イース III ワンダラーズ・フロム・イース

ジャンル:アクションRPG
媒体:CD−ROM
発売元:ハドソン
発売日:1991年3月22日
価格:7200円
商品番号:HCD0015


◆名作の続編はビックリの横スクロールアクション!

外見 PCエンジン版は「イースIII」と銘打っているが、原作となった日本ファルコム発売のパソコン版は「ワンダラーズ・フロム・イース」というタイトルになっている。名作「イース」「イースII」の続編であるわけだが、「イースから来た放浪者」ぐらいの意味のタイトルからして、どことなく「番外編」的な位置付けという印象がある。実際物語中に「イース」は出てこないし。主人公のアドル、そして「I」に登場していたドギが登場することぐらいしか前作とのつながりがない。

 そして何と言っても本作の際立つ特徴は前作のような見下ろし画面から横スクロールのアクションRPGになっていたという点だ。敵を倒して経験値とお金を稼ぎ次第にHPを上げていき、入手した魔法をMP消費により使うというシステム自体は前作から引き継いでいるが、横視点になったぶんアクションのバリエーションが豊富になり、難度は増した。パソコン版発売当時も名作「イース」の続編がこういう大幅変更の形で出たことについてはプレイヤーの間でもかなり賛否両論が戦わされたらしい。結局のところあまり好評ではなかったのか、「IV」以降はもとの見下ろしスタイルに戻されている。

 PCエンジン版「イースIII」はそのデモ画面(起動すると出る、過去の歴史を語るビジュアルデモ)と冒頭、そしてエンディングにCD-ROMならではのアニメと音声の入ったビジュアルシーンを追加している。何と言っても前作「イースI・II」(’89)はCD-ROMシステムそのものの普及度を上げてしまったPCエンジンCD-ROMを代表する名作。その続編である本作には単なる移植以上の期待がかけられたはずで、実際ビジュアルシーンに関してはパワーアップが見られる。ゲーム本編では無いのだがその起動時のビジュアルデモには特に異様に気合が入っていて(笑)、アニメチックの絵ではない本格的なファンタジーアートの絵物語は結構インパクトがある。

デモ画面 このデモが終わるとタイトル画面。横スクロールアクションであることを印象付ける、スクロールする宮殿の中をテクテクと歩いているアドルが映る。ゲームを始めるとオープニングのビジュアルデモ。前作以上に動きがありできのいいドット絵アニメーションだが、やはり今見ると荒い印象は否めない。このへんが初代CD-ROMシステムの限界なのか…とも思えるが。
 このオープニングで語られるのが本作の物語の発端。前作の舞台となったエステリアを離れ、仲間のドギと一緒に世界を旅するアドル。それを見送って悲しげにたたずむのは「II」で登場し大人気となったリリアだ。この「III」ではこのオープニングデモにしか登場しなかった彼女だが、「IV」ではゲストながら格別の扱いを受けていたものだ。
 旅するうちアドルとドギはドギの故郷フェルガナに不穏な動きがあることを知り、フェルガナへと向かう。ここが本作の舞台となる世界だ。

 デモが終わると今回の冒険の拠点となる、ドギの生まれ故郷のレドモントの町に入る。ここから横スクロール画面だ。正直なところのっぺりとひらべったいその外見は前作に比べても見劣りするグラフィック、という印象を受けてしまう。恐らく原作のパソコン版を忠実に再現しているのだろうが…もうちょっと見栄えを良くして欲しかった気もする。パッと見にはファミコンの古典的アクションゲームを思わせるような画面だ。背景のいかにもパソコンっぽい多重スクロールもかえって不自然に見えちゃうところもあるし。町の人たちに話しかけ、話し終わるたびにアドル君が可愛くチョコンとジャンプする(Iボタン押すとジャンプするつくりになっているため)のもなんだかなぁ…と思えてしまうところ(笑)。


◆よりテクニックが要求されるダンジョン探索

 もちろんゲーム性は見た目で判断できるものではない。実際、アドルを操作しちょっとダンジョンに入っただけで、このゲームの手ごわさが分かってくる。
 前作ではただぶつかっていけばよかった戦闘は、本作では横スクロールになったことでちゃんと「斬る」「突く」といった動作を行って敵を倒さねばならなくなった。横視点になったことで位置の高低の要素も加わってIボタンによる「ジャンプ」が出来るようになり、空を飛ぶ敵にはジャンプして斬りつけ、床を這いずる敵には身をかがめて突いたりジャンプして下向きに突いたりといったテクニックが要求されるようになったのだ。こっちがボーッとしていると敵がぶつかってきてダメージを受けちゃうのは前作同様なので、ダンジョン内ではしょっちゅう飛んだり屈んだりしながら刀を振り回していなければならない。気を抜いているとアッサリやられてしまうことも多いザコ戦での苦労はゲーム終盤までつきまとう。

