英雄三国志
ジャンル:歴史シミュレーション
媒体:SUPER CD-ROM
発売元:アイレム
発売:1993年3月26日
価格:7700円
商品番号:ICCD 3003


外見◆SDキャラによる異色の三国志SLG

 今さら説明するまでもなく「三国志」といえば英雄豪傑策士美女が入り乱れる人気の中国歴史もの。もともとは正史があり、それをふくらました講談・伝説があり、それらをまとめた小説「三国演義」があり、さらに現代作家によって書かれた多くの「三国志」が存在し、漫画や人形劇や映画やドラマなどなど…「三国志」ものは一つの一大産業と言っていい。そうした人気の素材は早くからゲームになっており、なんといっても光栄(現コーエー)の「三国志」がその定番タイトルとして長期にわたりゲーム業界に君臨している。最近では「三国無双」なんてアクションゲームにまでなっているわけだが…

 PCエンジン世界においても「三国志」ゲームはいくつか出ている。光栄自身が当時の最新作「三国志III」(’93)を投入しているし、ナグザットからも「三国志 英雄天下に臨む」(’91)「横山光輝 真・三国志」(’92)といずれも横山光輝のコミック版を「原作」とする2タイトルが発売されている。アーケードからの移植である「天地を喰らう」(’94)はアクションゲームではあるけど一応三国志ゲームの一種と見なしていいだろう。
あとタイトルだけなら「戦国関東三国志」(’91)というゲームもあったが、これはあくまで日本戦国SLGである(笑)。

 さてPCエンジン世界における「三国志」ゲーム中の異色作がこのアイレム発売の「英雄三国志」だ。実にストレートなタイトルなのだが、そこはアイレム、やることが普通じゃない(笑)。「アイレム」「三国志」「SLG」という不思議な組み合わせは、実に変わった三国志ゲームを出現させることとなった。パッケージ表を見れば一目瞭然、光栄三国志のムサ苦しいキャラ(笑)とはまったく違う、可愛らしいSDキャラばかりが登場する「三国志」だったのである。ところでこのパッケージの絵だが、孔明・関羽・張飛がいるのに劉備がいないというのがちょっと不思議(笑)。
 登場人物数はちゃんと確認してはいないが、プレイした限りでは光栄作品なみとはいかないまでも有名どころはおおむね出ているらしい。それらが全て可愛いSDキャラで登場してくるので、「三国志」ファンとしては別の意味で楽しめるし(もしくは拒絶反応…?)、なんとなく「三国志マニアの同人誌」的な世界とも思える(笑)。ま、おそらくこのゲームに手を出すのはある程度「三国志」世界にハマっている人であることを想定しているのだろう。

 可愛いのはキャラデザインばかりではない。戦闘場面での「火計」に対する防御では消火器を持った兵士が登場し、「水計」では攻撃側が消防用ホースで水を放出、防御側はアクアラングを着て備えているといった具合で、全体的にパロディ色が濃厚。戦闘中の兵士たちのジェスチャーもかなりコミカルタッチで描かれていて、こういう言い方は批判も出るかもしれないが女性ゲーマーにも喜ばれそうな気がするデザイン・演出が多い。逆に硬派な歴史SLGファンからは拒絶反応が出そうな気もする。


◆シンプル・イズ・ベストなゲームデザイン

 キャラをSD化しただけでなく、ゲームシステムのほうも「シンプル化」の方針が徹底的に貫かれている。なまじ光栄の「三国志」など典型的な歴史SLGをプレイした経験のある人はこのゲームのコマンドの少なさにかえって戸惑ってしまうのではないかと思う。

 このゲーム、通常時で出せるコマンドといえば「都市・武将の情報を見る」「人事変更」「移動する」ぐらいしかないのだ。なお他国に移動するとそれは自動的に戦争になるわけだが、「徴兵」コマンドも存在しなければ「訓練」もない。そもそも兵士は「自国」全体で一軍団を持っているという仕組みになっており、よくある都市やエリアごとに兵士が駐留しているという概念がこのゲームには存在しない。軍団も「陸兵」「水兵」の二種類しか存在せず、いずれも「カード」の枚数で表現される形になっており、非常にシンプル。徴兵はどうするのかというと自国領の統治度に応じて自動的に兵士カードを引かせてもらえるという形で処理されており、いちいちコマンドを出さずともいいことになっている。
 また戦争においてはプレイヤーの君主自身が出陣している場合はいろいろ命令が出せるのだが、家臣だけで出陣させた場合は完全な「お任せ自動戦闘」となっており、プレイヤーはまったく手が出せず、結果が報告されるのを待つしかない。これは他国から攻め込まれた時も同様で、ゲームを遊ぶ立場からするとヤキモキしてしまうところだが、考えてみれば「リアル」だとも思える。

 内政コマンドもまったく存在しないと言っていい。家臣の誰かを「文官」に任命しておけば自動的に統治度が上がってゆき、それが兵士の数にも反映するというしくみになっている(もちろん文官の能力にも左右されるが)。税収だの開発だのといったコマンドも数値も一切なく、すがすがしいまでにシンプルに処理されている。光栄のゲームみたいにコツコツと国力の育成に励みたいタイプにはこうしたシンプルさに不満を覚える向きもあろうが、「面倒なことは一切排除」というコンセプトを歓迎するゲーマーも少なくないのではなかろうか。

