アルナムの牙〜獣族十二神徒伝説〜

ジャンル:RPG
媒体:SUPER CD−ROM
発売元:ライトスタッフ
発売日:1994年12月23日
価格:8800円
商品番号:RSCD4006


◆長い長〜い導入部

外見 本作「アルナムの牙」はPCエンジンオリジナルで製作されたファンタジーRPG。ライトスタッフに所属して「フィーンドハンター」「アルシャーク」「エメラルドドラゴン」のキャラデザインでPCエンジンユーザーにもおなじみとなっていた木村明広氏が自ら原案・世界設定まで手がけて総監督という立場で取り組んだRPG大作だ。1994年年末発売とPCエンジン晩期とも言える時期の作品だが、それだけにPCエンジンSCDの機能をフルに使いこなした、特にビジュアル面における出来栄えが見事な作品である。

 僕が本作をプレイしたのはこの「語ろーぐ」コーナーにとりかかってからのことで発売当時は購入すらしなかったのだが、当時小学館から発売されていた「CD-ROMカプセル」の第六号に収録された体験版はプレイ済みだった。この体験版はゲームの冒頭部分のみをプレイできるものだったのだが、その冒頭に結構長時間(合計10分はあったような…)のビジュアルシーンがそっくり入っていて(ただし音声は抜きだった)その力の入りぶりに目を見張った覚えがある。ハイレベルな作画、TVアニメ並みとも思えるけっこう激しい動きのある細かいカット割りと映画チックな演出でなかなかに見ごたえのあるビジュアルシーンだと感心したものである。それでもその後聞く評判があまり芳しくなかったこともあり、とうとう手を出さなかった。当時少なくなかった「ビジュアルシーンは凄いけどゲームとしては駄作」の一本ではないかと感じられたのだ。

 で、発売から8年を経た今頃になってプレイして、そうした先入観を持ったことについては素直に反省している。8年を経過した今でもこのRPGはプレイする人をグッとひきつける魅力が多々ある。それはPCエンジンの末期、見方を変えればハードの機能が知り尽くされノウハウが蓄積されていた時期に開発されたゲームだからというところがあるだろう。アニメ並みとも思えるビジュアルシーンもさることながら、フィールドや町、ダンジョンなどのグラフィックもPCエンジン中最高ランクにつけていいレベルだと思う。まぁ少なくとも見た目に関しては文句なしの出来だ。

このレベルのビジュアルシーンが大量にぶちこまれてる とにかくビジュアルシーンには力の入りまくったこのゲーム、ゲーム開始から約10分にわたってプロローグが流麗な映像によって語られてから(一部に練習ステージ的に戦闘も入る)ようやく「アルナムの牙」のタイトルが出る。そして声の出演・スタッフリストを表示しながら物語導入部が語られるという映画的なカッコいいオープニングが続く。そしてようやくゲーム本編に入り、主人公・ケンブは部族の代表として都・清都(せいと)に赴く(この短い旅の途中でやられるとまた最初からやり直しなので要注意)。ところが清都に着くとまたもや長い長〜いビジュアルシーンに突入し、主人公達のキャラクター紹介と世界観、与えられた使命などがプレイヤーに説明される。これが終わるとようやく解放されて(笑)冒険の旅に本格的に出発、ということになるのだが僕がプレイしたところではそこまでにおよそ一時間ぐらいの時間がかかった(汗)。そこまでセーブする機会も無く、たまにCD読み込みエラーを起こすマシンを使っている僕などはヒヤヒヤしたものである。宿屋でセーブができるんだけど、説明書にもそのことが書いてないのもやや不親切だ。


