風の伝説ザナドゥ

ジャンル:アクションRPG
媒体:SUPER CD−ROM
発売元:NEC-HE/日本ファルコム
発売日:1994年2月18日
価格:7800円
商品番号:NFCD4006


外見 ◆日本ファルコム、初の家庭用ゲーム機進出!

 日本ファルコムは今日においても説明の必要もない、日本のRPG草創期から名作の数々を生みだしたソフトメーカーだ。特にPCエンジン界においては「イース」シリーズの生みの親としてなじみが深い。別にPCエンジンだけでなくファミコン、スーパーファミコン、メガドライブなど家庭用ゲーム機にはたいてい日本ファルコムのゲームが移植されていた。

 ただしいずれも他社による移植・発売であり、日本ファルコム自身はあくまでパソコンゲーム市場に腰を据えて家庭用ゲーム機への進出の動きは見せてこなかった。それがついに破られたのが1992年末。日本ファルコムはハドソンと合同で記者会見を行い、「イースIV」(’93)をハドソンが開発、ファルコム自らはPCエンジンSCD専用のオリジナル新作「風の伝説(仮題)」を開発すると発表したのだ。あの日本ファルコムがついに家庭用ゲーム機に進出、しかも全くのオリジナルのアクションRPG、それも当時はまだまだ新しい媒体だったSuper CD-ROM2を存分に生かした大作、ということで大いに注目を集めることになる。これが最終的に「風の伝説ザナドゥ」と題して1994年2月に発売されることになる。

 1993年末にPCエンジンDUO−Rを買ってこの世界に触れた僕は、このゲームの発売前の動きをちょっとではあるがリアルタイムで知っている。「風の伝説ザナドゥ」の発売元はPCエンジン主催者であるNEC−HEが請け負っていたこともあり、宣伝広告はかなり大々的だった記憶がある。専門誌「PCエンジンFAN」誌上では発売前からコミック版が連載され、メディアミックスの作戦もとられたし、体験版CD-ROMを付録にしたムックも刊行された。宣伝広告や実際に発売された商品のパッケージにも「あの日本ファルコムが総力を挙げておくり出す今世紀最高のCD-ROM A・RPG、遂に登場!!」と派手な宣伝文句が踊り、「PCエンジンの歴史に、新たな伝説が刻まれる」とまで謳っている。
 当時PCエンジンでは同時期に先述の「イースIV」のほか「エメラルドドラゴン」(’94)の発売もあり、SCD大作RPGの連打で「CD-ROMはNEC」のキャッチフレーズと共に主力マシン「DUO−R」を売り込もうと躍起になっていたものだ。それがどの程度成功したのか数字的なことは分からないのだけど、このRPG3作はいずれもSCDならではの豪華大作となっており、PCエンジン円熟期の傑作とされている。

 さてこの「風の伝説ザナドゥ」。ファルコム初の家庭用ゲーム機オリジナル作品となるのだが、実は同社がパソコンで出していた「ドラゴンスレイヤー」シリーズの第8作という一面もある(エンディングのスタッフロールの最後に明記されている)。一作目「ドラゴンスレイヤー」から始まり、「ザナドゥ」「ロマンシア」「ソーサリアン」「ドラゴンスレイヤー英雄伝説」「ロードモナーク」と続くシリーズで、いずれも名プログラマー木屋義夫氏が総指揮をとり、それぞれが名作として名高い。PCエンジンでも「ドラゴンスレイヤー英雄伝説」(’91)「ドラゴンスレイヤー英雄伝説II」(’92)「ソーサリアン」(’92)がSCDに移植されていたが、シリーズ最新作がなんとPCエンジンSCDオリジナルで飛び込んできたのだから、驚き喜ぶ人も多かった。

