エメラルドドラゴン

ジャンル:RPG
媒体:SUPER CD−ROM(AC対応)
発売元:NECホームエレクトロニクス
発売日:1994年1月28日
価格:7800円
商品番号:NHCD3005


外見◆パソコンの人気RPG、PCエンジンに上陸

 「エメラルドドラゴン」は21世紀に入った今なお、プレイした人々の間で根強い人気を保ち続けている伝説のRPGである。もともとは1989年年末にPC-8801mkIIおよびPC-9801シリーズ向けにバショウハウスから発売されたもので、開発はグローディア。当時グローディアに所属していたイラストレーターの木村明広氏がキャラクターデザイン、飯淳氏がシナリオを担当して、アニメ調のビジュアルとドラマチックなストーリー、AI任せのタクティカルコンバットなどで人気を博した。翌1990年末にはグローディアを発売元としてX68000、MSX2にも移植された(ただし木村氏がライトスタッフに移籍したため絵は別の人が担当した)。さらに1992年には、当時PCエンジンとタメを張った(?)CD−ROMマシンであるFM-TOWNSに移植され、ここで木村氏の原画取り込みと声優を使った演出のデコレーションが施されている。まさにこの時期の和製パソコンゲームを制覇する勢いだったのだ。

 TOWNS版が出た時点で「これはPCエンジン向きだな」と思う人は少なくなかったはず。実際当時のPCエンジン誌でも移植希望ソフトに常にあがっており、角川書店から出ていた「(勝)PCエンジン」誌ではこのゲームの世界の後日談を描いた小説(飯淳著・木村明広絵)も連載され、1992年の時点でPCエンジン版開発にゴーサインが出ていたものと思われる。その際には角川書店がまとめ役として乗り出すものと思われたが、それは1992年末に起こった「角川お家騒動」により頓挫する(PCエンジンでもこの時いくつかの企画が消え、あるいは消えかかった)。そのお家騒動で角川書店から分裂したのがメディアワークスで、「(勝)PCエンジン」はスタッフ・ライターごとメディアワークス刊行の「電撃PCエンジン」に移り、「(勝)」が抱えていた企画の多くが「電撃」で継続されることとなる。「エメラルドドラゴン」もその一つだったようで、パソコン版展開の過程でややこしくなっていた権利関係をメディアワークスが一括し、PCエンジン版の発売はPCエンジンの主催者NECホームエレクトロニクスが引き受けるという形で、ようやく開発がスタートする。

 ところでこのPCエンジン版「エメドラ」の開発を「ライトスタッフ」がやったと思っている人が少なくない。確かにライトスタッフはPCエンジンに参入していくつかゲームを発売しているし、飯淳+木村明広の組み合わせは同社の「フィーンドハンター」(’93)ですでにPCエンジンにお目見えしていた。さらにこの「エメドラ」の後に木村氏のキャラデザイン・総監督になる「アルナムの牙」(’94)がライトスタッフから発売されている。そのため「エメドラ」もそうだったと思われがちなのだが、実際には開発はPCエンジン界の隠れた名開発会社「アルファシステム」が担当している(ライトスタッフも「協力」としてクレジットされてはいるが、著作権表示みたいなもので開発そのものにはタッチしていないと思う)
 PCエンジン版の「監修」をつとめたのは桝田省治氏。そしてメインプログラム(「演出」とクレジットされる)を担当したのは岩崎啓眞(偶然とは恐ろしいもので岩崎氏と飯氏は実は幼馴染で、同じ業界にいてビックリしたとか)。そう、「天外魔境II」(’92)および「リンダキューブ」(’95)の名コンビである。彼らPCエンジンを知り尽くしたスタッフにより単なる移植ではない、よりシナリオや戦闘AIを改善していっそう遊びやすくしたアレンジがほどこされている。
 さらにオリジナルのシナリオ担当の飯淳氏、キャラクターデザインを担当した木村明広氏がライトスタッフから出向参加し、とくにパソコン版の頃から大きく絵柄を変化・完成させた木村氏による原画が劇的なビジュアル演出に貢献している。音楽はこれまた「天外II」の大半の曲を作った福田裕彦氏が担当してパソコン版とは全く異なるBGMを添えている(聞いてると確かに「天外II」っぽいところが多い)
 またCD−ROMなら当然、ということで多くの有名声優が出演して(TOWNS版とは全く変更されたが)、これでもかとばかりの豪華版となった。このあとPCエンジン版をベースにスーパーファミコンにもアレンジ移植されたのだが(グラフィックは完全に使いまわしになっている)、そちらではビジュアルシーンや肉声ドラマなぞできるわけもなく、やはりPCエンジン版が完成形態と言えるのではないだろうか。
 

