A列車で行こうIII  
ジャンル:育成・経営シミュレーション
媒体:SUPER CD-ROM(メモリーベース128/セーブくん・マウス対応)
発売元:アートディンク
発売:1993年6月11日
価格:9800円
商品番号:ADCD3001


◆カリスマソフトハウス・アートディンクがPCエンジンに参入!

外見 アートディンク。あまたの日本のゲーム開発会社の中にあって独特のセンスと高い技術力でひときわ異彩を放つ存在である。設立は1986年で、最初に発売したパソコンゲームがいまなお発展を続けるシリーズ「A列車で行こう」の第一作だった。これはアメリカを舞台にした(そもそもタイトルの由来がジャズのスタンダードナンバーの曲名)大陸横断鉄道ゲームで、一年間という限られた時間の中で線路を建設し列車を運行していくというものだった。この時点ですでに会社経営や町の発展といったシリーズの重要要素が顔を出していた。このシリーズ第一作はファミコンにも移植されている。
 このシリーズが大きく飛躍したのはなんといっても三作目。線路を敷き列車を走らせるだけでなく土地の売り買いや施設の建設も可能な自由度の高い鉄道会社経営シミュレーションの性格がグッと強まり、画面もクォータービューとなって小さな町にニョキニョキ高層ビルが建設されて都市が発展して行く様子を鑑賞できる「都市開発ゲーム」の要素が大きくなったのだ。この「A.III.」は日本のみならず広く海外でも高い評価を受け、「アートディンク」のブランドイメージを決定的にしたと言っていい。
 「A列車」シリーズはその後、地下・高架の立体要素を導入した「4」、ポリゴンによる車窓描写を可能にした「5」と進化してゆき、「6」ではプラットホームをそれまでのパソコンからPS2に移してよりリアルに列車を走らせ自分の作った町を鑑賞できるようになった。その後「2001」がPS2で発売されたが、「7」は「4」の拡張版という形でパソコン市場に舞い戻るなど複雑な変遷をたどっている。
 もちろんアートディンクの代表作は「A列車」ばかりではない。大航海時代の探検と貿易をテーマにしたSLG「THE ATLAS」、高校野球の監督SLG「栄冠は君に」、自由度の高いRPG「ルナティックドーン」など、それぞれ渋く深く、長く楽しめる「大人の知性派ゲーム」のラインナップがそろい、いずれもパソコンのみならず家庭用ゲーム機でもシリーズが展開されている。

 さてアートディンクはもともとパソコンをホームグラウンドにしていたソフトハウスだが、自ら家庭用ゲーム機市場に参入した記念すべき第一弾がこのPCエンジン版「A列車で行こうIII」(’93)なのだ。発売元がNEC系列だったせいか初期からパソコンゲームの移植が多かったPCエンジンだが、この1993年という時点は「DUO」などSuperCD-ROM2マシンの普及が進み、より大容量で複雑なパソコンゲームの移植も受け入れられる体勢が整っていた。NEC-HE自身もライバル機種との差別化をはかるべくパソコン系ソフトハウスに誘いをかけたのだろう、専用マウスの発売、それまで不可能だった大容量データセーブを可能にする「メモリベース128」の発売と周辺機器環境も整えられ、パソコンゲーム界の雄である光栄が参入して「信長の野望・武将風雲録」「三国志III」といった看板シリーズをPCエンジンに投下したのもこの年だ。日本ファルコムも同時期に家庭用初のオリジナルタイトル「風の伝説ザナドゥ」(’94)を引っさげて参入しているし、アートディンクの動きもこれらと連動したものと見ることも出来るだろう。
 PCエンジン版「A列車で行こうIII」は(以下の文でも書くが)家庭用ゲーム機、それも8ビットマシンで動いているというのが信じられないほどの完成度を誇り、やはり高い評価を受けた。アートディンクは続けて「THE ATLAS」(’94)「栄冠は君に・高校野球全国大会」(’94)と看板タイトルを次々とPCエンジンSCDに移植し、いずれも素晴らしい出来栄えでその技術力の高さを見せ付けてくれた。さらに1994年年末発売に向けてやはり看板タイトルである「ルナティックドーン」の移植も発表されていたが、技術的理由(および恐らくはNEC-HEの働きかけ)で次世代機「PC-FX」への移植に変更されている。この「ルナティックドーンFX」(’95)もこれまた素晴らしい出来なのだが(一部にシリーズ最高傑作との声すらある)、これがPCエンジンだったらどんな風になったのだろうと「イフ」に思いを馳せることもある。
 PSに主舞台を移しつつもFXで一作とはいえビッグタイトルを出したし、NECがパソコン向け3D処理チップとして開発した「PowerVR」(NEC-HEはこれを搭載した拡張ボード「PC3Dエンジン」を出した)向けに「A列車で行こう5」を出すなど結構NEC系に付き合いがよかったのは確かだ。


◆線路を敷け、電車を走らせろ!

