エフェラ&ジリオラ ジ・エンブレム・フロム・ダークネス

ジャンル:アクションRPG
媒体:CD-ROM
発売元:ブレイングレイ
発売日:1991年12月13日
価格:7200円
商品番号:BRCD1002


◆人気ファンタジー小説をゲーム化

外見 和製ファンタジー小説方面は疎いもので、このゲームをプレイするまで全く知らなかったのだが、ひかわ玲子さんによる「女戦士エフェラ&ジリオラ」というヒロイック・ファンタジー小説シリーズがある。世界設定自体はよくあるファンタジーもののそれなのだが、主人公が女の子二人組というのは発表された1987年当時としては珍しかったんじゃなかろうか(その後は類似品が多いと思うが)。魔術師のエフェラと、皇帝一族のお姫さまのジリオラが傭兵となって各地を旅し冒険を繰り広げるシリーズで、女同士の「相棒」の掛け合いの妙、男以上に豪快・爽快な冒険譚が売りであったらしい(ゲームのほうしかやってないもので…)
 人気はかなりあったようで、シリーズは何作も続けられエフェラ&ジリオラの子ども達の代まで続く大長編となったし、1990年には単行本の発売元だった大陸書房から「女戦士エフェ&ジーラ グーデの紋章」のタイトルで45分の劇場アニメ化(ビデオも出ている)もされている。このPCエンジンCD-ROMによるゲーム化もそうした人気の流れの中で企画されたものなのだろう。実際、PCエンジン版はこの時期のCD-ROMゲームとしてはやけに出演声優陣が豪華な気がしたのだが、どうもこのアニメ版の声優がそのままシフトしているものらしい。

 ただしこのゲームはCD-ROM媒体のRPGによくある「イベントはアニメ風ビジュアルシーンで処理」という手段はいっさい使っていない。オープニングからエンディングまで、けっこう豪華な声優陣をぜいたくに使ったイベントシーンはかなりの量入っているのだが、すべてゲーム中のそれを少し大きくした程度のキャラたちによる「芝居」で表現されているのだ。話の区切りでアニメ風のキャラの絵がアップで出ることもあるのだが(ドット絵CGではなくイラストの「取り込み」と思われる)、アニメ版のそれとは明らかにキャラクターデザインが異なっている。
 説明書(パッケージ表)のイラストもアニメ風ではないし、説明書内にあるエフェラとジリオラのアニメ風イラストもアニメ版とは異なる。どうもアニメ版の画像使用が許可されなかったことは確からしい。声優陣がアニメ版ほぼそのままであるのを見ると無関係ではなさそうなのだが…あるいは原作&アニメの製作元であった大陸書房が間もなく倒産(この翌年のこと)してしまうことも背景にあったのだろうか。

イベントシーン一例 事情は判然としないが、アニメ風ビジュアルシーンを使わなかったことで、このゲームのイベントシーンはかえって独特の味わいを見せてくれる。ゲーム中使っていたのと同じキャラがガンガンしゃべり、全身で激しく動く演技をしてくれるので、アニメ風のものにありがちなゲーム部分との断絶感がない。顔のアップすら表示されないのでプレイヤーあるいは原作読者がそれぞれ抱いているキャライメージに想像の余地が許されているという面もあるし…また、アニメを使わなかった分余裕があったのか(?)セリフの量はかなり多く、原作同様の女の相棒同士の掛け合いがなかなかに面白く聞きモノだ。
 ただ小さいキャラで表現されるお芝居のため、状況が分かりづらいと考えたのか、小説の地の文のようなナレーション(速水奨が担当)がやたらに入る。これはこれで小説風で面白くはあるんだけど、やや説明過多という印象もある。

 ゲームの開発・発売元は「ブレイングレイ」。もともとパソコンでゲームを出していたソフトハウスで、モンスターを主役にすえた異色RPG「ラストハルマゲドン」を出したことで名高い。PCエンジンには1990年にその「ラストハルマゲドン」を自らCD-ROMに移植することで参入しており、この「エフェラ&ジリオラ ジ・エンブレム・フロム・ダークネス」(’91)がPCエンジン第2作目にしてPCエンジンオリジナル作品だ。その後自社のパソコンゲーム「ジェノサイド」を92年にPCエンジンSCDに移植している。
 PCエンジンでの「ブレイングレイ」作品はこの3作だけ。じゃ、あとは撤退したのかというとさにあらず。PCエンジン末期の1994年にいきなり参入してきてバシバシとソフトを出した謎のメーカー「フジコム」が実はこの「ブレイングレイ」の後継会社だったりするそうで。そう考えるとPCエンジンとは案外関わりの深いソフトハウスだったわけだ。


◆二人同時プレイ可能のアクションRPG!?

