イース I・II
ジャンル:アクションRPG
媒体:CD−ROM
発売元:ハドソン
発売日:1989年12月21日
価格:7800円
商品番号:HCD9009
◆CD-ROM初期作にして、いきなり最高峰!?
「イース」についてこのコーナーでこんなに早く(?)書けることになるとは…などと妙に気負ってしまうほど、「イース」シリーズのPCエンジン世界における存在感は非常に大きい。「イース」自体はパソコンからの移植だし他機種においても展開されている超メジャー作品だから特にPCエンジンの独占物というわけではないんだけど、この「イース I・II」はPCエンジンのCD-ROM2の威力をゲーマーたちに強烈に印象付け、その後のCD-ROMゲーム全てに多大な影響を与えてしまったといってよいほどの歴史的価値がある。奇しくもこの作品が出た年は日本では昭和から平成に変わり、中国では天安門事件が起き、ベルリンの壁が壊れて東欧諸国で革命が起き…というムチャクチャ歴史的な年でもあった。関係ないか。
ゲーム自体の話に入る前に、かなり冗長になるが「イース I・II」が出るまでのCD-ROM関係の経緯をまとめておきたい。
PCエンジンはその開発当初から「コア構想」の中にCD-ROMシステムの導入を視野に入れていた。これについては関係者の証言がいろいろとあるけど、とにかく当時においてはCD-ROMという世界の最先端技術(といってよかったらしい)を家庭用ゲーム機に導入してしまおうというのはかなりムチャな野心的試みであったという。それをやっちまった当時のハドソンの活気と勢いを認識させられるところだが、当時はゲーム業界自体がまた上り調子で野心的だったんだろうな。
CD-ROMは540メガバイトの大容量を誇る。今となっては不足にすら感じるこの容量だが当時はファミコンの一ケタ台の「メガ」のソフトが大作扱いされたんだから、CD-ROMの容量なんて「そんなに何に使うんだ」という気の遠くなるようなものだったのだ。このCD-ROM2システムは1988年末に実際に発売となり、ソフトはもっぱらハドソンが開発・発売することになったが、当初はこのアイドルグラビア的なものやデーターベースなど「ゲーム」とは言えない新機軸のソフト群も出すなど試行錯誤していたところがある。そしてCD-ROMならではの、それまででは考えられない壮大な規模のRPG「天外魔境ZIRIA」(’89)を製作することになるが、当初は実験作的位置付けだったこの作品は人気ジャンルのRPGということもあってゲームマニアの注目を集めて結局かなり一般向けのゲームとなって世に出され、結果的にCD-ROMというものを一般ユーザーに身近なものとして認知させ、CD-ROMハードの普及を一気に広げることとなった。
「天外」が世に出たのは89年6月。その半年後に本作「イース I・II」は発売された。タイミングとしてもまさに絶妙だったと言えるだろう。製作の中心となったのはすでに「凄ノ王伝説」(’89)でPCエンジンのRPGを手がけていたプログラマーの岩崎啓眞氏。この人とPCエンジンの関わりはいろんな意味でかなり深く、ホントにPCエンジン史の要所要所で登場するお方である。当時角川から出ていた専門誌「マル勝PCエンジン」においてレビュアー・ライターとしても活躍し、ソフト・ハード両面にわたる技術関係の話を分かりやすく書いていて好評であった(これはその後の「電撃」シリーズに引き継がれる)。
この岩崎氏、もともとCD−Iの開発に関わっていたことがあったため当時CD-ROMについて知識のある技術者を猛烈に欲していたハドソンに引っ張り込まれ、自ら企画・デザインを持ち込んで前記の「凄ノ王伝説」を作り上げた。この作品の中でHuCARDながら早くもビジュアルシーンによる演出を盛り込んだりSLG的なタクティカル戦闘を導入したりと意欲的な試みを行ってPCエンジンゲーム開発のノウハウを獲得し、また同時期にCD-ROMの知識を買われて「天外魔境」にもアドバイス的に関わるなどしていたという。
