1552天下大乱  
ジャンル:歴史シミュレーション
媒体:SUPER CD-ROM(マウス対応)
発売元:アスク講談社
発売:1993年7月16日
価格:8800円
商品番号:AKCD3001


外見◆戦国マニア限定?超硬派SLG

 このゲーム、当初は「太閤記」というタイトルで開発が進められていたことが当時の雑誌記事から知られる。それがいざ発売の直前という時期になってこの妙なタイトルに変更となった経緯がある。恐らくは「太閤記」なんてメジャーな名前はどこかが商標登録でも済ませていたのだろう。光栄(現コーエー)だって「太閤立志伝」ってタイトルでやってますしね。「太閤記」というタイトルの名残はバックアップRAM内のデータ名が「TAIKOUKI」となっているところにかすかながら残されている。

 「太閤記」という元タイトルながら、本作は別に秀吉の一代記をシミュレートするものではない。変更になったタイトルに「天下大乱」とあるように、日本全土を舞台に戦国時代そのものをシミュレートする内容となっている。その手のゲームとしてはなんといっても光栄の看板シリーズでPCエンジンでも実は2作も出ていた「信長の野望」という大物が存在するが、この「1552天下大乱」はその「信長」をかなり意識しつつ、と言うより強烈な対抗意識と挑戦意識をもってデザインされた野心作となっている。

 このゲーム作者の尋常ならざる気合の入り方はCDを起動した直後に流れる、モーツァルトの荘厳なメロディ(コーラス付き)に乗ったオープニング・ビジュアルデモで早くも見せ付けられる。信玄、謙信、信長などの戦国武将、騎馬武者やら足軽やら、一向宗やらキリスト教徒やら、「戦国時代」のイメージを全部ぶちこんじゃったような強烈なデモである。このデモだけでも一見の価値を保証できる。
 このオープニングが終わると、いきなりマックOSみたいなメニュー画面が表示される。各種のウィンドウやらアイコンやらが表示され、パッドの動きに合わせて矢印のカーソルが動き回る。実際本作はマウス操作にも対応していて(というより恐らくマウス操作を基本にデザインしていると思われる。操作性が格段に向上する)、全体的にかなりパソコンライクなデザインとなっている。それでいて別にパソコンからの移植ではなくあくまでコンシューマー向けに開発されたオリジナルソフトであるところが面白い。

いきなりOS画面 メニューウィンドウには「キャンペーン」「ショート」「ロード」「デモ」「ノート」といったアイコンが並んでいる。時計のアイコンをクリックしてみると「長時間ゲームしないで休憩をとりましょう」なんて注意が出るといった、これまた手の込んだお遊びがあったりする。
 「キャンペーン」とはこのゲームのメインである、全国を舞台に天下統一を目指して戦う、戦国ゲームおなじみのもの。1552年、1582年、1600年の三つのシナリオが用意されている。これに対して「ショート」は地方や時間を限定した短いシナリオで、気軽に楽しみたい、あるいは初心者向けのモードである。
 「ノート」ってのはなんだろう、と思ってクリックしてみると、これはいわゆる「デザイナーズノート」。ゲームデザインをした作者本人がこのゲームの狙いや特徴、ヒントはたまた欠点にいたるまで詳細に記述した文章だ。容量に余裕のあるCD-ROMとはいえ、ここまで長々と作者の演説を収録したゲームってほかにないんじゃなかろうか、と思うほどの大長文で、とにかく濃く熱い(笑)。このデザイナーズノートの閲覧もマック風で、わざわざ「しおり」機能までつけてあるという親切ぶりには頭が下がる。確かにゲームをする上で重要なヒントも含まれているので読んでおきたい文章ではあるのだが、ホントに長いんだよな〜(笑)。結構苦労して読み終えたが、作者が相当な戦国マニアであり、かつ歴史SLGに対する深い見識があり、このゲームに大変な意気込みで臨んでおられたことはよーく伝わってくる。