 ゲームを起動すると世界観を説明するオープニングデモが流れ(ここだけは一枚絵によるビジュアルシーン)、そのあとでタイトルが表示される。なお、「エフェラ・アンド・ジリオラ ジ・エンブレム・フロム・ダークネス」というタイトルが「PCエンジン史上一番長いタイトル」とする記述を見かけることがあるが、「スーパーリアル麻雀スペシャル・ミキ・カスミ・ショウコの思い出より」(’92)のほうが長い(笑)。

 さてタイトル画面でRUNボタンを押してみると「エフェラ」「ジリオラ」「エフェラ&ジリオラ」からどれか一つを選ぶ選択画面になる。主人公が二人いる原作をアクションRPGというジャンルで生かすべく、このゲームは主人公のどちらか、あるいは2人同時プレイが可能となっている。2人同時プレイの場合は当然パッドを二つ用意して臨まねばならない。また、このプレイキャラ設定は最初に決めると途中からの変更は一切出来ないので注意のこと。
 エフェラは魔法使い、ジリオラは剣士という設定なので、両者は微妙に能力が異なる。もっとも通常攻撃はどちらも剣なので大きく違うわけではないのだが…ジリオラのほうが剣士だけに若干剣のリーチが大きいが、一方のエフェラはレベルアップにしたがって覚える魔法による攻撃や回復が可能なので説明書でも「エフェラ=初心者向け、ジリオラ=上級者向け」というアドバイスをしている。ジリオラの方も「奥義」という特殊攻撃・回復能力を持ってはいるが、魔法ほど使い勝手&威力がないのは確か。

 魔法を使えるのはエフェラだけなので、「MP」はエフェラにのみあるパラメータだ。このゲームにおけるMPというのがいささか特殊で、レベルアップの際や町にある施設を利用することでHPの回復はできてもMPは回復できない。MPの回復は「ソレンジュの葉」という薬草を服用することで可能なのだが、これが町の薬屋では売っておらず、フィールド内に自然に生えていたりダンジョン内の宝箱に入っていたりしていて、自分で発見しなければ入手できない。しかもゲーム中一ヶ所を除いて一度とったらそれきりのものなのでかなり貴重だ。そのぶん体力回復以外の魔法はたいしてMPを消費しないようにできてはいるが…後半はかなりキツイ展開だからMPを高めに維持しておきたいので、そのソレンジュの葉が無尽蔵に採取できる「ある一ヶ所」で大量にとっておくことをすすめたい。

 ところで気になるのが「アクションRPGでの2人同時プレイ」がどのようなものなのか、ということだ。一応PCエンジンではハドソンから出た「ダンジョンエクスプローラー」(’89)という5人同時プレイ可能のアクションRPGという前例があり(さらに言えばその前例としてアタリのアーケードゲーム「ガントレット」がある)、このソフトもそれを参考にしたところがあったかもしれない。
 実際に試してみるとわかるが、要するに二人を常に一画面内に置くことでマップのスクロールを処理している。つまり一人が勝手にドンドン進もうにももう一人がついてこないと画面がスクロールしないわけ。当然双方が別方向に行くことも出来ず、迷路をウロウロするときもちゃんと二人で話し合い合意の上で道を進んでゆかねばならない。さすがにゲームの最初から最後まで同時プレイに付き合ってくれるヒマな友人もいないのでどういう風になるのかは想像するしかないが、「いくぜ!」「がってんだ!」的な原作の雰囲気同様の相棒同士の楽しい掛け合いが展開されるのではあるまいか(笑)。
 で、二人同時プレイはゲームを進める上で有利なのか不利なのか。これも判断が少々難しいが、ボス戦や妙に強いザコ(多いんだ、これが)の挟み撃ちに対しては二人一緒の威力を発揮するとは思う。ただし「殺される対象も2倍いる」ということでもあり、どちらか一方でも死んでしまうとゲームオーバーになってしまう(この場合、ダンジョンの入口に戻される)というルールは一人プレイよりもきつくもある。友達同士でプレイして友情にヒビが入らなければいいのだが(笑)。
 2人同時プレイ可能というのは原作を生かしたうまい設定だとも思うのだが、だったらアクションRPGにしなくてもよかったような…という気もしなくはない。