そして「イース I・II」だ。今さら説明の必要も無い話だが、もともとはPC-88で発売されたアクションRPGで、発売元はパソコンRPGではこの時点ですでに「老舗」と言えた日本ファルコム。PC-88版はさすがにやったことはないが、当時難度が高いのが売りになる傾向があったパソコンRPG市場に「優しさ」をキャッチフレーズに投入され、そのほどよい難易度、魅力的なストーリーとキャラクター、そして誰もが虜になってしまう音楽(もちろんFM音源)とで絶大な支持を受けた名作である。赤毛の剣士アドルが「イースの本」を集めダームの塔を登っていく一作目の「イース」、そして天空の世界イースに飛ばされたアドルが全ての謎を解いていく「イースII」。物語は完全にひとつながりになっており、もともと2部作で完結する構成となっている。間もなくパソコンからファミコンにも移植されコンシューマーゲーマーにも良く知られた存在となっていった。
さて岩崎氏はこの「イース」二部作をプレイして「CD-ROMに移植するなら自分がやる」とハドソンにもちかける(この辺の話は「ユーズドゲームズ」誌のインタビューに詳しい)。ハドソンはただちに「イース」の版権を買い取ってプロジェクトはスタートした。移植にあたってはCD-ROMの大容量を生かして2部作を一枚のCDに収録し完全にひとつながりのゲームにすること、そしてCDならではのCD音源と声優による声の演出、そしてオリジナルのビジュアルシーンといった新要素の導入が決定される。移植の話を聞きつけてオリジナル版の開発スタッフも参加し、原作の味を生かしつつ大胆なアレンジも加えた開発が進められることになる。その開発期間は意外にも短く、8ヶ月ばかりであったという。
その知名度もあり、かつ雑誌に公開されるゲーム画面の素晴らしさから前評判はかなり高かった。そして発売直前、プレイした各誌レビューはほとんど絶賛満点絶対買え状態。「マル勝PC」誌のレビュアーの一人でもあった岩崎氏は「自分が関わった作品には点数をつけない」という姿勢を貫いていて「イースI・II」についても点数をつけなかったが、「正直言って自信はある」とコメントしその自信の程をうかがわせていた。そして発売後、実際にこの「イースI・II」は原作を超えた「イース」の決定版と絶賛されPCエンジンのCD-ROMシステム普及をさらに推し進めただけでなく、PCエンジンがその後歩むビジュアルと音声による演出を生かしたCD-ROM傾向をほぼ決定付けてしまったと言っていい。
単に傾向を決定付けただけではなく、本作こそがPCエンジンCD-ROM中の最高峰と唱える声も少なくない。そんなこと言われちゃ、その後出たあまたのCD-ROMソフト群の立つ瀬がないというものだが、岩崎氏本人も「PCエンジンのハードは基本的なメインプログラムでは『イースI・II』で使い尽くしてる」とPCエンジン末期に言ってるぐらいで決して不当な高評価ではないのだろう。
◆単純明快な操作性と楽しくも苦しいボス戦
な、なげぇ…イントロだけでこんなに書いちゃったよ(汗)。まぁこれも名作のなせる業だ。で、ようやくゲーム本編の話である。
CD-ROMを立ち上げるといきなり始まるのがイースの歴史を語るビジュアルデモ。銀河万丈の低く渋い声と美しい全画面のビジュアル、そして荘重な音楽が圧巻である。当時はこれだけでプレイヤーの度肝を抜いてしまったという伝説的ビジュアルだ。RUNボタンを押すとCD音源による軽快な音楽と共にオープニングビジュアルが始まる。あえて言うがこのオープニングに関してはPCエンジン後期からの参入者の目にはかなり荒いCGだと見える。しかしアニメのオープニングを意識したと思われる絵の切り替えと声の出演者表示の絶妙な展開は、これから始まるゲームに向けてのワクワク感を盛り上げる。
先述の雑誌インタビューにも出てくる話なのだが、岩崎氏はこの「イースI・II」を「ずるいソフト」と表現している。音楽だ、ビジュアルだ、とCD-ROMの魅力を冒頭でドドーンとプレイヤーに印象付けてあとはズルズルと引き込んでしまうというのだ。岩崎氏いわく「ゲームの印象は最初の15分で決まる」と。またCD-ROMの欠点の一つにCDから読み込みを行うシークタイムの問題があるが、これを感じさせないよう、「イースI・II」では序盤の見せ場をCDの内側(つまり読み込みが早い箇所)に配置するなど細かいところで気を使っていたりもするそうだ。だから後半になるとCD読み込みが長いということなのだそうだが、実のところそんなにストレスは感じない(まぁ言われて見ればサルモンの神殿の画面切り替えが若干長いか?)。その後の妙に長いローディングも平気で行うCD-ROMソフト群の製作者に聞かせてやりたい話ではある。