 タイトルに「ザナドゥ」と入っているが、ドラゴンスレイヤーシリーズの大ヒット作「ザナドゥ」の続編ではなく、世界観が同じというわけでもない。実際ゲーム中に「ザナドゥ」という固有名詞は一切登場せず、内容的にも当初発表された仮題「風の伝説」の方がふさわしい。ただ「風の伝説」だけだと今一つパンチがない題名なので「ザナドゥ」を入れてみた、という感もある。その一方で開発ネームは「The Legend ofXanadu(ザナドゥの伝説)」だったという話もあり、発売時の英題ロゴもそうなっていて真相はわからない。
 本作は世界観的に「ザナドゥ」とのつながりは一切ないのだが(もちろんドラゴンスレイヤーはお約束で登場する)、装備した武器を使うことでその「熟練度」を上げて行くシステムが「ザナドゥ」から継承されており、その意味では作り手としては「ザナドゥ」の新バージョンというつもりもあったかもしれない。プロローグで過去の伝説が語られる部分のBGMも「ザナドゥ」で使用された曲のアレンジだ。


◆OPまで3章!全12章の壮大なストーリー

 家庭用ゲーム機向けのソフト開発は初めてのファルコムだったが、そこは数々の名作を生み出したRPGの老舗、高いゲーム性と練り上げられたストーリーの大作を作りあげた。そしてこの時期がちょうどSCDの円熟期ということもあって、SCDの売りであるアニメ風のビジュアルシーン演出を豪華声優陣を動員して贅沢に投入している。ただ宣伝に使われた大量のアニメ絵とゲーム内のCGの出来にかなりギャップがあったのが残念(続編でこの点はだいぶ改善される)
 
 ゲームを最初から始めると、いきなり長時間のプロローグビジュアルになる。1000年の昔、邪竜ダルダンディスをを倒し、王朝を創始した英雄アイネアスの物語がまず語られ、そのアイネアスの子孫である百騎長・アリオス(声:山口勝平)が辺境の地に飛ばされてモンスター征伐へと出陣する。激戦のなか罠にかかったアリオスは忠実な部下ダイモス(声:江原正士)の捨て身の奮戦で危機を脱し、さらに突然現れた謎の男・ヌース(声:塩沢兼人)に気絶させられて戦場から連れ出され、とある小さな島へと送り込まれる。ヌースの口ぶりだとアリオスには何か重大な使命があるらしいのだが…

 このオープニングが終わって、ようやく序章開始。このゲームはいわば「面クリアタイプRPG」というやつで、各章ごとに異なる地域が冒険の舞台となり、さまざまな謎を解いてその面のボスを倒してクリアし、アニメ風の面間ビジュアルを見てから次の章へ進む、その繰り返しとなっている。同じ世界の各地域が舞台なのだが、章ごとに完全に独立していて前の章の地域へ戻るといったことはできない。
 序章ではプレイヤーは主人公アリオス同様、何をしたらよいか分からぬままにスライムを倒しつつ島をウロウロすることになる。序章序盤では世界の危機どころか、とくにどうという事件も起こっておらず、二つの村がつまらぬことで仲違いしているだけだ。この序盤だけでいきなりストーリーが進まずに困る人も出てくるはず。説明書にもあるように、このゲームはとにかく人の話をマメに聞いて(全員はもちろんのこと、同じ人にも何度も)、思いつくことをいろいろやって「フラグ」を立てていかないと新たなイベントが発生しない。一見ストーリーの本筋とは無関係に見えることが実は進行のカギだった、ということも多く、この序章からプレイヤーはこのゲームの進行のコツを身をもって覚えさせられることになる。それでもノーヒントでは難しかろうと思ったようで(発売元のNEC−HE側の配慮か)、説明書には袋とじで序盤3章までのヒントを収録した「愛のQ&Aコーナー」なんてものがついている。実際僕も初プレイ時、この袋とじのお世話にならざるをえなかったものだ。