◆史上初?の差別問題RPG

 この長い長い導入部は鬱陶しいと言えば確かにその通り。ただ絵と演出が上質なので僕にはあまり嫌味にならず楽しめた。またこの長い説明が実際に必要な、やや特殊な世界観をこのゲームは持っているのだ。
 主人公ケンブと、彼の仲間になってくれる11人のプレイヤーキャラクターたちは全て人間ではなく、「獣族」と呼ばれる種族。その名の通りでふだんは人間の姿をしているが「獣化」といって獣の姿に変身して特殊な力を発揮することができる。主人公ケンブのジュツ族は犬に、ヒロイン・トエイのボウ族はウサギに変身する、といった具合で全て「十二支」に基づいた設定となっているのだ(ジュツ=戌、ボウ=卯というように全て漢字読みに基づいている。ついでながら清都、ジュウケイ、ギホウなどの町の名前は「三国志」の蜀の地名からとったとしか思えない)
 そしてこのゲームの最大の特色が、これら十二の「獣族」たちはいずれも人間達にさげすまれた被差別種族であるという点だ。とにかくゲームの序盤で主人公達はメインキャラから町の通行人、お店の商人に至るまで人間達からイヤと言うほど差別と侮辱を受けまくる(特に泊まるたびに宿屋のオヤジに言われるコメントがひどい)。ゲームに「差別問題」を盛り込むとはずいぶん冒険をしたものだと思うし、実際序盤においてはこの設定は強烈に生きている。まぁ後半になってくるとあまり関係なくなってきちゃったのが不徹底の感があり残念だったが…

 さてこんな被差別民である獣族たちに対し、清都にいる清帝マリエーン様(声は島本須美さん!)が召集をかけた。この世界の各地に肉叢(ししむら)と呼ばれる怪物たちが大発生して各地で人々を襲っており、これに対処するため獣族の代表らを各地の都市の警備に配置するというのだ。11人の獣族代表たち(シン=辰族だけは終盤になって登場する)は命じられるままに各都市に配置されるのだが、なぜ差別される彼らが警備を命ぜられたのか?そもそもなぜ差別されることになったのか?また肉叢はなぜ出現するのか?さらにはマリエーンとは何者なのか?といった数々の謎がこの長い説明シーンで伏線として織り込まれる。

 かくして主人公ケンブはヒロインとなるトエイと共に任地に赴く。ここからはお約束のRPG的展開で、次々と襲ってくる肉叢を倒して経験値を稼ぎ、金を稼ぎ(肉叢を倒した記録から給料が支給される仕掛けになっている)、各地で発生するイベントやボス戦をクリアして物語を進めていくことになる。RPGのお約束を踏襲しているのだけど、一応そこにプレイヤーも納得しやすい各種説明が用意されており、安易な物を作るまいとする作り手の姿勢に好感が持てる。
 それにしてもこのゲーム、フィールド上で敵と遭遇する確率が異様に高い。ほんとに2、3歩歩けば戦闘というほどのエンカウントだ。レベルアップしていくとあまり戦闘にならなくなったように感じたので、どうも自パーティーが弱いと高い確率で敵と遭遇するようにプログラムされているらしい。しかもパーティーは最大3人、時には2人しか参加しないためかなり苦しい戦いを強いられる。出現率の高さもあいまって投げ出したくなる人も出そうな、かなり辛い道行きである。

 このゲームのもう一つの特色はやたらにパーティーキャラの入れ替えが行われることだろう。なにせプレイヤーキャラは十二支に基づくから総勢12名。それでいてパーティーは最大3人というわけだから、とにかくイベントが一つ終わるとメンバー入れ替え、というめまぐるしいペースだ。物語を通してそれぞれ個性的なキャラの12人全員にほぼまんべんなく見せ場が用意されており、これはこれで楽しかったけれどパーティーキャラを育てるというRPGの魅力の一つの要素にはまるっきり背を向けた形であるとも思えた。またケンブとは別行動になっている間にも各キャラは勝手に修行をつんでいるらしく、一緒になるたびにケンブよりいくつか上のレベルに成長しており、ケンブのやることがほとんど無いなんて時も多かった。