 横スクロールになり、アクションが主体になったこともあって謎解き要素はかなり減少した。ダンジョンもそれほど複雑ではなく、一部にジャンプのテクニックが多少要求される通路なんかがあったり、ちょっと意地悪にプレイヤーの盲点を突くような場面もあるが、全体としては素直なつくりのダンジョンだ。ザコ戦の厳しさを考えれば妥当なところだったろう。
 また前作ではゲーム内のダンジョンやフィールドは全て一つながりになっていてあっちこっち自由に行けたものだが、本作では物語の進行に従ってスタート地点の町から直接行けるダンジョンが増えるという仕掛けになっている。ゲーム中に登場するダンジョンは全部で五つ。中にはかなり奥深くまで行かなければならないものもあり、厳しいザコ戦のために奥にいるボスと戦うまでにかなり体力を消耗してしまうことも少なくない。前作同様に体力を完全回復してくれる「薬草」はあるのだが、やっぱり一つしか持てないので各ダンジョンの攻略は行っては戻りを繰り返すことになるだろう。ダンジョンの外ではHPが自然回復するが中では特殊アイテムを持っていない限り回復しないというのは前作と同じ。

 ボス戦もまた横視点になったことで前作とはかなり雰囲気の異なるものとなっている。前作ではある程度レベルを上げてぶつかっていけばそこそこ勝てるようになっていたのだが、本作ではレベルがどうであろうと最低限のテクニックは駆使しないと勝てない作りになっている。多くのボスは弱点が上方にあるため「ジャンプ斬り」を繰り返さねばならず、Iボタンでジャンプ、素早くIIボタンで斬りつけるというせわしない操作を要求される。手に持ったパッドでは少々難しいこの動作、筆者も実際にやったことだがパッドを床に置いてIボタンとIIボタンを同時に押すという作戦も有効だ。
 いくつかのボスに関しては分かってしまえば弱点突きであっという間に終わってしまうものもあるが、ラスボス戦の難度は激烈だ。なんせ常に上方に浮かんでいる敵のため攻撃は全てジャンプ斬りするしかなく、また飛ばし攻撃や必殺ガードまでかけてくるため要求されるテクニックはかなりのもの。「薬草」あるいは、高額のため終盤にならないとまず買えない死亡時完全回復アイテム「精霊の首飾り」を購入してからでないとまずチャレンジできないと思われる。

 「II」で導入された「魔法」は「III」でも健在だが、本作はアクション主体ということもあって攻撃魔法はカットされており、攻撃力をアップ、防御力をアップ、HP回復、魔法攻撃無効化といったあくまで戦闘の補助的な役割のものにとどめられている。これら魔法はそれぞれの「リング」を装備して使用できるようになるが、便利なものほどMPをやたら早く消費する設定になっているため、MPの重要度は前作より格段に増している。リングのMPはレドモントの町の魔法アイテム屋で有料で回復でき、またゲーム中であるものを入手すると3回だけMPを回復できるアイテムを購入できるようになる(完全回復はしてくれない)。それと面白いのがザコ敵を倒すごとに1ポイントずつMPが回復するという仕掛け。このゲームでは宿屋など回復施設がほとんど存在しないため(宿屋は町にあるんだけど、ゲーム上ではほとんど無意味)、特に終盤にMP不足を補うべくザコ敵を斬り殺しまくることになりがち。


◆「名作の続編」はつらいよ?