◆バラバラなバランスにイライラ

 原作は未読なのだが、各種あらすじ紹介を見る限り、このゲームのストーリーは原作小説の最初の部分をベースに、より後で書かれた部分も取り込みつつまとめられたもののようだ。
 ゲームの冒頭、エフェラとジリオラは偶然その死に立ち会った貴公子から「夢石」を預けられ弟・妹の救出を頼まれる。貴公子が死ぬとその従者の少年まで殉死するといういきなりハードな幕開け。ほんらい面倒な事には首を突っ込みたくはないエフェラとジリオラ(セリフでは互いに「エフェ」「ジーラ」と愛称で呼び合う)だったが最初は成り行きで、途中からは運命の導きによって冒険を繰り広げることになる。
 原作がしっかりとあるためかストーリー・シナリオの出来はかなりいい。RPGにありがちなパターンに陥りそうで陥らないのは主人公2人のキャラがかなり立っているためだろう。原作に登場する人物があまり説明なしに唐突に登場する難もあるが、そう気にはならない。イベントシーンのキャラ&声優演技の面白さは格別で、コンスタントに30個ほどあるイベントシーン見たさに先に進みたくなることは請け合える。
 またイベントシーンの直後に「次に何をするか」がキャラクターの一枚絵とセリフで表示されるのも親切だ。

 物語の展開上、舞台はこの世界のあちこちに飛ぶ。しまいには妖精界や魔界にまで飛んだりする。バラエティ豊かなのは結構なのだが、いきなり違うところに飛ばされて武器屋や薬屋・宿屋といった施設が急に使えなくなることがあるのは困るところ。回復薬等をしっかり用意していないとそのまま飛ばされた先で行き詰まることも多そうだ。セーブがどこでも可能で最大6個保存できるという親切設計はこのためで、セーブはこまめに、各所で複数やっておく必要がある。終盤に行くに連れダンジョン探索の難度がどんどん上がるから早い段階のセーブは最後まで残しておいたほうが無難なのではなかろうか。
 
 アクションRPG、しかもキャラも割と大きめなので、ダンジョンや町・村、フィールド画面などはかなりよく描きこまれている。「全てが大きめサイズに作られたイース」という感もあって、なまじ大きく描かれているために迷路もかなりの広さにわたってしまうことになり、これで迷ってしまう人も多かったようだ(実際はそう複雑でもないのだが)
 町や村もかなり広めで、行き交う住人もかなり多い。一人一人に話しかけるとなかなかバリエーション豊富なセリフをしゃべってくれるが大半はゲームとは無関係(笑)。「(^o^)」なんて「顔文字」はこのころには確立していたんだなぁ…なんて時代に思いを馳せるセリフもある。
 そんな住人達に注意されることがあるのだが、このゲーム、なんと一般住民に対する攻撃が可能となっている。ただし「試しにやってみな」と言われて試しに住民を斬り殺すと、たちまち周囲の住民が集まってきてなぶり殺しにされてしまう(笑)。その場ではウケてしまったことは認めるが、なんで全編にわたってわざわざこんな作りになっているんだか(笑)。
 なんで、といえばフィールドを歩いていて雑草にひっかかるとHPが削られるというのも謎。

 さて2人同時プレイ可能にしたせいなのかどうなのか…このゲーム、とにかくゲームバランス、ことに一部ザコ敵の異様なまでの強さと多さ、それらを倒した時の経験値がひどくアンバランスだ。はっきり言うと「バラバラ」としか思えない。
 序盤ではどんな強い敵でも経験値は1か2ずつしかもらえない。序盤だから…と思うかもしれないが、その序盤でまだ2つ目のダンジョンとなる城の内部探索ではあまりの敵の強さに一歩も進めないことに呆れるはず。しかもこのゲームは敵がこちらを見つけると寄り集まってくる「ホーミング」システムがとられているため、まさに敵さんの殺到状態。中には異様に速いスピードで突っ込んでくる者もいて、ぶつけられて一撃で死亡という場面も少なくない。さらに、これは恐らく2人プレイ可能にしたためだと思うのだが、画面端近くまでいかないとスクロールしないため死角から刺客(笑)が突っ込んでくる場面も多い。