 このゲーム、しばしば「壮大な“おつかい”ゲーム」と揶揄されるように、世界の危機を救わなきゃならないというのに、アリオスくんは実につまらない「おつかい」をさせられることが多い。何かというと「○○を探して」「××に会いに行って」「△△を届けて」といった用事を仰せつかり、遠い道のりをあっちこっちと歩きまわらされる(おまけにモンスターと戦いつつ)のだ。しかもマップは次第に広大になってゆき、洞窟などのダンジョンも複雑化してゆく。そんなマップを何度もあっちこっちと歩かされるので(同じ場所を往復することもしばしば)、気の短い人はイライラすること請け合い。作者も当然意識してやってることで、途中で「おつかい」自体をネタにしているようなセリフもある。
 こうした「おつかい」をクリアしないと話が進まないからしょうがないのだが、「おつかい」の途中で解かねばならない謎も一部かなり難解なものもあり(パズル系では一定時間解けないと自動的に先に進めるものもある)、またフラグ立て条件がなかなか気づきにくいものもあるため、正直なところ万人向けとは言い難く、好き嫌いがハッキリ分かれるゲームだ。これはやはりパソコンゲームの作り手たちが作っているためでもあるだろう。

 だがそういう苦労が多いだけに、それを解いて先へと進めた時の感動は大きい。ささいな事件が次第に大事件になってゆき、最終的にモンスターのラスボスと対戦、これを倒してその章の諸問題を解決して(これはそれぞれ割と長時間の面間ビジュアルで語られる)、気分よく次の章へと進んで行くシナリオの妙はかなりのものだ。
 序章をクリアして第2章に進むと、義賊リュコス(声:矢尾一樹)が仲間に加わり、さらに生き別れになっていたダイモスとも再会。そして続く第3章ではちょっと変な王様・王妃様のいる王国の問題を処理して、プロローグビジュアルで出て来たモンスターのボスを倒す。ここまでは割と平和な雰囲気のなか、ささいな巷の問題を解決して困っている人たちを助けつつ、のんびりした冒険を進めてる感じだ。
 3章をクリアしたところで、ようやくオープニングビジュアルだ!ファルコム御自慢の華麗なテーマ曲に乗せて「風の伝説ザナドゥ」のタイトルがゆっくりと浮かび上がる(なんとここまで題名が出てないのである!)。主人公とその仲間たち、敵のモンスターたち、そしてラストの冒険の舞台となる王都の高い塔が映し出され、否応なくプレイヤーの期待を激しく高めてしまう。そう、まさにここからが「本編」なのだ!“前座”に3章も使っちゃうとは、なんて太っ腹な…

オープニングビジュアル プロローグビジュアルでも語られているのだが、1000年前に英雄アイネアスが邪竜を倒した際に「クレーネ・ジュエル」の力により国中の人々が特別な修行もなしに魔法を使えるようになっていた。といってもそれほど大仰なものではなく、現実社会の電気機器や交通機関など日常的なものが魔法によるものになっていた、といった感じ。
 ところがテーマ曲オープニングが終わると、王都が突然暗闇に覆われ、国中で魔法が使用不能になってしまう。何が起こったのかとあわてふためく国王らのもとへ怪しげな旅の僧が訪ねてくる。僧の正体は実は復活した邪竜ダルダンディス(声:小林修)で、王城の頂点にある魔法の源「クレーネ・ジュエル」を我がものとし、国王らを抹殺して世界を暗黒に陥れるのだ。
 「一般人も普通に魔法が使える世界」という設定も面白いが、それが使えなくなってしまう、というところがまた面白い。結局修行した魔法使いだけが魔法を使えるというRPGおなじみの世界になるわけだけど、このゲームはプレイヤーは魔法を使わないただの剣士を操作するので、もともと魔法とは縁がない。

 3章が終わってようやく世界の危機が訪れ、主人公たちは世界を救うべく王都へと旅をする。その過程で魔法使いの元気少女ピュラー(声:山本百合子)、どデカいイエティのアルゴス(声:梁田清之)、女神に仕える聖女ソフィア(声:佐久間レイ)と彼女に仕える女騎士メディア(声:勝生真沙子)と次々仲間が加わって来る。そして物語が進むにつれて邪竜を倒すには聖剣「ドラゴンスレイヤー」が必要だということになるのだが、それを狙う謎の男ジード(声:中尾隆聖)までが現れて、主人公たちの邪魔をする。各章の舞台となる地域も雪国や砂漠、山岳地帯地に湖、氷の城などバラエティに富んであきさせない。
 こんな調子で延々12章もプレイすることになる。事態が事態なので後半に行くにつれシリアスになるのは当然だが、仲間たちのやりとりや、各所で出会う人々(普通なら「名もなき通行人」のレベルの人でも全員名前がついている)の会話など、どこかとぼけたアットホームな味わいも本作の魅力。声を使った演出は面間ビジュアルに絞り、ゲーム中に起こるイベントはあくまで画面上のキャラと文字だけで表現するのだが、その芝居もなかなか見ものだ。
 そして数々の冒険を繰り広げた末に、ラストで主人公がくだす「意外な決断」もこのRPGを名作としていると思う。


