エグザイル〜時の狭間へ〜

ジャンル:アクションRPG
媒体:CD−ROM
発売元:日本テレネット(RENO)
発売日:1991年3月29日
価格:6780円
商品番号:TJCD1014


◆主人公はイスラム暗殺団!?の異色RPG

外見 「エグザイル」。英語辞書で「exsile」を引いてみると「追放」を意味する言葉である。ただしこのゲームの原題表記は「XZR」というかなり無理を感じさせるものであって、そもそも英語なのかどうかも怪しい。
 本作はPCエンジンオリジナル作品ではなく、もともと日本テレネットからパソコン(PC−88、MSX)で発売されていたゲームの移植であるが、経緯はかなりややこしい。パソコン版「エグザイル」は「1」「2」の二部構成となっており、PCエンジン版も「1」「2」と2作出ているが、この「エグザイル〜時の狭間へ〜」のほうはパソコン版「1」ではなく「2」の移植なのである。PCエンジン版「2」はパソコン版「2」からの移植ではなくPCエンジン版「1」のオリジナル続編で…とこう書いていてもかなり混乱する(笑)。

 なんでこんなことになったのかパソコン版について調べてみた。パソコン版の第1作「XZR(エグザイル)〜破壊の偶像〜」は主人公ら主要登場人物や世界観設定は「2」(つまりPCエンジン版1作目の原作)と共通しており、システム的にもそう違いは無い。じゃあなぜこの一作目を移植せずに「2」から移植しただろうか…とストーリーを調べてみて納得がいった。ネタばれ承知で書くが、このパソコン版「1」のラストはなぜか唐突に主人公が20世紀の現代にタイムスリップし、当時のソ連書記長とアメリカ大統領とおぼしき世界二大巨頭を暗殺してしまうという展開になっていたのだ。なるほど、これは家庭用ゲーム機への移植としてはマズイよなぁ…(笑)。
 まぁそんなわけで無難にパソコン版「2」からPCエンジンへの移植が行われることになったわけだが、パソコン版「1」を無かったことにしちゃっているために話に少々無理が生じていることは否めない。特に重要キャラであると説明書に紹介され、見た目にも目立ってる「ファキール」「キンディ」の二人がゲーム序盤で姿を消し、ほとんど何もしないことにプレイしていて僕は首をかしげていたものだが、これは彼らが活躍する前作があったからだったのだ。

主役キャラたち。両脇二人はほとんど登場しないが。 PCエンジン版はCD-ROMソフトということで、オープニングからアニメ演出バリバリ。原作も当時の日本テレネットの傾向でビジュアルには力が入っていたようで、それを動かし、声優の声をつけてデコレーション、という同社の「ヴァリス」シリーズの移植と似たようなものになっている。なお、ゲームの主人公にしてはかなり冷徹なキャラである主人公・サドラーの声は故・塩沢兼人さんがあてている。う〜ん、正直なところこの声はあまり当たっていない気がするんだが。

 さてその主人公であるが…これがゲーム史上でも類の無い、かなりアブナイ設定なのである。たいていのRPGでは西洋中世風ながらまったく架空のファンタジー世界を舞台にするものだが、この「エグザイル」はパソコン版1作目から現実世界の12世紀、それもイスラム世界を舞台にしている。そして主人公・サドラーはイスラム教の異端集団で“暗殺教団”として知られた「アサシン」の一員という設定なのだ。この「暗殺教団」なるものの史実性については疑問も提示されていて「伝説」の部類と考えたほうがいいという見解もあるが、とりあえずこのゲームでも使用している「通説」を説明しておくと…
 11世紀のバグダッドにトルコ系のセルジューク朝が成立、その世俗的君主が宗教的君主であるカリフから「スルタン」の称号を与えられ、東方イスラム世界に君臨した。しかしこの支配に対してシーア派、その中でもさらに過激なイスマイール派を正統としたサッバーフなる宗教指導者は抵抗し、出身地のイランで「二ザール派」を創始、エルブルズ山中のアラムート砦を本拠地にセルジューク朝要人を次々と暗殺する「暗殺教団」を作ったとされる。この教団は「ハッシーシ」なる麻薬を若者に与えて桃源郷を体験させて要人暗殺の刺客に仕立てるとされ、そのために彼らは「アサシン」と呼ばれ恐れられた。これが十字軍を通してヨーロッパに伝えられ、そのまま「暗殺者」を意味する言葉として現在でも使われることになった…とまぁこんな具合。

