風の伝説ザナドゥII

ジャンル:アクションRPG
媒体:SUPER CD−ROM
発売元:日本ファルコム
発売日:1995年6月30日
価格:9800円
商品番号:NFCD5001


外見 ◆名作RPG、よもやの続編製作!

 「風の伝説ザナドゥ」が発売されたのが1994年の2月。好き嫌いが分かれるソフトではあったが、ファルコムらしい作りこまれた内容とSCDらしい豪華なビジュアル&声とでPCエンジン後期におけるヒット作となった。それからおよそ半年ほど後に早くも続編「II」の製作が雑誌上で発表され、当時前作をクリアしてすっかり惚れこんでしまっていた直後の僕は狂喜乱舞したものだ(笑)。
 
 だが正直なところ続編の製作は意外だった。そりゃ大ヒットしたには違いないだろうが、「風の伝説ザナドゥ」はあのラストで見事なまでに完結しており、その続きが作れるとはとうてい思えなかった。また1994年末にもなると32ビット次世代機が登場してきてPCエンジン市場は縮小傾向が予想され、ギャルゲーのたぐいは別として本格RPG大作の新作情報発表なんてものはかなり少なくなっていた。一応アーケードカード専用で「天外III」が告知されていた時期ではあったが…。

 だいぶ後年になって知った話だが、前作の監督をつとめた木屋善夫氏は前作の発売を前に退社しており、この「II」には一切タッチしていない。それどころか自作の続編だというのに「II」の開発・発売自体全く知らず、あとから知って驚いたぐらいだという。
 ファルコムとしては前作で初の家庭用ゲーム機向けRPGを製作・ヒットさせて「味をしめた」ところもあったのだろうか。家庭用ゲーム機でのゲーム開発のノウハウを収め、そこへの進出をさらに進めようと、この「II」の開発をさっさと決めたのかもしれない。前作が発売元をNECホームエレクトロニクスにしていたのに対し、「II」はファルコム自らの発売となっているのもその表れだろう。同じ年にはスーパーファミコン向けにオリジナル新作「イースV」も発売していて(これも少々あわただしい開発だったフシがある)、コンシューマ進出に意欲的だったことがうかがえるが、PCエンジンにしてもスーパーファミコンにしてもマシンの世代交代が迫っていた時期であり、販売本数的にはあまり良くなかったようで、以後ファルコムの家庭用ゲーム機向け戦略はしばらく沈黙することになる。

 さて、この「風の伝説ザナドゥII」はタイトルの通り、前作の数年後の設定の純然たる続編となっている。ただし前作であれだけ見事なエンディングをしてしまっただけに同じ世界を舞台に話を作るのは無理ということらしく、魔法の力が消えたために新たに発見された新大陸が舞台となっている。このため世界観的には前作とはまったく別物のゲームという感もある。そのぶん前作未プレイの人でも遊べる、ということも言えるが。
 前作のメインキャラも主人公アリオスはじめほぼ全員再登場するが、前作のマスコットキャラだったイエティのアルゴスは登場せず、前作のヒロインだったソフィアや策士のヌースは登場はするもののオープニングの顔見せだけで冒険には加わらない。彼らの代わりに新大陸で騎士ランディス(声:前作でアルゴス役だった梁田清之)と美少女メルティナ(声:当時声優アイドルとして大人気だった椎名へきる)が冒険に参加する。

綺麗になったピュラー 前作のソフィアの代わりに本作のメインヒロインに“昇格”したのが、じゃじゃ馬元気娘の魔法使い・ピュラーだ。前作では清純派・正統派のヒロイン・ソフィアの後塵を拝していたが、ひそかにアリオスに気があることは明らかで(当時はない言葉だが、ちょっとツンデレ気味だった)、その元気だがどこか抜けた天然キャラと秘めた情熱娘ぶりが人気を集め、ソフィアをおしのける結果になったのかもしれない。
 この「II」では途中からの登場で、アリオスのことが心配で魔法で新大陸に飛んでくるのだが、再会したときあまりの変貌ぶりにアリオスが誰だか気づかなかった。「綺麗になった…」とアリオスがボソッと口にしてしまうほどで、「II」のあとアリオス、ソフィア、ピュラーの三角関係がどうなったのか気になって仕方がない(笑)。