◆アニメチック演出が盛り上げる壮大なドラマ

 本作が発売された94年初頭はSCDの円熟期にあたり、盛大なビジュアルシーンで豪華に盛り上げる作品が多い。「エメラルドドラゴン」はもともとアニメ的な原作だったこともあいまって、そうした演出を究極まで詰め込んじゃった一本であり、とにかく全画面のアニメがよく動き、パソコン版よりグッと美麗な木村明広キャラがよくしゃべる。起動するとエンドレスで流れるデモは、壮大なBGMと共にゲームの「見せ場」のビジュアルシーンを次々と映し(かなり終盤のビジュアルまで見せちゃってる)、映画の予告編のようなカッコよさ。そのデモが終わると世界観設定・プレストーリーを見せるビジュアルデモが続き、いやが上にもこのゲームをプレイしたくなってしまう。実際このエンドレスデモは店頭でさんざん流され、まだCD-ROMマシンを持ってない人も少なくなかったこの時期、かなりインパクトがあったのではないかと思う。

 舞台は「イシュバーン」という世界で、かつては万物の霊長であるドラゴンと人間が共存していた。しかし2000年前にドラゴンに死の呪いがかけられ、ドラゴンたちはイシュバーンから去って「ドラグリア」というドラゴンのみの国を作った(原作ゲームは単に「ドラゴン小国」となっていたがPCエンジン版で地名っぽく命名された)。ここまでがプレストーリーで、起動時のデモで語られている。
 タイトル画面でRUNを押してゲームをスタートすると、プレイヤーはドラグリアに住む少年竜のアトルシャンを操作できるようになる。操作して海岸に行ってみるとそこには難破船が漂着しており、そこから一人の幼い少女が救い出される。記憶を失っていた少女にドラゴンたちは「タムリン」と名づけ、みんなで育てていくことになった。アトルシャンはタムリンと12年の間いっしょに育つことになる。
タムリン そこからいきなり時間が飛び、いつの間にかタムリンが人間界のイシュバーンに帰って数年が経った時点になる。青年に成長したアトルシャンと長老の白龍の対話があり、そこからタムリンとアトルシャンの別れの思い出、魔軍の侵攻による戦乱の危機に苦悩するタムリンがアトルシャンの角からつくった角笛を吹く、といった原作でも印象的だった名シーンが美しいビジュアルアニメで語られてゆく。そしてアトルシャンは白龍から試練を与えられ、龍の鱗により人間の姿になるまでの練習ステージをプレイさせられ、そのままイシュバーンに飛ばされる。ここでようやくゲームスタートというわけである。
 ゲーム開始時点でのビジュアル演出は原作にもほぼそのままあったらしいが、練習ステージ的に冒険をプレイさせられるところはPCエンジン版の追加部分とのこと。