◆「熟練度」システムとサイドビュー戦闘

 さて、本作は「アクションRPG」である。このジャンルではファルコムの「イース」シリーズが傑作として知られるが、この「風の伝説ザナドゥ」もゲーム画面はパッと見「イースそのまんま」である(もちろん最初期の「イース」ね)。メーカーが同じせいかフィールドやダンジョンの描き方がよく似ていて、そのトップビューの画面を主人公キャラが歩き、周囲をうろつく敵キャラにただ「ぶつかっていく」だけで戦い、倒すと敵キャラが「お金」に変わるのも瓜二つだ。「イース」のテクニックとして有名な「半キャラずらし」もそのまんま利用でき、一見「イース」にしか見えない。

 だが「イース」と決定的に違う点が三つある。一つはこのゲームでは章によっては2〜4人程度でパーティーを組むことがあり、仲間を引き連れている場合の戦闘では仲間たちがオートバトルを繰り広げてくれるという点(この機能をオフにすることも可能)。大勢の敵がいる時はかなり楽ちんだし、敵を倒した「お金」も仲間たちがまめまめしく拾って来てくれるのが嬉しい(笑)。もっとも自分で戦わないと当然成長はしないので楽ばかりしてはいけない。

 「成長」と書いたが、ここに二つ目の「イース」との違いであり、元祖「ザナドゥ」から引き継がれたシステムが導入されている。このゲームでは敵と戦って「経験値」を稼いでレベルアップというよくあるシステムではなく、装備した剣・鎧・盾の三つの「熟練度」を上げて行くというシステムになっている。村や町にある「道具屋」で武器を購入し、装備すればそこそこに攻撃力や防御力が上がるのだが、その時点では熟練度は25%や50%で真価を発揮してくれない。戦闘で剣で敵を倒せば剣の熟練度が、敵の攻撃を受ければ鎧と盾の熟練度がそれぞれ上がるシステムになっているのだ。楽な敵とばかり戦っているとそれぞれの熟練度はなかなか上がらないし、鎧と盾の熟練度を上げるためにはある程度強い敵の攻撃をわざと受ける必要もある。
 熟練度が100%になると「MAX」と表示され、それぞれの武器が最強の力を発揮する。その代わりそれ以上は決して強くならないので、さらに強くなりたければより値が張る武装を購入して装備、そしてまたその熟練度を上げて行く、ということになる。各章でおおむね各装備が二段階用意されていて、章のクリアが近づきラスボス戦に入るころにはちょうどその章で最強の武装が熟練度MAXになっているようにシナリオが組まれている。よくある「経験値稼ぎ」をする必要はほとんどないほどに巧みなバランス調整がなされていると思う。ただ時おり上位の武装を買うために必死に資金稼ぎをさせられることにはなるかもしれない。
 武器の熟練度とは別に主人公の体力のパラメータがあり、これは経験値ではなく敵と戦うことでいつの間にか上がっていく(ベッドで眠って起きると上がっている)というシステムになっている。