 このゲームのオープニングビジュアルでこの経緯はかなり簡単に説明され、そのアサシンの一員であるサドラーがセルジューク朝の要人を暗殺する場面も出てくる(あとで調べてわかったが、これはパソコン版「1」のストーリーを大ダイジェストで見せたものだった)。このサドラー、常にタバコとおぼしきもの(説明書には「煙草」と明記されている)を口にくわえているのだが、「タバコ」は16世紀以降のアメリカ大陸文化との接触ではじめてもたらされたものなので12世紀のこの時代にあるわけがなく…どう考えてもこれ、麻薬なんだよな(汗)。
 このゲーム、RPGのお約束でさまざまな薬が用意されているのだが、これらは「ドラッグ」と呼ばれており、どうも「クスリ」というより「ヤク」の雰囲気なのである。だってMP回復ドラッグに「COCA(コカ)」とかあるし(笑)。実は原作ゲームはもっと露骨で、「コカイン」「マリファナ」「モルヒネ」「ハシーシ」などとはっきり明記されていたのだった。飲みすぎると副作用がいろいろと起こってしまうとか、妙にリアルなシステムはボカしつつもPCエンジン版でも継承されている。


◆世界宗教大集合!?な驚愕のシナリオ

 ここまで書いただけで、いろんな意味でずいぶんアブナイゲームだなぁと思うばかり(笑)。同時多発テロ以降の21世紀の今日ではなおさら危険視されるゲームになっただろうが、世界史を趣味にしている僕などにはなかなか興味をそそられる内容ではある。どうも作者ご自身がかなりの「世界宗教史マニア」であったようで、このゲームのシナリオには宗教雑学がてんこ盛りになっているのだ。

 ネタばれしてもそれほど深刻な影響はないだろうから、大雑把にストーリー展開を紹介しよう。
 まず物語はアサシンの村から始まる。シリア砂漠に化け物がいる、との情報を聞いてサドラーとアサシンの仲間たち(原作では「1」で登場済みなのだが、PCエンジン版では唐突な初登場、かつほとんど活躍しないキャラもいて首をかしげる人も多かったはず)はシリア砂漠のダンジョンへ向かう。ダンジョンの奥でボスを倒すと「テンプル騎士団」の首領ユーグ・ド・ペインなる人物に会うことになり、エルサレムにあるソロモン神殿へ向かうことになる。
 「テンプル騎士団」とはフランスで結成され、十字軍の一翼を担ってエルサレム巡礼のキリスト教徒を護衛することを指名とした団体。作ったのがこのゲームで重要キャラクターの一人となっているユーグ・ド・ペインその人だったりする。つまり、完全に実在の人物なのだ。
 このゲームのユーグは十字軍がイスラムに対する侵略者以外の何者でもなくなっていることに苦悩して、十字軍に対する反乱を起こし、全宗教を統合する唯一神の誕生を画策している設定になっている。史実がどうの、というツッコミは終盤になるとまったくの無意味であることがわかるが…

十字軍ボスとの戦闘 さてサドラーはユーグと協力し合うことになり、どういうわけかフランスに渡ってカタリ派の指導者と連絡をとることになる。飛行機も無いくせにいきなりフランスに飛ぶところが凄いが、このゲーム、この程度で驚いていてはいけない(笑)。
 「カタリ派」とは12世紀に南フランスで流行したキリスト教民衆運動といったもので、既存のカトリック教会に対する批判から広まったものだと言われている。カトリック教会はこれを「異端」とみなし、徹底的な弾圧を行った。カタリ派の教義はキリスト教初期に見られたグノーシス主義的二元論の流れを汲んでおり、さらには東方で起こったマニ教の影響を濃厚に受け継いでいるといわれる。ゲーム中でもちゃんとグノーシスやマニに言及するセリフが紛れ込んでいる。
 ゲームの方に話を戻すと、南フランスに入ったサドラーたちは、ドルイド(キリスト教以前のヨーロッパにあったケルトの宗教)の石柱(ストーンサークル?)を見つけ、その仕掛けを動かして謎を解いたりもする。それからカタリ派の指導者に会うべく「アルビの町」に行き、そこで十字軍がカタリ派住民の虐殺をしているのを目撃する場面まである。これは「アルビジョワ十字軍」のことを指しているのだと思われるが、13世紀初めのことなのでやや時代が早い。それにしても火あぶりで死にかけている住民に話しかけて情報を聞き出すとか、火あぶりを「焼ける匂いがいい」とか喜んでやってる十字軍兵士のひどいセリフとか、よくまぁOKが出たものだ…と思うような描写もある。この手の描写の規制が家庭用ゲーム機ではPCエンジンがもっとも「甘かった」のは確か。