 イシュバーンに飛んだアトルシャンは早速捕われの身となっているタムリンを救出に行く。二人の再会シーンはこれまた感涙のビジュアルシーン。カッコいいとこ見せようとドラゴンに変身して牢を破壊したものの、ドラゴンの呪いのためにズッコけてしまうアトルシャンを「大好きよ、アトルシャン!」と熱く抱擁するタムリン、いきなり序盤からアツアツのカップルである。たまたま美形の人間に変身させてもらったからじゃないでしょうか、などと思ってはいけません(笑)。
 カップルといえば、メインキャラであるハスラム王子と、そのお守役的存在であるファルナの「ツンデレ」状態(当時はそんな言葉はなかったが)のカップルぶりも見所。それぞれアトルシャン(=関俊彦)、タムリン(=笠原弘子)、ハスラム(=井上和彦)、ファルナ(=冬馬由美)と、実に見事にハマりまくった声優布陣である。このほかメインキャラであるサオシュヤントに速水奨、悪役オストラコンに塩沢兼人、老レジスタンスのホスロウに郷里大輔、その他挙げれば、ああ、あの人もあの人もといった感じで有名声優がゾロゾロ出演し、同時期のPCエンジンCD-ROMソフトの中でも配役の豪華さは出色だ(ついでながら同時期にメディアワークスから同じ声優を使ったドラマCDが「電撃CD文庫」の一本として発売されている)
 声といえば…PCエンジンCD-ROMソフトを音楽CDプレイヤーにかけると一曲目に「2曲目を再生しないように」と警告音声が流れるが、「エメドラ」のそれはひょっとするとPCエンジン全ソフト中でも最高傑作かもしれない。爆笑必至&今は亡き名声優熱演の必聴ものである。

 さて冒険を進めていくとコンスタントにイベントが発生し、次々と魅力的なキャラクターが登場。UPの顔グラフィックで表示される各キャラは要所要所でしゃべりまくり、ここぞ!という見せ場では全画面を使ったアニメそのままと言ってもいいぐらいのクオリティのビジュアルデモが展開され、恥ずかしくなっちゃうほどストレート王道な、涙あり笑いありスリルありのストーリーが緩急自在、テンポよく語られてゆく。
 合計時間は計算してないが、こっちが何もしないで鑑賞することになるビジュアルシーンだけでもかなりの時間があるんじゃなかろうか。なんとなく「アニメを見るためにゲームを進めてる」って感じもしてきて、その辺を喜べる人と拒否反応を起こす人とでこのゲームの評価は分かれてしまうだろう。あとパーティーキャラがストーリー展開にしたがって頻繁に入れ代わり(不変なのはアトルシャンとタムリンのみで、経験値稼ぎとレベルアップもこの二人だけしかしない)、一部パーティーキャラは途中で唐突に死んでしまったりするため、「キャラを育てる」というRPGの醍醐味が薄めなのも好き嫌いを分けそうだ。


◆ひたすら遊びやすい王道RPG

 原作のパソコン版には触れたことが無いのでちゃんとした比較が出来ないのだが、PCエンジン版がかなり遊びやすくアレンジされている、という話は聞く。ストーリーやシステムは基本的に原作を踏襲しているが、家庭用ゲーム機の一般向け大作という狙いから、パソコンゲームっぽさはかなり解消されている。
 