 この「III」はPCエンジン版もパソコン版もそれほど違いは無いようなので特にPCエンジン版に絞った話ではないのだが、この「III」ってやっぱり前作「I」「II」があまりにも名作過ぎたために製作側もそれとは違った路線を狙おうとしており、それが良い面悪い面で色濃く出ていると思う。なおかつその「良い」「悪い」の判断基準は人によりまるっきり逆転するかも知れず、なんだかんだと議論を呼んでしまう作品だ。これは「IV」「V」にも言えることで「名作の続編」というポジションの辛さを感じるところだ。「ドラクエ」や「FF」のような寅さんやゴジラや007状態とは異なり、一作目(正確には一作目と二作目だが)があまりにも良く出来すぎていたために続編については作り手も遊び手もなにかとそれを意識して臨んでしまい、完璧に別コースをとってみたり逆にべったりとくっついてみたりといろいろ迷走しているように感じるあたり、4、5作ぐらいつくられて終わるアクション映画シリーズを思わせるところがある。もちろんそれぞれの作品がいずれもそれなりに高評価であるあたり、凡百のシリーズとは一線を画しているのは確かだが。

イベントシーン この「III」、ストーリー自体も割とありがちというか、特に意外性も無く淡々としたものだ。もちろんアクション主体であるため複雑なストーリー構成を持ち込むのは避けたいところだったろう。本作のメインキャラはヒロインであるエレナ(それにしてもアドル君は港々に女あり、って奴である)とその兄で悪役まわりかと思わせてそうでもないというよくあるパターンのチェスターの二人ぐらいでドラマ要素は基本的にこの二人の葛藤しかない。相棒であるはずのドギはなんにもしてくれないし(笑)。それでも全体的にみれば小粒でよくまとまったストーリーだとは思える(「IV」なんか詰め込みすぎてよくわかんなくなってたもんな)
 やや気になるのは、前作では一切自己主張せず「プレイヤーの分身」に徹していたアドル君が、声こそ出さないものの自らのセリフを多く発する点だ。しかも後半に向かうにつれ自信喪失気味の愚痴まで口にするようになり、妙に内省的なキャラクターとなっている。ゲームにおける主人公とプレイヤーの関係はいろいろと議論されるところではあるが、これも前作とは違った味を出そうとした作者の意図のあらわれの一つなんだろうか。

 PCエンジン版では前作にあった顔アップ演出は一切無く、ビジュアルシーンもオープニングとエンディングのみに絞られたが(エンディングは結構長い)そのぶん声優の声による演出は前作以上にぶちこまれた。ちょっとしたイベントでもメインキャラたちが律儀に肉声で話し、ゲーム画面の横視点のキャラのままあれこれお芝居を見せてくれる。まぁなんとなく「人形劇」っぽい印象を受けてしまうものではあるが。肉声が聞けるのはCD-ROMならではの追加要素だが、セーブ前にやられちゃったりして繰り返し聞かされるとその長さにうんざりするところもある。わざわざ声を入れなくても、と感じるところも多くあるし、どうせ肉声入れるなら顔アップグラフィックを出してしゃべらせたほうが良かったんじゃないかと思う。

 パソコンにおける「イース」シリーズは本作が現時点での最終作になってしまっている。「イースIV」は日本ファルコムの設定をもとにスーパーファミコンとPCエンジンのコンシューマー2機向けに開発・発売され、PCエンジン版は「I・II」と「III」を製作したハドソンが当然のごとく担当、SUPER CD-ROMソフト「イースIV・Dawn of Ys」(’93)として世に出された。この「IV」は「II」と「III」の間の年代に設定されており、ここにもなんとなく「III」の不遇を感じてしまうところ。
 続く「V」は日本ファルコム自らの製作だがスーパーファミコンのみでの発売となっている。その後ファルコムは旧作リメイクシリーズの一環として「イース」「イースII」のグラフィックを一新したWindows版「イース・エターナル」を発売している。「III」もリメイクの噂はあったのだけど、いまのところ動きは無く、ここでも「不遇」の観を覚えるところがある。

(補足:この文章アップ後、「イース」シリーズの新展開が開始されている。本文中で「パソコンにおける最終作」という文言があるが、2003年にファルコムは突然新作「イースVI・ナピシュテムの匣」をパソコンで発売、パソコンでは実に14年ぶりの新作と騒がれた。3Dゲームに生まれ変わった「VI」は戦闘方法などかなり「III」のシステムに似ているとの声もある。「III」についてもプレイステーション2でのリメイクがなされ、2005年にはパソコンで「イース・フェルガナの誓い」のタイトルで3D化リメイク版が出た)
(さらに補足:2011年にPS向け「ゲームアーカイブス」の一本として、このPCエンジン版が配信されている)


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.319
4.631
3.795
4.168
4.106
3.610
24.629
第33位
 
★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★

(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真

ウォルフ中村

TOMOYO

ミロはじめ


★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
東府屋ファミ坊

水野店長

森下万里子

TACOX



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