機装ルーガII -The End of Shangrila-
ジャンル:戦術シミュレーションRPG
媒体:SUPER CD-ROM
発売元:NEC-HE
発売:1995年5月26日
価格:8800円
商品番号:HECD5021


商品外見◆工画堂のファンタジーSLG、大幅にバージョンアップ!

 工画堂スタジオが1993年年末に発売したPCエンジンオリジナルのファンタジーSLG「機装ルーガ」(’93)は小ぶりな作品ながら好評であったらしく、およそ1年半の時を経て続編「機装ルーガII」(’95)が登場することになった。1995年の半ばともなるとすでに世は32ビット次世代機の時代であり、PCエンジンの市場は縮小の一途。このため発売元は工画堂ではなくNECホームエレクトロニクスに変更になっている。ソフト開発元が発売のリスクまで負わないようにしつつソフト数をそろえるための方策としてこの時期良く見られたパターンで、同じ年の3月に出た「ソリッドフォース」(’95)も同じく開発・工画堂+発売・NEC-HEという組み合わせになっている。まぁ発売元は変わろうとも作り手は変わっていないので、本作は正真正銘の続編である。

 話もちゃんと前作から続いており、前作のラストでいずこかへ旅立った主人公ヴァイスと美少女エレナが再登場。ただし4年の時が流れていて、この二人以外は新キャラばかりとなった(唯一の例外については後述)。ストーリーの方も一応前作をふまえつつも、「古代の魔導科学を復活させ世界征服をたくらむナンチャラ帝国との戦い」という基本線はまったくおんなじで、続編というよりリメイクを見せられてるような感じもある。前作は「ナウシカ」を思わせる「機獣神」の復活阻止を目指すものだったが、今度は天空に浮かぶ「空中都市」の復活阻止となっていて、「なんだ、今度は『ラピュタ』かよ」とツッコんでしまった人も多いと思われる(笑)。

 世界観設定が「どっかで聞いたような」ものばっかりなのは、この手のゲームの大半がそうなのでそういうものだと思うほかないが、そこは工画堂、戦術SLGとしてのシステム面はかなり凝っている。前作の特徴であった、敵と接近するとそのユニットの周辺のみの戦場マップに切り替わり、各ユニットの配置や向きが展開に大きく影響するタクティカル・バトルのシステムはこの「II」でも発展的に継承された。一方で前作での戦闘場面はSDキャラによるコミカルな動きが印象的で、しかも「敵味方ともに絶対に人が死なない」仕様となっていたが、「II」では戦闘場面はクォータービュー、キャラはデザインも動きもリアル系となり、ちゃんと「戦死」が導入されるなど、かなりシリアスなものに変更された。前作では経験値概念はなく武具を強化するシステムだったが、本作では経験値による成長システムとなり、ゲーム自体の難度も大幅にあがっている(前作は難度調整もできたけどね)

 前作も要所要所で挿入されるドラマチックなビジュアルシーンが売りだったが、「II」はこの面でも大きく進化した。流麗なデザインのキャラクターたちを良く再現したCG、当時としてはかなり良く動くアニメ的な演出など、さすが「スーパーシュバルツシルト」の頃からこの手の技術が高かった工画堂の作品、1995年発売ともなるとPCエンジンSCDのビジュアル演出技術が最高レベルに達していたことが良く分かる一本でもある。ビジュアルシーンだけでなく戦場マップや戦闘画面の描き込みの激しさは今見てもなかなかのものだ。


◆油断も隙もないウェイトカウントシステム

 物語は前作から4年後、ヴァイス(年を経たせいか前作より落ちついたキャラになった)とエレナの二人が旅先で遺跡荒らしに遭遇、そこへ通りかかった族長の娘の女戦士ティファと、彼女に付き従う隻眼の弓使いキールが合流して、最初の戦闘となる。この最初のシナリオは本作のゲームシステムをプレイヤーに理解させるための、いわば練習ステージだ。
 先述のように、同じ「機装ルーガ」を名乗っているだけに戦闘システムの基本は共通している。敵に攻撃をかけると戦闘画面に切り替わり、ユニットの周囲一定範囲が戦場となってその範囲内にいる敵味方がそれぞれに動いて一定のターン内で攻防を繰り広げる仕組みは前作から引き継いだ。ただ「II」ではクォータービューを採用したことで戦闘範囲がかなりひろがり、なおかつ騎兵・歩兵・弓兵といったユニット特性が細かく設定され、マス目ごとにかけられた地形効果なども加わってかなり複雑になった。