 気になると言えば前作で成り行きからダイモスと結婚した女元シスター・プロスタ(声:高山みなみ)もオープニングのみながら声付きで再登場している。また新キャラとしてダイモスの妹リュミナ(声:横山智佐)も登場、なんだかヌースといい関係になりそうな予感を抱かせるが、こちらもオープニングのみでの登場。それらを見ているとゲーム後半でイシュタリアに戻ってくる展開を予感させたのだが、結局それはない。
 これは「II」のあとの続編でも作る気があったのか、それとも「II」の中で処理する伏線だったがゲーム規模縮小のためにその解決がカットされてしまったのだろうか。ソフィアやヌースがオープニングにしか登場しないことや、最終章の唐突感も後者の可能性が感じられるのだが、確証はない。前作の大ボリュームに比べると本作は「体験版か?」とのツッコミが当時専門誌の読者投稿であったぐらいあっけないのも、市場規模の縮小を受けたゲームボリュームの削除だったんじゃないか…という気もしている(94年末に出たRPG「アルナムの牙」もその気配がある)


◆PCエンジン最高レベルの細密グラフィック

 「綺麗になった…」とのアリオスのつぶやきではないが、この「II」はゲームボリュームはさておきグラフィック面では前作を大幅にしのぐ出来となった。いや、前作どころか全PCエンジンソフトを見渡しても最高レベルといっていいグラフィックが堪能できる。
 前作「風の伝説ザナドゥ」の唯一の欠点だったのがビジュアルシーンの絵だったと思う。ま、これは好みの問題でもあろうがアニメ絵がちと荒かったのだ。そこへいくとこの「II」でのビジュアルシーンの進化は素晴らしい。アニメ絵ではあるがそうアニメアニメしてなくてファルコムらしいいいあんばいのファンタジー絵。シナリオ上あまり劇的な演出がなくビジュアルシーンの多くが単なる会話シーンばかりだったのが残念ではあるが、綺麗にゲームを彩ってくれたことは確かだ。

 そしてなんといってもプレイ画面のフィールドの描画の素晴らしさ。プロローグ部分を語るオープニングデモをビジュアルシーンではなくフィールド画面のチビキャラで全て表現しているが、このオープニングだけでも驚嘆した人は多いはず。そして序章のフィールド画面に入ると、その描き込みの激しさに感動してしまう。当時は32ビットゲームマシンが続々と出て前世代のゲーム機をはるかにしのぐフルカラーの描画力を見せつけていたのだが、この「II」のプレイ画面はそれらとほとんど遜色がなく、「これって、8ビットのPCエンジンの画面なんだよな?」とビックリしてしまうほどの出来なのだ(下に掲示した「ユーゲー」誌読者投票でこのソフトが上位に食い込んだ理由もそれが大きいと思われる)

フィールド画面 キャラがデカくなったためにフィールドの描き込みができるようになった、ということなのだが、SCDだろうがHuCARDだろうが描画能力・色数に一応変わりはないわけで、色使いがまさに芸術のレベルに達していると言っていい。建物、海岸、草むら、岩、洞窟の一つ一つが実に実感的で、流れる川や落ちる滝、波立つ海などの水表現、フィールドに舞う雪や胞子など動きのある描画も見事の一語。全体的に「淡い」色使いが特徴で、一歩間違えると画面が見づらくなりそうだが、それがちょうどいいバランスでプレイにも差し支えない。こうした絵の見事さはボス戦ステージまで徹底している。
 パソコンRPGの名作の数々で鍛え上げられたファルコムのスタッフの手による、PCエンジンゲームの「絵」の最高到達点とさえ言っていいと思っている。前作から一年ほどでのこのビジュアル面の激しいパワーアップの背景には一体何があったんだろう?なんて疑問も覚えるほどだ。