 「イース」との違いの三つ目は、各章のラスト、ラスボス戦に至る過程がサイドビューアクションになっているという点。「イース」との違い、と書いちゃったがこの部分はむしろ「イースIII」のシステムと言ってもいい。
 各章の結末部分に来ると、必ずボスが待ち受けるダンジョンに入ることになり、ここから左から右へ進む(一部逆もある)サイドビューに画面が切り替わる。そこで次々と現れるザコ敵と戦うことになるが、サイドビューになったことで防御、スライディング、ため斬り、上斬り、下突きといった多彩なアクションが可能となっている。また途中どこかで敵を倒すと仲間を呼ぶ「笛」が出現し、これを取ると各章ごとに決められた仲間キャラが応援に駆けつけて来て、攻撃をサポートしたり体力を回復してくれたりする。仲間キャラは完全な自動操作で、一定のダメージを受けると引き上げてしまうため、ボス戦まで温存しておきたい場合はそれなりに守ってやる必要もある。ボス戦では仲間は退場しないので、かなりの戦力になってくれるのだ。
 サイドビューアクション部分のダンジョンは複雑ではないが、ジャンプが必要となり、うっかりすると画面下に落っこちてしまう設計になっていることは多い。落ちても即死亡ではなくピョンと跳ねあがって戻れるが、そこそこダメージは受けてしまうのでボス戦まで体力を温存するためには多少テクニックが必要になる。

ボス戦 サイドビューダンジョンはだいたい3ステージ構成で、これをクリアすると最後にその章のボスが待ち受けている(左図がその一例)。決戦の前にボスたちは肉声であれこれしゃべり、雰囲気を盛り上げてくれる。ただ敗北を繰り返しているとこの「口上」も何度も聞かされるはめになるのだが…。
 ボスたちの攻撃方法、弱点は多種多様。攻略法がなかなか見つからない難敵もいれば、あっさり楽勝できちゃうものもいる。難敵も攻め口さえ分かれば「エリクサー」(体力全回復薬)使用でなんとかなるはず。個人的にはボスにたどりつくまでのザコ敵戦で体力を温存するのに苦労した印象が強い。


◆パソコンゲームライクな独特システム

 このゲーム独自のシステムのひとつに、「体力ゼロになると幽霊状態になる」というのがある。敵にやられるなどして「死ぬ」と、キャラが線で描かれた透明状態になり、その場にフワフワと浮いてしまうのだ。ゲームオーバーにはならないのだが、このままでは戦うことも話しかけることも道具を使うこともできず、各章に一つずつ用意されている教会に行ってシスターに復活の呪文を唱えてもらわないと元に戻れない(戻っても体力1なので休息する必要あり)。死んだ場所が教会からかなり離れたところだったり、ダンジョンの奥深くだったりすると幽霊状態のまま元来た道を戻らねばならず、かなり大変なことになる。敵の攻撃を受ける心配はないのだが、ダンジョン内では道順をちゃんと覚えていないと外に出ることすらできず、それこそ浮かばれぬ亡霊のように彷徨い続けるハメになる。
 そういう時のために「ウィング」というアイテムが用意されている。これを装備していると「死亡」した瞬間に一気に教会に戻って復活させてもらうことができる。ザコ敵が強くて体力が続かない時には実に重宝するものだが、死亡してから道具として使用することはできないので、あらかじめ装備が必須なので要注意。

 「なんでわざわざ幽霊状態になるようにしたんだろ?」と疑問を感じる人もいるだろう。確かにたいていのRPGでは死亡したらそこでゲームオーバーにするか、宿屋やスタート地点に戻されるので、「幽霊状態」はただ面倒なだけにも感じる。しかしこのゲームでは「幽霊状態」に攻略に活用することもできるのだ。幽霊状態だとフィールドマップの通常では進入不可能地域(山岳、海など)にも入ることが可能になり、マップ全体を自由自在に見て回ることが可能になる。これはダンジョンでも同様で(ただし階段の上り下りに独特のコツがいる)、広大かつ複雑に作られている地形や迷路の全体像を把握し、攻略ルート発見に役立てることができるのだ。