 フィールド画面、ダンジョン画面ではキャラクターも背景マップもかなり大きめに描かれ、非常に見やすく、パッドによるキャラの操作もなめらかで軽快だ。原作のダンジョンがどうだったかは知らないが、なんとなく洞窟や迷宮の描き方が「天外II」のそれに似ている気がする。「天外II」では洞窟や迷宮内では大き目のキャラに変更する仕組みになっていたが、「エメドラ」ではそれを全体に広げている感じだ。
 そんな大き目のキャラで旅するマップはかなり広大。町や村はフィールドとの画面切り替えではなく全部同一画面内にまとめて表示されており、町と町との間はところによってはかなりの距離を歩かされる。そこでエンジン版では町と町の間に「辻馬車」を設けて、一度行った町については瞬時移動が可能(ただし有料)という形になった。これは確かに便利なんだけど、家庭用ゲーム機RPGの平均値から見ても移動に費やす時間はそう長くはかからず、常に地図が参照できる上に街道の石だたみがちゃんとついているからまず迷うことは無い。また途中の敵との遭遇率もそうストレスを感じさせるものではないので、経験値稼ぎと思ってテクテク歩くほうが楽しいようにも思う。
 PCエンジン版で導入されたんじゃないかと思うのが「預かり所」のシステム。要するに今は不要だけど捨てたり売ったりするには惜しいと思う道具や武具を「預け」て、他の町の「預かり所」で引き出すことが出来る、という仕組みだ。これも「天外II」にあったもので、家庭用ならではの親切設計。しかし実のところ僕はあまり使わなかった。
 他にも所持金を増やせる「カジノ」が大きい町にはあり、射的とスロットでギャンブルが出来る。それからモンスターと戦ってレベル上げが出来る「闘技場」なんて施設も置かれるようになった。これらも僕はほとんど使わなかったが、「息抜きのお遊び」として冒険の合間に楽しむといいだろう。
 
 RPGのお約束の一つである複雑迷路はたびたび登場するが、いずれもそう難解ではない(後半に登場する「魔王殿」はさすがに苦しんだが…)。しかも地図を持っているダンジョンであればSELECTボタンでマップを参照できるので、広大な迷路・迷宮でもよく確認しながら歩けばそうそう迷うことは無い。しかも宿屋の代わりに使える「テント」という道具が安価で入手できるうえ、広大な迷路ではたいてい途中で体力復活の仕掛けが随所にあり(ラスト近くではいたるところに補助アイテム入りの宝箱があって敵のあまりの親切さに笑ってしまうほど)、しかもこのゲームは「MPが切れる」心配が全くないのでダンジョンの途中で息切れ…という心配もまずない。どこでもセーブ可能というのもありがたい限りだ。
 
相談画面 RPGで迷うといえば、「次に何をするんだっけ」というのもある。メッセージなんて読み飛ばしてることが多いからしばらくぶりにゲームを再開したら次に何をしたらいいのか、どこへ行ったらいいのかわからなくなった経験のある人は多いはず。このゲームではその点にもしっかり配慮しており、次に何をすべきかパーティーの仲間に「相談」できるシステムがある(RUNもしくはSELECTで選択。右図が一例)
 この「相談」システムは原作のパソコン版でも画期的新要素として大きな売りになっていた。大きい顔グラフィックとともに表示される仲間たちとのやりとりは、単なるゲーム進行の補助にとどまらず、それぞれに魅力的な仲間たちの個性を際立たせてプレイヤーを物語世界に没入させる役割を果たしていた。時には物語の進行上重要な伏線となる会話もあったりするので、何かイベントが起こったらこまめにチェックする必要もある。

 RPGの面白さの重要な要素である敵との戦闘は、一見将棋風のタクティカルコンバット、しかもアトルシャン以外のキャラはそれぞれ勝手に戦うAIシステムとなっている。これは原作を踏襲したものだが、この聞くところによるとこの自動戦闘がパソコン版ではかなりクセがあり、「やみくもに特攻するハスラム」「見当違いの行動をとるバカなタムリン」といった声を良く聞く。そういった欠点と思えるところが各キャラの個性が出ていてまた良かったんだ、という意見もあるのだが、エンジン版ではこの部分にかなりの改良が入ったようだ。
 パーティーキャラは武器で直接攻撃をかけるタイプ、後方から弓で射るタイプ、魔法を使って他のメンバーを補助するタイプ、と大雑把に分けるとこんな感じになる。アトルシャンを演じるプレイヤーはパーティーメンバーの戦闘時の配置を決め(もっとも手を加えなくてもだいたい妥当な位置に来るのだが)、戦闘になったらアトルシャン自身を操作して戦いつつ、仲間たちに薬などの道具の使用や攻撃対象の指定を行うことになる。いわば指揮官的立場なのだ。