 前置きが長くなった。ようやくゲームそのものについての話に入る。
 まず「A.III.」をプレイするには前述の「メモリーベース128」あるいは「セーブくん」といった大容量セーブ機器が必要となる。PCエンジン本体とパッドの間に差して使用する仕掛けで、接続していないと起動時にきっちり注意される。これがなくてもプレイ自体は出来るが、セーブは不可能。長時間プレイを前提にしているゲームだからセーブなしで遊ぶ人はまぁいないだろう。アートディンク、光栄作品は全て同様のセーブシステムになっているのでSLG大作ファンは結局入手せざるを得ないはず。「A.III.」は「128」「セーブくん」の初期状態で4つまでデータを保存できるようになっている(他のゲームのデータを入れた場合は当然減らされる)
 PCエンジン版「A.III.」では18種類のシナリオが用意されている。「ニュータウン構想」や「リゾート開発」「都市再開発」といったリアルなものから、実在する古今の町をモデルにしたもの、「スゴロク」や「栄冠は君に」(マップが野球場の形をしている!)といったお遊び系まで幅広く取り揃えられている。難易度もかなり異なるので特に初心者は慎重に選んだ方がいいだろう。なお、ゲーム起動時に最初に出るマップもそのまま遊べるが、すでに線路や列車が運行している状態なのであまりお奨めはできない。
 どのシナリオでもやることは一緒。鉄道会社の社長となったプレイヤーは出所不明の豊富な資金(笑)を元手に線路を敷き、駅を作り、電車を走らせ、客を乗せて利益を上げる会社経営にとりかかる。もっとも単なる鉄道会社経営にとどまらない、都市そのものの開発がテーマのゲームなのでそのへんわきまえてとりかからなければならない。
 ゲーム画面の周囲には各種アイコンが配置されており、これをカーソルでクリックしてコマンドを出していく、いかにもパソコンライクなインターフェースだ。ゲームパッドでも操作可能だが、やはりPCエンジンマウスを用意してパソコンそのまんまの操作性を味わいたい。画面上方の「A.III.」と描かれた部分をクリックすると、システム設定ウインドウが開き、セーブとロード、シナリオ選択、BGM変更やゲーム速度調整などが出来る。処理速度はさすがにPCエンジンには少々荷が重いので(特に列車が多く運行する描画はきつい)基本的に最大値に設定せざるを得ないだろう。BGMは全部で6種類(音楽無しにもできる)用意され、いずれも雰囲気の異なる名曲ぞろいだ。眺めているだけことが多いゲームになので、気分転換にしょっちゅう曲を変える人も多いだろう。
 
初期状態 さてまず線路だ。全てはここから始まる。線路アイコンを選んで「敷設」アイコンを選び、マップ内の任意の位置にカーソルを置いてそこからススス…ッと線路を引いていく。90度には曲がれない、他の線路はまたげない、山や湖、大きな建築物には引けない、といった条件以外は自由自在に線路を敷くことが出来る。カーブしたり他のレールと接続したりするとなかなかこちらの思うように引けないクセもあるが、細かく分けて敷設していけば解決できる。
 線路を敷いたら次は駅だ。駅には小型駅と駅ビルつきのものの二種類があるが、駅ビルは資材(後述)を消費するのでたいてい最初は小型駅から始めることになる。当然ながら駅はレールの脇にしか設置できず、プレイヤー視点で斜め方向にしか設置できない。また駅の向きは四方向が選べるようになっていて、特に駅の出口をどちらに向けるかはその後の町の発展に関わるのでよく考えて選ばねばならない。一つの駅にはホームは一つしか描かれていないが、そのホームに平行に接するレール2本までがその駅の範囲となるので、「2番線ホーム」までは作ることが可能になっている。
 そしてそこに走らせる車両の購入だ。車両は旅客用14種類、貨物用の4種類が用意されていて、それぞれJR・私鉄の実在の車両をモデルにしている(唯一の例外は高速列車「AR-III」)。各車両はスピード、編成、定員乗客数(貨物なら搭載資材数)、通過の可・不可、などなどの個性が決まっていて、価格もかなり異なる。最初は一番安いディーゼル車あたりからコツコツ始めるべきだろう。
 購入したらさっそく列車を線路に乗せたい…ところだが、念のため先にダイヤを設定しておくべき(列車配置後でも可能だがトラブルが起こってからでは困るので)。このゲームの「ダイヤ」は列車ごとに設定する仕組みになっていて、各駅での停車・通過と発車時刻、そして各ポイントの分岐方向について各列車ごとに決定していく。この「A.III.」のダイヤ設定はかなりシンプルで発車時刻も2時間ごとにしか設定できないし線路が続く限り途中駅でのUターンは不可、など実際の列車運行からすれば不自由を感じるところも多いが、そこがまたパズルを解くような面白さになっているのも事実。列車も適当に走らせていると追突や衝突をしてそのまんま止まっていたりするから要注意なのだ(笑)。速度の違う多くの列車を巧みに配置し、神ワザ的ダイヤで動かした時の感動はもうたとえようもないはず。まぁ最初の段階ではとりあえず乗客が多くなる朝8時と夜18時に各駅を発車するように設定しておくのが無難だろう。
 とまぁ、実際にゲームが動き出すまでにこれだけのことをしなければならない。ここが面倒といえば面倒なんだけど、いったんゲームを動かすとあとは眺めて楽しむだけだ。画面右にある「サテライト」アイコンをクリックすると衛星写真のような真上からの縮小図が表示され、任意の列車にカーソルを合わせておくとその列車の位置や乗客数が表示されるようになっている。特に乗客数は経営者としては一喜一憂しながら眺めるものになるはず。