 もう一つ、このゲーム独特の要素に「時間の概念」がある。他のRPGでも例がないではないが、本作ではフィールド上で刻一刻と時間が進行しており(だいたい2分弱で1日がたつ)、背景も朝から昼、夕方、夜と変化してゆく。その時間に合わせて村人や兵士たち、店員や旅人など登場キャラたちも起床、仕事、店じまい、睡眠とスケジュールを規則正しくこなしていて、その時間になるとちゃんと各自でベッドや仕事場にいそいそと移動していくのが面白い。睡眠時間中は当然話しかけることはできず、話を聞くときは日中に礼儀正しくドアをノックして開けてもらってから聞かねばならない(他人の家にズカズカあがっていく世のRPGに対するアンチテーゼだろうか?)
 重要キャラがある時間にしか出現しないとか、物語を進めるイベントが特定の時間でないと起こらないといったこともあり、時間は結構重要な要素だ。もちろんその時間を逃しても翌日の同じ時間まで待てばいいので進行に詰まるといったことはないのだが、ついつい時間要素を忘れているとフラグが立たずゲームが進行しなくなってしまうことはあるので要注意だ。なお、アイテムの中に「アワーグラス」(砂時計)というのが用意されていて、これを使って特定の時間に変えたり、装備することで時間進行を遅らせることが可能となる。

道具屋 当然お店も日中しか営業していないので、買い物をするときは時間に注意。このゲームのお店は武器からアイテムまで売っている「道具屋」と、不要な武器を買い取る「買取屋」の二つしかない。お店に入ってカウンターで声をかけると2頭身キャラの買い物画面に切り替わり、道具屋ではいかついオヤジが、買取屋ではかわいい女の子がいそいそと出てきて応対、買い物が終わるとそそくさと奥に戻っていく、ちょっとした「お芝居」を見せてくれる。
 「買取屋」の買い取り額はスロット方式がとられていて、一定の幅の金額が素早くスロット表示されるのを見ながらタイミングよくボタンを押して止めたところの金額で買い取られるシステムになっている。その額で不満であればキャンセルも可能だ。

 こうした「幽霊状態」「時間の概念」「お店のお芝居」といった独自要素は、やはりパソコンゲームを長く作って来たファルコムらしさで、家庭用ゲーム機の単純親切なRPGに慣れた者からすると少々異質だ。プレイ中にHPや熟練度(グラフ方式、数値方式切り替え可能)、所持金や敵のHPを表示してくれるステータスウインドウが主人公の位置により左へ右へと動くところとか(これが「うるさい」という批判もあった)、マップがいくつもの画面に分割されているところ、SELECTを押すと切り替わる機能満載のステータス画面なども、パソコンゲームチックな作りと感じる。
 これをコンシューマ向け初開発となったファルコムらしさとして歓迎するか、家庭用ゲームとして練られていないとみるかは意見の分かれるところであり、このゲームに対する好き嫌いの分かれるところだろう。翌年に発売された続編「風の伝説ザナドゥII」(’95)では、こうした「パソコンゲームくささ」はほとんどカットされ、幽霊状態ではなくやられたら宿屋に戻る、時間の概念は完全削除、お店の芝居もなくなってしまう。これを無駄を省いて良くなった、と見る向きもあるだろうが、僕などはこの一作目の過剰な作りこみぶりが好きだったので、「II」ではかえって物足りなさをかんじてしまったものだ。


◆最終章は31階の大攻略!!

 本作の最終章、第12章は邪竜ダルダンディスがその最上階で待つ、王都にそびえる王城の攻略だ。この章では仲間は登場せず、アリオス一人の孤独な戦いが続く。あ、ヒロインのソフィアが「ドラゴンスレイヤー」の中に魂として入って一緒にいる設定ではあるけど。
 
 この最終章の王城攻略が大変だ。なにせ全部で31階(+地下)もフロアがある。1フロアごとに複雑な迷路になっていて様々な仕掛けがあり、それを解きつつ上へ上へと上がっていくことになる。本作のパソコンゲームくささがまさに凝縮されているのがこの王城攻略で、あちこちのスイッチやレバーを押したり、パズル的にドアを開け閉めしたり、ワープする滝や見えない隠し通路を抜け、数フロア分ジャンプしたり落っこちたり、水を止めて水路の部分を歩いたりと、とにかく思いつくあらゆることをしなければ最上階まで上がれない。ファルコムのRPGをプレイした人ならどっかで見たような気がする仕掛けも多く、塔丸ごとがファルコムのRPG総決算という気がしなくもない。この王城攻略だけでゲーム一本分というのはちょっと言い過ぎだが、それまでの11章とタメを張るぐらいの濃度はあり、ここだけ独立したゲームにしたいぐらいだ。この部分は、ファルコムの塔ダンジョン攻略アクションRPG「ブランディッシュ」(木屋氏がディレクターを務めており、PCエンジン版もある)とよく似ている。