 戦闘では敵味方各キャラに「行動ポイント」の数値が与えられている。これはそれぞれの成長レベル、あるいはモンスターごとの個性として設定されている。1マス移動するごとに行動ポイントの数値が1ずつ消費され、相手への攻撃(相手を押すだけなので、アクションRPGにも感覚が似てる)や魔法を使うと、それぞれに決められた分だけそれを消費する。行動ポイントを全部使うとそのターンにおけるそのキャラの行動は終わり…という形で進行していく。
 アトルシャンやタムリンは成長するにつれてこの行動力の数値が大きくなっていくが、武器も強化されるにつれ攻撃に必要な行動ポイントが大きくなる。ザコ敵の中でも「飛翔系」のモンスターは行動ポイントがかなり大きく設定されていて、戦場内を自由自在に飛びまわってビシバシと攻撃をかけてくる。中には仲間を復活させたりこちらを凍結や混乱に落としいれたりする敵もいて、指揮官たるアトルシャンとしては敵の配置とキャラクターを見て「あれを優先してつぶして、次はこうやって…」と作戦を立てて戦うことになる。

戦闘画面 しかしアトルシャンが仲間に命令を出すのも行動力を結構消費しちゃうのだ。薬の使用指示だって使用する相手は仲間が勝手に選んじゃうし。とくに回復系魔法を命令で指示できないのが困りもの。もっともそこら辺はエンジン版ではかなり「賢く」変更されていて、ちょっとHPが下がってくるとタムリンがすかさず回復させてくれるようにはなっている。
 各自の勝手に任せているとよく分かるが、それぞれのクセもきっちり作ってある。やっぱりハスラムは猪突猛進型であっさりHP全滅で退却(戦線離脱になる)してしまうし、ヤマンやサオシュヤントの弓はかなり外す率が高い上に攻撃回数が少ない(当たれば強力だが)、とくにサオシュヤントは装備が弱いしやや自分本位なキャラを反映して攻撃をやめて安全圏へとっとと逃げ出す、などなど、「こら、そうじゃないだろ」と指揮官としては文句を言いたくなるが、これがなかなか見ていて楽しいのだ。
 終盤になってくると、それまで回復専門みたいな立場だったタムリンが急成長、いきなり多人数に大ダメージを与えちゃう魔法を覚えて強力な攻撃戦力になってしまう。こうなるとこっちは魔法の命令できないもんだから「そんな魔法があるならさっさと使わんかい!」と逆にイライラすることも多くなる(笑)。
 タムリンと言えば、これは原作以来の「名物」だったらしいのだが、戦闘中に変なセリフをしゃべっていることがある。さすがに肉声は出ないし猛スピードのメッセージ処理のため見落とすことも多いのだが、誰かのHPを回復するときに「アトルシャンが悪いのっ」と文句を言い、やることがないのか「みんな〜がんばって〜」「ファイト、ファイト」とただ応援をしたり、「ごめんなさぁい」「すべっちゃった、なんて」などなど、通常場面では終始シリアスなキャラと全く異なる「可愛いボケキャラ」を演じている。この戦闘時のタムリンの方が妙に印象深い(笑)。

 そんなこんなのおかげで戦闘は毎回毎回飽きさせない。ダンジョン内で何度もくり返してるとさすがに鬱陶しくなってもくるが、かなりスピーディーに処理されるのでそうストレスにはならないはずだ。またアトルシャンがやられない限り敗北にはならないので、何人かがHP全滅で退却の憂き目を見ても、次の戦闘時に魔法で回復できる(MPには限度が無い)。仮にアトルシャンがやられてゲームオーバーの場合でも、そのダンジョン画面の入口からやり直しとなるのでそう痛い思いはしないはず。

