ウルトラボックス創刊号
ジャンル:その他
媒体:CD-ROM
発売元:ビクター音楽産業
発売日:1990年6月15日
価格:4800円
商品番号:JCCD0601
◆史上初の「動いてしゃべる雑誌」創刊!
PCエンジンが一般向けに切り開いたCD−ROMの世界。この大容量の新メディアを使ってあんなことやこんなことが出来るんじゃないか…と「マルチメディア」なる言葉が夢のようにささやかれた時期があった。PCエンジンも後期になるとフツーのゲームばかりをCD−ROMで出すようになっていくのだが、初代CD−ROM2システム時代には「なにかCD−ROMならではの新しいことをしよう」と模索する実験的な企画が結構多かった。
そんな中で恐らく企画としてみれば跳びぬけて独創的だったのが、この「ULTRABOX(ウルトラボックス)」シリーズだろう。「創刊号」と銘打っているようにコンセプトは「動いてしゃべるCD−ROM雑誌」なのだ。もちろん人類史上初の試みである(笑)。現在でもパソコン雑誌附録CD−ROMなどに同様の企画をしているものがあるが、「ULTRA BOX」は附録ではなくあくまで単体で発売(発行?)された。「雑誌」と銘打つからには続けて出すつもりがあったわけで、このあとほぼ季刊ペースで発行が続いていく事になる。
この「ULTRABOX」が発刊に至る経緯というのは僕はリアルタイムで見てないのでハッキリしたことが書けないのだが…どうも内容を見ると当時小学館から発行されていた専門誌「月刊PCエンジン」とのタイアップという性格が強いのかな?収録されている「PCエンジンソフト図鑑」にも「月P」編集者が評価・コメントをつけているし、「創刊号」にも関わらず多くのユーザー投稿イラスト・写真が収録されているあたりにもそういう事情がうかがえる。
「ULTRA BOX」という名前は「なんでもかんでもつめこんだオモチャ箱」という狙いでつけられたものではないだろうか。そう思えるほど、この創刊号に収録されてる内容は実にバラエティに富みすぎている(笑)。アイドルグラビア的なコーナー、アニメ劇場コーナー、ミニゲームコーナー、星座占いコーナー、読者参加コーナー、PCエンジンゲームの紹介コーナーなどなど、とにかくなんでもアリな状態だ。
起動するとけっこう不気味な謎の恐竜(?)が出てきたり、かなりシュールなオープニングが展開される(このシュールさは各コーナーのオープニングにも共通している)。それから各コーナーに入れるメニュー画面が出てきて、方向キーを左右に動かしてコーナーを選択する。しっかりヘルプコーナーまで作られていて、それなりに親切で作りこみは激しい。各コーナーを終了してメインメニューに戻る際に「ウルトラボ〜ックス!」とTV番組風のアイキャッチみたいなのが入るのも手が込んでいる。
◆ターゲット年齢層は??