 当然だが上の階に行くほど難しいことを要求されるようになり、一定時間内に迷路を走り抜けるとか、音楽に合わせて点滅するスイッチをその順番通りに押すとか、何度もアタックしないとクリアできない難しいものもある。また、ダンジョン内のどこかにある最強の装備を手に入れないと進めない仕掛けも終盤に存在し、とくに鎧はかなり意地悪な、普通にプレイしていたら気がつかないような場所にあり、先へ進めず困り果てた人も多そうだ。
王城31階。幽霊状態になっている この31階攻略、さすがにコンシューマゲームとしては難度が高すぎるのでは、と発売元のNEC−HEが考えたのか、商品にはこの全31階の簡易マップが書かれた紙が同梱された(宣伝用ポスターの縮刷版の裏に印刷されている)。そんなもの不要、という猛者は見なければいいわけだが、実のところ僕も初プレイ時には参考にせざるを得ず、それでようやくまだ行ってない場所を見つけて先へ進めた経験がある。十数年後にこの記事を書くための二度目プレイ時にはマップを見ないで進めてみて、90%近くは自力で解けたが、やはり一部マップを参考にするハメになった。マップも通路と宝箱やスイッチの場所が書いてあるだけで、ワープ先とかスイッチの効果などは書かれていないから、難解なのは変わらない。
 それまでの11章でもかなり難しいダンジョンはあるのだが、この最終章は段違い。主人公を成長させればクリアできるというものでもなく、ここまで来てクリアをあきらめた人も多いんじゃないか、という気もする。

 各階の最後の地点、上の階へ上がれる階段の手前には女神像が二つ置かれていて、ここで祈りをささげると女神像の背に羽が生え、出発地となる地下一階にワープできる。地下一階には31階それぞれへ飛べる女神像が並んでいて、1フロア攻略が終わるごとに羽の生えた女神像が増え、攻略の済んだフロアへ飛べるようになっている。この羽つき女神像が次々と増え、上へ上へと登っていく面白さは、とりつかれると病みつきになる。

 31階全てを攻略し終えると、いよいよサイドビュー戦。例によってザコ敵と戦ってから、ラスボス・ダルダンディスとの最終決戦だ。ダルダンディスはさすがにラスボス、二段階に変化する上に、二段階目ではこちらは宙に浮く氷(?)の上に巧みに乗って上空に浮いている敵と戦わねばならなくなる。

(以下、エンディングのネタばれを若干ふくみます)

 ダルダンディスを倒すと、10章で離ればなれになった仲間たちが駆けつけてくる。これで世界は元に戻って大団円かと思ったら、もうひと山あるのだ。世界に魔法エネルギーを供給していた巨大な宝石「クレーネ・ジュエル」(声:小林優子)がアリオスに語りかけてくる。クレーネは自分の力を使ってくれる強い主人を求めているだけで、邪竜すらもその対象だった。それを倒したアリオスにも同じように「望みは何か?」と誘惑をささやいてくるのだが、アリオスは言い放つ。「私は何も望まない!人はお前の力など必要としない!」と。かくして怒ったクレーネとの戦いが始まってしまい、初プレイ時僕も慌ててしまった(直前のダルダンディス戦で力を使い果たしてるもんね)。しかしこのクレーネとの決戦は仲間たちも戦ってくれる上にこちらにダメージはなく、ひたすら攻撃していれば絶対に倒せるようになっているのでご安心を。