 シナリオにもよるのだが、たいてい最初のうちは列車はガラガラ(笑)。走らせてるだけで大赤字という状態になってるはず。こればっかりは仕方のないことで、しばし列車を運行し続けるほかはない。列車が定期的に運行しているとだんだんに駅の周囲に住宅が建ち、徐々に乗客が増えていく。だから最初は短い区間のレールを敷き、二両ぐらいの列車を頻繁に運行するのがコツのようだ。


◆町をドンドン育てよう!

 しかしただ列車を走らせているだけでは町の発展はたかが知れている。人々が列車に乗って行く気になる「目的物」を駅の近くに作らなければいつまで経っても乗客は増えないのだ。このへんも実にリアルに作ってあるなぁと思うところ。
 まず絶対最初に作らなければならない施設の代表が「工場」だ。工場は町の人々の勤め先になるから乗客増効果があるのはもちろん、このゲームの血液ともいうべき「資材」を生産する役割がある。工場で生産された「資材」は貨物列車によって運び出され、マップの空き地に置かれてゆき、各種建築物の材料となるのだ。もちろん工場を作るのにもある程度の資材が必要で、それは最初からマップ内に用意されている。
 また多くのシナリオではマップ外からやってくる他社の貨物列車がドンドン運び込んでも来る。だが、このマップ外からの資材というのがなかなかクセモノで…このゲームではマップ外から資材が入ってくるとプレイヤーの会社の出費として計算されてしまうのだ(たぶん資材をよそから「買った」ことになっているのだろう)。逆にこちらのマップ内の資材を貨物列車がマップ外へ持ち去ると収入になるようにもなっていて、扱いが少々難しい。序盤では出費が痛手になりかねないので貨物列車を追い返すべくレールを外しちゃうという強行策もある。

 工場が生産する資材は工場に置いてあるだけでは利用されない。貨物列車で運び出してやらねばならないので、貨物列車の役割もかなり重要だ。旅客列車と違い貨物は時間を選ばないし、資材を運び終えたら(序盤ではあまり資材が消費されないので山と積まれやすい)余計な出費を避けるために一時運行を停止するのもテクニックの一つ。貨物列車は旅客列車と同じレール上を走らせてもいいが、なにかと不自由もあるのでマニュアルでも貨物専用線を敷設することを奨めている。この「資材」は「A列車」シリーズを通した重要要素で、シリーズ各作ごとにそれぞれに悩まされるが、筆者はとくにこの「III」で一番頭を使わされた気がする。
 工場に話を戻すと、自社で建設した工場は自社の「子会社」となる。景気よく資材がバンバン運び出されていくと工場自体も利益を上げるようになり、自社も儲かるわけなのだが、資材が使われず「在庫」状態になってるとただただお荷物。町を育てるために建設したのだと割り切って、立てたらすぐに売却するのが基本だろう。別に売却しても工場自体が無くなることはないようだし。