ボス戦画面 こうした強いザコ敵がいる場合、「ああ、まだレベルが足りないんだな」と経験値稼ぎの戦闘をするのはRPGのお約束ではあるが、前述のように一体倒しても1か2しか経験値が入らず、レベルアップも大苦労。フィールド内には次々と敵が一体ずつ出現してくれるポジションが時々あり、こういうところでひたすら剣を振り続けていれば自動的に経験値稼ぎが出来るというものだが、当然時間はかなりかかる。しかもレベルアップしたところで攻撃力・防御力はさして劇的には変わらないので苦労は相変わらずだ。
 それでいて後半に入るといきなり一体につき経験値100とか160とか突然の大サービスになったりするから訳が分からない(笑)。しかもたいていのRPGの場合、こちらが成長すると同じモンスター1体あたりの経験値は下がるのが常だが、このゲームではなぜか下がっていない。従って後半ではただただ経験値稼ぎに専念してレベルをMAXにしてから進むというのもありだ。そういや僕も終盤手前ぐらいで最高レベルまで上げてしまったのだが、なぜかHPのゲージにまだ余裕があった。まったくもって、全体的にプレイヤーキャラ成長と敵とのバランスの調整作業をちゃんとやったのかどうか怪しく思えてしまう出来なのだ。

 また魔法を使えるザコ敵という厄介なものもいて、「ブラックマジック」といって一時的に背景が真っ暗になってしまうことがある(最初やられた時はバグかと思った)。じっとして数秒待てば元に戻るのだが、やみくもに剣を振るってこのザコ敵を倒してしまうと、画面が元に戻らないという大問題が起こる。場所を移動してこのザコが再び発生するようにすれば元に戻るのだけど、迷路の中などでこの現象に出くわすとかなり困る。ホントに何を考えてこんな仕組みに?と思うばかり。
 ほかにも「ホワイトマジック」といって広範囲に雷撃を加えてくる敵もいるのだが、特に雷撃描画があるわけではなくいきなりビビッという音と共にダメージを受けるだけなのも手抜き感を感じてイヤ。あと「チェンジマジック」といって2人同時プレイの際にエフェラとジリオラの位置を入れ替えてしまうという変り種の魔法もある。これはアイデアものだとは思うけど、いきなりやられると結構イヤ(笑)。
 
 イライラがつのるザコ戦だが、話の節目節目で入るボス戦は割とよく出来ていて面白く、難度もそこそこ。負けてもボス戦の直前に戻される親切設計なので何度もトライしていればたいていは勝てるはず。序盤のボスほど強かったように感じたのは気のせいだろうか…一部レベルが足りないと絶対に勝てないボスも存在する。
 物語の終盤、町で回復の機会を得られないままボス戦の連打があって大変なのだが、ラスボス戦ではいつの間にか持ち物がHP・MPの回復薬でギッシリという驚きの嬉しいサービス(笑)があるので、まぁなんとかなるかと。

 ラスボスを倒すと、登場したキャラたちのセリフ無しお芝居シーンを背景にエンディングロールが始まる。いきなり終わりなので、もっと余韻を残す演出にしてほしかったところ。
 バランスに関してはかなりひどいゲームだとは思うのだが、それ以外は割としっかり作ってあるし、話は確かに面白いので根性のある人はアタックしてみるといいかも。僕自身このコーナーのためにこのゲームを初めて遊び、主人公二人組の「その後」が描かれた原作小説を読んでみたいと思ったんだから、なんだかんだ言いつつ楽しませてもらったわけだ。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.95
3.76
3.43
3.19
3.48
3.57
21.38
第281位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★

(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真

ウォルフ中村

東千里

ミロはじめ


★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

アルツ鈴木

渡辺美紀

TACOX


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