オープニングが終わって主人公アドルが港に降り立ち、出発地となるミネアの町に入ってゲームは開始される。占い師のサラに世界の危機を教えられ、「イースの本」を集めることになるアドル。町の人たちに話を聞いて情報を集め、装備品を買い込んで、フィールドに出てそこらをうろついているモンスターたちを倒して経験値と所持金を稼いでいく。このミネアの町から出てすぐの草原のBGMはこれぞゲームミュージックの鑑!といいたくなるほどの名曲で用も無いのに草原に居座って聞いていたくなるなるほど。要所要所のBGMはCD音声で盛大に奏でられ、この点については確かに原作を圧倒してしまったと思える。当時のことは直接的には知らないのだけど、相当に衝撃的だったのではないだろうか。
「イース」は言うまでもなくアクションRPG。ただしアクションといっても特に難しい操作性が要求されるわけではなく、敵を倒す方法は単純明快、ただぶつかっていくだけである。こちらのレベルによりスッと触れる程度で倒せたり何度も体当たりしないと倒せなかったりするが、ゲームのアタマからシッポまで、ザコだろうとボスだろうと戦闘方法は基本的にこの「ぶつかっていくだけ」だ。もちろんモンスター側もぶつかり攻撃をかけてくるから戦闘は押し相撲状態(というより張り手の打ち合い?)で処理され、押された方にダメージが出る仕掛け。押されたほうは効果音と共に少し吹っ飛ばされるので戦闘状況が体感的に分かりやすい。またパソコン版からあったことだがモンスターと正面からぶつかるとこちらもダメージを受けやすく、自キャラを半分ずらしてぶつかるとうまく相手を倒せるというテクニックも「剣と盾で戦っている」という雰囲気が出ていてうまいところだ。
モンスターを倒すと「ズバッ」という音と共にその姿が消えるのだがこれが何度やっても快感。さっきまで苦労させられていたモンスターが一撃で倒せるようになったときの快感はかなりのもので、大して経験値が稼げるわけでもないのに意味も無くザコ敵を追い回してズバズバと虐殺しまくった人は少なくなかったはず(笑)。ただしザコ敵でも大勢に取り囲まれたり不意を撃たれたりするとあっさり殺されてしまうことも多いのであまり気は抜けない。
それとこのゲームをハラハラドキドキと楽しませてくれるのが、ダンジョン内では自然回復しないHP。HPを一瞬で完全回復する「薬草」というアイテムもあるが、一個しか持ち歩けないためいつ使うかが考えどころ。「I」でも「II」でもある程度進むと身につけているだけで自然回復をしてくれるアイテムが手に入るが回復はあくまで緩やかであるため、ダンジョン奥深くに進んだときは常に自分のHPの数値とにらめっこしつつ戦いを行わねばならない。
そしてこのゲームの売りの一つであるバリエーション豊富なボス戦だ。ダンジョン内の要所要所にボス戦のステージが用意されており、それぞれに個性的な攻撃と弱点を持っているボスたちが待ち受けている。初プレイ時、なかなか勝てずにウンウン言っていた記憶があるのだが、今回この文章書くために改めてプレイしてみたところほとんどのボスにあっさり勝ててしまったあたりは弱点とコツさえわかれば楽勝、というこのゲームの「程よい難易度」が実感できるところ。もっともボスにはそれぞれ「勝てるレベル」や「勝てる武器」がだいたい決まっていてゲームの展開上まず順当に勝てる時期が決まっているともいえるのだが。工夫次第では本来倒せるひとつ前のレベルでも倒せないことはない、という作りもプレイヤーの挑戦心をあおってくれるところだ。
それにしても基本的にただぶつかっていくだけの戦闘システムでありながら、全編を通してのボス戦のバリエーションの数々には感心するばかり。先ほど初プレイ時になかなか勝てず苦労したと書いたが、今にして思うとこの攻略法を考えている時期が一番楽しいのかもしれない。
◆謎解き要素満載のストーリー