 こういう作者の作ったゲームであるから、とにかく作りこみは激しいゲームだ。激しすぎて「イチゲンさんお断り」的な性格も多分にある。それでなくてもSLGってのはルールを理解するのに手間がかかることが多く、中でも歴史SLGは多くの要素を取り込むため難解なものになりがちだが、この「1552天下大乱」はその中でもさらに難解なデザインとなっていると思える。
 そうなった理由は歴史好きである僕にはいささか思い当たるところもあるのだが…要するに「歴史ファン」の中でも「戦国ファン」ってのが特に濃く、細部にわたるこだわりを見せる人たちだから、ということが挙げられるだろう。このゲームを買うプレイヤーはかなりの確率で戦国マニアであり、作り手もまた相当な戦国マニアである。すでに「信長の野望」という定番ソフトがある以上、買い手もそれを上回る濃厚なゲームを期待し、作り手はその期待に応えて戦国マニア納得の「真の戦国SLG」を目指そうとする。その相乗効果の結果が、このゲームデザインに結実した…と言えそうだ。だからハッキリ言って歴史SLG初心者はこのゲームにはとてもついていけないと思う。


◆リアルに、リアルに、リアルタイムに!

 このゲームの特徴を一言で言うなら「リアル」ということに尽きるだろう。デザイナーも書いているが、この時期の「信長」など各種の戦国SLGは決して史実的に「リアル」とは言いがたい(あくまでこのゲーム開発時期の話である)。「それを言っちゃあおしめえよ」なんだけど、例えば戦国武将たちはその能力を全て数値化し表示して生きていたわけではない(笑)。敵国の情報や敵軍の規模や移動だってスパイ衛星があるわけじゃないからかなり限られたものでしかない。敵国はおろか自国内の各種情報だって全て正確に数値化できるようなものではなかったはずだ。
 さらに言えば、戦国時代など日本中世の武士社会は多重構造になっていて、大名の家臣たちというのは基本的には自らの所領や館を持つ独立領主でもあり、複雑かつわりとドライな主従関係を結んでいた。それまでの戦国大名ゲームは基本的にプレイヤーが戦国大名の一人を演じて家臣たちを手足のように使ってまさに一体となって天下統一を目指すものだったが(忠誠心数値などが設定され時に叛逆が起こったりもするにせよ)、実際には家臣たちもそれぞれ独立した存在であり政治においても戦場においてもそれぞれがそれぞれの思惑で動いていたものなのだ。
 このゲームのデザイナーは相当な戦国マニアなのだろう、と先ほども書いたが、とにかくこのゲームでは「ホンモノの戦国をシミュレートする」ということにムチャクチャに力点が置かれている。だからこれらの「現実はゲームとは違うんだよね」という要素を逐一リアルにゲーム上に再現しようと試みている。

 まず情報のシンプルさがある。コーエーゲームでおなじみのあの大量の数値データがほとんど存在しない(正確には隠し数値にされている)。武将データも「どの能力が自分より高いか」を示すだけという非常に漠然としたものだし、自勢力・他勢力の領地の評価や内政状態、鉄砲の数などにいたるまで「良いか悪いか」程度しか分からないようになっている。デザイナー自身も言っているが、コーエー作品に親しんできたプレイヤーには非常に不安を感じさせるデータ表示なのである。
 おまけに家臣たちがしばしば内外のさまざまな情報を進言してくる。これが100%正しいとは限らないのだ。敵が意図的にウソの情報を流してくることもあり(家臣がそれを見破ってくれることもあるが)、また家臣自身も偽りの進言をして同僚の蹴落としを図ろうとしていたりする。プレイヤーはこうした情報がウソかマコトか、自分で判断して認めたり否定したり、あるいは自分が仕える主君に報告したりすることになる。このあたり、確かに実にリアルである。
 確かにリアルなのだがゲームとしてはかなりとっつきにくいものになっていることも否めない。有能な家臣を持てば正確な情報が入るようにはなるらしいのだが、まさに世の中疑心暗鬼。さらにこのゲームはリアルタイムに進行する(といってももちろん数秒で三日が過ぎるというレベルの速さで、速度調整も出来る)システムのため、かなりせわしなく各種情報が報告されるので進行が阻害され鬱陶しいところもある。