町が発展、ビルが林立 工場以外にも建設したい施設は多い。簡単なところでビル。駅周辺にオフィスビルを建てておけばテナント料が入り、そこに勤める人も増える。ビルは高層化することも可能で、ニョキニョキ伸びるビルディングはこのゲームの象徴と言ってもいい。町が大都会に発展していくと、自分が持っていないビルが建設され、それに工事用のクレーンがついてグングン高層化していく。それを眺めるワクワク感といったら…まさにこれがこのゲーム最大の醍醐味だろう。
 なお、ビルが林立するためには太い道路があることが前提となっており、その道路は駅ビルつきの駅からしか延びないという設定もあるので、人口が増え、資金に余裕が出てきたらそれまでの田舎駅を撤去しビル付きの駅に変更する必要がある。その際には「違う駅」という扱いになるのでダイヤを組みなおさなければならないのが面倒だが(これは「A4」以降は改善された点)。右図にも見えるように道路がクロスするように工夫してやるとその交差点付近に高層ビルができやすい。

 勤め先ばかりではない。マンションを建設してベッドタウン化を狙うこともできるし、ホテルや遊園地、野球場、ゴルフ場、スキー場といったレジャー施設を建設してそれ自体の売り上げのみならず乗客を誘導することも可能になる(これがまたご丁寧に、こうした施設の近くへ向かう列車は土日に混むように出来てるのだ!)。こうした施設を作って乗客増をはかったケースは特に私鉄に多く、それをシミュレートできるところも実にリアルだ。
 ただし、こうした大型施設になると大量に資材が必要だし、資金はそれこそ膨大に必要となる。特に序盤の資金繰りが苦しい状況ではまず建設は不可能。町がそこそこ発展し、資金に余裕が出てからの「遊び」と考えた方がいいだろう。


◆会社経営ゲームとしてもかなり深い!

 街づくり、都市が発展していく様子を眺めているのは楽しいが、一応これは経営SLG。資金がなくなったら倒産でゲームオーバーである。最初にかなりの資金が与えられてはいるが、シナリオによっては人口増・都市発展が遅いものもあり、かなり厳しい。ちょっとした施設を作るとたちまち資金が底をつきかねない。
 このゲームには「税金」の要素もキチンと入っている。経営実績がどうであれ固定資産税・事業税は払わなければならず、3月決算時に決定された税金は6月頭に一気にサッ引かれてしまう。利益を上げるとそこからも税金をとられるので3月決算時に一気に金を使ってわざと赤字にして税金のがれをするというテクニックもあり、実際マニュアルでもそれは紹介している。これも実在の某鉄道会社グループがさんざんやってて有名だったんだが…。とにかく、3月から6月は税金対策で頭が痛くなるところだ。鉄道だけで利益を上げるには都市がかなり発展していなければならず、序盤では税金をちゃんと払うことすら大変な情勢になりがちだ。

 そこで、資金を貸してくれる「銀行」が存在している。もちろんただで貸してくれるわけはなく、利息が設定されている。3年を上限としてかなり大金を貸してくれるのでそれなりに重宝する。もちろん借金地獄に陥る可能性も高いわけだが…(汗)。
 借りるんじゃなくて財テク(死語?)で資産を増やそう、というわけでこのゲームには「株取引」の要素までが加わっている。証券会社のアイコンを押すと、どっかで名前を聞いたような企業(笑)の株銘柄がズラリと用意されており、折れ線グラフで株価の動向が表示されている。価格が上がりそうな銘柄を選んで大量購入し、ほどほどに上がったところで一気に売れば、資産を増やせるわけだ。だがもちろん株はギャンブルであって、大損をこく場合もある。この株取引部分はこれだけで単独の「株式売買ゲーム」にして売ってもよかったんじゃないか?と思える出来で(笑)、人によっては鉄道会社経営そっちのけで株取引ゲームに熱中してしまうかも?株だけではない、マップ内の不動産の売り買いも出来るようになっているから「土地ころがし」「マンションころがし」だって実現可能(笑)。思えばバブル期のゲームなんだよなぁ、これって。
 ところでこの銀行と証券会社、きっちりとゲーム内時間の午前9時から午後5時まで「営業時間」が決められており、それ以外の時間では門前払いを食う。妙に細かいところでリアルというか…(笑)。