 カタリ派の指導者とようやく会うことが出来たが、彼らからマニ教の開祖・マニの復活のためにインドへ言って欲しいと言われ、サドラーたちはただちにインドへと飛ぶ。そこでラーマ王子(元ネタは「ラーマヤーナ」だろうな)を助けてインドからカンボジア(!)までいくつかのダンジョンを冒険し、「ブラーフマナ」とか「ウパニシャッド」なるそれぞれインド古代哲学に由来するアイテムを入手して、マニの魂を復活させる儀式を行うことになる。バラモン教の真髄でのちの仏教にもつながる非常に難解で有名な哲学も、このゲームではただの巻物アイテムである(笑)。
 仲間が全員崩れた神殿の下敷きになるというとんでもないイベントが起こって一人ぼっちになったサドラーは、復活したマニの指示により、なにやら難しい宗教論を説かれた上で、どういうわけか日本に赴くことになる。インドからいきなり日本は武蔵国・立川にサドラーは飛ぶ。それにしてもこんな目立つやつがフランスやらインドやら日本やらに行って、住人の誰もとくに不審に思っていないところが凄い(笑)。

 武蔵の立川…ご存知の方はお気づきだろう。ここで真言立川流が登場する。真言立川流とは真言宗の僧・仁寛が12世紀初めに創始したもので、男女和合(性交)による法悦を説き、髑髏(どくろ)を本尊にするなどかなりオカルティックな宗派でやっぱり異端扱いされた。14世紀にこの立川流を大成した文観が後醍醐天皇の厚い信頼を受け、鎌倉幕府調伏の祈祷を行っていた、という史実も有名だ。確かにどこかマニ教、カタリ派、インド哲学といろいろ結び付けられる要素は多く、このシナリオ作者の宗教オタクっぷりがうかがえるところだ。この立川の女性住人の一人が「男と女がいるから世界は平和…」とか、なにやら意味深なことを言うんだよなぁ(笑)。
 サドラーは伊豆の島に流刑になっていた仁寛その人を救い出し、高野山に赴いて空海がやろうとしていた「曼荼羅の立体化」をやろうとする。それにしても高野山金剛峰寺がRPGのダンジョンになってしまうとはなぁ…(笑)。で、ここのイベントをクリアするとまた慌しくエルサレムに戻るハメに。

 エルサレムに戻り、ソロモン神殿に入ると死んだと思っていたユーグが待っており、今度はとうとう時空を越えて紀元前6世紀の世界へ飛んでしまう。飛んだ先ではソロモン神殿が建設中だったり、酒神バッコスを信じて酔っ払って騒ぐ人々がいたり、「全ては数」と考えるピタゴラスその人が出てきたりと相変わらず世界宗教総まくり状態。時空まで飛び越して収拾不能な状態になったまま物語はラストへと突入、かなり唐突な印象のエンディングを迎えることになる。

 プレイ後に調べて知ったのだが、実は原作の「エグザイル2」ではこのあとまたまた20世紀にサドラーたちが飛び、現代を舞台にしたアクション場面が存在していたのだ。そして途中で死んだと思われていたヒロインや仲間たちも再登場、それなりに大団円を迎える結末となっていたのである。
 しかしこのPCエンジン版では現代編は完全カット(理由は先述)したため、実は生きていたはずの仲間たちも生死不明のまま話が終わってしまう。この点に批判や質問が多く寄せられたりでもしたのだろうか、PCエンジン版「2」でこの点がいちおう解消されることになった。


◆勢いで押しまくる横スクロールアクション

 薀蓄満載ながらハチャメチャな世界観とストーリー展開の解説に文量を費やしてしまったが、このゲームをやる大半の人には正直どうでもいいことだっただろう。分かる人には分かる、というマニアックな味付けであって特に知らなくてもゲームをする上ではまったく支障は無い。西洋中世風世界観のファンタジーばかりのRPGに対するアンチテーゼとしてイスラムをはじめとする「異教異端」な世界を舞台にしてみた、という意欲はほめていいだろう。ただ実在の人物や歴史事実が適当にごった煮になってるのはちと気になるけど。