戦闘画面 内政に気を回さないで済むぶん、プレイヤーは戦争と領土拡大に専念できる。この戦争モードがまた実にシンプル。よくある戦場マップなんて一切用意されておらず、戦いの状況がSDキャラたちの演技で表現されるだけ(左図)。コマンドは大きく「攻撃」「防御」に分かれ、「攻撃」では「突撃」「奇襲」「火計」「水計」の4種類、「防御」では「守備」「伏兵」「火計防御」「水計防御」とそれぞれの攻撃に対応する4種類しか存在しない。
 このゲームの戦闘、実は早い話が「じゃんけん」に近い。相手が何を出してくるか腹を探りつつこちらの作戦カードを切る、という仕組みで、読みが当たった外れたで戦闘結果が処理される。ただしどういう作戦をとるべきか、プレイヤー君主本人と軍師・武将達が作戦意見を述べて来て能力の高い武将の場合「読み」が当たっている確率が高いので、必ずしも運任せというわけでもない。もっとも名将・名軍師といえど作戦を誤ることはあるわけで、運任せの要素もたぶんにある。

 「三国志」の華ともいえる「一騎打ち」要素もちゃんと取り込まれており、合戦の最初に一騎打ちが行われて(行わなくてもいいが)結果が士気に影響するという形で処理されている。
 これらのシステムを眺めていると、以前我が家でよく遊んでいたボードゲームの「三国志演義」を思い起こしてしまうのだが、確かに「ボードゲームのTVゲーム版」という観が無きにしも非ず。


◆お手軽だけど「本格派」な三国志ゲーム

 一騎打ちの内容はもちろん参加した武将の戦闘能力がものをいうわけで、各武将の実力はちゃんと押さえておいたほうがいい。これは軍師・文官にも言えることで、このあたりは原作や他のゲームで「三国志」に詳しい人ほど強みがある。
 このゲーム、各武将のデータも実にシンプルに処理されており、「統率力」「武官能力」「文官能力」「軍師能力」の4つしかデータがない上に、それはゲーム画面内では数字ではなく「赤」「黄」「青」「緑」とまるで信号機(笑)のように色分けされた円で表現されており、その「満ち欠け」で体感的にそれぞれの武将の「向き不向き」(能力そのものではない)がわかるというデザインになっている。分かりやすさを狙ったんだろうけど、正直なところ「これが初めてプレイする三国志ゲーム」みたいな初心者はかえって戸惑うのではないか…という気もした。数字で表現されないぶん、むしろ原作をよく知る人の方がプレイしやすいと書いたのはそういうわけだ。

 マニュアルにも書いてあるが、このゲームのキモは「人材の適切な配置」だ。特に君主がいる都市以外は全て自動的にお任せモードになってしまうので、人材の適材適所の配置は実に重要。「三国志」の魅力は数多くの個性的な人物達がそれぞれの能力を生かして(あるいは生かされず)乱世を生き抜いていく点にあるが、三国志ゲームの全てがその魅力をきちんと生かしきれているわけでもない。この辺、このゲームはシンプルながら実にバランスよく作ってると感心する。
 なお、序盤では登場キャラも少ないので家臣も必然的に少なく(そもそも1都市につき4人しか配置できない)、たいした人材のいない国ではかなり苦労することになると思う。人材の募集は任意には出来ない仕組みになっており、領土を広げ、国力を充実させると次々と武将達が採用を求めて現れる(連れてこさせてもいいし、「三顧の礼」よろしく自分から出迎えにいってもいい)ので、まずは領土拡大を目指すのが先決、ということになる。

 ところでこのゲームはよくある戦国SLGのような「全国統一」を最終目標にはしていない。お手軽に遊べるように、とゲーム開始時に「命令回数」を選ぶことが出来るようになっていて(20〜70回までと幅がある)、それに応じた「目標点」が設定されている。そしてゲームを進めるうち、領土の数や支配地域の統治レベル、所持金や兵士の数などで得点が加算されてゆき、その得点が「目標点」を命令回数内に超えていればゲームクリア、という形なのだ。
 シナリオは8つあり、まだ董卓が生きていた序盤から最終盤の三国鼎立時代まで、きっちり用意されている。基本的に後の時代のシナリオほど難しく、マニュアルでもシナリオ1から順番にプレイすることを奨めている。あるシナリオをクリアして、そのデータをセーブしておくとそのシナリオにクリアした印がつき、全シナリオの制覇を目指すといった遊びも出来る。
 また史実にのっとったシナリオだけでなく自由に武将を選んで君主や家臣に配置する「もしも…」モードも存在する。こちらはマニュアルでも「武将コレクション」と説明しており、まさに「三国志」ファン向けのお遊びモードだと言える。
 
 シンプル、シンプルと繰り返し書いているが、国盗り合戦の戦略、戦場における一騎打ちや計略、個性的なキャラたちの人材配分の妙など「三国志」ワールドの魅力は細大漏らさずちゃんととりこまれており、長年三国志ファンをやってる僕もかなり楽しませてもらった。見た目に反して意外と「三国志通」向けなゲームなのではないかという気もする。命令回数にもよるが短いプレイ時間で終わるし、腰をすえた歴史SLGはどうも…と思う三国志ファンにはお奨めできる一作だと思う。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.46
3.00
3.31
3.38
3.46
3.69
21.31
第292位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真
75
パトリオット佐藤
80
ウォルフ中村
80
メタラー佐々木
70

★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

田原誠山

渡辺美紀

ジョルジュ中治



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