 総じて、とにかくとことん遊びやすく、老若男女だれでも楽しんで遊べる王道的RPGだ。プレイ時間は結構長く、もう終わりかと思わせて二転三転して世界が拡大していくシナリオも上出来だ。まさに「万人向けRPG大作」というわけで、「PCエンジンFAN」誌の読者投票では全ソフト中第6位の高得点をたたき出し、PCエンジン後期を代表、そして象徴する一本といえるだろう。本作の出来があまりに良かったことが、その続編と勘違いされがちな「アルナムの牙」への非難の嵐を招く事にもなっちゃうのだが。
 なお、「エメラルドドラゴン」にはゲーム本筋とは関係ないサブシナリオが3つ含まれている。これは原作のパソコン版からそのまま引き継いだもので、プレイ中何かの伏線かと思わせてそれっきりになるキャラたちのドラマだ。サブシナリオが開始される条件は限定されているので、注意しないと見過ごしてしまう。まぁ無視しても進行上問題はないのだが、クリアすると強力なアイテムが手に入ったりするので遊んでみるのも一興。

 そうそう、それとエンジン版「エメドラ」はPCエンジンユーザーにとって重大な機能を搭載していた。大容量セーブ機器「メモリベース128」あるいは「セーブくん」を接続して方向キーを押しながら「エメドラ」を起動させると、PCエンジン本体内(もしくはCD-ROMシステム)のバックアップメモリ内データをメモリーベース128に移動するユーティリティが使えるようになっているのだ。決して容量が多いとは言えないPCエンジンのバックアップメモリの外部保存はそれまで「天の声バンク」(内蔵電池仕様)でしか出来なかったのだが、これによりメモリーベース128により単三電池による長期大量保存が可能となったのだ。このユーティリティは多くのゲームを遊んでいるPCエンジンユーザーにとってはまさに福音で、このユーティリティはその後のNEC-HE発売のPCエンジンソフトを中心に相次いで搭載されることとなった。
 またこの時期に普及が広がっていた6ボタンパッドにも対応しており、各種コマンドを6ボタン仕様で出せるようにもなっていた。さらに前後して発売されることになっていたアーケードカード(前年12月に発売予定だったが翌年3月に延期された)にも対応しており、一度に大量のデータを読み込んでアクセス回数を減らせるようにもなっている。NEC-HEが発売元だけに、まさに至れり尽くせりである。
 
 最後に蛇足な個人的体験談。
 エンジン版「エメラルドドラゴン」にはマニュアルの他に「木村明広画集」なる冊子が同梱されている。事情により未使用となったX68000版「エメドラ」原画とか、PCエンジン版ポスター用原画などのイラストが含まれ、木村氏の絵の変遷が良く分かる貴重な資料だ(タムリンやファルナなんて別人のように違う)。エメドラに対する木村氏の熱いコメントもあったりして、エメドラといえば木村氏、と前面に押し出す冊子であるわけだが…
 僕が近所の某中古屋で「エメドラ」を買った時(確かもう95年じゃなかったかな)、同梱されていたのがこの「原画集」だけで、肝心のマニュアルが入っていないという事態に遭遇しちゃったのだ(笑)。売り場に置いてあったケースにはちゃんと「マニュアル付」って書いてあったし、店員も売る前に一度開けて中を見るのだが、原画集をマニュアルと思っちゃったらしい。こっちも面倒なんでそのままマニュアルなしで遊んじゃったけどね。マニュアル無しでも全く問題なく遊べるってところも「万人向け」というわけで(笑)。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.805
4.471
4.320
4.201
4.496
4.100
26.395
第6位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★

★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
開発者のため採点せず
ウォルフ中村
95
パトリオット佐藤
90
メタラー佐々木
90

★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

ローリング内沢

渡辺美紀

ジョルジュ中治


★「ユーゲー」誌「19××」読者投票
1994年上半期 全機種ソフト中 第6位


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