 そしてこのゲームは戦国時代の複雑な封建的主従関係も可能な限り再現しようと試みている。ゲームの舞台となるマップはエリアごとには分かれておらず、あちこちに城があり、それぞれに城主がいて、基本的にはその一つ一つが独立勢力となっている。だがその多くはたいていどこかの大勢力の城主を主君と仰いでその家臣となっており、主君の命令があれば軍勢を率いて馳せ参じる、という形式になっている。大名の率いる軍勢は言ってみれば「連合軍」であるわけで、集まり方もバラバラだし戦場において特に敗戦時、各自勝手に帰ってしまったりする。軍団をいくつか編成した場合プレイヤー自身が直接操作できるのはプレイヤーのキャラ自身が率いる軍団のみで、家臣に任せた軍団は完全に彼らに委任する形になる。また時々「加増」つまり城や官位(朝廷から官位がもらえるシステムがあり、結構重要な要素となっている)を恩賞として与えてやらないと言うことを聞かなくなることもある。まさに「御恩をくれなきゃ奉公はしない」という歴史教科書でおなじみの世界なのである。
 こうした独立性の強い主従関係を理解しないとこのゲームはほとんどプレイ不能といってもいいぐらいで、この当時の「信長の野望」など光栄ゲームに慣れた人にはかなり戸惑うものであったと思う。戦国ものや三国志ものゲームの魅力の一つに個性あるキャラクターを家臣に抱えて使いこなして天下統一を目指す、という要素があるが、このゲームでは家臣たちのキャラクター的魅力はほとんど感じられないと思う。その代わり油断のならない戦国時代の再現、という点ではかなり成功しているのも確か。
 

 先述のようにこのゲームは「リアルタイム進行」を大きな特徴としている。つまり一般のゲームにある「プレイヤーのコマンド待ち状態」が事実上存在しないのだ。状況は刻一刻と変化してゆき、様々な情報がひっきりなしに報告され、プレイヤーはそれをもとに即座に判断を下してコマンドを入力し、進行する事態に介入するというシステムになっている。これは戦略モードだけでなく、戦場においても同様でまさに一瞬の躊躇が命取りになることすらある。
 これ、相当にリアルであることは認めざるを得ないし、デザイナーの意図が「思考・判断型ゲーム」であったことからすれば当然の採用でありこのゲーム最大のウリだとは思うのだけど、恐らくプレイし始めのプレイヤーを一番戸惑わせるものには違いない。分厚いマニュアル読んでいても分からないことは多々あり(正直なところマニュアルの説明はあまりうまくない)、それを飲み込もうとしているうちにポンポンと事態が進行し訳が分からなくなってしまう、という人が大半ではなかろうか。もちろんデザイナーも承知はしているようで、何度かプレイしていくうちに面白くなってくるのだ、という趣旨のことは言ってるんだが…。


◆マイナーなんだけど実は手の込んだ良作です

 このゲーム、確かに意欲的な歴史SLG大作だ。大変失礼ながら「アスク講談社」から出たゲームにしては異様に力の入った大作になっていると言わざるを得ない(PCエンジンにおけるアスク講談社といえば「上海」シリーズ。「ネクロスの要塞」もあるな)。事情は知らないがデザイナーズノートによると「ビッグな作品として開発される事情」があったらしい。しかし結果的にはPCエンジンでひょっこり出たマイナー戦国SLGとしてしか世間では認識されておらず、かなり不幸な作品だとは思う。その後の「信長の野望」の展開などを考えるとかなり先駆的な内容を持っているだけに。

 先駆的と思える点は「登場するキャラの全てをプレイ可能」という非常にオープンな遊び方を提供している点だろう。当初「太閤記」のタイトルで開発されていたことが示すように、本作ではプレイヤーは戦国大名だけでなくその家臣の一人を演じ、「下剋上」をしていくことが可能だ。あくまで忠実な家臣としてささやかな出世を望むもよし、裏切りと叛逆でのし上がるのもよし、別に天下を統一することばかりがゲームの目的ではなく、戦国時代をいかに生きるかが遊びのポイントになっているのだ。実際このゲーム、デザイナーも認めているがちょっとやそっとの武将では天下統一は困難なので(この辺も確かに「リアル」の結果なのだ)、シナリオ終了時に通信簿が出て点数でプレイヤーの人生を評価してくれるエンディングとなっている。これがなかなか考えられているところで弱小勢力でも領土を拡大すれば高い評価が得られるし、仮に天下を統一してもその後の不安定要因が多いと低い評価が与えられたりする。