 特に大きな変化であり、この「II」のキモとなっているのが「ウェイトカウント(WC)」の概念だ。これはユニットごとに様々な要因から設定されている数値で、戦闘中は時間の経過(ターン数)と共に全ユニットでこれが減ってゆき、WCがゼロになるとそのユニットに行動の順番がまわってくる、という仕組みになっているのだ。つまり将棋のように敵味方が平等に交代交代で動くのではなく、とにかく「WC」がなくなった者から順番に動くという仕掛け。
戦闘場面 この「WC」の数値は何で決まるのかというと、まずそのユニットごとに決められている「敏捷性」がベースになる。基本的に獣など動物系は敏捷性が高く、騎兵も歩兵よりはずっと敏捷。また歩兵でも弓兵はかなり敏捷性が高い。こうしたユニットはウェイトカウントからその敏捷性数値が多く引かれるためウェイトカウントがすぐにゼロになり、行動の順番がすぐにまわってくる。逆に重装備の歩兵は敏捷性が低く、ウェイトカウントがなかなか減らず順番もなかなかまわってこない。しかも身につけている鎧や盾、薬類など携帯品にはそれぞれ「重さ」が設定されており、これはウェイトカウントを上げてしまい、素早い行動ができなくなる。

 ウェイトカウント制は戦場全体のマップでも戦闘画面でも徹底されていて、とにかく素早く動けるやつからどんどん行動を起こせる。このため戦闘時に一方のユニットは何度も動いて攻撃も繰り返せるのに、一方のユニットはほとんど身動きもできずボコボコに連続ダメージをくらってしまう、という事態も起こる。リアルと言えば確かにリアルなシステムだ。
 前作でもあった武器ごと、あるいはユニットの向きによる攻撃範囲の違いもより複雑になり、戦略性が大幅に増している。魔法系の「特技」もMP消費方式に変わり、レベルアップに従ってより強力な「特技」を獲得できるようになった。攻撃時には簡単なアニメ演出があり(時間短縮のためカットもできる)、大勢の敵を一気になぎ払えるタイプの特技が繰り出される時はかなり爽快だ。
 敵ユニットを倒すと、戦闘エリア内にいた味方全員に経験値が入り、キャラを育てていくこともできるようになった。ただし経験値は敵ユニットの種類と数で決まっていて、エリア内に大勢いると均等にほんのちょっとずつ分け合う仕組みなので、どのキャラを成長させるのかも考えながらユニットを動かす面白さもある。

 とまぁ、前作最大の不満点であった単純だけど楽勝の戦闘システムが、大いに歯ごたえのある、見た目にも楽しめるものになったのだが、難度はムチャクチャ上がってしまった。下手にやってるとオープニング前の序章シナリオで戦死者が出てしまうほど。普通にやってれば3面までは無事に突破できると思うが、4面か5面で思いっきり行き詰まるはず。
 まず敵ユニットがかなり「硬い」く「強い」。これは序盤からかなりそうなっていて、「ザコ」が存在しないようなもの。おまけにその数もシナリオが進むにつれやたらと多くなり、まさに多勢に無勢状態。しかも大半のシナリオでいくら敵ユニットを倒しても新手が続々と登場する仕組みにもなっているため、敵の数はほとんど減らせない。
 さらにはやたらと「頭がいい」(汗)。とにかくこちらの弱点となるユニットを正確に狙って集中攻撃をかけて来るのだ。味方に回復特技を持っているキャラは複数いるのだが、たくみにそれら味方が戦闘エリアに入らないように配置して攻撃をかけてくる。「ウェイトカウント」制により素早く動けるユニットは攻撃回数も多いため、ホントに何にもしないうちにあれよあれよとHPを削られて戦死させられてしまうのだ。

 前作と違い、HPゼロ即戦死となった本作、当然死んだキャラは二度と出てこない。一応ヴァイスとティファ、エレナ以外は死んでも先に進めることになってるのだが、あからさまに多勢に無勢なシナリオばかりなので、結局誰も死なないように用心しいしいプレイするしかない。特に序章から登場するキールは貴重な弓兵で、成長させるととんでもなく強くなり、攻略のかなめになってくれる。途中から登場するキャラも複数いて(隠しキャラもいる)、「機獣」のように敏捷性の高いやつだと成長次第で結構使える。あと、終盤になると前作の登場人物であったローディスが参戦し、これが実に強力。これ、たぶんプレイヤーがキールを戦死させたまま先へ進むと終盤ほぼ確実に詰まってしまうため、あとから追加したんだろうな。強すぎてバランスがヘンになっちゃったけど。
 誰も死なないように進めるのが基本、と書いたけど、このゲームは前作と違いシナリオ途中でのセーブができない。基本的に誰か死んだらそのシナリオの最初からやり直しということになる。おまけにシナリオによっては2〜3時間ぶっつづけでやらねば終わらないケースもあり、これはどうにかしてほしかった。