「イース・I」の後半は延々と続く「ダームの塔」ダンジョンの攻略だ。もはや町に戻ることも出来ず、塔の中の迷路のようなダンジョンを、群がるザコどもに苦しめられながら孤独な戦いを続けるアドル。このダームの塔は十数階に及ぶ長大なもので各階ごとにさまざまな仕掛けがあり、アドルは入手したアイテムや塔の中で出会う人々に聞いた情報をもとに謎を解いていく。この「謎解き」の、簡単でもなくそう難しくも無いという難易度が素晴らしい。この謎を解きつつ一階一階を上がっていく楽しさはファルコム作品にしばしば出てくるテーマのようで、PCエンジンでは「風の伝説ザナドゥ」(’94)と「ブランディッシュ」(’94)でも楽しめる。
塔の攻略に限ったことではないが、このゲームで楽しくてたまらないのが宝箱をあける瞬間だ。ダンジョンのあちこちに置かれている宝箱、なかには強いモンスターが厳重に守備している宝箱もある。このゲームで見つかる宝箱は有用なものばかり入っているし中には謎を解く上で必要不可欠のものもある。宝箱にぶつかると、まるでプレイヤーをじらすかのように箱がゆっくりと開くという演出も心憎い(パソコンの「エターナル版」だと箱から光が放たれたりしていたな)。アイテム入手時に鳴る祝福の(?)音楽がまたいいのだ!その後のストーリー重視型のRPGでは忘れられがちな、「宝物入手」というRPG本来の重大な要素がたっぷりと楽しめる。
ダームの塔のてっぺんでラスボス・ダルク=ファクトを倒しイースの本を全て集めるとアドルの体は光に包まれ天空へと飛ばされる。多くの謎を残したまま、ここで「イースI」はおしまいである。元のPC88版がどうだったかは知らないんだけど、当時遊んだ人は「II」が出るまではハラハラしたろうなぁ。
続編となる「イースII」は天空に飛ばされたアドルが、大昔に天空に浮上してしまった世界「イース」に降り立つ。アドルの出現を目撃し介抱してくれるのが美少女リリアだ。元のPC88版でもこのリリアの登場シーンは語り草になるほど強烈だったようで、PCエンジン版でもこの場面をアニメ・声入りで大いに盛り上げている。今見るとさすがにCGのレベルはあまり高いほうではないのだが(割と地味なマップ画面にも言えることだが、原作の雰囲気を忠実に再現しているのかもしれない)、「これがCD-ROMだ!」と見せ付ける演出上の意図はかなり強く感じられる。
「イースII」はスケール的には「I」の4倍はあると言われる大ボリュームだ。拠点となる村も三箇所あるし、炭坑、遺跡、氷壁、火山地帯、そして広大かつ複雑なサルモンの神殿(住んでいる魔物たちは迷子にならないんだろうか?と思った人も多い?)とダンジョンも盛りだくさん。当然謎解きのバリエーションも増えて迷路解き以外でもプレイヤーをあれこれ悩ませてくれる。実際僕も初プレイ時に何度も行き詰まって頭を抱えたものだ。
こんなのは僕だけの思い出かな?と思いつつ書くのだが、氷壁のところでは滑って上れない坂というのが存在する。氷壁の中で発見できる特殊な靴を身につけていれば登れるようになるのだが、初プレイ時の僕はこれがなかなか分からずに行き詰まり、しかもその坂の上に女神像が見えたため「よしっ」と腹をくくり、なんと敵の攻撃をわざと受けてその反動で坂を上がってしまうという作戦をやったのだ。これが「成功」したんだから大笑い。もちろんあとでその靴ちゃんと見つけたけどね。
複雑な謎解き要素の一つにもなっているのが「魔法」の存在だ。前作ではただぶつかって斬りつけていくだけだったが、「II」ではアドルのパラメータにMPが追加され五種類の魔法の仕様が可能となる。敵に打撃を与える「ファイヤー」や隠された通路を発見するための「ライト」、一度行った町や村へ一瞬で飛べる「リターン」、そしてなんとモンスターに姿を変えて敵である魔物たちと会話できる「テレパシー」なんて魔法もある。特に面白く、また謎解きにも深く関わってくるのがこの「テレパシー」で、謎解き上何の関係もない魔物たちも全てセリフを持っているからついつい全員に話しかけてしまうこと必至(笑)。日ごろ虐殺しまくっている魔物たちもちゃんとものを考え、生活していることを実感してしまって、ついつい経験値稼ぎの虐殺を控える人も出てきそうだ(笑)。