戦闘画面 それとこの12人はいわゆる武力系と魔法系に分かれているのだが、ハッキリ言って後者の方が圧倒的に強い。ケンブをはじめとする武力系は「獣化」することで通常より高いダメージを敵に与えることができたりもするが、魔法系の連中が使う「気法」の威力の前ではまるっきり形無し。このあたりもうちょっとバランスを考えてほしかったところである。それと回復系気法が使えるキャラがいるといないでは大違い。パーティーキャラ入れ替えは強制なので武力系ばかりがそろったパーティーはかなり悲惨だ。大量の回復薬を購入してからの出発が絶対だ。

 戦闘の独自性の一つに「合体攻撃」がある。獣族たちは他のパーティーキャラと一緒になって敵に大攻撃をかけることができ、キャラ同士の組み合わせにより異なる多種多様な攻撃をかけられるのだ。レベルアップするにつれ派手な攻撃になっていき、多数の敵にはかなり有効で見ていてもなかなか楽しめるのだが、「気力」(よくいう「MP」だ)を大量にしかも二人ぶん消費するのでハッキリ言って効率はよくない。このゲームは通常攻撃・獣化攻撃でも気力を消費するので「気力不足」に陥りがち。気力を回復するアイテムも忘れずに大量購入してから町を出るべきだろう。作り手もわかっているのか、持ち歩きできるアイテムの数はかなり余裕をもった設計になっている。町で不要なアイテムを預ける(ただし有料)ことが出来るのも親切設計だ。
 親切設計といえば町で武具・防具を買う際に誰に装備できるか、今より能力が上がるかどうか一目で分かる「赤信号・青信号」のシステムも便利だった。たまに見かける薬品類自動販売機「ぢぇふくん」もずいぶんお世話になった(笑)。

 あと、このゲームのボス戦の一部にはストーリー上の「仕掛け」が用意されているものがある。いつまでたっても敵を倒せないと思っていたら、パーティーのうち一人が倒されることでイベントが進行するなんてことがあるのだ。まぁ面白い試みだったとは思うが、不親切と言えば不親切。あ、そうそう。不親切と言えばセーブデータが一つしか作れないということも挙げておこう。


◆しっかり作ってあれば感動の名作?

 戦闘に関しては誰もがあれこれと文句を言ってしまう出来だが、ストーリーそのものはかなりいい。「差別問題」をテーマに取り込んだこともそうだが、ヒロインのトエイにすでに許婚の恋人がいたり(まぁ予想通り死んじゃうんですけど)、かなりエグい悲劇的展開があったり(プレイした人はお分かりかと思うが、あれはきつい!)、それぞれのキャラクターが抱える人生の悲しみや喜びをうまく物語に織り込んでドラマチックに展開していくなど、一筋縄ではいかない、ゲームとしてはかなり意欲的なストーリーテリングだと思う。要所要所にハイレベルのビジュアルシーン(個人的には「スズメ」が馬に獣化するシーンのアニメに感心した)、声優の声によるお芝居が挿入され物語を盛り上げる。また後半にいくにつれこの「アルナム」と呼ばれる世界の秘密が次第に明らかになってゆき、終盤にあっと驚く展開になるところなども大したもの。
 ただ終盤に妙にあわただしくすっ飛ばすように話がまとまっていき、消化不良をおこしているところも否めない。どうやら開発上の都合でストーリーを一部カットしているらしく、それが終盤の物足りなさにつながっているようだ。僕もプレイしていてあともう一山あるような気がしてたもんな。

 どうも開発期間が足りなかったらしい、と言われてしまう本作。そのためなのであろうが、やたらにバグが存在するのだ。実際、商品の回収・交換ものじゃないかというほどのレベルだと思う。延期してでも直せなかったものだろうか?とにかくこのバグのためにかなり低い評価を与えられることになってしまった不幸な作品なのだ。