◆ちゃんと育てないと先へは進めぬ

 このゲーム、実はこの「語ろーぐ」を2年近くも更新させなかった最大の原因である(笑)。初プレイ時に敵の動きにキリキリ舞いさせられて早くも4面で詰まり、「こんなの無理だよ〜!」と投げ出したのだ。数ヶ月して経験値稼ぎを入念にやった上で再アタックし、4面はどうにかクリアしたのだけど次の5面で詰まった。敵は無限にワラワラ出てくるし、回復できる拠点はないし、で、「こんなの無理!」とまた投げ出した。それからまたまたしばらく年月を経て、今度はそれまでにしつっこいほどに経験値稼ぎをして成長させまくってからやってみたら、だんだん何とかなるようになった。それでも後半はキツいシナリオが多く、「クリアできた人、いるのかよ」と思っちゃったくらい。ま、それでもちょっとした作戦変更で局面が大きく変わるケースもあり、ローディス登場後の終盤は楽勝に近い状態でクリアに持ちこめた。
 終わってみれば、キツめの難度ではあるが、工夫により進めるという、いい塩梅なのだろう。この難度こそ工画堂、と思った人も多いはず。

 あとから反省したのだが、キャラの成長のさせ方にも工夫が必要。経験値を100集めるとレベルアップとなるのだが、その時3〜4ポイントを与えられ、それをHPやMP、攻撃力・防御力・敏捷性・幸運度(「探索」能力や命中度に関わる)・キャパシティ(物がどれだけ持てるか)に割り振る仕組みになっている。僕はもっぱらHPやMP、攻撃・防御にポイントを割り振っていたのだが、「ウェイトカウント」が物を言う本作では敏捷性にもっと割り振っていればより楽に進められたのかな、という気もする。
 前作では武器は自分で鍛える仕組みだったが、本作ではそれはやめ、単純に拠点内で「探索」をして見つける形になった。だからまめに「探索」コマンドを実行しなくちゃいけないのだが、これは幸運度の高いキャラを実質探索専門にしちゃうことになる。

ビジュアルシーン 前作より大幅にグレードアップした本作、一つ一つのシナリオのボリュームだけでなく、シナリオ数そのものも前作の倍、全14章もある。前作プレイ者には、「もうこれで終わりかな」と思わせるようなシナリオをクリアすると、ビジュアルシーンに突入してまさかの仲間離散の展開となり、そこからまた復活して仲間たちを合流、ボスと思われるキャラをやっと倒したら、実はそれはおとりで「空中都市」が空に浮かんじゃう。さらにその空中都市へ乗り込んで…と、これでもか、これでもかと続く展開にはゲップが出そう。各シナリオのクリア条件、NPC軍勢との協力や途中で起こるイベント、謎解き要素など、単調だった前作の戦闘と比べると工夫もたくさんあって楽しめた。
 
 いろいろとほめてきたが、残念なのは終盤の展開。エンディングに向けて伏線っぽいのがあって(皇帝の娘がウンヌンってやつ)、一応最終章でそれに触れてはいるんだけどかなりアッサリで、エレナが何やら思わせぶりな態度を見せる伏線も、あっけないというか、すごく消化不良な終わり方をするのだ。苦労してクリアした後の感動がないんだよね。クリア後のビジュアルシーンも、戦死してる可能性のあるキャラには触れないため登場人物が少なく(ラスト2章手前のビジュアルシーンでは全員出てた。ここでは生きてるキャラのみ表示してる?)、共に戦ってきた仲間たちとの名残惜しさがなさすぎ。スタッフロール後の「オチ」も唐突感ありありで(それでいて十分予想範囲)、終盤のストーリー、シナリオの練り込みに欠ける気はした。
 このゲームの発売はPCエンジンの市場も末期になってた頃で、発売を急ぐために終盤いくらかカットが行われてるんじゃないかなぁ。この時期、「アルナムの牙」(’94)なんかもそう思わせるところがあったし。

 そうした終盤の難点はあるんだけど、システム面、ビジュアル面、グラフィック面どれをとってもPCエンジンSCDの能力を実によく引き出した、PCエンジン晩期の(埋もれた)傑作の一本と言っていいと思う。斬新過ぎてとっつきにくかったのか(あるいは作りがパソコンゲームライクだからか)、下に挙げた当時の各誌採点は前作に負けてしまっているのだが(それでも100点満点で95点をつけたレビュアーもいる)、ゲームとしての出来は明らかにこっちのほうがイイ。20年近くも経った今ごろになって再評価したくなる一本だ。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.893
3.553
3.446
3.170
3.723
3.234
21.019
第341位

★電撃PCエンジン(発売前テスト版による100点満点での採点)
レビュアー
総合評価
岩崎啓真
75
ウォルフ中村
80
ウキキ松崎
95
城イドム
60
岩崎啓真評価(各項目5段階評価)
グラフィック
サウンド
操作快適度
ゲームバランス
オリジナリティ
コストパフォーマンス







★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
イザベラ永野

ローリング内沢

水ピン

サワディ・ノダ



迷い込んだ方はこちらから