ガイアの紋章  
ジャンル:戦術シミュレーション
媒体:HuCARD(2M)
発売元:日本コンピュータシステム
発売:1988年9月23日
価格:5500円
商品番号:NSC63001


外見◆パソコンから移植のファンタジー戦術シミュレーション!

 本作「ガイアの紋章」(’88)はいろいろと「初」がつくソフトだ。まずPCエンジン初期ソフト(PCエンジンそのものの登場からまだ一年経ってない)の一つにして初のシミュレーション(戦術シミュレーション)であったこと。そして初のパソコンからの移植ソフトでもあった。さらに記念すべきことは、その後のPCエンジン史をいろんな意味で華麗に彩ることになるソフトハウス、日本コンピュータシステム、ブランド名「メサイヤ」の第一弾ソフトなのである。

 そもそも日本コンピュータシステムは1987年にPC−88向けのオリジナルゲームとして「エルスリード」を発売し、ヒットを飛ばしていた。「エルスリード」は基本的にはすでにパソコンゲームで人気のあった将棋的な戦術SLGだったが、世界観を剣と魔法のRPG的ファンタジーにしていたのが大きな特徴で、神々の争いを背景にした「光軍」と「闇軍」の壮大な戦いという魅力ある背景設定を整えていた。このヒットを受けて同じ舞台設定の「拡大版」「特別版」の色が濃い続編として同じ1987年に発売されたのが原作の「ガイアの紋章」だった。
 「ガイアの紋章」は前作と同じ「エルスリードの戦い」を舞台とし、全部で30あるシナリオを任意に選んで遊べる仕組みになっていた。そして新しい要素としてシナリオをストーリーに沿って順番にクリアしてゆく「面クリア型」の「キャンペーンモード」が用意されていた。とくに、単にクリアするだけでなくクリア条件に応じてポイントをためて自軍を充実させながら先へ進むというシステムは当時としては斬新であり、後年のストーリー性を重視しキャラクターを育てながらゲームを進めていく「シミュレーションRPG」と呼ばれるジャンルの先駆けとなったという評価もある。
 実際、この「エルスリード」「ガイアの紋章」「ガイフレーム」の「エルスリード三部作」を作ったスタッフは、その世界観を引き継ぎつつ「傭兵システム」を整備、さらにストーリーとキャラクターの魅力を存分にぶちこんだ「ラングリッサー」シリーズを世に送り出し、シミュレーションRPGの代表作のひとつと世に認知させることになる。その意味でも「ガイアの紋章」がゲーム史に残した足跡は大きいものがあると言えるのだ。

 日本コンピュータシステム=メサイヤがPCエンジン参入第1弾ソフトとして「ガイアの紋章」を移植したのは原作が発売されたすぐ翌年のこと(ただしパッケージには「メサイヤ」ロゴはなく、「日本コンピュータシステム」としか書かれていない)。PCエンジン移植元の一角を占めるパソコンからの移植の第一号ともなったのだが、そこは画面構成からして異なるパソコンとTVゲーム、原作を生かしつつもシナリオ画面もアレンジされ、難易度もそこそこに下げた移植となっている。それでもまだPCエンジン初期のソフト本数が少ない状況下では貴重な、手ごわい硬派ソフトであったはずだ。

 
◆光と闇のヘックス戦!

 剣と魔法の世界「ガイア大陸」。太古の昔から続く光と闇の神々の戦いがこの大陸にも影を落とした。エルスリード王国の国王ジークハルトが光の力を、隣国ヴェルセリア王国の国王ボーゼルが闇の力を得た。ボーゼルは闇の軍団を率いてエルスリード王国へ侵攻、「エルスリードの戦い」が開始された――というのが、このゲームのプレストーリー。「ラングリッサー」のみをプレイした人なら、「ボーゼルって、もうこのころから出てたのか!」と驚かされることだろう。「ラングリッサー」シリーズの闇のボスキャラ・ボーゼルは「エルスリード」ですでに敵ボスキャラであり、同じ時代をアレンジして描いた「ラングリッサーIII」(セガサターン、PS2)でそのボーゼルとラングリッサーの「誕生秘話」も語られている。