恐らく最大の目玉コーナー(?)なのではないかと思われるのが「実用?!デート講座」のコーナー。懐かしの「11PM」のカバーガールだったという小栗香織ちゃん(もちろん全て実写)と一緒に渋谷・原宿でのバーチャルデートを楽しむという企画で、渋谷・原宿のデートスポットを大量の写真入りで紹介してくれる。今見ると「田代まさしの店」が出てくるところにその後の彼の運命に思いを馳せちゃったりもするのだが…表示される写真はさすがにPCエンジンの色数のため綺麗とはいいがたいレベルだが、もともとトーンを落とした色遣いになっているためそこそこ見れる程度にはなっている。
単にデートスポットを紹介するだけではない。デート中の要所要所で彼女に「くどきコマンド」を出すことができるようになっていて、選択すると「やっちゃえ」「なりませぬ」の二つの画像が交互に点滅する画面になり、タイミングよくボタンを押して「やっちゃえ!」を表示させれば彼女の腰に手を回せたりするうえ、さらなるデートスポットの紹介映像を見ることができる。「なりませぬ」を当てちゃうと彼女にビンタを食らって「ばーか」と言われたりするのだが、デートは問題なく続けられる。
このバーチャルデート、すでに付き合って半年、10回目となるデートという設定で、すでに唇は奪っているが「健康優良な」男としてはさらなる「深い関係」に進みたい思っている。つまるところ最終目的は香織ちゃんを帰らせず、ホテルに宿泊してベッドを共に…って、おいおい、いいのかよっ!!いやホント、このコーナーのサブタイトルは「君の乗らない最終電車」であり(「ROM倫」マークなんてものまでついてる)、最終目的はかなり露骨に下心満載なんでありますな。彼女が帰りそうな時間になると激しく軟派なナレーションの「あと5分!」「あと1分!ねばれ!」といった声がかかり、それこそミもフタも無い泣き倒しの口説き倒しが展開され、僕も初プレイでめでたくハッピーエンドに到達してしまった。ホテルに連れ込む前に「道玄坂近くのバー」でお酒を飲まして…というあまりにも直接的過ぎるデートコースアドバイス、そしてホテルの画面ではしっかりダブルベッドの写真が表示されているなど、さすがにそれ以上のシーンはないとは言え、よくまぁ18禁指定にならなかったものだ(笑)。実用的と言われりゃ確かにそのとおりかもしれんだけどさ。
他の「ちょっと英語ができたなら」というコーナーも綺麗な外人さんを英語でナンパしてデート、英語によるニューヨークのクイズに答えたりしながら彼女の気を引いていくという内容で、「いったいターゲットの年齢層は?」と首をかしげるばかりの「ナンパ路線」である。CD−ROMシステムは高かった時代のことだから、確かにユーザーに大学生以上は多かったとは思うのだけど、それにしても…という内容ではある。なぜかラッシャー木村が出て棒読みでしゃべる星占いコーナーも男の子ならではの下心を刺激する内容があるし(笑)、「あなたもきよたくん」という「念写」をする謎のサイキックコーナーも色っぽいお姉さんのヌードを表示するのが目的だ。
別にアダルトなわけではないが、「気になるヒロイン」というコーナーでは1990年当時のアイドルたちの写真および好物・趣味からスリーサイズまでの各種情報が見られたりする。僕は一人しか知りませんでしたが(笑)。これはこの時期のPCエンジンCD−ROMの利用法の一つとして考えられていた芸能アイドル路線(きわめつけは「みつばち学園」)の一環だろう。
僕自身はこの当時はPCエンジンなんぞまるっきり知らず、その後継機のPC−FXをリアルタイムで手にとることになるのだが、FXにも「アニメフリーク」シリーズというCD−ROM雑誌的な企画があり、その中でアニメキャラクターとのバーチャルデートとか、美人声優さん密着取材デートとかいったコーナーがあり、「開き直ってエンジン末期の軟派路線を強化しておるなぁ」と感じていたものだ。ところが今ごろになってこの「ウルトラボックス創刊号」をプレイしてみて「おいおい、この時期にもうこんなのやってるんかい!」と驚いた。しかも内容的にはより露骨というか…強いて言えばFXに見られた二次元オタク路線ではなく生身の女性が対象の「実践的」軟派度であるが。うーむ、当時はまだバブルの夢の中の時期でもあり、なんとなくこういう浮かれた空気はあった記憶もあるけど…。
大人っぽさ、がそう嫌味にならない良質なコーナーとしては「アニマトリックス」と名付けられたCD−ROMアニメ劇場、「ボムタウンストーリー」がある。なんと東映動画提供という本格派で、なぜかワニのキャラクターたちが織り成す、古き良き時代のアメリカの場末のジャズ・バーで展開される大人の恋の物語。絵はドット絵CGという感じではなく自然画を取り込んだ(?)なかなか味のある絵で、一見の価値はある。途中で一つの事件を三者の視点から一つを選んで見られる「ザッピング方式」(?)で、同じ話を三回は楽しめる。もっともそんなに濃い内容ではなく「ちょっといい話」程度のショートストーリーで繰り返し見るのはどうか、と思える内容だが。
◆やっぱりゲームでしょ!