 ゲームそのものは特に特色もないフツーのアクションRPG。町で情報を集め、武器屋で装備をととのえ、薬屋で薬品を買い(これが体力回復、魔力回復だけでなく一時的に体力や魔力をアップする「麻薬」も混じっているわけで)、ダンジョンに入って冒険をする、といういたってオーソドックスな展開だ。ダンジョンに入ると大き目のキャラによる横スクロールアクションになり、基本的には刀で敵を斬り倒して経験値と所持金を増やしていく。レベルが上がって来ると魔法の使用が可能になり、魔法を使用すると刀での攻撃と同時にさまざまの魔法攻撃がかけられるようになる。ただし魔法はMPを消費するので「使わない」にしておいて、いざという時だけ使うのが基本。
 各ダンジョンの最後には必ずボスが待ち受けていて、一対一の対決を行うことになる。一部に変わった攻撃をかけてき攻略に悩むものもいるが、大半は単調に刀を振り回して勢いで押しまくれば楽勝…というのが僕のプレイ印象。もちろんレベルをちゃんと高めてあれば、という条件付きだが。

 このゲーム、町ではサドラーの後ろに金魚のフンのようにくっついてきていた同行メンバーははずれてサドラー一人になるのがお約束となっている。この点はPCエンジン版「2」で改良され、他のメンバーを操作できるようになったが。
 サドラーの操作は「I」ボタンでジャンプ、「II」ボタンで剣を振る、ジャンプ中に下を押しながら「II」を押すと「下突き」ができる、という基本的にそれだけしかない。どうも「イースIII」(PCエンジン版の発売はほぼ同時期だった)に似ているなぁ…と思ったが、「エグザイル」パソコン版1作目の登場は「イースIII」よりは先だったようだ。
 横スクロールのアクション場面で気になるのが、画面の端の残り4分の1ぐらいのところまでこないとスクロールがされない点だ。つまりあまり先が見えない。そのため唐突に敵に出くわしてHPを減らされるハメになりがちなのだ。それと同じ地点にボーッと立っていると、そこに出現することが決まっている敵キャラが際限なくゾロゾロゾロゾロと出てきて、キリがなくなる、という点も気になる。確かに経験値稼ぎにはなるのだが、このために後半かなりレベルが上がっちゃったようで、バッサバッサと単調に一撃で相手を倒していけるようになってしまった。ゲームバランスは甘すぎるという意味で悪い方だろう。

 ダンジョンは横スクロールだけに比較的単純な構造をしている。壁にある扉に入るには方向キーの上ボタンで「向こう側」に入れるという仕組みで、この仕組みで立体構造が表現され、中にはかなり複雑でウロウロと迷わされるダンジョンもある。
 世界中をまわる話だけに、フランス・ギリシャ・中東・インド・カンボジア・日本とそれぞれの土地にマッチしたダンジョン背景やモンスターはなかなかに凝っていて、見ているだけでも結構楽しい。雷が光ったり、雪が舞い散る様子がさりげなく背景で描かれているのも見どころ。

 こうして書いてくるとかなり盛りだくさんな内容に見えてくるが、実際のプレイ時間は集中してやれば恐らく3時間程度ではなかろうか。よく言えばテンポよく、悪く言えば豪快にかっ飛ばしまくるストーリーなので、アクション、アクションで進めていくとホントにアッサリと終わってしまう。割と出来のいいビジュアルシーンの挿入も控えめで、せっかくの塩沢さんの声もあまり聞けない。
 ゲーム作者としては世界中の宗教ネタを動員して、かなり深い宗教テーマを背景で語っているつもりなのだろうが、大半の人は考えもしないんじゃないかと。考えなくてもゲーム自体は楽しめるようになってるしね。
 ただ、世界史に多少なりとも首を突っ込んだ人にはいろいろと深読みで楽しめるゲームなのは確か。こうした点は続編「エグザイル2〜邪念の事象」(’92)でもひきつがれている。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.266
4.093
3.733
4.133
4.000
4.000
24.225
第51位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★

(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真

ウォルフ中村

TOMOYO

ミロはじめ


★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
東府屋ファミ坊

水野店長

森下万里子

TACOX



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