激突の「痛さ」はかなりのもので、このゲームを続けていると「HUMAN」のロゴを見るだけでトラウマになるほどだ(笑)


◆対CPU・対人のバトルが熱い!

 マニュアルにもあるようにカーブにさしかかったらきっちり減速、カーブを出るときは加速、ときにはタイヤすり減らし覚悟で縁石に乗り上げる、といったテクニックを使えばいいわけだが、実際のレースではCPU操縦のマシンのほうが人間様より圧倒的にカーブ処理がうまく、生半可なテクニックではとても勝てない。本選で他のマシンとバトルする際にはこのコーナリングが勝負を分けるので、人間様としてはCPUよりも思い切った高速でカーブに侵入する必要があるのだが、これもうまくやらないと看板激突でかえって引き離されてしまうので慎重にやらねばならない。
 
 どのレースゲームでも、CPUはおおむね安全運転思考を持っており、カーブのかなり手前で減速する。このゲームでは軽い急カーブが二度続く「シケイン」においてもCPUはこの安全運転思考をきっちり実行するので、ここが人間様のつけいるところになる。このゲームのシケインは最高速で突入しても素早く十字キーを左右に切り替えせば突破可能で、ここでCPUマシンを大きく引き離すことが可能になる。
 あと決勝で使える、ほとんど反則の対CPUテクニックがある。それはずばり、「ピットインしない作戦」(笑)。このゲームでも走っているうちにタイヤが磨り減り、エンジンに故障が起こったりしてピットインの必要が出てくるので、CPU操縦マシンはたいていタイヤが完全に磨り減る少し前の5周目ぐらいで必ずタイヤ交換のピットインをする。しかし実はこのゲーム、タイヤが完全に磨り減っても走行にそう支障はないので(マシン同士がぶつかるのもしばしばだがこれも特に支障は出ない)、人間様はタイヤがどうなろうと無視して走り続け、CPUマシンに差をつける、あるいは抜き去ることが可能なのだ。とくに周回数が短い序盤では上位に入るためには有効なテクニックである(笑)。
 ピットインはコースごとに決められた入口付近で減速して横に入ると自動的にピットクルーのところまで運ばれる仕掛け。ただしピット指示はドライバーが全て出してOKを出さないと始まらないようになっていて、素早い対応が必要となる。

 とまぁ、そんなこんなを繰り返し、上位を獲得していけば次第に出世できるというゲームだ。しかし難度はF1ゲームの中ではかなり高めなほうかな、と思える。その辺がこのゲームの好き嫌いを大きく分けてしまうだろう。実際発売当時から賛否が激しく分かれるゲームなのだ。良く言えば「通好み」なのだろう。
 勝ち抜くにはかなりのテクニックを要求されるが、8台のマシンがひしめきあい、激しくぶつかりあいながら展開するバトル模様は同時期の他のF1ゲームではなかなかお目にかかれず、かなり熱い。後ろから、あるいは前からライバル車が迫ってくるときちんとエンジン音のボリュームが上がって来るところとか、一見地味ながら実際に走ってみるとレースの迫力がうまく表現できたゲームだと思う。

 単純にコースを攻めてタイムアタックを目指すなら、「TEST DRIVE」モードがお奨め。全コースを任意に選び、コンディションもセッティングも自由に設定して、走りまくることが可能だ。残念なのはここでのタイムは記録されないこと(本作はバックアップRAMに対応はしているが、まだパスワード時代であったためそうしたデータまで残すことができなかったのかもしれない)

 実在レーサーの名前をもじったレーサーが39人も登場し、それぞれ個性的な走りを見せるのもポイントだ。やってみるとちゃんと常勝選手とそうでない選手とがいるので、同じように走っているように見えて結構違いがつけてあるようだ。この辺もその後スポーツゲームで強みを見せたヒューマンらしいところ。
 こうしたレーサーたちの個性設定が生きてくるのが、「BATTLE」モードだ。実は本作最大の魅力はこのモードではないかと思うのだが…「トリプルバトル」ってタイトルなんだから、作り手もそのつもりなのだと思う。

 「BATTLE」モードでは最大4マシンの対戦が可能となっている。最大4マシンといっても人間が参加できるのは最大三人まで。つまり「1PvsCPU1」「1PvsCPU1vsCPU2」「1PvsCPU1vsCPU2vsCPU3」「1Pvs2P」「1Pvs2PvsCPU1」「1Pvs2PvsCPU1vsCPU2」「1Pvs2Pvs3P」「1Pvs2Pvs3PvsCPU1」と、これだけの組み合わせのパターンが遊べるのだ。もちろん複数の人間が参加する場合はマルチタップの用意が必須である。
 1対1は実のところあまり面白くないので、対CPUバトルでも2台以上の相手を選んだほうがいいだろう。CPUの選手は39名のドライバーから自由に選べるので、モデルを想像しつつ「夢のバトル」が楽しめる。まぁ天才的ドライバーな相手だと、勝負にならず、その走りに圧倒される…というのも一つの楽しみ方だろう。

三分割レースシーン 対人バトルはそれぞれの力量にそう差はなく(コーナリングに関してはCPUのようには誰もが行かない)、それぞれの走りの個性が明確に出るので、なかなか熱いバトルが展開できる。人間同士のみでも面白いが、CPUの選手をとりまぜたバトルがお奨めだ。
 人間同士のバトルだと、このゲームの売りである分割画面表示になる。これは明らかに「ファイナルラップツイン」のパクリともいえるが、他のF1ゲームでは「対戦」というもの自体が不可能なので、これはこうするよりほかなかったろう。人間3人が参加するとついにこのゲームのタイトルでもある「トリプルバトル」の三分割画面が実現(右図)、いっそう熱いバトルが楽しめる。ただ三分割にしちゃうと画面上部のコース全景と現在位置が表示されなくなってしまうので、各自コースを頭に入れておかないといけないが…。

 このバトルの熱さがそれなりに人気を呼んだのか、ヒューマンはPCエンジンでこそ本作の続編は出さなかったものの、2年後の1991年にメガドライブで「Fastest 1(ファスティストワン)」として本作を移植、さらに5年も後の1994年にスーパーファミコンで「ヒューマングランプリ3〜F1トリプルバトル〜」を発売している。さすがに5年もあとのスーファミ版は拡大・縮小機能を駆使してかなり見た目にもグレードアップしたゲームになっていて、「移植」とはいいがたかったが…。



◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.0
3.2
3.1
3.1
3.4
3.5
19.20
第521位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真

ウォルフ中村

小野泉

ドーピン和樹



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