とにかくいろいろとコーナーがあるのだが、PCエンジンはやはりゲーム機。ゲームコーナーもいくつか用意されている。
その一つが「仮面ビクター」(笑)。この手の有名タイトルのパロディゲームはその後「ウルトラボックス」シリーズの伝統となっていくのだが、これがその最初。BGMからして「仮面ラ○ダー」を髣髴とさせるメロディで、次々と現れる敵の戦闘員たちをジャンプ&キックで倒していくという単純明快なゲームだ。ミニゲームだけあってアマチュアが製作したパソコンゲームっぽい画面とキャラになっているが(もちろんわざとやってるんだろう)、これが意外に面白く、結構ハマってしまう。もちろんコマンドでちゃんと「変身」も出来るようになっている(笑)。
もう一つが「UB64」というパズルゲーム。盤上に置かれたピースを斜めに動かして飛び越したピースを消していく、という一見単純そうで結構難しい頭脳型ゲームだ。どちらもアッサリしているが結構難しくてハマってしまうという、時間つぶしゲームとしてはお手本のような内容だ。いずれも開発したのはゲームアーツであったというのもゲーム史的にはちょっと目を引くところ。
この商品自体がPCエンジンソフトであるからして、当然PCエンジンソフトの紹介コーナーもかなり充実している。「PCエンジンソフト図鑑’90」はこの時点で発売済みだったPCエンジンソフトを全て紹介するデジタル百科事典的なもので、各ソフトのパッケージ写真(さすがに画質が悪いが)、発売日、価格、「月P遊楽専業団団長」のコメントと採点、裏技情報まであるという、充実度の高いものだ。価格やジャンル、アイウエオ順などで検索をかけられるなどまさに至れり尽くせり。
この「PCエンジンソフト図鑑」は「ウルトラボックス」シリーズを通じて内容を更新しつつ続けられ、その後は小学館から発売されたCD−ROMムック「PCエンジンCD−ROMカプセル」シリーズに「PCエンジンハイパーカタログ」として引き継がれることになる。「ハイパーカタログ」に先に触れていた筆者などは後からこの「ウルトラボックス」に触れて「ああ、こっちが元祖だったのか」と納得したのだが、残念ながらウルトラボックスの「図鑑」は操作性にかなり難がある(初代CD−ROMシステムのため読み込みが多いせいもある)。パッケージ写真が掲載されていることが大きなメリットではあるが、「ハイパーカタログ」を所有している人にはそう便利なものではない。もっとも「ハイパーカタログ」の方は書籍附録のため今から中古屋で入手するのは少々困難だが。
他にも新作ソフトのCMコーナーもある。取り上げられているのは「みつばち学園」「ダウンロード」「マジカルサウルスツアー」の3本。とくに「みつばち学園」の宣伝は今見るといろいろと感慨深いものがあるなぁ(笑)。
「じゃんじゃんボックス」と名付けられているのは読者参加コーナー。事前に雑誌で募集したものなのだろうか、数多くの投稿イラストや投稿写真が収録されており、当時のPCエンジンCD−ROMユーザーの熱気が感じられて、今となっては当時の気分を知る貴重な史料ともなっている。さすがにイラスト・写真を表示するには画質がよくないのだが…。このコーナーには「雑誌」的な雰囲気が特に濃厚だ。
ともかくいろんな意味で試行錯誤の匂いが漂うこの創刊号。「ウルトラボックス」がこの後どのような変化を見せていくのか、順を追って眺めてみたい。
◎各誌評価
★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
| 音楽
| お買い得
| 操作性
| 熱中度
| オリジナリティ
| 総合
|
3.42
| 3.46
| 3.13
| 3.04
| 2.84
| 4.13
| 20.03
第447位
|
★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
| 総合評価
|
東府屋ファミ坊
| 6
|
水野店長
| 7
|
森下万里子
| 7
|
TACO・X
| 6
|
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