プレイ画面 とまぁ、なかなか壮大なストーリーが背景にあるのだが、ゲーム自体は将棋的に敵味方交互にチマチマと駒を動かす地味な戦術SLGになっている。その後のシミュレーションRPGと比べるとさすがに前時代的というかシンプルな画面構成で、マップ全体が正方形のヘックスで仕切られ、ヘックスごとに草原・山地・森林・城壁といった地形が積み木細工みたいに描かれている。このころのSLGはパソコンでもファミコンでもだいたいこんなもので、そこで繰り広げられる剣と魔法が飛び交う壮絶な戦いのイメージはプレイヤーの想像力で補うほかはなかったのだ。

 パソコン版はプレイしたことがないのであくまで推測なのだが、PCエンジン版では各ユニットが移動したり攻撃したりする際にちょっとしたアニメ処理と効果音がほどこしてある。まぁ「攻撃アニメ」といってもちょっとピクピクと動くだけなんだけど。はっきり言ってその処理速度はすこぶる遅く、イライラすること間違いなしなので、「ファースト」モードを選択してこのアニメ処理を削除してサクサク進ませることになるはず。
 サウンド面でも家庭用、それも当時としては最新のPCエンジンというハードを意識したのだろうか、初期HuCARDのものとしてはBGMはなかなかカッコイイ(実は「超兄貴」の葉山宏治氏が担当している)。また効果音もステレオサウンドになっており、攻撃やユニット消滅時の音声がマップの左右でちゃんと左右別々に聞こえるようになっている。この時期のPCエンジンはAV出力はデフォルトではなくオプションの「AVブースター」を買わねばならず、当時出ていた攻略本でもAVブースターでサウンドを聞いてほしい、などと書かれていた。

 ファンタジー世界を舞台にしてるだけに、ユニットの種類は結構豊富。歩兵、騎兵、弓兵はもちろん、ファルコンナイトやドラゴンナイトのように空を飛びまわるもの、魔獣を使った重戦車や長距離攻撃が可能なクロスボー、アクアナイトやタートルナイトといった水上戦用のユニットもある。闇軍側にもそれぞれ同レベル・同能力のユニットの「闇版」が存在し、プレイに慣れてくると敵味方のユニットの特性が読めてくる。
 かなり特殊なユニットとして「ドラゴン」がある。これはまさに無敵最強のユニットなのだが、光側だろうと闇側だろうとプレイヤーには操作できず勝手に暴れ回るだけなのだ。一部シナリオのみ登場するが、自分でポイントをためて軍勢をととのえる「キャンペーンモード」ではベラボーに高いポイントが設定されているためめったなことでは手に入らない。これを手に入れることも「キャンペーンモード」の目標の一つと言われるくらいで。

 用意されているモードは三つあり、一応のメインとなっているのは「シナリオモード」。これは「エルスリードの戦い」を描いたストーリーに沿っている25章と、日本戦国時代の騎馬武者や忍者が出てきたり、近代的な戦車やヘリが出てくるオリジナルの5章の中から自由にシナリオを選んで遊べるモードだ。このモードでは対COM戦はもちろん、マルチタップにつないでの対人戦、さらにはCOM対COMを観戦することも可能。プレイヤーは原則として「光軍」を担当することになっているが(終了後のグラフィックもあくまで光軍視点のものしかない)、闇軍で遊ぶことも可能となっている。
 このモードではどのシナリオからでも遊べるのだが、シナリオを選択するとそのシナリオのプレストーリーが表示され、ガイア大陸のマップ上に剣が交差する「合戦マーク」が表示され、どこで行われた戦闘かが分かるようになっている。後年「デアラングリッサーFX」を最初にプレイし、その後PCエンジン版「ラングリッサー」に触れ、それからこの「ガイアの紋章」とさかのぼってプレイした僕などは、こうしたシナリオ前の演出が初期段階でほぼ完成していたことに驚かされたものだ。

 なお、シナリオモードでは各シナリオで敵味方のユニットは最初から確定されていて、変更が効かない。決められたユニットを駆使して勝利を目指すほかないのだが、基本的に光軍でのプレイを前提としているためか多くのシナリオで光軍やや劣勢に見える状況から始まる。もちろんそれでもなんとかプレイヤーが勝てるようにはしてくれているようなのだが、一部シナリオは本当にキツい。
 また、このゲームでは実は「運」もかなりの要素を占めている。このゲームでは各シナリオで使える魔法が設定されており、防御力を上げたり攻撃力を上げたりといったパワーアップが付加できるのだが、それは開始時に一つしか選べず、しかも魔法によっては絶対成功とは言い切れず、魔法効果が効いていると画面がフラッシュ(闇軍の場合は一瞬暗くなる)することで分かる仕掛け。これが効くか効かないかでだいぶ展開が違ってくる。また「もや」「霧」といった魔法は成功率100%になっていて、それを敵がかけてくるともうそのシナリオでは長距離攻撃が不可能になるなど、重大な影響を与えてしまう。
 さらに怖いのが、各ターンごとに「先攻・後攻」がサイコロシステムによりランダムに決まる、という点だ。一応シナリオごとにその戦場がどちらの領土であるかという「領土権」が設定されていて、領土権を持ってる方に先攻が回りやすいようにはなっている。それでもランダムには違いないので、先攻がとれないために一方的に攻撃されまくり、一気に致命的なダメージをこうむる場合も多い。逆にさっきのターンで後攻だったが次のターンで先攻をとると怒涛の連続攻撃が出来たりするわけだ。