 クレーネを破壊して、ようやくエンディングへ。クレーネを破壊したことで世界の人々は魔法を使えなくなるのだが、それこそが本来の姿であり、安易に魔法に頼っていては人間は堕落してしまうというのが本作のテーマのようだ(むろん心身ともにちゃんと修行していればいいらしいが)
 そして最後の最後に、ドラゴンスレイヤーの魂として溶け込んでいたソフィアが剣の中から復活、アリオスが感激の笑顔を見せて(ソフィアがヌードだったからじゃないか?というツッコミをした人も多そう(笑))、物語の名場面がビジュアルで映されつつ、感動のうちにエンディングビジュアルは終了、そしてキャスト・スタッフロールが始まる。このエンディングの曲がまた本当に名作としか言いようがなく、僕もこの部分だけ何回繰り返して見聞きしたか分からないほど。

 とにかくクリア後に「解いた〜〜!!」という達成感がこれほど高かったゲームはない。しかもクリア後のおまけ、「プレミアムモード」がまた豪華。エンディング後にボタンを押すと序章の最初の港町に戻るのだが、港の脇に石碑がズラッと並んでいて、ここから各章の最初やサイドビュー戦、ボス戦に飛んだり、オープニングやエンディング、面間ビジュアルが見放題になるのだ。バックアップメモリ内にクリアデータが残っている限りこのおまけモードが遊べ、クリア後のお楽しみとしては実に豪勢なものだった。そんなこんなで僕も長くこのデータを残して特にビジュアルシーンの連続再生を何度も楽しんだものである。僕がこのソフトを全PCエンジン中のベスト1のお気に入りにしている一因もこのおまけモードにある。

 なお、本作の総監督をつとめた木屋善夫氏は、本作の完成後、発売をまたずに日本ファルコムを退社、「日本アプリケーション」を立ち上げる。このためこの「風の伝説ザナドゥ」が木屋氏のファルコムにおける最後の仕事となり、「ドラゴンスレイヤー」シリーズもここで打ち止めとなる。本作の続編「風の伝説ザナドゥII」サブタイトルが「Last of Dragon Slayer」)については退社後のことなので木屋氏のまったくあずかり知らぬことだったそうで、それを「ドラゴンスレイヤー」シリーズに含めるかどうかは議論もあるようだ。木屋氏はその後PC−FXでオリジナルの横スクロールアクションRPG「ラスト・インペリアル・プリンス」(’97)を製作、独特のシステムやラストのテーマ性に「風の伝説ザナドゥ」っぽさを漂わせることになる。

 「風の伝説ザナドゥ」はファルコムの大作RPGとして注目を集め、PCエンジン専門誌上で連動マンガが連載されたほか、BGMを収録した音楽CDや声優たちが出演するドラマCDといった多メディア展開も行われた。すぐさま続編が製作されたのも好評を博したからだろう。
 本作はPCエンジン以外に移植されることもなく、好き嫌いは分かれるものの「好き」になった人を中心に「知る人ぞ知る名作」扱いされた。他機種への移植が一切行われなかったのはPCエンジンSCDに密着した作りになっていたせいもあるようで、発売から十年後の2004年にようやくWindows版が出たものの(「ファルコムスペシャルBOX2004」に同梱)、これはエミュレーター「プロジェクトEGG」を使ったPCエンジン版そのままの内容だった。2008年11月には「Wii」の「バーチャルコンソール」でやはりPCエンジン版そのままのものが配信されている。
 最新のゲームマシンなりパソコンなりでリメイクしたものも見てみたいな、と思う名作である。まだ触れたことのない方、ぜひプレイを。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.542
4.280
4.042
4.048
4.201
4.091
25.204
第18位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★★

★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
65
ウォルフ中村
90
ウキキ松崎
60
城イドム
80

ウォルフ中村評価(各項目5段階評価)
グラフィック
サウンド
操作快適度
ゲームバランス
オリジナリティ
コストパフォーマンス







★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

鈴木ドイツ

渡辺美紀

ジョルジュ中治


★「ユーゲー」誌連載「19××」読者投票
1994年上半期 全機種ソフト中 第8位

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