 確実に発生する一番とんでもないバグは、タランダというキャラが使える「熱炎」という気法を発動するとその途端に画面が異常になりフリーズしてしまうというもの。僕は事前に知っていたから避けられたものの、途中でうっかり使ってしまった人などは悲惨な事態になったことだろう(リセットしてセーブ時点からやり直し)。また、やはりタランダである装備をつけたらその途端にウィンドウ内の表示がおかしくなるという事態も起きた。それとトバリ・タランダとパーティーを組んでいるときにレベルアップしすぎると先へ進めなくなってしまう(なんとこの場合最初からやり直し!)というものもあったそうだ。ん?…全てタランダ絡みなのはなぜ?(笑)
 あとプレイに支障は生じなかったが「スズメ」という美少女キャラがしゃべるシーンでなぜか顔グラフィックがゴツいオヤジ顔になっている(笑)という謎の現象も確実に起こる。僕がプレイした際には同時期に他のキャラでも顔グラフィック違いが起こっていた。あと洞窟の中に唐突に人が立っていて話しかけることができずに「?」と思っていたら洞窟の壁の中、つまり地中にも同じ人が立っていてバグだと気が付いたこともあったっけ。

 さらに当時の雑誌記事などの読者投稿によればダンジョンの先にボスキャラが登場せず先に進めないという致命的な事態も起こるケースがあるらしい。誰かに話を聞いていないといけないとか、そういうことであったのだろうか。僕はそんなことも聞いていたのでまんべんなく村人や通行人に話しかけてみたせいか特に問題なくクリアできてしまった。また当時の雑誌レビューで、最終盤で強制装備される武器「アルナムの牙」(タイトルの由来にしては割と安直に登場する)がそれまで装備していた武器より役に立たないとの記述があったが僕自身にはそんなことはなかった。
 それと「方角」の問題。序盤で「○○の町は東にいったところにある」と言われて東に行ってみるとそこから先には進めない。あれ?と思って西に進んでいったらその町があった、なんて激怒ものの間違いがある。まぁ村人の中に「村を出て左にいけ」と言っているのがいてフォロー(?)しているのだけど。他にも「南西」「北東」で「そりゃ違うだろ」と言いたくなる場面があった。その他細かいところでチェックのし忘れと思われるものが多々ある。

 そんなこんなでエンディングを見られない人続出だったらしいこのゲーム(僕は幸運だったようだ)、発売直後はかなり散々な評価をくらってしまった。それでも「PCエンジンFAN」の読者投票ではそこそこ良い点(30点満点で23点台)であるのはストーリーと絵の良さゆえだろうか。しかしその後ライトスタッフが本作をプレイステーションに移植、さらに続編もPSで発売と発表したことでPCエンジン〜FX信者からかなり非難をくらってしまうことになった。
 PS版「アルナムの牙」は未プレイなのだが、なんとRPGではなくストーリーを追うだけのアドベンチャーゲームに作り変えられていたという。しかもPCエンジン版の声とビジュアルもほぼそのまま流用するという安上がりぶり。RPGとしては確かに問題が多々あったのは事実だが、なにもアドベンチャーにせんでも、と思うところ。まぁ実のところ続編「アルナムの翼」の前座・宣伝という狙いでつくられたものだろう。
 続編「アルナムの翼」は「牙」から数万年後、ケンブのお子様の時代のお話だそうで。前作のキャラも登場して前作ファンには受けるところもあったようだが、CD-ROM3枚もありながら十数時間で終わるかなり物足りない内容だったとの話である。また「牙」が差別問題をとりあげたのに続いて「翼」では環境問題をとりこむなどしていたらしい。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.537
4.006
3.741
3.544
4.013
3.952
23.793
第70位


★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
総合評価
岩崎啓真
50
ウォルフ中村
40
ウキキ松崎
40
城イドム
50

ウキキ松崎評価(各項目5段階評価)
グラフィック
サウンド
操作快適度
ゲームバランス
オリジナリティ
コストパフォーマンス






  
★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
サワディ・ノダ

ローリング内沢

イザベラ永野

TACOX



迷い込んだ方はこちらから