 このゲーム、もともとゲーム内時間でもウン十年を想定した時間がかかるSLGなのだが、実時間でもかなり時間を食うゲームとなっている。しかも大半はただ眺めているしかない「鑑賞型ゲーム」であるため、ともすれば退屈。さらにPCエンジンは処理速度が速いと言っても8ビットマシンである。「A.III.」はクォータービュー描画のためどうしても処理が重く、電車が何本も一画面内に走り出した日には(大変楽しい眺めでもあるのだが)進行速度はかなり遅くなる。元のパソコン版の処理速度を実際に見たことは無いので比較のしようがないのだが、やっぱりPCエンジンには少々荷が重い処理なのではなかろうか。いや、正直なところPCエンジンというマシンでこんなゲームがここまで動かせるのか!と驚いてしまう技術力なんですけどね。そういや「A.III.」はその後スーパーファミコンにも移植されていたはずだが、あちらでは処理速度はどうだったんだろう。
 話をPCエンジン版に戻すと、ゲーム内時間を早く進める手がないわけではない。画面下にある「REPORT1」のアイコンをクリックすると鉄道部門の売上と経費がリアルタイムで表示される画面に切り替わる。町の様子や列車の運行などを見ることは出来ず、ただ数字が時々刻々と変化していく様子を眺めているしかないのだが、この画面にしているとかなり早くゲーム内時間が進行していく。計算した数字を表示していくだけだから実際の町の発展具合や列車運行本数などは一切関係ない処理速度で、1年間が30分足らずのうちに経過していく。細かく手を入れる必要がなければこのモードにしてしまうのが手っ取り早い。数字だけが増えたり減ったりしているのをただ眺めるのも、株取引にも似て結構一喜一憂して中毒的な楽しさがあったりするぞ(笑)。


◆ゲーム世界の「鉄道模型」

 聞くところによると、もともとこの「A列車」シリーズは大人のホビーである「鉄道模型」の世界をパソコン上で再現してみようとしたものであるという。特にこの「III」ではクォータービューにしたこと、自由度をいっそう高くしたことなどもあってかなり「鉄道模型」の雰囲気に近づいていると思う。さすがにトンネルや鉄橋、地下鉄の実現は次作「4」を待たねばならなかったし、列車の車窓から町を眺めるといった鉄道模型ファンの「夢」は「5」以降に実現していくことになったが、この「3」の一見単純な列車運行描画も想像力をかきたてて実に楽しいものがあった。その後のシリーズがたどったリアル志向まではいかない、「箱庭」的な味わいも捨てがたい。

 筆者もこのゲームに大ハマリしてしまったクチだが、その原因の一つにやはり「鉄道模型ファン」であったことが大きいように思う。自分で自由自在に線路を敷き、好みの列車をそこに乗せてダイヤを組んで走らせる。ガタンゴトンとレールの上を走る音、駅を発車する際に発する警笛の音など、もうそれだけでワクワクしちゃう(笑)。実際の鉄道模型は日本の家屋事情もあって限界が多いのだが、このゲームでは経営さえ上手くいっていれば広大なマップに思う存分に線路を敷き、列車を走らせられるんだから、その点では鉄道模型より欲望を追及できるゲームとも言える。しかも建物が自然に建って乗客も乗ってくるんだから、楽しいことこの上ない。

 このゲームをやってると、作り手本人が非常に楽しんでこのゲームを作っている、というのを強く感じる。細かいところに実に気の利いたお遊びがあるところにそのセンスが光っており、クリスマスや元旦にBGMが変わるなんてのもその一例だ。「4」のパソコン版をプレイしたことがあるが、そこではクリスマスにサンタクロースが上空を飛んでいくというお遊びがあった(笑)。
 ゲーム起動時のオープニングも楽しげなBGMが流れるなか「大好きな街へ行こう」と表示される、まさにワクワク感たっぷりのもの。「ゲーム」というとドンパチがあったり破壊があったり勝ち負けがあったりとシビアで戦闘的なイメージがあることは否めないが、この「A列車」にはそうしたものとは無縁な(まぁ倒産とかはあるわけですけど)そのゲーム世界にただ浸る楽しさ、というのを提示している点も大きいと思う。
 
 「A.III.」の各シナリオは資金が五百億円に達すると一応のエンディングになり、スタッフロールが流れるようになっている。だがもちろんそこでゲームは終わりにはならず、プレイヤーの気の赴くまま、いつまでもゲームを続けることが可能だ。シナリオも数多く用意されており、まさに「100年遊べるゲーム」、こんなゲームがコンシューマー機として初めて降臨したのもPCエンジン世界の一側面であることにも感謝したい。

(追記)本作は2007年11月に任天堂「Wii」向け「バーチャルコンソール」の一作として配信されている。

◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.44
3.61
3.54
3.69
3.99
4.10
22.37
第183位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★★

★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
70
パトリオット佐藤
65
ウォルフ中村
80
メタラー佐々木
70

★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

田原誠山

渡辺美紀

ジョルジュ中治



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