 各シナリオには基本のターン数が決められていて、そのターン数を超えてしまうと評価点がマイナスになってゆく。またマップ内の敵ユニットの全滅がクリア条件だが、不利になって来ると敵軍は撤退を始めるので、ポイントを稼ぐためにも可能な限り多くの敵を撃滅しなければならない。なおかつ自軍のユニットで戦死者が出るとやはりマイナス評価にされてしまう。自軍が全滅したら当然そのシナリオは敗北だ。
 これらの評価点をもとに、シナリオが終わると「圧勝」「辛勝」「敗北」の三種のグラフィックとテキストが表示される。「シナリオモード」ではこうした評価はあくまでそのシナリオだけのもので、プレイヤーも「よーし、次は頑張るか!」で済む話なのだが、実はこのゲームの「真の本編」的存在である「キャンペーンモード」では、この評価点がゲームを進める上で重大な意味を持つことになる。


◆醍醐味はキャンペーンモード!

 ゲーム起動時には上から順に「シナリオモード」「コンストラクションモード」とあり、一番下に「キャンペーンモード」があるのだが、やはりこのゲームの醍醐味はストーリーに沿ってシナリオを順番に、連続してクリアしていく「キャンペーンモード」にこそある。先述のように後年のシミュレーションRPG、とくに後継作品である「ラングリッサー」の「傭兵システム」に引き継がれた画期的な遊び方なのだ。

 「キャンペーンモード」ではプレイヤーは光軍を率い、各シナリオのはじめに手持ちのポイントを使って自軍ユニットを編成する必要がある。当然だがユニット能力の高さはポイントの高さと同じであり、買い物はむやみにはできない。最初のうちは手持ちのポイントも少ないのであまり強い軍団は編成できない。それでも最初のうちはシナリオ自体も楽勝なのが多いからいいのだが、単に勝てばいいというものでもない。先ほど書いたようにシナリオをクリアするごとにターン数オーバーや敵ユニット自軍ユニットの損害により評価点がつけられていて、それが次のシナリオ開始時のポイント加算につながっている。シナリオは中盤からぐっと難しくなってくるのでポイントを稼げるときに稼いでおかないと後で確実に行き詰まってしまうのだ。

圧勝 要するに「可能な限り早く敵全滅」「可能な限り自軍の損害を出さない」の二点が鉄則なのだが、これがなかなか難しい。「シナリオモード」の同じシナリオで戦略研究をする必要もあるのだが、マップこそ同じだが敵ユニットが「キャンペーンモード」の方がやや増強されているので、シナリオによってはかなりの苦戦を強いられる。おまけに「運」の要素もかなりあるから、全25章のクリアは至難の業とも思えた。それでもパソコン版よりはかなり楽になっているというんだから…いやぁ、戦術SLGは苦手です、ホント(汗)。
 PCエンジン初期のソフトであるから、データセーブ機能はもともとない。キャンペーンモードのデータは左図のようにパスワードで引き継げるようになっている。これは面倒といえば面倒なのだが、各シナリオのパスワードさえ残しておけば、あとで詰まった時に任意のシナリオからやり直すことができるわけで、その意味では便利なところもあった。

 最後に「コンストラクションモード」について。これは多数用意されているマップに、任意のユニットを敵味方に自由に編成、まったく新規のシナリオを作って遊べるという変わったモードだ。もともとのパソコン版にあったのだろうが、家庭用のシミュレーションゲームでこの手のモードがついていることは珍しいのではないかと思う。戦術SLGマニアには楽しいのだろうが、作ったシナリオがセーブが出来るわけでもないし、あまり遊び勝手はよくないように思う。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.279
3.472
3.099
3.285
3.360
3.403
19.900
第460位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★


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