 既成の武将だけでなくオリジナルキャラを作り、オリジナルの城を建てて戦国に舞い降りることも可能だ。そもそもエリアの分捕り合戦ではなく「城」の争奪戦というゲームシステムを導入したのもこの時期のコンシューマーゲームとしては先駆的だったように思う(同時期の光栄の「三国志III」あたりがこれを導入していた)。ただマニュアルのマップが不親切で知らない人には報告で入ってくる事態が起こっている城がどこにあるのかさっぱりわからん、という大問題点があるが。
 戦場モードでもいきなり3Dマップが表示され、物見を出して敵軍の所在をさぐらねばならない、陣形を選択して軍勢を展開させるなど、リアル志向からくる当時としてはかなり斬新なシステムが導入されている。一部の戦国マニアは大喜びのところではあるだろうけど、正直言ってこれは慣れないうちはしんどい。訳が分からないうちに敵軍に本陣へ突入されて敗走、なんてことをかなり繰り返したものだ。
 戦略・戦術面で複雑にしたぶん内政面が簡素化されているのも本作の特徴だ。これなど「信長の野望」など光栄作品を意識してその逆を突いたフシもあるが。内政は農政・国人対策・兵農分離・鉄砲装備・朝廷工作など各種政策に決まっているポイントを振り分ける、という形で行われ特に家臣に命じたりする必要は無い。朝廷工作といえば「官位」を重要な要素として目をつけたのも戦国ゲームとしては先駆的であったように思う。

ゲーム画面 こうした数々の意欲的・斬新なシステムの導入は、得てしてデザイナーのひとりよがりでゲームそのものが破綻したり、プログラムの方が追いつかなくてやたらに動作が緩慢な「重い」ゲームになっちゃったり、操作性が複雑怪奇なものになりがち。このゲームも操作性に関してはその気配が全くないとは言い切れないが、全体としてみれば驚異的なまでに完成度の高いシステムに構築されていると思う。難解であるのは事実だが、分かってくると相当にこなれたデザインになっていることに感心させられる。これだけ盛りだくさんの要素が含まれていながら処理スピードは速いし、マウス操作を前提としたパソコンライクなカーソルコマンド方式も当時のコンシューマーゲームとしてはかなり快適(さすがにパッドだとしんどいが)。各種コマンドでの画面の切り替え・ウィンドウ表示も素早く、この点に関してはストレスはほとんどない。
 全国マップと地域マップの切り替え、また地域マップのスクロールの高速ぶりなどはPCエンジンのSLGの中でも群を抜いたプログラミングではないかと思える。画面右下にある「城」の階層をクリックすると各種コマンドが出せるというさりげなくオシャレな画面構成も嬉しい。この「城」にも現れているがゲーム全体のグラフィックの美しさも特筆ものだと言っておきたい。
 一つシステム関係の難を言えば、セーブデータは一個しか作れず、しかもバックアップRAMの大半を占拠してしまい他のゲームが出来なくなるという点だろうか。これはPCエンジンの他の歴史SLGにも言えることなのだが…もう大容量セーブ可能な「メモリーベース128」「セーブくん」が出ていた時期なので対応してくれてもよかったような気がするんだけど。

 とまぁいろいろと言ってきたけど、手の込んだ良作SLG、しかし既成戦国マニア以外はほとんどお断り(このゲームをやって戦国マニアになる、という逆ケースはあまり無いと思う)、というゲームだとやはり思う。といって売るほうとしてはそんな限定的な売り方は出来ないから、それなりに心者にも分かるようにあれこれと気を使ってはいる。その最たるものが「高円寺博士の歴史講座」の存在だろう。
 「高円寺博士」というのが何者なのかは知らないが、ゲームをやっていると時折チャイムの音がしてこの「歴史講座」のアニメデモが突然始まるのだ。高円寺博士(声は千葉繁?)と助手の桜子クンの漫才みたいな初心者向け戦国歴史講座で、全部で10回収録されている。ギャグはさして面白くも無いが、講座自体は「主従関係」「鉄砲と兵農分離」「朝廷と官位」などこのゲームをやる上で必須の知識をかなり分かりやすく解説してくれるので必見である。

 僕自身はこのゲーム、さしてやりこんだわけではない。大半の人はやりこむ以前に「難しい」と投げ出しちゃうだろうな、と正直言って思うが、やりこめばやりこむほど味の出てくるゲームであるとは思う。歴史SLGがもはや新要素の導入の限界に達し、むしろ簡素化の流れも出てきている昨今、改めて腰をすえてプレイしてみると面白いんじゃないかな、と思う作品である。歴史SLGマニアは一回はアタックしてみてほしい。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.30
3.20
3.14
2.80
3.48
3.88
19.80
第469位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
40
パトリオット佐藤
50
ウォルフ中村
80
メタラー佐々木
60

★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
野田稔

鈴木ドイツ

イザベラ永野

TACOX



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