魔法が導入されたことでボス戦にも変化が生じた。ラストのいくつかを除く全てのボスには「ファイヤー」による魔法攻撃しか通用せず、前作のような純粋アクションよりもシューティングといった方がいいような戦闘となっている。そのせいもあって「II」で登場するボス達は全体に「撃てるチャンスを見計らう」ものが多く、必勝パターンをつかむまではけっこう苦戦させられる。
物語は「II」の終盤にいくにつれ、どんどんドラマティックな展開になってきて大いに盛り上がってくる。劇的な演出として忘れがたいのがラスト近くの「鐘突き堂」の箇所だ。ハードを問わず未プレイ者のためにネタバレは避けるが、一回二回と鳴らされる鐘、わざわざ二回上り下りさせて外の風景がさりげなく変化していることに気づかせるあたりなど心憎いばかり。こういう演出は戦闘画面への切り替えが無いアクションRPGならではのものだといえるだろう。
そしてラスト。全ての謎が解決され、「I」「II」の登場人物も一同に会し、まさに大団円。ラスボスを倒したあとのエピローグ部分は感動に浸れること請け合いだ。なんつっても自ら体(指先だけ?)を使って解決した末のことですから(笑)。これもアクションRPGの醍醐味の一つだろう。
◆PCエンジンCD-ROMの看板的存在?
エンディングはオープニング、「I」「II」橋渡し部分と同様に、盛大なビジュアル+音楽演出でしめくくられる。そしてそれが終わるとエンディングテーマと共にスタッフロールが流れ、ゲーム中で登場したキャラたちがカーテンコールよろしく次々と登場して可愛くご挨拶してくれる。これがなかなかに楽しく、ゲームをクリアした感動に改めて浸ることができる。
さてゲーム本体の話が終わったところでPCエンジンのCD-ROM2版「イースI・II」のソフトとしてのオリジナリティについてまとめておきたい。
まず原作との大きな違いは当然ながら「I」と「II」を一枚のCDにカップリングしただけでなく、完全な一つのゲームとして統合してしまったという点だ。確かに「I」の装備やアイテムなどは「II」に持ち込むことは出来ず、「II」には魔法が追加されるなど「I」と「II」の分断面は多々あるが、本作では経験値およびHPはそのまま持続して使われる形式となっている(原作では「II」の最初は初期状態に戻っていた)。プレイしている側はあまり気にならなかったかもしれないが(実際僕もまるで疑問は感じなかった)、作る方にとってみればゲーム全体の戦闘バランスを考える上で重大な変更である。この「二作を一つのゲームにする」ことによって製作者の岩崎氏らはゲーム全体のバランス調整を大幅に行ったという。
また、これはご本人が「ユーズドゲームズ」誌のインタビューで明かしていることだが、パソコンからTVゲームに移植するに当たってアドルのサイズを「見場が悪い」との理由から大きめに変更しているのだそうだ。これもさりげないことだがゲームデザイン上マップやボス戦などで原作からの大きな変更を余儀なくされることで、実際岩崎氏自身は「移植ではなくアレンジ」という姿勢で開発に臨んだそうだ。そして実際それは成功し(というかあまりにスムーズにプレイできるので気にする人がいなかったってことみたい)、「原作を超えた」との評価も聞かれるわけだ。
ゲーム性以外の部分ではCD-ROMということで「声」による演出が随所に追加されている。基本的にメインキャラには全て声優による声が割り当てられていて要所要所でプレイヤーに肉声で語りかけてくる。すでに「コブラ」や「天外魔境」も出ていた時期だが、こういうすでに良く知られたゲーム、しかもアクションRPGで「肉声」が聞こえてきたことには衝撃も大きかったのではないかと思える。
それでもその後のCD-ROM作品、中でも同じ「イース」シリーズ後発作と比べるとよく分かるが、「イースI・II」の音声・ビジュアル演出はかなり控えめと言って良い。肉声が聞こえてくるのはホントに数箇所のみであり、ゲーム画面にかぶさる顔アップの絵もフィーナ、レア、リリア、マリアといった女の子キャラと2作のラスボスしかいない。これも岩崎氏ご本人が言っていることだが「イース」のようにスピーディーな展開が求められるゲームでその流れを止めるような真似はすべきではないということだろう。