◆ 万人向けにはなったのだが…

 もっともキャラが大きくなった代償として、前作に比べてマップ規模が小さくなり、ダンジョンも単純化された。前作の迷路状態の広大なマップを行ったり来たりの「おつかい状態」が不評だったのか、この「II」では行ったり来たりもほとんどなく、まっすぐ突き進めばそう迷うことなく面クリアに向かえるようになっている(隠し通路が多いなど一部迷路にやっかいなものはあるけど)。また前作の特徴であった「時間概念」や「幽霊状態」も削除され、HPがゼロになると宿屋に自動的に戻るようになったほか、店での買い物もチビキャラ演出なしの単純なものに変わった。他人の家に入る時もノックの必要もなくズカズカ入れるようにもなった(笑)。ボス戦突入前の横スクロールアクションも削除され、一緒に戦う仲間を選んだら即ボス戦突入、というあっさりしたものとなった。

 経験値ではなく武器・防具の熟練度を上げて行くシステムや仲間キャラのオートバトルといった要素はそのままだが、あれこれ面倒なことがなくなって遊びやすくなったといえば確かにその通り。どこかパソコンゲーム臭さをひきずっていた前作に対し、「II」は完全に家庭用ゲーム機向けRPGに脱皮したということだ。ただ前作の苦労とその果ての感動を得たファンとしては「II」に物足りなさを感じてしまったことも否めない。またシナリオ自体が前作よりダウンサイジングしてしまっていたし…(その代りのつもりなのか、一定の条件を満たさないと見られない「隠しイベント」がいくつか仕組まれている)

美しいボス戦画面 ストーリー的にも、世界が大変なことになってるのにどこかおちゃらけムードが漂っていた前作に対し、こちらはギャグも控えめで全体的に重苦しい。重要キャラがいともあっさりと死んでしまうし(この辺もシナリオが一部カットされたんじゃないかと思える理由)、ラストが一応ハッピーエンドであるとはいえ仲間との別れの寂しさも伴い、おまけにこの「風の伝説」シリーズのみならず、ファルコムと木屋善夫氏の看板シリーズのタイトルである「ドラゴンスレイヤー」ともお別れになってしまう。オープニングのサブタイトルに「Last of Dragon Slayer」とあるので予想できたことではあったが、名シリーズの終焉としてはかなり寂しい作品とも思う。前述のように木屋氏のあずかり知らぬところで開発された、という事情もあって、本作を「ドラゴンスレイヤーシリーズ」に数えるべきかどうか議論もあるほどだ。神々やら伝説の剣やらに頼るのではなく、人間たちは自らの力で頑張らなきゃ、というテーマは一応前作から引き継がれてはいるんだけどね(シナリオ担当は前作でもメインだった人)。やっぱりあのラストから続編を作るのは無理があった、ということかと。

 幸いにして、ゲームクリア後の大盤振る舞いのおまけ「プレミアムモード」は「II」でも健在。ビジュアルシーン連続再生や各面へのジャンプはもちろんのこと、ボス戦を連続プレイしてクリア時間を競う「タイムアタックモード」なんてものまでついた。前作に比べると難度が下がったボス戦だが(ラスボスだけは別)、キャラ組み合わせも自由に選べるこのタイムアタックは結構燃える。当時専門誌「PCエンジンFAN」誌上でもタイムアタックモードのコンテストが行われ、この時期としては珍しいアクション系の盛り上がりを見せていたものだ。

 前作の評価が高いこともあってこの「II」も一定の支持を受けていて、前作同様にエミュレーターによるWindows版が「ザナドゥ・ネクスト」初回限定版に同梱される形で2005年に「復刻」されている。Wiiの「バーチャルコンソール」でも2009年1月に配信された。
 
◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.669
4.665
3.655
4.088
4.261
3.392
24.730
第31位

★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
岩崎啓真のプロの目評価(各項目5段階評価)
グラフィック
サウンド
操作快適度
ゲームバランス
オリジナリティ
コストパフォーマンス
総合






85
「ミンタンのACTアイ」レビュー
ゲームコンセプトマニア度総合評価
80

★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

羽田隆之

渡辺美紀

ジョルジュ中治


★「ユーゲー」誌連載「19××」読者投票
1995年4月〜6月 全機種ソフト中 第6位

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