それと美少女キャラたちだけが顔アップになることについては「受けたかったから」「ゲームをやる90%は男だ」とご本人も白状しており(笑)、そのため一部でPCエンジンのギャルゲーの元祖もほかならぬ本作であったという声もあったりする(笑)。もちろんリリアなんかはPC88版の段階で人気が出ていたのだそうだが…PCエンジン版では「III」「IV」にも顔を出しているっけな。
そして何と言っても音楽。「イース」のオリジナル版の音楽の大半を担当した古代祐三氏に言わせれば「あくまでPC88のFM音源用に作った音楽」なのだそうだが(古代氏はゲーム自体についてもPCのディスク読み込み速度も考慮したデザインなのだと言っていた)、やはりこのCD-ROM版が流すCD音声のBGMのインパクトは今なお強烈だ。その曲を聴くだけでダンジョン内でのドキドキハラハラを思い出しワクワクしてしまう名曲ぞろい。
PCエンジン版のお得なところは裏技により曲を聴き放題に出来るモードが用意されていることだ。パスワード入力画面で「いわさきひろまさ」と入力するとそのモードに入れることはあまりにも有名だが、この裏技でこの人のお名前を覚えてしまった方も多いはず。何を隠そう筆者もそうだ(笑)。
「イースI・II」は「天外魔境」に続くCD-ROMのヒット作となり、その普及に大いに貢献した(この2本と「スーパーダライアス」の登場が大きかったと言われる)。岩崎氏はこの「イースI・II」の海外版(つまり「ターボグラフィックス」のCD-ROMソフト)の開発にも携わり、セリフに大幅なアレンジを加えるなどさらなる改良を行った。この「イースI・II」の海外版はアメリカでも絶賛され、その年の各種の「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」および「ゲームミュージック・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。もっともターボグラフィックス自体はあちらではもう一つ振るわなかったのだが…。
その後「イース」シリーズはPCエンジンとハドソンの看板的存在になってゆき、パソコンからの移植である「イースIII・ワンダラーズ・フロム・イース」(’91)、そしてファルコムと提携したオリジナル作「イースIV・Dawn of Ys」(’93)と立て続けにヒットを飛ばしていく。またPCエンジンの末期の94年にNEC-HEから「名作復刻版」シリーズの一本としてこの「イースI・II」が再販されもした。
そして本作の開発の中心となった岩崎氏は「天外魔境」へのアドバイスを通じて知り合った桝田省治氏とこのあと強力な名コンビを組むことになり、「天外魔境II・卍MARU」(’92)、「エメラルドドラゴン」(’94)、「Linda3(リンダキューブ)」(’95)といったPCエンジンCD-ROMを代表する名作を次々と生み出すことになる。
(追記)本作は2007年10月に任天堂「Wii」向け「バーチャルコンソール」の一作として配信されている。また2010年11月にはPS向け「ゲームアーカイブス」でも配信された。
◎各誌評価
★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
| 音楽
| お買い得
| 操作性
| 熱中度
| オリジナリティ
| 総合
|
4.526
| 4.629
| 4.185
| 4.321
| 4.551
| 4.048
| 26.251
第7位
|
★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
| 総合評価
|
岩崎啓真
| 開発者のため採点せず
|
ウォルフ中村
| 10
|
小野泉
| 10
|
山崎拓
| 9
|
★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
| 総合評価
|
東府屋ファミ坊
| 9
|
水野店長
| 9
|
森下万里子
| 9
|
TACOX
| 8
|
★「ファミコン通信」誌「’89年ベストヒットゲーム大賞」
アクションRPG賞受賞
★ユーズドゲームズ誌「19××」読者投票
1989年下半期 全機種ソフト中 第2位
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